俺は血筋と向き合った 『どういう所なんだ?』
一つのテーブルを隔て俺たちは座っている。
俺と妹vs父と母
このような形で向かい合っている状況だ。
vsと書いたが決して対立しているわけではない。
なんとなく、そう表したくなっただけだ。
「実家に帰るぞ」
「ケンカでもしたのか?」
「いつかやると……」
父さんの言葉に俺が返すとコーネリアが続いた。
”いつかやると”──って何をやると思っていたんだ妹よ。
「俺が浮気なんてするはずないだろ」
「そうなんだ」
”そうなんだ”と言い、手にした紅茶を飲む妹。
なんで、”いつかやると”の一言で浮気のことだと父さんは分かったのだろう?
俺を置いてけぼりにして、親子の絆が深まっているとしか思えないのだが。
「フフ、浮気なんてするハズないわよね」
母さんは笑顔だ。凄く良い笑顔だ。眩しい程の笑顔だ。
でも何故か寒気がする。
「俺の実家が少し訳ありでな。お前が学校に行く前に挨拶をしておきたいんだ」
父さんも笑顔だ。
しかし声が上ずっており、何かを我慢しているのが分かる。
(腹でも抓られているのだろうか?)
たぶん、昔を思い出した母さんが父さんをお仕置き中なんだと思う。
子どもは知らない方が良いことなのだろう──きっと。
夫婦の問題に干渉する気はない。
そのように決めた俺は、テーブルの上に置かれた紅茶を口にした。
(こっちを見ないでくれ)
父さんを見ると目で俺に何かを訴えていた。
だが、俺にはどうしようもないことだ──父の威厳でなんとかしてくれ。
「私も行っていいのでしょうか?」
「コーネリアのことも紹介したいからな」
そう言えば、父さんの実家にコーネリアは行ったことがなかったよな。
あそこは緑豊かで──。
「クレスも行ったことがなかったわよね」
記憶を捏造しかけたが、俺も行ったことがなかったな。
「どういう所なんだ?」
「そうだな……この辺りとは色々と違うな」
さっぱり分からん。
「母さんは行ったことがあるのか?」
「あるわよ」
「どういう所なんだ?」
「そうね……行ってみればわかるわ」
面倒で説明を放棄したな。
「コーネリ……」
「…………」
自分が分かるはずないでしょ!
と、主張する視線を、妹は俺に向けてきた。
さっきは、コーネリアと父さんの絆が深まったことを感じて少し寂しかった。
だが、この数年で俺と妹の絆も深まっているんだ。
目を見ただけで、妹が何を言いたいのかが分かるんだぞ──すごいだろ!
※怒りの言葉限定だがな。
俺とコーネリアの絆も深まったものだな。
今の関係を思い返したら涙が零れそうになった。
涙の理由は、あえて何も言わないが。
「明日、向こうに行くんだが……転移魔法で移動するから特に準備は必要ないぞ」
「そうね、正式な形にしたくないから、むしろ普段着の方がいいかもね」
(ん……正式?)
正式と非公式があるということだろうか。
もしあるのなら相手は権力者ということでは──?
知りたくない、でも知らなければまずい気がする。
伝説の魔物から剥ぎ取った素材を、家の奥に溜めこんでいる両親だ。
只者ではないというのは分かっていた。
恐らくは、ガリウスと同じリアルチートなのだろう。
そこまでは、いいだろう。
いや、良くはないのだが良しとしておこう。
話がややこしくなるからな。
だが、もし権力を2人が持っていたら?
もしくは、とんでもない名声を持っていたら?
間違いなく俺の夢である平穏な生活が遠のく。
今も魔人や悪魔や魔王と戦うという、非日常生活をまっしぐらだ。
だがそれは、イリア達の成長や勇者ギルドの稼働までの話だと思っていた。
「……1つ聞いていいか?」
「なに?」
母さんは笑顔だ。
先ほどまで、父さんをお仕置きしていた時の威圧感は消えている。
「2人はどんな仕事をしているんだ?」
これまで避けていた質問を口にしてしまった。
もう後には退けない。
「なんだ知らなかったのか」
「あ、ああ」
父さんはあっさりとした反応だったのだが、俺は緊張し放題だ。
「あえて言えば、モンスター退治だな」
普通だ。
地球で言えば頭がおかしいと思われる職業だ。
だが、この世界では普通だ。
いや、俺が知りたいのはそこではない。
俺はもう一度勇気を振り絞った。
「2人は……」
「剣聖と大魔導士よ」
勇気をふり絞ってしようとした質問はコーネリアに遮られた。
いや、俺の思考を呼んで答えてくれたというべきか。
まあ、なんにせよ──平穏の遠ざかる足音が聞こえたのは確かだ。
剣聖=剣士の頂点
大魔導士=魔導士の頂点




