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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第6章-A 凄い勇者と美少女冒険者クレアちゃん(仮)
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俺は依頼を受けた 『マジ?』

 俺は後悔していた。

 なぜ、あんな依頼を受けてしまったのだろうと──。

 

「良い素材ね」

「でしょう」

 

 俺は今、美容院で椅子に座っている。

 そんな俺の前では2人の女性が喜々として語り合っていた。

 

 若干の狂気を、彼女達の瞳から感じるのは気のせいだろうか?

 

「…………」

「ダメよ」

 

 2人の目が恐ろしくなっり、俺は椅子から立ち上がって逃げようとした。

 だが、後ろにいた店長に肩を強く押さえつけられ椅子に戻されてしまう。

 

「新しい世界を見せてあげるわ」

 

 俺の後ろにいたのは、お兄──お姉さん。

 なぜ言い直したかは、彼女にひげが生えていることから察して欲しい。

 

「「「キレイにしてあげるから」」」

 

 女性達? の声が重なった。

 このときの俺は涙目だったと思う。

 

 なぜ、俺はこの依頼を受けてしまったのだろう?

 

 ………

 ……

 …

 

 ~前日~

 

 転移方陣を設置した王都にある家。

 畳にコタツ(テーブルに布団を掛けただけ)という和風の部屋に俺はいる。

 

 そこで俺はシルヴィアに、ある依頼を持ちかけられていた。

 

「手を貸してもらえないかしら」

「目立つことは避けたいんだがな」

 

 俺に依頼を持ちかけたシルヴィア。

 いつもとは違い、目は真剣そのものだ。

 

「変装すればいいし……他の子どもじゃあ危ないのよ」

「まあ、そうだろうな」

 

 シルヴィアが俺の元に持ちこんだのは、ルーレイという街で起こった誘拐事件についての依頼だ。この事件では、23名の少女が誘拐されているらしい。

 

 最初は関連付けられていなかった少女の失踪だと思われていた。

 しかし、調査を進めると、ある貴族の屋敷に連れ込まれていることが判明したんだ。

 

 このことから、その屋敷の主が犯人だと推測されている。

 

 だが、相手が貴族であるため迂闊に手が出せない。

 そこで囮を攫わせて、貴族の屋敷を調べる口実を作ろうというわけだ。

 

 俺への依頼というのは、囮となる子ども役。

 明らかに危険しかない仕事だから、絶対に遠慮させて頂きたい。

 

「あなたなら、問題はないと思うけど」

「危なすぎるだろ」

 

 依頼内容を正確に言うのなら囮とは少し違う。

 犯人に捕まって、お持ち帰りされないといけないからだ。

 

 いくらなんだでも危なすぎると思う。

 

「報酬は、私が1でアナタが9でどう?」

「破格だな」

「オマケも付けるわよ」

「オマケ?」

 

 オマケという言葉に、魅力を感じるのは仕方ないことだろう。

 地球では、チョコスナックがシールのオマケと呼ばれる現象を作るほどだからな。

 

「偽名の、冒険者ギルドカードと魔法ギルドカードを用意してあげる」

「マジ?」

「マジ」

 

 冒険者ギルドは、お馴染の冒険者が登録するギルドだ。

 そして魔法ギルドは、魔法関連の仕事についている多くの人間が登録している。

 

「偽造とかじゃないよな」

「正式なカードだから安心していいわ」

 

 シルヴィアは冒険者としても魔法使いとしても上位に位置する。

 だから、彼女がギルドとの間に立てば2枚目のカード発行も可能なハズだ。

 

 それに、どちらの偽名カードも俺には魅力的ではあるが、特に冒険者カードが欲しい。

 

 俺は、冒険者ギルドを通して薬草探しや雑用を行っている。

 だが、モンスター退治の方が薬草探しなどよりも報酬が良い。

 

 目立つのを避けるために、今はモンスター退治はしていないのだが──。

 偽名のカードを遠くの街で使えば問題は無いハズだ。

 

