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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第6章-B 凄い勇者の騎士学校受験
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俺の試験結果 『炎よ』

 先程、俺を助けてくれた少女はカティア。

 そして俺の後ろの席に着いたのはマグニール。

 

 どちらも貴族で、親の仲が良いため昔から顔を合わせることが多かったらしい。

 

 2人と自己紹介を兼ねて話をしたおかげで俺の緊張は大分ほぐれた。

 その事もあり、筆記試験は十分な点を採れた──と、思う。

 

(久しぶりに頭をフルに使ったな)

 

 疲れ果てた脳を休めようと、何も考えないようにしながら天井を眺め続けた。

 

 何も考えないのは普段のことだ。

 と、変な声が聞こえた気もするが疲れからくる錯覚だと思う。


 しばらく何も考えずに脳を休めていると──。

 

「魔法の実技試験を行うので移動を開始して下さい」

 

 記述試験を終えた教室に女性の声が響く。

 その声は実技試験の移動を告げる声だった。

 

 次は魔法に関する試験だ。

 

 筆記は大丈夫だとは思うが、自分の頭の性能は知っている。

 だから実技関連で点を稼ごうというのが俺の計画だ。

 

「バカ顔を晒していないで、移動するわよ」

 

 親切なカティアが、俺の頭をはたき、俺の意識をこの世界に引き戻してくれた。

 

 彼女とのコミュニケーションは、何故かシルヴィアを思い出させる。

 ──深く関わり過ぎない方が良いかもしれない。

 

 カティアへの警戒心を強めながら俺は教室を出た。

 

 ………

 ……

 …

 

 教室を出た俺達は、コンクリートで出来たような施設へと入った。

 ここが魔法の実技試験を行う会場のようだ。

 

 ちなみに中の様子は、地球の弓道場をイメージしてもらえれば良いだろう。

 

「では、試験の内容を説明する」

 

 弓道の的と良く似たまとに、火魔法を当てるというのが試験内容だ。

 動かない的に当てるのなら難しくはないだろう。

 

「魔法は得意か?」

「それなりにな」

 

 小声で話しかけてきたマグニール。

 彼の隣にはカティアが座っている。

 

 記述試験のあと、彼らと一緒に行動をしているんだ。

 試験の不安もあるから心強い。

 

「次!」

 

 俺が話していると、順番がきた。

 

「行ってくる」

「的をキッチリ壊してこいよ」

「おう」

 

 これから魔法の実技試験だ。

 

 試験勉強をする中で問題が発覚した。

 イリアが言うには俺ぐらいであれば魔法は詠唱するのが当たり前らしい。

 

 初級魔法で詠唱を行ったことがない俺は、一生懸命に詠唱の言葉を覚えた。

 

 一晩眠れば忘却の彼方に失われる俺の記憶。

 実際には1時間で忘れていたのだが、一生懸命に勉強した。

 

 その成果を今こそ示すとき!

 

 と、気合を入れて俺は指定された場所に立ったのだが緊張するな。

 

 受験生が俺を含めて横に5人並んでいる。

 彼らも緊張しているようだが、俺ほどではないだろう。

 

 後ろからも視線を感じ、一層俺の緊張に拍車をかけている。

 

 とりあえず呼吸で落ち着こうと思ったとき──。

 

「始め!」

 

 突如として試験官の声が響き渡った。

 一瞬、真っ白になる俺の頭の中。

 

 だが、普段から何も考えていないことが功を奏したのだろう。

 俺は緊張しながらも、魔法の詠唱を開始した。

 

「原初の知識たる炎。我が求みゅ……(噛んだ)……求むるは人が手にせし炎という名の牙。その牙をひゅしぇ……(また噛んだ)……その牙を防ぐ者は無し。ひょの……(詠唱を諦めた)」

「…………」

 

 噛みまくってしまった。

 横目で試験官の顔を見ると、うつむきながら肩を震わせていた。

 

 後ろからも笑い声がチラホラ。

 

 泣きたい──が、試験をやり遂げなければならない。

 この時点で俺は開き直った。

 

「…………」

「…………」

「炎よ」

 

 詠唱を諦めて、代わりに無詠唱で魔法を使うことにした。

 俺はバスケットボールサイズの火球を作り出しまとへと放つ。

 

 放たれた火球は、見事に的へと当たったのだが──火力が強すぎた。

 

 まとの周辺は火の海と化し、赤い炎達は妖しく踊っている。

 音は炎に喰われたかのように失われ、炎が燃え盛る音だけが会場にあった。

 

(やり過ぎた)

