俺は魔人との戦いを終えた 『ええ、私たちの勝ちよ』
クレスの戦闘力 魔人シーマとの戦い
チート:一部を使用
勇者の素質:封印中
シルヴィアが戦いたいそうなので、チートを全開にはしない。
「行くぞ!」
俺は先程のフレンドリーファイアをなかったことにして、シーマに剣を向ける。
すると──。
「大変ね」
魔人に同情された。
「……まあな」
「はぁ…………まあ、いいわ」
今度は、溜息を吐かれた。
(少しずつ惨めになってくるな)
これ以上は危ないだろう──メンタル的に。
俺のダメージをこれ以上増やさないためにも、戦いを開始することにした。
戦いの開始を決めると同時に、お互いに殺気をぶつけ合い牽制し合う。
手で感じる柄の感触を確認するため、俺は指を僅かに動かし、指先の感触を頼りにしながら手に馴染む形に持ち直し──斬りかかる。
その動きに合わせシルヴィアも動いた。
彼女は宙を舞う2本のレイヴンソードをシーマへと放つ。
俺達に挟撃される形となったシーマ。
しかしアイテムBOXからもう一本の剣をとりだして対処をした。
再び響く剣の衝突音。
これまで以上に短い間隔で金属音は響いている。
正面から俺の剣を捌き、背後から襲うレイヴンソードは振り向きざまに剣で弾き、ときおり撃ち込まれる魔銃による攻撃は、剣で切り捨てて無効化した。
(戦い方がうまい)
ヴァンパイアの高度な能力を持っている上に戦闘経験も豊富なようだ。
基本性能が高い上に経験も多い──
シーマは厄介きわまりない相手といえるだろう。
「腕は認めるわ」
俺の剣を受け止め、後ろに跳ぶ瞬間シーマは言った。
彼女の目からは、すでに俺への憐憫が消えている。
そのことに内心ホッとしながらも、剣を何度も重ねていく。
切り結ぶ刃は、何度も甲高い音を周囲に響かせる。
時折、圧縮した風魔法と黒い魔力の光が交差した。
「はぁっ」
剣に黒い魔力を纏わせたシーマの一閃。
レイヴンソードを動かすには剣に魔力を込める必要があるのだが、シーマの放った一撃は、その魔力に自身の魔力をぶつけて相殺させるものだった。
この結果、レイヴンソードの一本は動かぬ剣へと変わる。
だが俺に、この状況を傍観して言う余裕などなかった。
剣が動かなくなったことを確認することなく彼女が俺に斬りかかってきたのだ。
「くっ」
振り下ろされた剣を俺は受け止める。
しかし、シーマが攻撃の手を緩めるハズはない。
両手に持った剣で次々と斬激を繰り出す。
(早いな)
厄介なスピードだった。
彼女のスピードを支えているのは身体能力だけではない。
このような頭の切り替えの早さも、彼女が持つスピードを生む要因だ。
身体的なスピードだけなら単調な攻撃となりやすい。
しかし頭も切れるとなると──。
だが、そのスピードはシルヴィアの援護により封じられることとなる。
「喰らいなさい」
シルヴィアは天高くに魔銃を向けて引き金を引いた。
魔銃から天に向かい放たれた弾丸は俺達の遥か頭上で光の球へと変わった。
そして──無数の矢が光の球から降り注ぐ。
「またなの!」
シーマはフレンドリーファイアだと思ったのだろう。
だが、今回の攻撃は違う。
「援護さ」
降り注ぐ一本一本の矢が持つ魔力は、とても弱い。
先程のフレンドリーファイアから俺が弱体化していることを理解したのだろう。
ちゃんと手加減してくれている(よかった)
光の矢は振り続ける戦場で、俺とシーマの剣は再びぶつかり合う。
「はぁっ」
「くっ」
俺の攻撃をシーマが剣で受け止める。
しかし、降り注ぐ光の矢が彼女の動きを乱していた。
シーマは俺の剣を受け止めようとしたとき、腕や背中に光の矢を受けた。
この矢はダメージこそないが、当たれば僅かに衝撃が生じる。
「目障りな矢だろ」
「ええ……アナタ達みたいにね」
何度も衝突させ合うお互いの剣。
響き渡る金属音の間で俺達は言葉を交わしている。
障壁の強度は、俺よりもシーマの方が低い。
よって俺への影響は少なくとも、シーマには俺よりも大きな影響が生じる。
そう、少しずつだ。
ほんの少しずつではあるが、シーマの動きに生じた乱れが大きくなってきた。
手に当たる矢は、剣線を歪め──。
足に当たる矢は、足の動きを乱し──。
背に当たる矢は、体重の軸をずらし──。
シーマの動きを確実に狂わせていく。
「つっ」
動きが狂わされるにつれ、シーマの顔から先程までの余裕は消えていった。
俺は彼女の余裕が消えたのを確認し勝負に出る。
「シーマ!」
これまで以上の魔力を俺は短剣へと注ぎ込み、身長の2倍ほどはある大剣を完成させる。
「喰らえ!!」
緑色の魔力で作られた風の大剣を、俺は遠心力を用いてに振るう。
その剣は、振るときに生じた遠心力に、体が持って行かれるような重さだった。
だから、体を遠心力に持って行かれないように脚で強く地を踏みしめ──。
だから、己の体を風車の軸に見立てながら身の丈に合わない剣を全力で振るう。
シルヴィアの魔銃により動きを阻害されているシーマ。
彼女は下手に躱そうとして喰らう可能性はリスクが高いと判断したのだあろう。
手にした2本の剣を交差させて大剣を防ごうと構えた。
そして緑色に輝く大剣がシーマの元に辿り着き最後の力比べが始まる。
「くうぅぅ」
歯を食いしばり大剣をシーマは防いでいる。
だが──俺は生易しい攻撃を仕掛けた覚えはない!
