俺はフレンドリーファイアが怖い 『背中には気をつけてね』
クレスの戦闘力 魔人シーマとの戦い
チート:一部を使用
勇者の素質:封印中
~エバンズの屋敷 庭にて~
俺を置いてけぼりにしたまま、シルヴィアとシーマの間で話を進んだ。
あとは、開戦のきっかけを誰が作るかだが──俺以外だというのは確かだな。
完全に蚊帳の外にいる俺が、戦いのきっかけを作って良いハズがない。
と、いうかこの空気に自分から飛び込む勇気はなかった。
「…………」
「…………」
沈黙の中、2人の間に緊張が高まり続け、ついに──。
「じゃあ、エルフちゃん……」
「ええ。さっそく……」
「「始めましょう!」」
2人の声が重なり、戦闘が始まった。
会話に置いてけぼりにされていた俺も含め、全員が動き始める。
俺は前進し、剣でシーマを牽制しようとする。
だが、最初に攻撃を仕掛けたのは俺ではなくシルヴィアだった。
俺の背後から数本の白い矢が放たれる。
魔法の矢は弧を描くように飛び、俺を避けてシーマへと襲いかかった。
「残念」
だが、矢は軽くふるわれたシーマの剣によって払われる。
「フフ」
矢を叩き落したシーマは、口に妖艶な笑みを浮かべると即座に走り出した。
彼女が着ているのはドレスであり風の抵抗を受けやすそうな服装だ。
しかし一切服装のハンデを感じさせない程、軽やかな動きだった。
シルヴィアの矢に俺の風魔法。
それらをシーマに向かって何度も放とうとも全て容易く避けられる。
「走って!」
突然、響いた声。
それはシルヴィアが俺に向けて発した声だった。
言葉に従いシーマに向かって走ると、シルヴィアの矢が何本も飛んだ。
矢はシーマを狙った物ではない。
シーマが俺を躱す為にとるであろうルートを予測して放たれていた。
「ふっ」
愉快そうにシーマは笑たかと思うと、剣を振り上げ俺へと切りかかってきた。
俺とシーマは全力走り──正面から切り結んだ。
金属音を響かせるのは、シーマが手にしている銀色の刃と俺が持つ緑色の刃。
甲高い剣のぶつかり合う音は、何度も辺りの音を塗りつぶした。
そして一際大きな金属音を響かせたあと、お互いの動きが止まる。
この時、速さを競う戦いから鍔迫り合いによる力比べに移行していた。
「結構強いわね」
「それが私の自慢ですから」
お互いの剣を押し合いながらの会話。
だが、その力比べは長く続かなかった。
お互いに、剣を押す手に一層の力を入れ──反動を利用して大きく後退する。
俺は、足を数回地面につけてのステップを行い反動によって生じた勢いを殺す。
一方でシーマはというと──。
シルヴィアが放った白い矢を左右に避けながら後ろへと下がっていた。
(器用なヤツだ)
シーマの身軽さに若干の呆れを感じつつ俺は再び剣を構えた。
当然、相手も剣を再び構えており──同時に、前へと走り込む。
シルヴィアが放つ数十と放たれた矢をシーマは全て避けながら走る。
そしてお互いの間合いに入る!
シーマは上から、俺は下から剣を振るい再び金属音が周囲に響く。
だが、今度はすぐに間合いが開いた。
剣の衝突と共に動きを止めたシーマに対し矢が降り注いだからだ。
シルヴィアの攻撃は隙を突けたはずだった。
それでも、彼女のスピードを封じることはできないようだ。
「ちっ」
厄介なスピードだ。
更にヴァンパイアが持つ強靭な筋力も、魔人となったことで強化されている。
俺達は何度もシーマに攻撃を仕掛けた。
シルヴィアが放つ矢は全て、スピードによって無効化される。
俺が振るう剣は、ヴァンパイア以上の力によって防がれる。
厄介な相手だった。
時折、俺は風魔法で応酬するも、開けた場所であるため威力は期待できない。
それ以前にシーマの放つ魔法によって多くが相殺された。
(魔法に関してもヴァンパイア以上か)
やはり、厄介な相手だ。
………
……
…
それから何度も俺とシーマは剣をぶつけ合った。
この時も、俺達の剣は衝突するはずだった。
しかし違った。
隙を見せないシーマだったが、大きく剣を振りかざしため隙ができた。
その隙を逃すまいと俺は一気に踏み込み──剣を振るう。
だが、俺の剣は彼女の胴に触れることなく空を切ることとなる。
俺が剣を振った瞬間、目の前にあったシーマの姿が蜃気楼のように消えた。
そして蜃気楼の先で、俺に剣を突き刺そうと構えている彼女の姿が!