 

 緊張と焦りで、手加減を忘れてしまった。

 力を隠してきたにもかかわらず、こんなミスをするとは。

 

 踊り疲れたかのように炎は舞うのをやめていき、火の海もまた消えていく。

 だが、俺の思考は状況の鎮静化とは半比例し、一層騒がしさを増していった。


「…………」

 

 チラッと試験官の方を見ると、笑顔のまま固まっている。

 

 もはや試験どころの話ではない。

 何とかして、この場を誤魔化さねば厄介な事になる。


 そう考えて対応を考えていると──。

 

「クックックック」

 

 沈黙が支配する試験会場に、含み笑いをする少女の声が響き渡る。

 聞こえた声を頼りに振り返ると、受験生達の後ろに隠れた少女に気付いた。


 見た目は12~13歳程といったところだろうか?

 

 だが、魔力の質が年齢と不釣合いと言えるレベルだ。

 見た目通りに判断できない実力者なのだろう。

 

 少女は俺を見たかと思うと、試験官に向かって歩き出した。

 

 彼女を見た受験生たちはどよめいている。

 その反応から有名な人物のようだと分かるが──会ったことがあるような?

 

 どよめく生徒たちを後目しりめに少女は歩いている。

 

 見覚えのある少女。

 彼女をジッと見続けたのだが思い出せない。

 一体、誰なのだろう。

 

 少女が試験官の前に辿り着くのは、俺が彼女を思い出すよりも早かった。

 試験官の前に立つと彼女は話し始める。

 

 背の問題で見上げるような形で試験官と話しているが、彼女の方が偉そうだ。


「そこの少年が使った的なんじゃがな。ワシが昨日の晩に手を加えてな魔法で強度を上げたんじゃよ」

「しかし……」

「試験に不具合が出ないように手を加えたのが仇になったようじゃのう。善意のつもりが試験を邪魔することになってしまった。すまんかったな」

「い、いえ」

 

 試験官の反応を見る限り、少女は彼にとって目上のようだ。

 それもかなり上の立場なのだろう。

 

 そんな人物に謝罪をされれば、不自然な点にも目をつむらざるえない。

 

 どうやら、俺はあの少女に助けられたようだ。

 助けた意図は判らないが──感謝はしておこうと思う。

 

 この場で礼を言えば、的に手を加えたことが嘘だとバレる。

 だから、礼を言うのは後回しにせざるえないが。


「ああ、少年よ」

「はい」

「トラブルで試験が台無しにしてしまい済まなかったな」

「いえ」

「手間をかけるが、もう一度魔法を使う所からやり直してもらえんか?」

「はい」

「今度は無詠唱で良いぞ」

 

 そう言ってイタズラっぽい笑みを俺に向ける。

 やはり、見覚えはあるのだが少女を思い出す前に、彼女は去っていった。


 彼女は明らかに俺の力を知っている。

 だからこそ俺をフォローしたのだろう。

 

 警戒せざるえない状況ではあるが、今は試験の方が重要だ。


 俺は炭となった的の交換が終了すると再び魔法を放った。

 


 先程とは違い、今度は普通に魔法を放つことに成功する。


 他の受験生達は、しばらくの間は俺を気にしていたようだ。

 時折、俺を見ながら交される話声も聞こえてきた。


 しかし興味を失うのは早かった。 

 なにせ今は試験の最中だ。

 俺のことを構っている暇などないハズだからな。


「さっき試験官と話していた女の子について聞いてもいいか?」


 周囲の視線が消えかけた所で、カティアに先程の少女について質問した。


 俺を助けてくれた先程の少女。

 彼女に対してアイドルを見るような目をしていた者が何名かいた。

 そんな中にカティアが含まれていたからだ。


「まさか知らないの!」

「人の顔を覚えるのは苦手でな」

「よく聞きなさい! あの人はね……」


 少女について訊ねると、カティアは熱弁を開始しする。


 決壊したダムから流れる水のごとく少女について語るカティア。

 情熱がこもり過ぎる彼女の話は聞いているだけで疲れた。


 で、話を聞いて分かったのだが、あの少女こそがイライザだった。

 あの偽名魔法ギルドカードの性別を女性にした憎き仇だ。


 昔は大人の姿だったが、見た目が違うせいで気付かなかった。

 まあ、 色々と言いたいことはあるが──。


(今は、気持ちを切り替えよう)

 

 アイツの所業については思う所はある。

 だが、緊張と焦りで失敗したばかりだ。

 

 心の失敗は引きずるものだからな。

 


