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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第6章-C 凄い勇者は父の実家に向かった
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俺は試合をした 『立てるか?』

 クレスの戦闘力 ユーリとの戦い 

 チート:使用なし

 勇者の素質:封印中

 俺は2人の酔っ払い(父さんと領主)の提案で、練習試合を行うことになった。

 試合は領主館にある鍛錬場で行われる。


 鍛錬場は外にあり、紫外線によるお肌への影響が心配だ。


 *


 鍛錬場にて、俺は領主の息子&娘を紹介されている。


「ユーリとエミルだ」


 ユーリは兄でエミルが妹で双子だ。

 どちらも黒髪で黒い瞳をしている。


 しかし二卵性双生児らしく顔は違い、髪型にも違いがある。


 ユーリの方は、兄でほどほどの長い黒髪。

 クールというか、良いことでのお坊ちゃんという感じだ。

 実際、お坊ちゃんなのだが。


 エミルは、黒髪をポニーテールににまとめている。

 おしとやかな雰囲気のある少女だ。


 だが、俺は怖い──強い女性と会うことが多いからな。

 見た目には騙されんぞ!


「へぇ~、剣聖の子どもか」

「よろしく」


 言葉は丁寧だが、確実に俺を見下しているユーリ。

 だが大人な俺は、笑顔を作り握手をしようと手を伸ばした。


「こちらこそ」

「ああ」


 予想に反して、クソガ──いや、ユーリは握手をした。

 チッ、ここで手を叩くなどしてくれれば、悪者になったものを。


「剣聖の子どもが、どれだけ強いのか楽しみだよ」

「天才と呼ばれる程の剣を楽しみにしている」

 

 お互いに笑顔で、固い握手を交わしている。

 そう、硬すぎる程の握手を。


「中々、腕力はあるみたいだな」

「そうか?」

「「ふふふ」」


 固すぎる握手を続ける俺たち。


「お兄ちゃん……」

「お兄様……」


 コーネリアはいつも通り、俺を見て呆れている。

 エミルはというと、悲しそうな声でユーリの名を呼んだ。


 最初は、父さんに申し訳ないから勝とうと思っていたさ。

 だが、ユーリと会って分かってしまったんだ。

 コイツとは仲良くなれないと──。


 生理的な嫌悪感というべきか。

 どうやら、ユーリも俺に同じ感情を抱いているようだ。


 その証拠に、俺の手を傷めつけようと強く握っているんだ。

 もちろん俺もだが──。


「試合が楽しみだ」

「僕もさ」

「「ふふふ」」


 個人的にも、負けられない理由が出来たようだ。

 もう父さんのことなどどうでもいい。


(コイツにだけは、絶対に勝つ!)


 心の中で強く勝つことを誓ったこの瞬間も、俺たちの握手は続いていた。


「「ふふふ」」


 *

 

 俺たちの試合が珍しいのか、結構な観客が人数が集まっている。

 天才と呼ばれるユーリと、剣聖の子どもである俺の試合だ。

 10歳同士の試合とはいえ、野次馬根性を刺激したのだろう。


 さて、注目される俺たちの試合だが──

 俺たちの試合の審判は、領主であるクラウディオが務める。

 親馬鹿の傾向がある彼を見張るため、父さんが副審になった。


 俺とユーリは、木刀っぽい物を手にしている。

 

 障壁は魔力が弱いと攻撃が通らない。

 この木刀は、そのことを利用し魔力がほとんど通らなくなっている。

 よって、相手にダメージを与えることはないんだ。


 だから遠慮なく(精神的に)殺れる。


(お前に敗北の二文字をくれてやろう)


 俺は思わず口元がニヤけたのだが、相手も同じ考えのようだ。

 同様に邪悪な笑みを浮かべている。


 もちろんチートを使う気はない。

 チートはマナを、そちらに回すことで使える。

 これは無意識的なものだが、頑張ればマナを回さないことも可能だ。


 もっとも、体への負担が大きいので普段は使わないのだが。

 しかし、今回は使わざるえない。


 これは、プライドの問題だからな。


 同じ条件で戦って勝たねば、俺が納得できない。

 中身が100歳以上なのに、10歳相手に大人げないという声もありそうだが──。


「2人とも準備はいいか?」

「「はい!」」


 クラウディオの言葉に、俺とユーリは応える。

 数分前に生まれた因縁を断ち切る時が来たんだ。



「始め!」


 試合の始まりを知らせる声に、俺たちは同時に駆けだした。

 ユーリよ、お前も分かっているようだな。

 俺たちは剣でしか語れない、悲しい関係であることを──。


「はぁっ」


 最初に剣を振ったのは俺だった。

 だが、振り下ろした剣は躱されて、ユーリの剣が迫る。

 俺は胴に向かって水平に迫る剣を、下から上へと振り上げる剣で弾く。


 そして──周囲に乾いた音が響いた。


 ユーリの剣を振り上げた剣で弾き、俺が胴に決めたためだ。


「そこまで!」


 クラウディオの声が響いた。

 ユーリは俺に決められたことに驚いているようだ。

 剣を持ったまま微動だにしない。


(ふっ、経験が違うのさ)


