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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第6章-B 凄い勇者の騎士学校受験
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俺は愛弟子の懐かしき姿を見た 『懐かしいな』

 今、世界樹の森で魔法の訓練を始める所なのだが──久しぶりに見た。

 

「……懐かしいな」

「覚えていて下さったのですか」

 

 イリアは、凄く嬉しそうだ。

 本当に眩しいと思える笑顔を見せてくれている。

 その笑顔は、地球の一部のマニアなら写メを撮りまくりそうなほどだ。

 

「……まあな」

「初めて魔法を教わったときも、この服でしたね……」

 

 あの時から、もう4年が経つのか。

 今でもイリアに魔法を初めて教えた時のことを俺は覚えている。

 特に服装を──。

 

「なんて言えばいいのかしら……」

 

 俺の隣にいるシルヴィアは困惑している。

 彼女の様子を見て、他のメンバーが気になった俺は視線を彼らに移すと──。

 

「…………」

 

 唖然とした表情で沈黙を貫いている。

 言いたいことがあり過ぎて言葉が詰まっているのかもしれない。


 それとも、あまりの衝撃に思考が停止しているのだろうか?

 

 だが、彼らの反応を否定することなど出来る者などいるハズはない。

 少なくとも、この場にいる者の中には──。

 

 彼らの言葉を奪い去ったのはイリア──いや、彼女が着ているローブだ。

 

 冥界の淵を思わせるかのような漆黒の生地。

 表面には、オドロオドロしい紫色の炎をあしらった刺繍ししゅう

 それらが相まって、禍々しい妖気を放っているようにすら見える。

 

 この姿は一度見たら忘れるハズもない。

 イリアは、俺が初めて彼女に魔法を教えた時の恰好をしているんだ。

 

 久しぶりに見たのだが、やはり凄まじい禍々しさを放っている。

 

 いや、昔よりも身長が伸びたので、ローブも新調したのだろう。

 彼女の成長に合わせて昔よりも大きくなったローブ。


 そこから放たれる妖気は、昔よりも更に禍々しくなったとすら感じる。

 

「個性的なローブね……」

「コーネリアの分も作りましょうか?」

「えっ! それ、自分で作ったの! ……じゃなくて……安く買った布を使ってローブをたくさん作ったから、今度ね」

「そうですか。では、必要になったらおっしゃって下さい」

「う、うん」

 

 コーネリアよ、安売りされていた布を買い占めておいてよかったな。

 おかげで呪いのアイテ──もとい、個性的なローブを着ずに済んだのだから。

 

 こうやってコーネリアは危機を乗り越えた。


 しかし、次の脅威は目の前に訪れている。

 イリアが別の手作りアイテムについて語り始めたのだ。


 ここで話しかけようものなら巻き込まれかなない。


(非力な兄でスマン)


 巻き込まれることを恐れた俺、は妹を切り捨てることにした。

 非情かもしれないが仕方あるまい。

 

 ──先程から妹に睨まれているようだが、気のせいだろう。

 ──今日の夕飯が心配になってくるのも、気のせいだろう。

 

 と、現実逃避をしているとシルヴィアが話しかけてきた。

 

「……クレス、これ」

「なんだ?」

 

 彼女が俺に差し出した物を見ると2枚のカードだった。

 

「もう出来たのか」

「ええ、早い方が良いと思ってね」

 

 誘拐事件の報酬であるカードができたようだ。

 カードというのは、冒険者ギルドカードと魔法ギルドカード。

 偽名で作られたこれらのカードは俺が待ちわびた品だ。


 なにせ、モンスター退治などを安心して受けられるのだからな。

 

 イリア達の方には、絶対に視線を向けないようにしながらカードを眺める。

 シルヴィアも同様に、イリア達を見ないようにしているようだ。

 

(彼女達の話に巻き込まれたくはないからな)

 

 受け取ったカードを日に透かしてみたりする。

 もちろん話し込んでいるとイリア達にアピールするためだ。

 

(誤魔化せているだろうか?)

 

 気になると体が勝手に動くものだな。

 視線がコーネリア達の方に無意識のうちに向いて──目があった。

 

「…………」

「…………」

 

 お互いの視線が交わった瞬間に生まれた沈黙。

 コーネリアの瞳が恐ろしくなった俺は、そっと目を逸らした。

 

 俺が目を逸らすとき、妹の笑顔を見た気がする。

 そう、とても冷たい笑顔を──夕食が心配なのは気のせいではないようだ。

 

(これ以上は考えないようにしよう) 


 愛なき食事メニューを想像した所で考えるのをヤめる。

 そして、代わりにカードを眺めることにした。


 いわゆる現実逃避だ。

 だが、この行為で俺は一層の疲労感を溜めることになる。


「ほ~、うん?」

 

 真新しいカードの1枚を見ていると、あることに気付いた。

 

 ──見間違いだと思った。

 ──いや、見間違いであって欲しいと思ったんだ。

 

 だから、目をこすったりして何度もカードを見た。

 

「…………」

 

 1枚目のカードを何度見直しても現実だ。

 念のため、もう1枚のカードも見る。

 

 何度も──何度もカードを確認したんだ。

 だが、現実は残酷だった。

 

「なあ」

「なに?」

「カード名義は百歩譲って何も言わない」

「ええ」

「でもな、1つだけ言わせろ」

「なにを?」

「なんで性別欄が『女性』になっているんだ!」

 

 報酬として渡された2枚のカード。

 それは、冒険者ギルドと魔法ギルドのカード。

 

 受け取ったカードは、確かに約束通り偽名だ。

 だが、なぜ性別まで女性だと偽っているのだろうか?

