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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第6章-A 凄い勇者と美少女冒険者クレアちゃん(仮)
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俺は奢ってもらった 『チャレンジャーね』

 俺はシルヴィアと共にルーレイの街にある宿屋を訪れている。

 この宿は、海に面したルーレイの街でも海鮮料理が美味しいらしい。


 なぜ俺がココに来たのか?


 それは、なんとシルヴィアがおごってくれると言っているからだ。

 

(……気が重い)

 

 ドラマやアニメで、こんなの聞いたことないか?


 普段怖いヤツが、捨て猫なんかに優しくするとギャップ萌え──

 もとい、必要以上に良いヤツだって感じると。

 

 でもな、怖いヤツの優しさが自分に向くとギャップ萌えなんて起こらない。

 むしろ、裏があるんじゃないかって恐怖を感じるのが現実なんだよ!

 

 今の俺も、そんな気持ちだ。


 だが、報酬のカードを受け取るまでは彼女の機嫌を損ねたくはない。

 

 と、いうわけで俺はシルヴィアの申し出を受けることにした。

 

 

 ~事件から3日後 ルーレイの街 宿屋にて~

 

 俺は恐れを抱きつつも、宿の従業員に案内された席につく。

 案内されたテーブルは二階にあり、一階全体を見下ろせる場所にある。

 

「本当にいいんだな」

「口調が戻っているわよ」

「……本当に良いのですか?」

 

 そう言えば、今はクレアだったな。

 長い髪に違和感を感じなくなってきているせいか、すっかり忘れていた。

 

「思ったよりも予算が余ったし……」

「うん?」

「魔人が出てくるなんて思っていなかったから、お詫びも兼ねてね」

「…………」

 

 彼女の言葉を聞いた俺の全身に悪寒が走った。

 

(シルヴィアが、俺に殊勝なことを言っているだと!?)

 

 これまでの所業を思い返すとありえないことだ。

 俺の耳は、シーマとの激戦でおかしくなってしまったのだろうか?

 それとも、魔人の呪いか何かを受けて──。

 

「クレアちゃん。何を考えているのかしら?」

「……シルヴィアお姉さまは、今日もキレイだな~と考えていました」

「ありがとう」

 

 『ありがとう』と言っている彼女は、凄く良い笑顔をしている。

 その視線からは、鋭利な刃物を突き付けられているかのような恐怖を感じるが。

 

「さ、早く注文しなさい」

「はい、シルヴィアお姉さま」

 

 毒を喰らわば皿までというが、覚悟を決めるとしよう。

 素直に注文することにする──その先にどんな危険が待ち受けていようとも!

 

「それでは……」

 

 ここまで言った所で言葉を詰まらせてしまった。

 

 まだ、覚悟が足りなかったのだろう。

 シルヴィアの顔色をうかがいっているのだが、疑念ばかりが生じる。

 

 ──注文しても本当に大丈夫なのか?

 ────それとも何かの罠なのか?

 

「シルヴィアお姉さま……」

「なに?」

 

 水が入ったコップを片手に持ちながらシルヴィアは答える。

 とりあえず、当たり障りのない会話をして反応を見ようと思う。

 

「これを注文してもよろしいでしょうか?」

「一番高いのでもいいわよ」

「はい」

 

(くっ怖くて注文ができない。いや、覚悟を決めるんだ俺!)

 

 心の中で自分を叱責して覚悟を促す。

 

 一番高いのでも良いと彼女は言った。

 と、いうことは、ソレを選べば怒られることはないハズだ。

 

(じゃあ、一番高いのを選ぶか)

 

 メニュー表の中から一番高いメニューを探すと──見つけた。

 この店で最も高価なメニューの名は、ケーキ満漢全席まんかんぜんせき

 

(…………)

 

 俺は、とんでもない物を見てしまったのかもしれない。

 

(…………)

 

 それにしても、この世界に満漢全席なんてあったんだな。

 満漢全席っていうのは、数日間かけて100種類を越える料理を食べるヤツだ。

 

(アレをケーキで再現するとは)


 このメニューの注文は、健康を代償とすることに直結することだろう。

 だから絶対に注文は避けねばならない。

 

「注文は決まっ…………チャレンジャーね……」

「えっ? (まさかっ)お姉さま、別のをお願いします!」

 

 硬直した俺の視線がケーキ満漢全席まんかんぜんせきに向けられていたので勘違いしたようだ。


 俺とて健康的な生活を送りたい。

 だから、その勘違いは全力で否定させてもらった。 


「…………」

 

