俺は騎士学校の試験会場に向かった 『……バカ?』
騎士学校への入学は10歳からだ。
しかし入学試験は9歳から受けられる。
筆記、魔法の扱い、武器を使った実戦。
これらの試験が年に一度だけ行われるんだ。
合格する条件は、全てにおいて一定以上の評価を受けること。
俺の場合は筆記が問題となる。
案の定とか思ったか?
でもな、俺とて前世では義務教育を終えているんだ。
だから小学生程度の算数程度なら問題はない──多分。
問題となるのは、地球と大きく違う筆記問題だ。
数学以外にも、国語、歴史、魔法学というものがある。
魔法学と国語も問題はないハズだ。
俺にはチートがあるため、魔法に関しては理解力が高い。
他の学問に活かされないのが残念すぎる程に。
国語に関しては、この世界の文字を読んだり書いたりできれば問題はない。
もちろん、俺は生活に支障が出ない程度の読み書きはできる。
では、何が問題かというと歴史だ。
地球の歴史と、この世界の歴史は当然違う。
更に前世では歴史の知識など、ほとんど必要としなかった。
このため、歴史については、ほぼ1から勉強することになったんだ。
~王都にある騎士学校にて~
俺は騎士学校の試験を受けるため、王都にある試験会場を訪れている。
試験会場は、大きな街であれば大概は用意されているんだ。
だが、俺の住んでいるのは田舎すぎるため試験会場は存在しない。
このため王都での試験となった。
今年の始めにイベントが行われた騎士学校の新校舎。
そこが俺の入学試験会場だ。
俺とラゼルは、一緒に試験会場である騎士学校の校舎前にいる。
勇者の素質を持つラゼル。
残念ながら彼が持つ勇者の素質は開花しきってはいない。
素質が開花すれば、学校に無条件で入れたはずだ。
しかし神の啓示が行われる時期までに開花が間に合わなかった。
このため、9歳になった彼は俺と一緒に試験を受ける。
「じゃあ、がんばれよ」
「お互いにな」
残念ながら、試験を受ける会場が違うためここでお別れだ。
少し心細いのは、9歳という年齢を考えれば許されることだろう。
前世と含めて100歳を超えているが、肉体が10歳だから問題はないハズだ。
そう、自分に言い聞かせながら、俺は騎士学校内の廊下を俺は歩き続けた。
(何年ぶりの試験だったかな?)
前世で試験を受けたのは、数十年以上も前だ。
もはや大昔とも言えるほどの昔といえる。
そんな大昔の経験が、試験を受ける上での自信になるハズもなく──。
(泣きたい)
緊張のあまり目頭が熱くなってきた所で、周囲を見回してみた。
もちろん、気持ちを切り替えるためだ。
様々な場所から試験を受けるために集まってきているのだろう。
廊下には、様々な服装をした俺と同年代の子どもたちがいる。
騎士学校の試験には、貧しい地域からも人が集まる。
それに同じ年齢で会っても、文化的な違いなども存在するはずだ。
このため私服が試験では当たり前なのかもしれない。
そんな受験生達を見ると、色々なヤツらがいる。
──緊張した面持ちの者。
────仲間らしき者達と談笑する者。
──────周りを物珍しそうに見回すロリエルフ?
エルフの子ども達が廊下の隅にかたまっていた。
その中には、少し前にシルヴィアと一緒に歩いていた者もいる。
(そう言えば、エルフ族の留学生が騎士学校に来ると言っていたな)
情報の出所はシルヴィアだ。
何度もロリエルフと一緒にいるのを見かけた俺は、彼女に尋ねたことがある。
『お前、子どもがいたのか?』
『いるわけないでしょ!』
そう言ってアイツは、思いっきり俺の頬に拳を入れやがった。
アイツは数百歳のハズ。
だから子どもがいてもおかしくはないと思うのだが──。
見かけは絶世の美女でも、中身が絶世のバカだから、相手が逃げるのだろう。
で、俺は殴られたあとロリエルフについて質問した。
『王都で、お前がロリエルフと一緒にいるのを何度も見かけているのだが』
『ロリエルフって……新種のエルフを作らないで欲しいんだけど』
『じゃあ、ショタエルフ』
『……エルフを馬鹿にしていない?』
静かに怒りを燃やすシルヴィア。
その様子が少し怖かった。
だから、エルフの子ども達と言い直して質問することにした。
彼女の話によると、この国とエルフ族の交流を深めることが目的らしい。
で、シルヴィアは王都の案内をロリエルフ達に行っていたそうだ。
まあ、廊下の隅に集まっているロリ&ショタエルフ。
彼らは、何かに困っているわけではないようだ。
だから、彼らに話しかけることなく、俺は試験を受ける教室へと向かった。
~試験会場~
俺は試験を受ける教室で自分の席に座っている。
あと20分で試験が開始される。
だが、前世も含めて数十年ぶりの試験であるため少し緊張していた。
(と、とりあえず心を落ちつけよう)
少しと言ったが、実際には相当緊張していると思う。
持って来た黒いカバンを開けようとする手は震えていた。
「緊張し過ぎなんじゃない?」
隣の席に座る少女が話しかけてきた。
視線を少女の方に向ける。
すると金色の髪をした少女がコチラを見ていた。
心配そう──ではなく、切れ長の目のせいか不機嫌そうな表情だ。
「だ、だ、だいじょうぶだ」
「……全然大丈夫そうじゃないんだけど」
声が上ずり、更にどもっている。
これで大丈夫だと思われる方がおかしいよな。
「飲み物を持ってきているんなら飲んだら?」
「…………」
緊張しすぎて声が出なくなった俺は、とりあえず頷いて答えた。
ちなみにバッグを開けようとする手は震えて留め金具がガチガチ言っている。
「……私が開けてあげる」
「…………」
俺は頷くことしか出来なかった。
………
……
…
俺は少女に、バッグの中から水筒を取り出してもらった。
そして中に入れてあった水を3口飲んだところで何とか落ち着いた。
試験会場に潜む魔物は恐ろしいな。
「助かった」
「立ち直りが早いわね」
「激しい戦いを潜り抜けるには、切り替えが大切だからな」
「緊張しまくっていた人が言ってもね……」
俺に反論など出来なかった。
大勇者とまで呼ばれた俺も墜ちたものだな。
「フッ」
「……バカ?」
初見で俺の本質が見破られた。
この少女は、中々の洞察眼を持っているようだ。
「おいおい、試験日にナンパか?」
後ろから聞こえたのは少年の声。
振り返ると──
貴族が着る高価そうな服を着崩した少年が、俺達の方へと歩いて来ていた。
「随分余裕だな」
そう言いながら、俺の後ろにある机に手にしたバッグを置く。
絡んできたのではなく、後ろの席に座るついでに話しかけてきただけのようだ。
「そんなんじゃないわよ」
「ソイツは残念だったな」
「なにがよ」
不機嫌そうな少女に、先ほど現れた少年。
2人は気安い関係なのだろうか?
そのようなことを考えながら俺は疎外感を味わっていた。
だが、どう考えても9歳の会話ではない気がするのだが──
気のせいだろうか?




