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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第6章-A 凄い勇者と美少女冒険者クレアちゃん(仮)
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俺はクレアとして活動を開始した 『敵わんな』

 ~ルーレイの街にて~


 ルーレイの街を2人の女性冒険者に男女問わず多くの視線が向けられていた。

 いや、正確には1人の少女に──。


 その少女は赤い髪の女性と一緒に歩いている。


 腰まで伸びた黒髪に潤んだ大きめの瞳。

 そして健康的でありながら白い肌に整った顔立ち。

 

 少女の名はクレア。

 動きやすさを重視した服装と腰に下げる短剣から冒険者だと思われる。


「まずは宿を探さないとな」

「はい」

 

 赤い髪の女性が口にした言葉に黒髪の少女が答えた。

 

「宿をとったら、今日は街を見て回ろう」

「とても楽しみです」

 

 満面の笑みで、赤髪の女性を見上げながら答える少女。

 一方で笑みを向けられた女性は、一瞬驚いたような表情をしたあとに目を逸らす。

 

 そんな女性に対して、その光景を見ていた街の者達は──

 

(((か、かわいい)))

 

 クレアの笑顔を独占する赤髪の女性に対し、総じて嫉妬の念を向けていた。

 


 ~ルーレイの町にて~

 

 

 俺は、冒険者としてルーレイの街に入り大通りを歩いている。

 子どもが1人旅というのはおかしいのでキリエという女性冒険者と一緒だ。

 

 もちろんキリエは、俺が囮であることを知っている。

 

「キリエ。ここの名物の食べ物ってなんですか?」

「ルーレイの名物と言ったら牡蠣かきを使った料理だろうな」

 

 ルーレイは海が近くにある比較的大きな街だ。

 やはり海産物が名物らしい。

 

 それにしても──。

 

「どうした?」

「いえ……」

 

 周囲の視線が気になることが顔に出ていたのだろう。

 自意識過剰になっているのだと思うが先程から緊張で泣きそうだ。


 キリエに気付かれた。

 

「まあ……気にするな」

「?」

 

 歯切れの悪い返答のキリエ。

 俺の女装に何か思うことがあるのかもしれない。

 

(不安感が尋常じゃなくなってきたぞ)

 

 強張りそうになる表情筋を無理矢理動かして俺は笑顔を作った。

 

「うっ……」

「なにか?」

 

 顔を引きつらせるキリエ。

 俺は表情筋が強張るのを感じながらも彼女の方を見た。

 

「顔が……凄いことになっているぞ」

「そうですか」

 

 キリエを見上げていた俺は顔を戻すも、ギギギと音が鳴りそうな動きだったと思う。

 なんか、周囲の視線が先ほどとは違った物になった気が──。

 

「少し休むか……」

「助かります」

 

 呆れた様な口調のキリエ。

 だが俺には宿に戻るという言葉に救いを感じ、すぐに言葉に飛び付いた。

 

「顔は可愛いのに中身が……な」

 

 今度は残念そうな口調で呟いたキリエ。

 その言葉は、緊張しすぎている俺の耳に届くハズもなかった。

 

 

 このあと宿の食堂で昼食を済ませ4時まで周辺を見て回った。

 

 

 ~今回の依頼について~

 

 今回の依頼について俺が何をするのか?

 この点についてまとめておく。

 

 1.依頼の内容

 俺が受けた依頼はルーレイの街で起こっている少女誘拐事件の囮役だ。

 

 2.依頼者について

 依頼は国の警察みたいな組織からの物をシルヴィアが持って来た。

 ※シルヴィアは意外と権力を持っているようだ──バカなのに。

 

 警察みたいな組織と言っても地球ほどの組織力は無い。

 このため囮を探すにも協力者が必要だった。

 

 3.冒険者としてルーレイの街に入った理由

 誘拐をしている犯人に対して、街にカモが来ていると知らせるためだ。

 

 誘拐事件が頻発するようになってから街の人間は警戒している。

 だから、普通の少女が誘拐しやすい形で歩いていると犯人は警戒するだろう。

 

 このため、街で起きている誘拐事件を知らなくてもおかしくは無い外部の人間として街に入った。

 

 それに冒険者は流れ者が多いため、誘拐しても貴族なら揉み消すのは難しくないハズだ。

 よって冒険者という形で街に入った。

 

 4.街で俺がすること

 街で俺は以下のことをする。

 

 ○昼は誘拐しやすいカモがいると犯人に教えるため街を歩いてアピールする。

 ○夕方以降は1人で行動して誘拐しやすい状況を作る

 

 今回の事件に関連した誘拐は夕方以降に多いようだ。

 このため上記の行動パターンを採用した。

 

 5.犯人について

 犯人の疑いが強いとされているのは貴族だ。

 

 この街の領主よりも権力があるため、この街から出来ることは限られている。

 

 6.身の安全について

 警察っぽい組織──国から派遣された衛兵は街中に散らばっている。

 

