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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第6章-C 凄い勇者は父の実家に向かった
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俺は領主と会った 『君が……すまん』

 俺たちはスメラギ領の領主屋敷へと入った。

 門番とかが、目を輝かせて父さんを見ていたな。

 剣聖という肩書きのせいだろうか?


 あと、領主のもとに案内されているときに何人かのメイドさんに会った。

 メイドさんと言っても割烹着かっぽうぎの和風な方の。


 彼女達も、目をキラキラと輝かせていた。

 そのキラキラが、門番達の物とは違うことぐらい俺にもわかる。


 父さんは、そんなメイドさん達に対して挨拶を返し続けていた。

 ──鼻の下を伸ばしながら。


 確か3人目に挨拶された頃だったか?

 母さんが笑顔のまま殺気を発していることに、父さんが気付いたのは。


 俺から父さんに言えることは一つだけだ。

 母さんに怯えて、俺に目で助けを求めるのはやめてくれ。

 マジで。


 そんな殺伐とした空気の中、俺たち家族は、屋敷の一室に案内された。

 案内されたのは、総畳みでとてつもなく広い場所だ。


 奥に領主が座る座布団があり、左右に何人もの家臣が座る場所が並んでいる。

 時代劇なんかの、殿様がいる場所を思い浮かべてもらえれば良いかもしれない。


 左右に並んでいるのは、いかつい顔をしている男たち。

 顔を見るからに堅気かたぎではないな。多分、人を何人も殺っている。


 まあ、剣士かなんかみたいだから、殺っていてもおかしくはないのだが。

 

 ただ何名か父さんを、門番みたいな目で見ているのが気になる。

 キラキラした瞳で、厳つい男が父親を見つめる複雑な気分になるな。


 !!!


 一人、メイドのようなキラキラを放っている厳つい男が!


(見なかったことにしよう)


 父さんも気づいていないようだしな。

 精神衛生上(主に父のために)気付かないことにした方が良いな──絶対。


 俺はそう考えているのだが、一つ気になることがある。

 先ほどから妹が、メイドのキラキラを瞳から放つ男をチラチラ見ているんだ。


 頼むから気付かなかったことにしてやってほしい。

 傷つく父さんを見たくないから。



 そんな感じで、気まずい思いをしていると領主がやってきた。

 当たり前だが『上様の、おな~り~』という時代劇でお馴染の声はない。

 少し残念だ。


「遅れて悪かったな」

「いや」


 領主は、家臣たちよと違って、気の良い筋肉質なおじさんという感じだ。


 ニコヤカな笑顔で気さくに近付いてきた。

 そして父さんの隣に座──って、そこに座られても困るのだが。


 領主が座るはずの場所に座らないせいで、厳つい左右の男たちが困っている。

 ついでに俺も困っている。


「こっちが、コーネリアさんだったか?」

「はい、初めまして」


 コーネリアは、俺に滅多に見せない満面の笑顔で答えた。

 

「君が……すまん」


 なぜか謝られた。


「アレク、この子の名前を聞いたことがないのだが」

「うん? ああ、悪い。教えるの忘れていた」


 おい、父さん。ついでに母さん。

 領主の反応を見る限り、俺が生まれていたのは知っていたはずだ。 

 器用に名前だけを伝え忘れていたということか?


「クレスト・ハーヴェスと言います」

「おお、そうか。クレスト君か」

「クレスって呼んでくれ」


 父さんが適当な感じで、クレスと呼ぶように勧めた。

 文句はないのだがな──もう少し俺を丁寧に扱ってほしい。


「私は、クラウディオ・スメラギという。よろしく頼む」


 *


 儀礼的な挨拶を終えた俺たちは部屋を移動した。

 ──領主が気安過ぎたせいで、礼儀的に疑問のある挨拶になったが。


 通された部屋も、やはり和風な部屋だ。

 大きな障子窓の先には、獅子脅しがあったり灯篭があったりする。

 もちろん地面には白い砂が敷き詰められているんだ。


 日本文化に飢えた俺にとって、かなり羨ましい環境だ。


「話は分かった」


 父さんは、俺が騎士学校に通うことを領主のクラウディオに伝えた。

 ちなみに、この領主は父さんの兄だ。


 どうやら俺は貴族の関係者だったらしい。


「クレス君。これは形式的に言っておくことだから聞き流してくれていい」


 形式的に言うことって、大概重要なことだと思うのだが。

 それを、聞き流せとか領主がそんなことを言っても良いのだろうか?