 数多の戦場を駆け巡った俺を舐めてもらっては困る。

 チートなしでも、ガリウスの訓練のおかげで多少は勘を取り戻せたんだ。

 10歳の少年に負けるはずがない。


 俺はチラッと父さんの方を見た。


(ものすごく満足そうな顔をしているな)


 俺も満足だ。

 今度は母さんを見る。


(見ていなかったな)


 母さんは、隣にいる着物を着た女性と話して笑っている。

 あれは世間話をするオバちゃんの顔だ。

 俺の試合を見ずに、話に夢中だったようだ。


(…………)


 コーネリアを見たが、見なかったことにしようと思う。

 妹は『大人げない』と、手加減一つしなかった俺に白い目を向けていたからだ。


(……!!)


 ギャラリーは、天才と呼ばれる領主の息子が負けたせいだろうか?

 複雑な表情を浮かべている者もいた。

 それでも大半の者は俺に拍手を送ってくれている。


 いや、そんなことはどうでも良いだろう。

 拍手を送ってくれる者の中に、とんでもないヤツを見つけてしまった。


 父さんに、メイドのような瞳でキラキラした視線を向けていた家臣。

 ヤツは、俺に同じ視線を向けていたんだ。


(寒気がする)


 色々と危険を感じたのは、気のせいではないだろう。


 *


「もう一本だ!」

「いいだろう」


 ユーリをすでに5回は打ちのめした。

 それでも、俺に挑戦してくる。


「仲が良いな」

「そうだな」


 父さんとクラウディオが、微笑ましい物を見るかのように俺たちを見ている。

 離れた場所で団子を食いながら──。


 すでに審判などする気は無いらしいな。


「どうぞ」

「ありがとう」


 コーネリアとエミルも、すでに俺たちの試合など見ていない。

 おせち料理なんかを入れる重箱を一緒つついている。

 俺も少し腹が減ってきたから羨ましいぞ。


「そうね」

「ええ」


 母さんたちは、最初から俺たちの試合など見ていない。

 俺たちが試合をするごとに、話す仲間が増えていっている。


 ちなみに、ギャラリーは全て帰った。

 メイドのような瞳で俺を見ていた男性も仕事に戻ったようだ。


 若干の寂しさを感じるのは気のせいだろうか?


「もう一本だ」

「ああ」


 その後、試合は20回行った所で終了した。

 ユーリの体力が尽きて動かなくなったからだ。


 俺は彼のことを天敵だと思っていた。

 だが、身動きが取れなくなるまで喰らいつけるヤツなど滅多にいない。

 評価を改めねばならないだろう。


 すでに日は沈んでおり、試合会場はランタン型の魔導具で照らされている。


「立てるか?」


 俺は倒れているユーリに近づき手を指し伸ばした。

 チートを使っていないため、実際には俺も疲れている。

 だが、動きや戦いの組み立て方などの違いで残った体力には差がある。


「お前の手は借りない」

「そうか」


 俺の差し出した手をユーリはとらなかった。

 別に傷ついてはいない──ちょっと涙ぐんだだけだ。


 まあ、ユーリの気持ちも分からなくはない。

 俺も生理的にユーリを好きになれずにいるからな。


 本気でぶつかり合っても、友情が芽生えるとは限らないということだな。

 しかし、ぶつかり続ければ、認められる部分という物が見えてくるものだ。

 だからこそ俺はユーリに手を差し出した。


「今はお前の方が強い。だから1度でもお前に勝てば俺の勝ちだ」

「どういう理屈だ」

「このままじゃ、終わらないってことだ」


 ユーリは、ふてくされている。

 見た目はクールなのに、芯の部分は暑すぎるヤツだな。


「明日、また戦え」

「無理だな」


 ユーリは、ショックを受けたようだ。

 試合をする前なら、笑ってやったんだがな。

 芯の部分を認めた今となっては、笑う気にはなれない。

 

「お前は、明日筋肉痛で動けないだろうからな」

「その程度、問題ない」

「休むべき時には休めと教わらなかったのか?」

「……教わった」


 クールな雰囲気も、俺を見下していた感じもすでに消えている。

 なんというか、ただの子どもだ。

 俺と同レベル──いや、俺よりもは少しだけ上のレベルかもしれないが。

 

「それに明日は少し用事があるんだ」

「そうか」


 残念そうなユーリ。

 見た目はクールっぽかったが、脳筋だったようだ。

 そのことに気付き、俺は残念な物を見るときの視線を彼に送っておいた。

 

「そのうち、手合わせする機会もあるんじゃないか?」

「……そうだな、その時は相手をしてやる」


 いきなり上から目線になった。

 だが、もう面倒なのでこのままでいいと思う。

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