「報酬が良すぎないか?」

「まあね。あなたが一番危ないというのもあるし……」

「他にも何かあるのか?」

 

 言い淀んだように、言葉を止めるシルヴィア。

 だが、彼女はすぐに本心を口にした。

 

「知り合いの子どもが被害にあったのよ」

「……そうか」

 

 出来れば、やっかいごとは避けたいのだがな。

 

 だが──。

 

「シリウスの時に借りを作ったままだったよな」

 

 俺がそういうと、シルヴィアの表情が明るい物になった。

 わかりやす過ぎるヤツだな。

 

「依頼を受けるから無茶はしないでくれよ」

「ええ」

 

 コイツは、貴族の屋敷を焼き払うぐらいのことを平気でやりそうだから怖い。

 

 もし、そんなことをやられたら俺にも、とばっちりが来そうだしな。

 そのことを考えても依頼を引き受けた方が良いだろう。

 

「ありがとう」

「……ああ」

 

 シルヴィアからの礼。

 普段から、しおらしい感じなら絶世の美女なんだがな──色々と残念すぎる。

 

 依頼を受けることに決めた。

 これで解散といきたいところだが、確認しなければならない事が残っている。

 

「答えは分かっているのだが、あえて聞きたいことがある」

「なに?」

 

 俺は依頼を引き受けることにした。

 だが、1つだけ大きな問題がある。

 

 返ってくる答えは分かっているんだ。

 でも確認せずにはいられない。

 

「女装することになるのか?」

「ええ」

 

 当たり前のように返ってきた返答。

 

 依頼内容は女児を狙った事件解決の囮役。

 当然、囮役は女の子でなければならない。

 

「髪の毛をイジルのと服は明日にして、今日は女の子の仕草を勉強しましょう」

「……ああ」

 

 今日のシルヴィアはマジメそのものだ。

 そのため、空気を読める日本人気質の俺としてはマジメにトレーニングを行わざるえなかった。

 

 

 ~翌日~

 

 俺はシルヴィアに連れられて王都を歩いていた。

 

「さっそく行きましょう」

「どこにだ!」

「服と……あと髪の毛をイジりによ」

「うっ。分かった」

 

 体は子どもでも中身は大人──と、いうか100歳を超えているからな。

 必要だと分かっていても女装には抵抗がある。

 

「それから、今日中に女の子の歩き方とかも覚えてもらうわよ」

「そこまでするのか」

「本当は、もっと準備をしたいところなんだけどね」

 

 少し悔しそうにするシルヴィアに、俺は何も言えなかった。

 いつものようにフザけたことを言わないから、キャラが違い過ぎて対応に困る。

 

「ここよ」

「…………」

 

 俺がキャラを掴めないシルビアに戸惑いながら歩いていると美容院に辿り着いた。

 美容院は高級感溢れながらも上品な外観をしている。

 

 なんというか──お値段が高そうだ。

 

「随分、高そうだな」

「貴族御用達の美容師がやっているお店だからね」

「もうちょっと安くは……」

「ダメよ。犯人を確実に血祭り……捕まえたいから妥協をする気はないわ」

 

 シルヴィアが漏らした本音を聞き、犯人に明るい未来は無いことを確信した。

 

「代金は、お前持ちだよな」

「ええ」

 

 昨日、報酬でシルヴィアは1割を受け取ると言っていた。

 準備資金として必要だったのだろう。

 

「行くわよ」

「ああ」

 

 シルヴィアに続くように、俺は店内へと入った。

 

「店長を呼んでもらえる?」

「はい」

 

 店内に入ったシルヴィアは栗色のショートカットの女性につなぎを頼む。

 

 それから数分後。

 店の奥から筋骨隆々な戦士──いや、店長がやってきた。

 

 雰囲気で分かる。ヤツはオネエという存在だ。

 

 短く切りそろえた髪に、口周りは青髭。

 そして唇には真っ赤なルージュ。

 

 ファッション業界と言えばセンスが物を言う世界のハズだ。

 それなのに、店長の風貌からはセンスの欠片も感じられない。

 

