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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第6章-A 凄い勇者と美少女冒険者クレアちゃん(仮)
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俺は脱出した 『美声だろ』

 ぶつかり合ったシーマの剣と俺の短剣。

 息が届きそうなほど顔を近づけてせめぎ合っていた。

 

 しかし、突風がシーマに襲いかかったことで状況が変わる。

 

 突風は、不意を突いて放った俺の魔法だ。

 俺にばかり目を向けていたシーマの不意を突くのは難しくなかった。

 

 俺は、部屋に唯一用意されたドアへと近づき──。

 

「風よ舞え!」

 

 今度は部屋全体に風を巻き起こす。

 するとベッドの横にあった様々な剥製作成用の道具が辺りに散らばり、硬質な床に落ちていく道具は金属音を部屋中に響かせる。

 

「コイツはオマケだ」

「くっ」

 

 俺は再びシーマに向けて風魔法を放つ。

 同時に彼女も黒い魔力の塊を撃つことで反撃してきた。

 

 その魔法は金属製の扉を開けて盾として使うことで防いだが──。

 

(少し、甘く見過ぎていたかもな)

 

 魔法がぶつかった衝撃は金属製のドアを僅かに歪めた。

 

 この威力の魔法弾を放てるシーマへの評価を改めざるえないだろう。

 バカと評判の俺も認めるべきことは認める柔軟性は持っているんだ。

 

「じゃあな」

 

 軽くエバンズ達を挑発することを忘れず俺は部屋を出た。

 

 ………

 ……

 …

 

 部屋から出ると剥製となった少女達が並ぶ部屋へと出た。

 

 コレクションとされ並ぶ少女達──

 ガラス玉に変えられた瞳からは当然だが生気を感じない。

 

 それでも、ガラスとなった瞳が悲しみを湛えるように思えた。

 

「…………」

 

 彼女達に何もしてやれない俺は、無言で透き通った瞳の前を通り過ぎた。

 

 部屋から出て、石畳の通路を走る。


 地下には俺の足音だけが最初は響いていた。

 だが、しばらくすると多くの足音が混ざるようになった。

 

 俺にエバンズ達が追いついてきたようだ。

 

 そこで後ろに向かって、再び風魔法を放ち牽制する。

 

 だが、俺の行動パターンを読めるようになったようだ。

 後ろから様々な色の魔法弾が俺に向かって放たれる。

 

 俺の横を通り過ぎる野球ボール大の魔法弾。

 時々、火魔法も飛んでくるが狭い通路で使って大丈夫なのだろうか?

 

 まあ、地下牢なだけあり周囲には頑丈な石などしか見当たらない。

 だから屋敷が炎上する可能性は低いハズだ。

 

 とりあえず、追手が目視できる範囲に入ったので足止めだけはしておく。

 

「マスター ウォーター」

 

 属性を切り替えて、後ろを振り向く。

 すると追って来ていた2人の兵士や○○が驚愕の表情をした。

 

 どうやら俺がロクでもないことばかりするヤツだと学習したようだ。

 

「水よ、押し流せ」

 

 魔力を変質させて造り出した疑似的な水。

 兵士達の足首ほどの小さな波を作り追手に向かった。

 

「…………」

 

 思ったよりも地味な行動だと感じたのだろう。

 追手達からは、一瞬だけ沈黙が流れた──が!

 

「凍りつけ!」

「!」

 

 俺の言葉に後ろにいた追っての顔が青ざめた。

 足首程度の高さだった波の形を残したまま凍り付く水。

 

「じゃあ……な、っと!」

 

 床に広がる水を凍らせた直後に、シーマが氷の上を走り剣を振り下ろした。

 なんとか避けられたが──やはり油断して良い相手ではないようだ。

 

「さっきと声が違うわね」

「美声だろ」

 

 マスター ウインドで変えていた声。

 だが、マスターウォーターに切り替えたことで声は普段のものへと戻っていた。

 

 地声を聞かれるのは避けたかったが──まあ、仕方がない。

 

「はぁっ」

「っつ!」

 

 手にした短剣に魔力を纏わせ水色の剣を作り出、シーマに向かって横一線に振り抜いた。

 

 短剣から通常の剣に近い長さに変わった俺の武器。

 

 この変化を予想していなかったのだろう。

 剣を盾にするも、攻撃を受けた衝撃により氷の上を滑りながら大きく後退した。

 

 シーマと距離がとれた瞬間を狙い魔法を発動させる。

 

「水よ、立ち昇れ!」

 

 5本の細い水柱が立ち上がった。

 

「凍てつけ!」

 

 再び水を凍らせ、水柱を表中へと変える。

 強度は低いが、これで時間稼ぎができるハズだ。

 

 足止めの成果を見ると──

 兵士とエバンズは火魔法で氷を溶かそうとしてた。


 シーマはというと氷柱に火魔法をぶつけている最中だ。

 

(なんとか、シーマだけを引き付けたいところだな)

 

 貴族相手では国から派遣された衛兵であっても、屋敷へ入ることは難しい。

 

 本来は俺が誘拐されたことを口実に衛兵が屋敷に突入する計画だった。

 もちろん多少は準備に時間がかかったのだろうが。


 俺が気にいられたことで計画が狂いはしたが修正可能な狂いだった。


 まず、俺が適当に時間を稼ぐ。

 そして衛兵達に少女達が地下に監禁されていると伝えるだけで良かった。


 だが、シーマの存在が計画に致命的な狂いを生じさせた。


 このまま衛兵とシーマが衝突すれば多くの犠牲が出ることだろう。

 なぜなら彼女は──。

 

「じゃあな」

 

 足止めを成功したことを確認した俺は再び走り始める。

 

 走った先にあった階段を駆け上がると、俺が目を覚ました牢のある階だった。


 左右に無数の鉄格子が、どこまでも並んでいる地下牢を走った。

 

 走る俺に向かって1人の少女が「助けて」と声を発する。

 しかし今は、その声に応えるわけにはいかない。

 

 牢から出せば、追手に人質にされるなどの危険が伴うからだ。

 

 俺にできたのは少女に対し頷くことだけだった。

 

 そんな俺の姿に彼女達は何を思ったのだろうか?

 助けを呼ぶことへの期待だろうか、それとも逃げだせた俺への嫉妬だろうか。

 

 ………

 ……

 …

 

 さらに階段を駆け上がった。

 そして無機質な地下から、赤い絨毯が広がる場所へと出る。

 

(やっと出られたか)

 

 地下を抜け出したことを窓ガラスから射し込む太陽の光が教えてくれている。

 しかし、階段の下から聞こえるのは男達の太い声が聞こえ気分が悪くなった。

 

「風よ、吹き荒れろ!」

 

 俺は光が差す廊下に風を吹き荒れさせた。

 突風により砕け散るガラス。

 

 廊下の床一面にガラス片が散らばった。

 

(これは、ささやかな俺からの嫌がらせだ)

 

 嫌がらせを終えた俺は、ガラスが割れた窓の一つから外へと脱出した。

 

 ………

 ……

 …

 

 俺は待った。

 

 ここは発言力のある貴族だけあり広い庭だ。

 手入れも行きとどいており、足元には短く刈り込まれた芝が広がっている。

 

 追っての魔力と、俺と協力していた衛兵の魔力。

 その両方が俺のいる場所に向かっているのを感じる。

 

 衛兵の魔力に混ざりシルヴィアの魔力も感じた。

 

 人間は衛兵に任せようと思う。

 だが──魔人であるシーマは俺とシルヴィアの手で倒さねばならないだろう。

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