(幻覚魔法か!)
普段であれば、この魔法を見破れたかもしれない。
だが、消耗戦となり意識がそこまで回らなかった。
俺は短剣に纏わせていた魔力を解いて、短剣を小回りが利く長さに戻す。
その直後、突風のごときスピードでシーマは駆けてきた。
鋭く尖った剣先を俺に向けながら。
「くっ」
その鋭い突きを俺は正面から受け止めることとなる──ただし短剣で。
短剣でシーマの剣先を受け止めて致命傷を避けることには成功した。
だが、受け止めたのはヴァンパイアの強靭な筋力から繰り出された突きだ。
抗えない程の衝撃が俺の体を襲った。
俺は宙を舞うように後ろに吹き飛ばされる。
そのあと地べたを数回転がりやっとのことで止まることができた。
当然シーマが、この隙を見逃すハズもない。
隙だらけの俺に対して追い打ちをかけようとした。
だが、俺の周囲にシルヴィアが矢を打ったことで追い打ちは避けられたようだ。
(何とか防げたが)
短剣を盾に防ぐことは出来た。
しかし、膨大な魔力を剣に纏わせた上で放った渾身の突きだったのだろう。
攻撃をモロに受けた短剣にヒビが入っている。
「あら残念。エルフちゃんに邪魔されちゃったわ~」
今の攻防を遊びだったかのようにすら思えるシーマの口調。
彼女にとって、その程度のことだったのか。
それとも余裕をあえて見せてコチラを揺さぶっているのか。
いずれにせよ飄々(ひょうひょう)とした雰囲気に騙されて甘く見ていたが──コイツは恐ろしく強い。
「癪だけど強いわね」
「ああ」
後ろからシルヴィアが話しながら、俺の横へと来た。
(魔女の箱庭を使い制限を外すか)
俺がそう考えていると──シルヴィアが俺を見て笑った。
「クレア、ちゃんと避けてね」
「…………」
その言葉と共に嫌な予感がした俺はシルヴィアを見と彼女の左手には──。
嫌な予感は当たってしまったようだ。
(……なんで、ソレを持っているんだ)
俺は起きたまま悪夢を見せられた気分だった。
なぜ、ソレがシルヴィアの手にあるのだろう。
「待て。俺が……」
「私にも意地があるから……ね」
笑みを浮かべる彼女は美しかった。
例え、その瞳に狂気を宿していたとしても。
例え、恐怖の象徴たるソレを手にしていたとしても。
「……お前に渡したままだったのか」
「これは、私が一から作り直した物よ」
「……それは、取り上げても何度も作りなおせるということか」
「そういうこと」
彼女は手にしたソレについて、どこか自慢げに語った。
よりによってコイツに渡したまま忘れていたとは──。
今ほど、俺は自分のうかつさを後悔したことはない。
よりによって、一番持たせてはいけないヤツにソレを渡したままだったのだから。
「背中には気をつけてね」
「お前……俺を背中から撃つ気でいるだろ」
「あなたなら、ちゃんと避けてくれるでしょ」
もう、話すだけ無駄なようだ。
俺はフレンドリーファイアにさらされる事を覚悟した。
「……光輝の鎧よ」
シルヴィアが遠慮なく俺の背中を撃つと悟り光輝の鎧を身に付けた。
俺が持つ限り、最強と呼べる純白の鎧。それが光輝の鎧だ。
これでシルヴィアの攻撃も痛い程度で済むかもしれない。
「改造して昔のよりも威力も上げてあるから安心して」
「余計に危ないだろ!」
ソレについて嬉しそうに語るシルヴィア。
彼女の左手に握られた鈍い光を放つ銃が己の存在を主張していた。
シルヴィアの持つ銃は、『フリントロック式 古式銃』と検索して出てくるタイプです。