お互いの剣が衝突しあった時から、すでにシーマの剣は悲鳴を上げている。
「はあぁぁぁ」
「くうぅぅ」
大剣から、風属性の魔力が漏れ出している。
このため、シーマの剣に触れた瞬間は突風が吹き荒れていた。
突風は俺達の髪も服も、全身をも飲み込みながら更に強まっていく。
「うぅぅぅ……」
と、そのとき大剣を受け止めていた彼女が笑みを浮かべる。
そして笑みが消えるかどうか次の瞬間、大剣の攻撃を利用して後ろへと跳んだ。
だが──甘い!
「なっ」
シーマが驚愕の表情と共に漏らした声。
この声は彼女の体が突風に吹き上げられた故のもの。
彼女の体は、大剣の魔力を転化して放った風魔法に囚われて宙に浮いている。
止めは──
「シルヴィア!」
──彼女の仕事だ。
俺が射線に入らぬようその場を離れると同時に、最後の攻撃が開始される。
地に向けた魔銃に膨大な魔力が集まっているのが分かった。
その魔力は 彼女は俺がシーマと戦っている最中に集め続けていた物だ。
そう、これから放つ最後の攻撃のために。
「…………」
閉じていた瞼を、そっと開くシルヴィア。
彼女の蒼い瞳は魔人の遥か頭上へと向けられ、銃口も彼女の視線に合わせるかのように向けられ──詠唱が開始される。
「天が抱くは紫炎の太陽」
言葉の終わりに合わせるかのように引き金が引かれると、音もなく放たれた紫色の弾丸が遥か上空へと飛んだ。
天へと放たれた弾丸。
それは空高くで紫色の太陽と変わり、辺りを紫色で染め上げた。
「紫炎の太陽は滅び、大地に封魔の紋様を刻む」
シルヴィアの言葉を受けたのだろう。
紫色の太陽は一層深い紫色を示したかと思うと──突如弾ける。
弾けた太陽は煌めく星屑となり散った。
不気味さを漂わせる紫色の星屑は、まるで彼女の二つ名である凶星を体現しているかのようだ。
「墜ちなさい、太陽の子らよ!」
彼女の言葉と共に、凶星は矢に姿を変えて大地を撃ち貫く。
凶星の矢は次々に地面に突き刺さり──
全てが墜ちた瞬間に矢は線で結ばれ、紫色に光り輝く封魔の魔方陣が描かれる。
「封魔!」
シルヴィアの言葉に反応し光の柱が立ち昇り、紫色に光り輝く柱はシーマを閉じ込め天へと聳え立った。
何とか逃れようと、手足を動かそうとしていたシーマだったが、徐々に動くこともままならないまま彼女の顔に疲労の色が出始める。
「……ぅっ」
「…………」
光の柱に閉じ込められたシーマと、閉じ込めたシルヴィア。
彼女達の視線が交わる。
「…………」
「…………」
見つめ合う2人の間に時が過ぎて行く。
「私の負けみたいね……エルフちゃん」
時の終わりを知らせたのはシーマの皮肉。
声からは疲れの色が滲み出ているが顔には余裕が戻っている。
終わりを悟ったからこそ見せた余裕。
その表情には彼女なりの美学が込められているのだろう。
「ええ、私たちの勝ちよ……ヴァンパイアちゃん」
シルヴィアが引き金を引くことで解き放たれた紫色の弾丸。
それはシーマの胸元を貫き、この戦いを終わらせた。
魔銃の弾丸に胸元を貫かれたシーマ。
彼女は生きている。
ただし、シルヴィアが使った封魔の魔法による紋様を体に刻まれて。
彼女は封魔の紋様により力の大半を封じられた。
あとの事は衛兵達の仕事だ。