 ~武術 実技試験~

 

 次の試験は武術だ。

 俺達は再び会場を移動して外へと出た。


 移動した先は広いグランドで、足元に白いラインが引かれている。

 数人の剣を持った教官がいたため、ここが武術試験の会場だとすぐに判った。


 武術試験では、得意な武器を使って試験官に一本を入れれば良い。

 

 グランドの端には様々な武器が置かれている。

 俺達はそこで使う武器を選んでいる最中だ。


 置かれている武器の全てから魔力を感じる。

 どうやら、怪我をしにくくする細工が施されているようだ。


「剣を選んだんだ」

「昔から教わっているからな」

 

 カティアは槍を持っている。

 教官が手にしているのが剣であることを考えれば槍は賢い選択だ。

 なにせリーチが全く違う。


 現実の戦いには魔法という飛び道具がある。

 だから、この世界においてリーチは地球ほど重要視されない。


 それでも試験は魔法なしの勝負となる。

 この点をカティアは考慮したのかもしれない。


「誰に教わったの?」

「……身内だ」

 

 身内だと答えを濁らせた。

 実際には、前世で召喚されるたびに会った仲間達から学んだ。

 

 剣聖のような名を持つ達人が、どの世界にもいたからな。

 

「うわっ」

 

 カティアがドン引きした。

 どうやら昔を懐かしむ俺の顔を見ての反応らしい。

 

 きっと、ラゼルが言っていた変な顔をしていだのだろう。

 

(まあ、いいか……?)

 

 いつものことだと、スルーしようとした所で気づいた。

 これまでを振り返ると、俺は何らかの反応を示したハズだが──。

 

(俺も成長したということか)

 

 前世と合わせれば100歳を超える10歳の少年、それが俺だ。

 考えてみれば、肉体と精神が釣り合わない歪な存在なのかもしれない。

 

「!」

 

 驚いたような表情をしたかと思うと、カティアは目を背けた。

 

 なぜ彼女は、そのような反応をしたのか?

 その理由が何なのか、本来なら気付くける者などいないだろう。

 

 だが、俺は脳内をよぎったビジョンにより反応の意図を察することができた。

 

 俺が見たビジョンは『ケーキ満漢全席』と書かれたメニュー表。

 そう、クレアとして行動した誘拐事件の後に見た恐るべきメニューだ。

 

 あのときの俺は、見てはいけない物を見てしまった気持ちになった。

 彼女は、あの時の俺と同様に──。


 俺が悪いのは判っている。

 だが、ケーキ満漢全席と同じ扱いだと考えたら、思わず彼女を睨んでしまった。

 

「…………」

「仕方ないじゃない! 頭を金棒で叩き潰されたゴブリンの顔を引き伸ばしたみたいな顔だったんだから」

「そこまで酷かったのか?」

「あっ ごめん」

 

 悲しげな表情を見せたあと、カティアは目を背けながら謝罪した。

 ──って、完全にゴブリン顔だったと肯定しているから出る反応だよな。

 

「…………」

「行くわよ!」

「…………」

 

 本気で泣きたくなった俺と目を合わせようとしないカティア。

 彼女は誤魔化そうと一際大きな声を張り上げた。

 

 そんな彼女の背中を俺は恨みがましい目で見送ることしか──

 いや、俺も試験を受けるのだったな。

 

 自分が試験を受けることを思い出した俺は、急いで彼女を追った。

 

 このとき、既に先程のことを忘れていたことは言うまでもないことだろう。



 ~武術試験開始~

 

 俺は今、試験官と対峙している。

 すでに剣をお互いに構えて20分ほど経った。

 

「……交代だ」

 

 俺は試験官と一度も剣を交えることなく交代を言い渡される。

 頭を下げることで礼をして席へと戻った。

 

 するとマグニールが俺に話しかけてきた。

 

「どうして戦わなかったんだ?」

「隙が無かったんだ」

「お前……」

 

 マグニールは、何かを言おうとした所で口ごもる。

 

 言いたいことは分かる。

 

 試験官に自分の腕を見せることが試験の目的だ。

 よって俺のように一切動かないのは論外だと言いたかったのだろう。

 

 試験開始と共に、一気に攻めるべきだった。

 と、後悔が頭をよぎる。


 だが、今さら言っても仕方のないことだ。

 

(実技には自信があったのだがな)

 

 こうして実力を発揮できないまま俺の試験は終了した。


 ………

 ……

 …


 試験から7日後、俺の元に試験結果の通知が届く。

 そこには以下の言葉が書かれていた。


 『次選合格』

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