(いや、あの姿は個性を強調した結果かもしれない)

 

 シルヴィアは、貴族御用達の美容師がやっている美容院だと言っていた。

 ならば、店長の腕は確かなハズだ。

 

「この子が例の?」

「ええ」

 

 親しそうに話す店長とシルヴィア。

 俺の目は店長の口周りにばかり行ってしまう。

 

 きっと、口周りの剃り残しが彼のチャームポイントなせいだからだろう。

 

「素質がありそうね」

「でしょ」

 

(おい、なんの素質だ)

 

 店長の姿を見ているとロクな素質の気がしない。

 いや、この場合は、その素質以外を指すことは無いだろう。

 

「キレイにしてあげて」

「これは、中々の素材ね」

 

 彼──いや、彼女の目を見た俺は得体のしれない恐怖を、俺は感じた。

 

 ………

 ……

 …

 

 ~3時間後~

 

「完成よ」


 その言葉と共に、待合室にいたシルヴィアが呼び出される。

 

 髪は地球でいう所のヘアーエクステのような物で長くなった。

 個人的な感想としては、違和感があって落ち着かないの一言だ。


「クレ…………」

 

 シルヴィアは、俺を見て口を開けたまま固まった。

 そこまで酷いのか。

 

「言いたいことがあるのなら言え」

「えっ……あ、うん」

 

 睨みつけながら声を掛けるとシルヴィアが反応した。

 だが驚いた表情をしたまま俺を見ている。

 

 いっその事、罵ってくれた方が気が楽だ。

 

「何か言ったらどうだ」

「……クレス……よね?」

「俺以外に客はいないだろ」

 

 この店で働いているのは3人しかいないようだ。

 全員が俺についていたため貸し切り状態となっている。

 

 シルヴィアは、今回の事件に相当に力を入れているらしく、店を貸り切ったらしい。

 

「似合っているわよ」

「そいつはどうも」

 

 とってつけた様な褒め言葉。

 素直に受け取る気にはなれない。

 

「今回の仕事は、コレで問題はないか?」

「大丈……大丈夫だと思うわ」

 

 かなり不安な返答だ。

 

「問題があるのなら、もう少し手を加えるか?」

「それ以上は何もしないでいいから!」

 

 今度は必死の形相だ。

 まあ、そのままで良いということは、今の姿でも及第点はもらえているのだろう。

 

 大きな問題は無いと、いうことか。

 

「問題が無いのなら、次は服だな」

「そ、そうね」

「なんだ? やっぱり問題があるのか?」

「大丈夫。移動しましょう」

「そうか?」

 

 普段のシルヴィアにもどってきたようで安心した。

 

「じゃあ、先にお店を出て待っていて」

「分かった」

 

 俺は、彼女に言われたとおり店の外で待つことにした。

 

 美容院は大通りにある。

 そのため多くの人間が店の前を行き交っているが、少し居心地が悪い。

 

 なんとなく、チラチラ見られている気がする。

 

(自意識過剰というヤツか? それとも、そこまで酷かったのだろうか?)

 

 俺が鏡を見た限り普通だと思ったのだが──少し心配になってきた。

 

 ………

 ……

 …

 

 ~店内にて~

 

 店内ではシルヴィアが店長に苦情をぶつけていた。

 

「あれは、いくらなんでもやりすぎよ!」

「素材が良すぎたんだから仕方ないじゃない」

 

 声を張り上げるシルヴィアと、余裕を持って返答をする店長。

 年齢はシルヴィアの方が高いハズだが、精神年齢は店長の方が高いようだ。

 

「もう少し、メイクで見た目を悪くすれば良いじゃない!」

「そんなの、私のプライドが許さないわ」

 

 シルヴィアが怒っている理由。

 それは、クレス(女装)の完成度が高すぎた・・・・・・・・・・・・・・ことに起因する。

 

 今回の囮には一定の見た目は必要となる。

 だが、完成度が高すぎれば別の犯罪に巻き込まれかねないからだった。

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