 ケーキ満漢全席まんかんぜんせきは、とりあえず却下。

 しかし他の料理を選ぼうにも聞いたことがないメニューばかりだ。


 このため料理の内容を想像できず、注文することも難しい。

 

「お姉さま。何かお勧めはありますか?」

「魚料理だけど──季節の影響を受けやすいから私にも分からないわね」

 

 どうやらシルヴィアもお勧めは分からないようだ。


 再びメニュー表とのにらめっこに突入──

 と、思った所で店員が近くを通りかかった。

 

「すみません」

「はい」

 

 お勧めの料理が何か聞くために店員を呼び止める。

 茶色い髪をツインテールにまとめた愛想が良さそうな女の子だ。

 

「お勧めはどれですか?」

「おすすめはケーキ満漢全席ですね」

「「却下!」」

 

 俺とシルヴィアの意見は一致していた。

 シーマとの一戦で高まった俺達の連携は、この場でも力を発揮したようだ。

 

「冗談ですよ」

 

 笑顔で答える店員だったが、1つの疑問が浮かんだ。

 

「ケーキ満漢全席って注文される方はいらっしゃるのですか?」

「時々いらっしゃいますね。冗談で注文される方がほとんどですが……」

「そうかもしれないわね」

 

 シルヴィアは周囲を見渡すと、多くが陽気そうな人間だ。

 こういうメニューを用意しておけば会話が弾むだろう。

 

「実際にお持ちすると、みなさん顔を青褪あおざめるので面白いですよ」

「…………」

 

 この時、俺と同様にシルヴィアも同じ思いだったのだと思う。


 その想いというのは『ケーキ満漢全席があるのかよ!』とツっ込みたい衝動。

 だが、目の前の少女を見たら黙ることしかできなかった。

 

 少女は、凄く嬉しそうにしていたのだが、その笑顔は決して健全な物ではない。

 

 俺には分かる。

 あの笑顔は、人をなぶって喜ぶSな人間のものだと。

 

 そして俺の元勇者としての本能が伝えている。

 この娘と深く関わってはいけないと。

 

「じゃあ、お勧めをいくつか持ってきてもらえる? 予算は……これぐらいで」

「はい」

「もちろん、ケーキ満漢全席以外でね」

「ふふ、残念です」

 

 店員の少女とシルヴィアは笑い合っている。

 そんなSな店員と冗談を言い合えるシルヴィア。

 

 彼女のたくましさが眩しかった。

 

 ………

 ……

 …

 

 しばらく経つと食事が運ばれてくる。

 料理を見たシルヴィアがホッとしたかのように肩の力を抜いた。

 

 ケーキが見当たらないことに安心したのは、俺だけではなかったようだな。

 

 数回に分けて、テーブルの上へと運ばれる料理。

 それらは徐々に寂しかったテーブルに彩りを添えていく。

 

 一品運ばれるごとに賑やかさが増すテーブルの上。

 そこに全ての料理が運び終わる頃になると、とても賑やかになっていた。

 

 ただ残念に思ったことが1つある。

 それは、料理は煮たり焼いたりした物しかないことだ。

 

 元日本人としては、新鮮な魚介類が手に入るのなら刺身も食べたかった。

 だが、それは贅沢な考えかもしれない。

 

 実際に食べてみると、どれも絶品と言えるほど美味しかったのだから──。

 

「クレア」

「ん?」

 

 シルヴィアが、一階のロビー付近を指さした。


 指の先に視線を向ける。

 彼女の指差した先は出入り口が近いため、多くの人が行き交っている。

 

 シルヴィアは、なぜ出入り口を指さしたのだろう?


 俺には、指を差した意図が分からなかった。

 

「…………」

「分からない?」

「なにがだ」

 

 彼女が何を言いたいのだろう。

 まだ、シルヴィアが何を言わんとしているのか掴めない。

 

「あの子」

 

 シルヴィアは1人の少女を指さす。

 少女はメイド服を着て歩きまわっていたのだが──。

 

「あれは……」

 

 コチラを見た少女の顔に覚えがあることに気付いた。

 でも、どこで彼女を見かけたのかまでは思い出せない。

 

「気付いたみたいね」

 

 何となくしかわからない──とは、言えずとりあえず頷いておく。

 

「あなたのおかげで、助かった子よ」

 

 ここまで聞いて、一緒に捕まっていた誘拐の被害者だと分かった。

 もっとも、牢の中にいる彼女の姿を思い出したわけではないのだが。

 