 

「女の子っていうことにすれば、バレにくいでしょ」

「……それは、そうなんだがな」

 

 ドヤ顔が若干ムカつくが、確かにシルヴィアの言うとおりだ。

 しかし、何かが根本的に間違っている気がする。

 

「性別の変更はできないのか?」

「体を作りかえる魔法は難しいしリスクも大きいわよ」

「カードの性別だ」

 

 真剣な表情で、肉体をイジル魔法について語るシルヴィア。

 冗談ではなく本気で性転換を望んでいると勘違いしたのだろう。

 

 ──この、天然エルフが。

 

 とりあえず心の中で毒づいた所で話を続ける。

 

「あなたなら女の子になればモテルわよ」

「遠慮する。で、カードなんだが……」

「やめた方が良いでしょうね」

 

 納得できない。

 

「そのカードを作るだけでギルドの上層部が関わっているのよ」

「どんな権力を持ったヤツに協力させたんだよ」

「……トップ」

「聞かなかったことにして良いか」

「無理ね。カリスって覚えている?」

 

 カリス、それはかつての仲間。

 だが、あいつは人間だったハズだ。

 

 俺が、この世界を離れてから130年以上が経っている。

 このことを考えると生きているハズはないのだが。

 

「……生きていたのか」

「今は冒険者ギルドのトップをしているわ」


 昔から人間を辞めている節はあったから──。

 いや、今は考えるべきことが他にある。

 

「魔法ギルドのカードはどうやって手に入れたんだ?」

 

 そう質問した俺の背中から嫌な汗が流れている。

 

「トップがイライザの弟子」

「…………そうか」

 

 イライザというのも、かつての仲間。

 あいつも人間だったハズだ。

 

 普通の人間であれば生きている可能性は低い。

 だが、イライザなら何でもアリと呼べるヤツだからな。


 ヤツなら生きていても納得できる。

 

「俺が転生したことは伝えてないよな」

「…………」

「おいっ!」

「冗談よ」

 

 『スバル殺しのシルヴィア』

 そんな通り名を大笑いしながら酒のつまみにしていた、かつての仲間。

 

 チビッ子となった俺を知られたら何を言われるのだろうか?


 まあ、ロクでもない事を言われるのは保証できる。

 

「でも、隠しきれないと思うわ」

「どうしてそう思う」

「イライザが騎士学校の校長をやっているから」

「…………」

 

 明日は騎士学校の受験だったが、一気にヤル気が無くなったぞ。

 

「2人とも、スバルの関係者って伝えたら喜んで協力してくれたわ」

「アイツらの友情に涙が出そうだ」

「愛されているわね」

 

 カリスとイライザが関わっている。

 この事実を知り、なぜカードの性別が女性になっているのかは理解出来た。

 

「カードの性別は、アイツらのせいなのか?」

「ええ、2人から同じ伝言を預かったわ」

「どんな?」

「カードの性別を直したければ直接会いにこいって」

「……そうか」

 

 直接会いに来いという事は、俺を見定めるつもりかもしれない。

 

「俺の転生に気付いていると思うか?」

「可能性程度には……ね」

「そうか」

 

 勇者育成でケット・シーと関わったことがある。

 それにヴァネッサを助けたり、誘拐事件の解決したりもした。

 

 少し派手に動いたから、色々と調べられたのかもしれないな。


 だが、スバルが転生したという事実は掴んでいないだろう。

 スバル関係者程度には考えられている可能性はあるが。

 

「まあ、会うのは当分先だ」

 

 できれば一生会いたくはないが──無理だろうな。


「彼女達は暇だから気を付けることね」

「暇つぶしに俺を調べる可能性があるのか?」

「よほど暇な時にね」

 

 不吉なことを言われた。

 

 受験をあすに控えているのにな。

 この会話だけで、精神的に凄く疲れた。

 

「……一応、カードをありがとう、とだけ言わせてもらう」

「どういたしまして」

 

 溜息混じりに言った礼ではあったが、シルヴィアは上機嫌だ。

 

(カードの使い方は、後で考えるか)

 

 これ以上の疲れは明日の受験に響くことだろう。

 俺はカードから思考を切り替えてイリア達に視線を向けた。

 

 先程までとは違い、イリアとコーネリアの2人は笑っている。

 

 個性が強すぎるデザインのローブを着せられずに済んだ。

 そう、我が妹が安心したので2人の空気が柔らかくなったからかもしれない。

 

(華やかなものだな)

 

 2人の美少女の微笑みあう光景は絵になる。

 そのようなことを考えていると、とんでもない情報が耳に入ってきた。

 

「学校でも同じ格好をする子も多いのですよ」

 

 イリアの放った一言にコーネリアの表情が凍りついた。

 いや、この場にいる全ての人間の表情が──。

 

 騎士学校は、取り返しの付ないことになっているのかもしれない。

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