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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第6章-A 凄い勇者と美少女冒険者クレアちゃん(仮)
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俺は2種類の危険に怯えた 『予定が狂ったか』

 囮開始から3日──異常なし。

 街の名物を買い続けてお土産が増え続けた。

 

 買ったお土産は糖分が多そうで体に悪そうだ。

 目ぼしいのだけ残して、シルヴィアにでも押しつけようと思う。

 

 囮開始から4日目──変な4人組の男に絡まれる。

 だが、誘拐犯達と特徴が違ったので即効で逃げることにした。

 

 顔は覚えたので、後で衛兵に連絡しておこうと思う。


 囮開始から5日目──元気な3人組のお姉さま方に囲まれた。

 誘拐犯は男性なので事件とは無関係のハズだ。

 

 頭を撫でまわされて髪が凄いことになったが、彼女達の瞳にハンターのような鋭さがあり怖く抵抗できなかった。

 

 その後、8日目まで色々な人間に絡まれたが、いずれも事件とは関係なかった。

 

 

 9日目──誘拐される。

 

 夕暮れどき、俺は囮として事件現場を歩き買い物に向かった。

 

 街路を歩いていると、いきなり右手を掴まれて細い街路に引きづり込まれる。

 口に布を当てられたときに見えた男の顔は犯人の1人と同じ傷があった。

 

 顔を確認した俺は眠ったフリをした。

 

「眠ったみたいだ」

 

 目をつむって出来た暗闇の向こうから、男達の話声が聞こえる。

 

「これだけ上玉ならボーナスが期待できそうだな」

 

 別の男の声が聞こえた。

 どうやら、俺を値踏みしているようだ。

 

「無駄口はいい。とっとと行くぞ」

「へいへい」

 

 会話に余裕があることから、犯行に慣れているように思われる。

 先程見た男の顔と合わせると犯人である可能性が高そうだ。

 

(人数は6人程か……)

 

 足音と声、さらに魔力を探ることで人数もある程度予想できた。

 人数も聞いた話と一致している。

 

(飛んで火にいる何とやら……か)

 

 内心ほくそ笑むが、顔に出やすいとよく言われることを思い出し考えるのをやめた。

 

「運ぶぞ」

 

 

 この声を最後に男達は無言で作業を開始した。

 聞こえるのは彼らの足音ばかり。

 

 俺は麻袋のような物に入れられて運ばれて行く。

 

 そして床のような物の上に置かれて、しばらくすると音を立てて動き出した。

 どうやら馬車に乗せられたようだ。

 

 ここまで、教えられた犯行方法と同じだ。

 念のため通話石を用いてシルヴィアに連絡を入れた。

 

 すると事件を担当している衛兵達も、俺が誘拐されたことを確認したという返事が返ってきた。

 

(エスコートでもしてもらうか)

 

 麻袋に押し込められた俺は大人しくしていることにした。

 

 ………

 ……

 …

 

 気付いたら牢屋に入っていた。

 魔導具による明りによって周囲は照らされている。

 

(眠い)

 

 折角、誘拐犯が使った薬が効かなかったのに暇で熟睡してしまったようだ。

 

(牢屋に運び込まれるまで目が覚めないとはな)

 

 図太すぎる自分の神経が少し悲しくなり、俺は溜息を吐いた。

 

 それから周囲を見回すと少女たちが目に入った。

 俺と同じ牢に3名ほど、隣の牢に5名がいるようだ。

 

「大丈夫?」

「お……ええ」

 

 思わず普段のノリで『おお』と言いそうになった。

 演技を忘れない自分を褒めてやりたい。

 

 俺に話しかけてきたのは、13歳程の少女だ。

 

 牢屋に閉じ込められている不安感からか顔を強張らせている。

 それでも笑顔を作り話しかけてきたことから彼女の優しい本質を感じた。

 

「ココは?」

「……エバンズ様の御屋敷にある地下牢みたいよ」

「そう……」

 

 目的の犯人に誘拐されることに俺は成功したようだ。

 

(最初の関門は突破したようだな)

 

 エバンズの手先に誘拐されるというのは運の要素が大きかった。

 このためココまでが最大の問題だったとも言える。

 

 あとは、俺が囮であることをバレないようにしながら、イザという時の脱出経路を確保する必要がある。

 

 脱出経路を探しながら牢屋の鉄格子を見た。

 すると魔法を使えなくする細工がしてあることに気付く。

 

(俺には無意味だがな)

 

 脱出経路を探すため、更に周囲を見回していると──石畳を蹴るように歩く足音が聞こえた。

 

「っっ!」

 

 先程、俺に話しかけた少女の顔に恐怖の色が強く表れる。

 ロクでもない人物が近づいているようだ。

 

 地下牢に響く足音が大きくなるにつれ、床を照らすランタンの明かりが一層強くなる。

 

「こちらです」

 

 右手にランタンを持った痩せた背の低い男が牢の前へと来た。

 卑屈な印象を受ける笑みがランタンの明かりに照らされている。

 

「…………」

 

 遅れて茶色い髪をした太めの男性がランタンを手にした男の横に立った。

 コイツが誘拐の親玉だ。

 

「っ……」

 

 親玉にランタンの明かりを向けるられ、俺は目に差し込む光に眩しさを覚えた。

 

「……ほう、聞いた話以上だな」

「へい。コレは極上ですね」

 

 下卑た笑いをする2人の男。

 地下牢に良く似合う性根の腐った笑い方だ。

 

「アイツらが報酬の上乗せを催促してきた時は、どうしてやろうかと思ったが……」

 

 どうやら、俺は気に入られてしまったようだ。

 やはり悪党に好かれるのは気分の良い物ではないな。

 

「コイツを連れてこい」

 

 先程まで卑屈な笑みを浮かべていた男が牢を開け俺の前にまで来た。

 

「手を出しな」

「…………」

 

 先程までとは違う偉そうな声。

 どうやら強者と弱者とで関わり方を変えるプチ権力者なのだろう。

 

「乱暴にするなよ」

「へい」

 

 後ろから発せられた雇い主の声に卑屈な笑みでこたえる。

 

 俺は言われたとおりに両手を出す。

 すると黒い板──手枷で俺を拘束した。

 

(予定が狂ったか)

 

 元々の計画だと、俺が屋敷に連れ込まれたことを口実にして衛兵が屋敷に突入する手はずだった。しかし予定が狂ってしまい、エバンズの趣味に付き合わされそうになっている。


 もう衛兵を待っている余裕はなさそうだ。

 

(命と貞操のどちらが危機に陥っているのだろう?)


 移送の最中、俺は2種類の意味で身の危険を感じながら逃走方法を考え続けた。

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