 とりあえず、今は話を合わせておこうと思う。

 

「ここを選んだのは、あの子が無事だと俺に教えるためか?」

「…………」

 

 この問いにシルヴィアは軽く笑うだけだった。

 まあ、その笑みが正解だと伝えているようなものだが。

 

「そうか」

 

 シルヴィアの答えを受け取った俺は、再び元気に働く少女を見た。

 

 誘拐された恐怖が、まだ残っているハズだ。

 彼女が元気に働いているのは、そんな恐怖を紛らわせるためかもしれない。

 

 そのように考えると、少し寂しい気持ちになった。

 

「あなたは十分にやったわ」

 

 俺の気持ちを察したのか、シルヴィアが優しい言葉を掛けてきた。

 だが今は寒気もなければ恐怖も感じない。

 

 似たような状況は前世むかしに何度か経験したから──。

 シルヴィアの言葉を聞いた 前世の俺スバルは、いつもこう答えていた。

 

「お前も十分にやったさ」

 

 俺が、そう返すとシルヴィアは、なにも言わずに再び少女を見た。

 その瞳に映る悲しみを、ごまかすかのように──。

 

 

 救いようのない結果を前世むかしの俺は山ほど見た。

 

 どうしようもなかったのだと頭では分かっている。

 それでも、納得できない事を無理矢理にでも自分に納得させたい時もあった。


 そんな時は、似たような会話を行った。

 

『十分にやったさ』

 

 そのように自分に言い聞かせようとしても──

 現実から目を背けているようにしか思えない。

 

『お前は十分にやったさ』

 

 自分で言い聞かせても受け入れられない言葉であっても──

 誰かが言ってくれれば受け入れることができた。

 


 人間は弱い。

 どうしようもなかったと分かっていても自分を許せない程度には。

 

 

 シルヴィアは納得したかったのだろう。

 

 彼女が俺に依頼を持って来たときのことを思い出す。

 そのとき、世話になった人の娘が攫われたと言っていた。


 だが、シルヴィアが連れてきたのは別の被害者が働く店。

 依頼の結果を教えるのなら世話になった人の娘の元に連れていけばよいのに。


 その理由は、恐らく会わせられない状況だから──。

 

『あなたは十分にやったわ』

 

 事件の結末を知った彼女は、この言葉を自分に言い聞かせていたのだろう。

 

 だからこそ──。

 

 

(これ以上の詮索はやめておこう)

 

 俺は、これ以上の詮索を止めることにした。

 こういうときこそ、俺はバカでいればいいんだ──いつも通りの。

 

 再び一階を見下ろしてみた。


 多くの行き交う大人達の中を小さな少女が忙しそうに動き回っている。

 その姿は、事件の後に残された僅かな救いのように感じられた。

今回の話には、3つの終わり方を考えていました。


シルヴィアの恩人の子どもが助かった話と、今回の助からなかった話。

そしてコメディーな終わり方です。


コメディーな終わり方は以下のようになる予定でした。


………

……


 しばらく経ち食事が運ばれてきた。

 

「…………」

「…………」

 

 テーブルの上に次々と置かれて行く料理。

 その料理を見て俺とシルヴィアの思考は停止した。

 

「ケーキ満漢全席です」

 

 とんでもない物が来てしまった。

 何故、こうなったのだろうか。

 

「なあ、シルヴィア」

「何も言わないで!」

 

 魔人シーマの後に真の敵が待ち構えていたようだ。

 テーブルの上に次々と置かれて行くケーキ。

 

 俺は甘い物が決して嫌いなわけではない。

 むしろ好きな方だ。

 

 しかし、物には限度がある。

 

「クレア」

 

 とても優しい声が聞こえた。

 それは全ての罪を包み込んで許すかのような声。

 

 だが、その声は終わりを告げる死神の声だというのを俺は良く知っている。

 

 死は優しく、生は残酷だ。


 そうだ、生きている人間は死を恐れる。

 

 だが、人間を苦しめているのは死ではなく、生にしがみつく意思。

 すなわち生が人間を苦しめるんだ。

 

 だからこそ受け入れよう。

 優しき死神の声を──。

 

「……頑張ってね」

 

 虚ろな瞳となったシルヴィアという死神。

 彼女は俺に何かの終わりを告げた。


なぜ、ケーキ満漢全席を食べることになったかは、牢屋でクレアに話しかけた少女の父親が裕福な商人で、クレアが外に連絡をしたため娘が助かったと考えてお礼として店で一番高い料理を頼んだら──と、いうわけです。

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