「私たちスメラギの者は、国のために生きているのではない。一族のために国に仕えているのだ。だから一族を犠牲にする選択を国がしたのなら国を捨てる」


 やはり重要なことだった。

 領主は俺が国の兵士や役人になった場合のことを言っている。


 国の命令で一族に不利益を与えるのなら遠慮なく殺るぞ──と。

 あと俺を国が人質にしても、迷わず捨てるという意味も含まれているハズだ。


 まあ、俺は勇者ギルドで安全なポジションで働く予定だから問題はないのだが。

 そう言えば、大長老から働くことへの返事をもらっていなかった気が──まずいんじゃないか?


「少し驚かし過ぎてしまったか?」

「いや、こいつはそんな玉じゃないから気にしなくていい」

「多分、別のことを考えていたのだと思います」


 俺が就職先の返事をもらっていないことに青褪あおざめたのを勘違いしたのか?

 クラウディオは、笑顔を作り場を和らげようとしてくれた。

 対して父さんと母さんは、俺のことを良く分かっているな。


 とりあえず、帰ったら俺の就職について大長老に聞いてみようと思う。


 通話石(ス○ホもどき)は一般的に広まっていない。

 だから使っている所を誰かに見られたら変質者扱いされる可能性がある。

 よって、帰ってからの確認になる。


 ──俺の頭で覚えていられるかな?


「どうした」

「気にしなくてもいいぞ。大したことは考えていないから」


 クラウディオは、俺が考え込んでいるのが気になったようだ。

 そして父さんは、やはり俺のことを良く分かっている。

 さすが俺の親だ。


 だが、そう思うのなら、母さんに怯えたとき俺に助けを求めないで欲しい。


 *


 どうやら、ここに来たのは先ほどの話が原因のようだ。


 『一族のために国に仕えている』このことは既に俺へと伝えられた。

 だから、もしもの時は領土の家臣たちは遠慮なく行動できるからな。


 父さんも間違いなく切り捨て──ない気がしなくもない。

 俺を連れて逃げることぐらいする気もする。

 剣聖の父さんなら大概の国が欲しがるだろうし。


 生活にも全く困らない貯えもある。


 あれ?


 父さんや母さんが国や領土のために戦う姿が、全く思い描けない。

 家族旅行と称して、笑いながら別の国に向かうんじゃないか?


 まあ、話が複雑になるから、間違いなく切り捨てるということにしておこう。


 キラキラした視線を父さんに送る者が多かった。

 このことを考えれば、父さんの影響力はうかがい知れる。

 

 国とスメラギ領が対立したときを考えてみると──

 そんな影響力を持つ父さんの子どもである俺が国の側にいたら?


 間違いなく国に何らかの形で利用されると考えられる。


(俺の能力を知っていれば、そんな考えは出ないだろうがな)

 

 それに公式の場にしたくないと、来る前に母さんは言っていた。

 なぜ、そんなことを言ったのか、今ならその理由が分かる。


 もし公式の場で、クラウディオに俺が騎士学校に行くと言ったらどうだろう?


 領主であるクラウディオ。

 彼はその場で『一族のために国に仕えている』と言わねばならない。


 すると、国に対して彼が腹積もりを持っていると勘繰る者も出てくるハズだ。

 あと、父さんとクラウディオの関係が悪いと考えるヤツも出るかもしれない。

 

 こんな感じで、領主と会った今回の件では、色々な配慮がされていたわけだな。


 *


 それから更に話は進んだ。

 要件は、俺の騎士学校入学を知らせることだけだったようだ。


 数年ぶりに会ったらしく、俺の話が終わってからずっと雑談を続けている。

 酒も入り、2人は上機嫌だ。


「クレス君に剣を教えているのか?」

「……ああ、もちろんだ」


 教えてもらったことはある。

 訓練として変な魔物と戦わされた事もある。


 だが、大半の時間を新婚旅行と称してどこかに行っているんだ。

 本格的に教えてもらったことは記憶にないぞ。


 父さんは、そのことに後ろめたさがあるのか、返事をするのに間があった。


「なら、うちのせがれと手合わせさせないか?」

「確か双子で、クレスと同じ年だったな」

「ああ、筋が良くてな天才と呼ばれているんだぞ」

「そうか、天才か。クレスもな……剣の腕はいいぞ」


 父さん、変な間があったよな。


 俺のことを天才と言いたかったのではないか?

 だが俺のバカな所を思い出して、口に出せなかったように感じたぞ。

 本当にスマン。


「あくまで練習だ。せがれも全力でやることはないだろう」

「そうだな、クレスも練習だから全力ではやらないだろうな」


 2人の言葉の中には、微妙にトゲが含まれていた。


 これはあれだな。

 親馬鹿2人が子ども自慢をして火花を散らしているシーンだ。


 天才と自分の子を褒める兄。

 対して俺のバカを思い出して何も言えなかった父さん。


 本当にすまないと思う。

 全力を出すわけにはいかないが──せめて勝っておこうと思う。

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