 シルヴィアは犯人候補の屋敷近くにいる。

 彼女は、エルフっぽくないエルフだが屋敷近くの森に隠れているらしい。

 

 一応、俺の居場所が分かるように魔導具を持っての移動となる。

 

 6.キリエについて

 俺と一緒に街へと入ったのは冒険者のキリエだ。

 

 女性にしては短めにした赤い髪と深い茶色の瞳の日焼けをしたお姉さまだ。

 ちなみに剣での戦いが得意らしい。

 

 元々は国に仕えていたと言っていたが嘘だと思う。

 現在進行形で、冒険者として各地を調査しながら国に情報を送っているのだと思う。

 

 7.クレアについて

 俺はクレアという名前で街に入った。

 ちなみに名付け親はシルヴィアだ。

 

 今回は少女誘拐事件ということもあり女装する必要があったため美容院に行ったのだが── 髪の毛の先に、髪の毛っぽいのを一本一本付ける作業に職人の心意気を感じた。

 

 美容院に行った結果、俺の髪はまとめた状態で腰までの長さとなっている。

(ポニーテールというヤツでウェーブがかかっている)

 

 冒険者としては髪が長いと動きにくいのだが、誘拐された少女の大半は髪が長かったので髪を長くする必要があったんだ。

 

 声は風魔法で波長を変えているため美声だと思う。

 この声を変える魔法は無駄に高度だからマスター ウインドを使い続けなければならない。

 

 マスター級の魔法は、使うと他の属性の魔法が使いづらくなるから注意しないといけないだろう。

 

 ついでに言えば、クレアとして活動する間は敬語を使うようにキツく躾けられた。

 もちろんシルヴィアに──。


 8.キリエとクレアの関係

 ルーレイの街近くの町で仲良くなり王都まで一緒に行くことになったという設定だ。

 

 

 ~夕方~

 

 夕方となり、ついに依頼の本番となる。

 1人で行動して誘拐をしやすいことをアピールしないといけない。

 

「じゃあ、行ってきます」

「気をつけろよ」

 

 一瞬だけキリエは真剣な表情になった。

 しかし、どこで犯人が見ているか分からないからないことに気付いたのか、すぐに笑顔に切り替えた。

 

「大丈夫ですよ」

 

 俺は笑顔でキリエに答えた。

 この愛想の1割でも普段から出せていれば『ふてぶてしい』などと言われなかっただろうにな。

 

 俺は自分の愛想のなさが少しだけ悲しくなった。

 


 

 これから俺は犯行が多く行われている場所を通って買い物に向かう。

 まあ、いきなり犯人と接触することは無いだろうから何日か夕方の買い物を続けることになると思う。

 

 案の定、今日は何事もなく目的地に着いてしまったので普通に買い物をすることになった。

 

 今回訪れたのは名物のお菓子を売っている店だ。

 少しボリューミーな体格のおばちゃんが出迎えてくれた。

 

「どれも美味しそうですね」

「そうかい」

 

 商品棚に陳列されたバームクーヘンを見ながら俺は愛想を振りまいている。

 ボリューミーなおばちゃんはニコニコしながら俺を見ていた。

 

 だが、ニコニコした表情の奥から百戦錬磨の凄みを感じる。

 これは老舗の味を守る女性の覚悟が生み出す闘気の一種なのだろう。

 

「ふっ、かなわんな」

「なんだい?」

 

 思わず素が出てしまった。

 おばちゃんの頭に?マークの幻を見た気がした。

 

「…………」

「…………」

「じゃあ、この……」

 

 おばちゃんと俺の間に流れる沈黙は辛いものだった。

 なんとか辛い沈黙を終わらせようとした俺は陳列された商品の名を告げて注文する。

 

「これでいいのかい?」

「はい。それを下さい」

 

 どうやらおばちゃんは、俺の言葉を無かった物として扱ってくれたようだ。

 やはり百戦錬磨の闘気を纏う人間は違う。

 

「はい、ありがとうね」

「あ、ありがとうございます」

 

 俺は包んでもらったバームクーヘンを受け取った。

 

「お嬢ちゃん、最近は誘拐が多いから気をつけて帰るんだよ」

「はい。でも、私は冒険者で結構強いので犯人を返り討ちにしちゃいますよ」

「そうかい。まあ、危ない目に遭わないように気を付けるに越した事は無いから気を付けるんだよ」

「ありがとうございます。じゃあ暗くなる前に帰ることにしますね」

 

 おばちゃんと話を切り上げ、俺は帰ることにした。

 

 こうして俺は帰路についたのだが、今日はすごく疲れた。

 敬語を一日中使わないといけない点とかな。

 

 何よりも精神的にマズイ。

 少しずつクレアとしての思考に浸食されつつあるのを感じる。

 

 どうやら、この事件を早めに解決しないといけない理由が増えたようだ。

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