俺は次選合格者となった 『その油断が命取りだ』
俺の元へと届いた次選合格者という通知。
特別な事情で結果が残せなかった者に合格のチャンスを与える。
それが、次選合格者という制度らしい。
で、特別な試験に合格すると騎士学校の入学許可が下りる。
ちなみに次選合格者となるには──
試験で一定の成果を出した。
試験官の推薦があった。
など、色々な条件を満たす必要があるんだ。
今回俺は、その試験を受けるために王都へと再びやってきた。
当然、次選合格者として試験を受けるためだ。
それにしても、まさか合格できないとはな。
前世では大勇者とまで呼ばれたのに──。
~王都の騎士学校にて~
俺は試験会場に着いた。
すでに多くの者が会場に集まっており騒がしい程だ。
騎士学校には色々な環境の者がやってくる。
当然、貧しい環境の者もやってくるわけだ。
そういった者達は、バイトをしながら学校に通うことになる。
バイトで人気なのが冒険者としてのモンスター退治。
危険なだけあって実入りが良い。
そんな危ないバイトの許可が欲しい者も、今回の試験を受けるんだ。
だから今回の試験は、次選合格者だけが受けるのではない。
バイトの許可が欲しいヤツらも一緒に受けるわけだ。
周囲を見回すと、冒険者のような格好をした者が多い。
遠くから大変な想いをしてこの会場まで来たのだろうか。
軽鎧を着ていたり武器を持っていたり──?
ここで、あることに気付いた。
考えてみれば、遠くから来たのなら宿をとるはず。
鎧はともかく武器を持ってくる必要性はないよな?
(嫌な予感がする)
1つ確認しないとならないことが、俺にはできたようだ。
人の少ない場所を探すため周囲を見回すと──
俺と同様に居心地が悪そうな少女を発見した。
(あそこに行くか)
俺が近づくと、こちらを見たがすぐに少女は視線を戻した。
反応を見るに、人が近づくのが嫌だというわけではないようだ。
とりあえず少女の近くに逃げて封筒を鞄から取り出す。
この封筒は次選合格の通知が入っていた物。
通知を見直そうと封筒を開けてみると──見覚えのない紙が入っていた。
今回の試験は、やらかしてばかりだった。
ここまで、やらかしまくると思い返すだけで笑えてくるな。
「ふっふふふ」
「!」
思わず零れた嗤い。
それが聞こえたのだろう、隣にいた少女が怯えた瞳で俺を見た。
彼女の目を見ると分かる。
どうやら俺は不審者認定をされてしまったらしいことが。
突然笑い出すヤツをまともだと思うハズもない。
その事は分かっているのだが──
彼女が少しずつ俺から遠ざかっているのが辛い。
「…………」
「!…………」
俺を見る彼女の瞳には怯えと共に込み上げた涙が──。
少女の中で、俺はどれほどの不審者となっているのだろうか?
「…………」
「…………」
俺と少女の間に流れ続ける沈黙。
このままだと本気で泣きだしそうだ(お互いに)。
「…………」
「…………」
勇気を出せ俺!
子ウサギのように怯える少女に、俺は勇気を持って声をかけた。
「……ごめん」
「……いえ」
気まずい空気の中流れたのは、謝罪の言葉。
はたして謝ることしかできない俺は、臆病ものだろうか?
──否。
考えてみて欲しい。
怯える子ウサギが目の前にいたら何ができるのかを。
どんなに勇気を出しても、手を差し伸べる程度しかできないのではないか?
だから俺は、十分に勇気を振り絞ったハズだ。
そう自分に言い聞かせ、再び少女を見ると──。
「…………。」
目を背けられてしまった。
涙目だったような──気のせいだよな?
(本当にゴメン)
この後、気まずい空気が少女との間に残ったまま時間だけが過ぎていく。
居心地が悪すぎる時間だった。
だが、会場が急に静まり返ると共に終わりを迎える。
試験開始の時間が来たのだ。
壇上に1人の見覚えのある女性が上がった。
どこかで見たことがあるが、思いだせずにいると──。
「私は諸君の試験を担当させて頂くヴァネッサという者だ」
彼女の自己紹介で思いだした。
彼女の名はヴァネッサ。かつて魔人の生贄にされかけた女性。
保育士として世界を獲れる素質を有した期待の星だ!
「すでに伝えてあるよう、我々が用意した冒険者ギルドの依頼を受けてもらい、その結果を見て試験の合否を決めさせてもらう」
俺は、さっき試験内容を知ったばかりだがな!
と、意味もなく心の中で強がってみた。
もちろん自分の間抜けぶりを頭から追い払うためだ。
「なお、試験は6人程度のグループで行ってもらう」
先程、俺が少女を怯えさせた笑い。
笑った理由は、試験を6人グループで行うことに絶望したからだ。
6人のグループを作って試験を受ける。
このことは、本来なら会場に入る前に知っていた事実。
俺が会場に着いたとき多くの人が集まっていた。
彼らは早めに会場に来ていたのだろう。
そしてグループ作りに勤しんでいたと想像できる。
「…………」
危うく、再び笑いそうになるも何とか堪えた。
少女の方を見るも、その事実に気付いた様子はない。
──先ほどよりも、俺から離れている。
未だに彼女は、俺への不審者認定を解いてくれていないようだ。
初対面の人物に、ここまで警戒されると辛いものがある。
さて、試験だが少し厄介な状況みたいだ。
壁際にいる学校関係者がいる。
彼らは手にしたボードに何かを書きこんでいるんだ。
何らかの評価が書きこまれている可能性も。
出来る限り、6人でパーティを組んだ方が良いだろう。
少女との気まずい空気を誤魔化す為にも周囲を俺は観察していた。
だが、大半が既に6人以上のメンバーを作り終わっている。
(やはり、この手しかないか)
周囲を見回し、6人パーティを作ることは不可能だと判断した。
よって俺は6人以下のパーティ作成を目指すことにする。
まずパーティに引き込むのは、ボッチ仲間の少女!
チラッと少女の方を見る。
先ほどよりも、少女は俺から更に離れていた。
遠目ではあるが、先ほどよりも表情が緩んでいるのが分かる。
きっと警戒心が薄れているのだろう。
(その油断が命取りだ)
先程、少女は子ウサギのように怯えていた。
このことから、かなり気が弱いことが分かる。
(強引に行けば反論はできないハズ)
パーティーを彼女と組むにはどのようにすればよいのか?
その答えに行きついた俺は行動を開始した。
まずは、ガリウス直伝の暗殺歩行を使い少女の背後へと回り込む。
この段階で気付かれたら──
彼女の中で俺は不審者として不動の地位を築くことになるだろう。
(慎重に動かねば)
彼女の背後に立った俺は、気配を消したまま更に距離を詰める。
そして彼女がすぐに返事を返せるように、息を吸い終わったところを狙い──
「パーティを組もう!」
「ひゃっ ひゃい……あっ」
「じゃあ、次のメンバーを探そう」
彼女は返事を返すとすぐに顔を絶望に染めた。
俺が不審者認定した人物だと気付いたのだろう。
「あ、あの……」
「おお! 彼も1人だけのようだ」
わざとらしく大声でごまかす。
彼女と会話するわけにはいかないからだ。
パーティを組みたくない!
なんて言われたらショックだからな。
「一緒に組まないか!」
遠くから大声を出して、1人でいた少年に俺は声をかけた。
後ろからは彼女が泣きそうになりながらも着いてきているのが感じられる。
(強引にいって正解だったか)
この時、若干の罪悪感を覚えはした。
だが、それ以上に俺は自分の成し遂げた偉業に満足していた。
この後のことなんだが──
彼女との会話を避けながもら4人パーティを組むことに成功した。
だが、4人目に声をかけたとき涙目で彼女は俺を睨んでいた。
試験の最中、後ろからプスッと刺されることはないよな?




