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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第6章 凄い勇者は美幼女勇者(10歳)をプロデュースする
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俺は美幼女勇者に実践訓練をさせた 『お疲れさん』

 騎士学校への寄付。

 それは、イリア達の訓練にも影響を与えた。

 

 騎士学校は、多くの魔導具に関する特許を持っている。

 その特許の中には、ある結界を発生させる魔導具に関する物があるんだ。

 

 どんな結界なのかというと、開花した魔王の素の質所持者を弾く結界。

 喰らう者や魔人に関しては実験が行われており、安心印──というのは古いか。

 

 勇者の素質を所持する者は喰らう者に襲われる心配がある。


 喰らう者と出くわすリスクを考えると──

 モンスターが生息するような結界のない場所に勇者の素質保有者が行くのは危険なんだ。


 街や聖域なんかに張られている結界はモンスターを遠ざける。

 だから街や世界樹の森ではモンスターとの実践訓練は行えない。


 しかし、この結界のおかげで喰らう者も魔人も遠ざけられるようになった。


 ~森の中~

 

 あと一歩で中級者!

 そんなレベルの冒険者が向かう森に俺達は来ている。

 

 イリア、コーネリア、ラゼル、セレグの4人に実戦を経験させるためだ。

 

 この森には、開花した魔王の素質を所持する者を弾く結界が張られている。

 

 戦っているのは紫色の体を持つ雄牛。

 4本足で立った状態でも、子ども達の二倍には届こうかという巨大な体。

 そして最大の特徴は、黒い二本の角だろう。

 

 すでに戦いが始まり30分が経とうとしており、双方共に疲れが現れ始めていた。

 

が悪いか……」

 

 白い仮面を付けた俺は、戦いを木の枝に腰かけ上から見下ろしていた。

 

 この森に誰かが迷い込んでいたら、俺の力が見られかねないからな。

 イザという時に顔が見られないように仮面をつけている。

 

 さて、4人と魔物との戦いだが、分が悪いと言える状況だ。

 

 人間の体力よりも魔物の体力の方がはるかに高い。

 ましてや子どもの体力と比べると──。

 

(早めに勝負をつけるべきだったな)

 

 体力の不利に早めに気付き、4人は勝負を決めるべきだった。

 

 自分が有利な状況を作るのは勝つための基本だ。

 有利な状況を作るには、自分の欠点と長所を──。

 

 俺はココまで考えて気付いた。

 

(……大技を教えてなかった)

 

 ラゼルやセレグに関しては、ガリウスが大技を教えている可能性がある。

 だが、イリアとコーネリアには基本のみしか教えていない。

 

(ごまかそう)

 

 俺は戦いの様子を見ながら、誤魔化す方法を考えることにした。

 

 ………

 ……

 …

 

 俺が思考を巡らせている間にも、戦いの状況は変わっていく。

 

 紫色の体をした雄牛は、イリアを巨体で突き飛ばそうと突進した。

 だが、イリアは横へと跳び巨体をかわす。

 

 そして、足が地についた直後、彼女は横を通り過ぎようとする雄牛に向かって剣を横に振った。

 

「くっ」

 

 雄牛の障壁と皮膚が予想よりも硬かったのだろう。

 剣は皮膚を切ることなくはじかれた。

 

 一瞬、弾かれた剣に体をもっていかれそうになるも何とか剣の勢いを殺す。

 

(あの状況で、体勢が崩れるのを防ぐとはな)

 

 俺はイリアの成長に関心をした。

 この点を褒めれば、大技を教え忘れたことを誤魔化せるだろうか?

 と、期待をしながら──。

 

 なんとか体勢を崩すことを避けたイリア。

 白金の髪をたなびかせながら声を張り上げた。

 

「アイツの足を止めて」

「セレグ!」

「はい」

 

 イリアの声に応えたのはコーネリアだった。

 コーネリアはセレグと共に杖を雄牛へと向ける。

 

 そして、お互いに一瞬だけ目を向けあった。

 

(アイコンタクトだと!)

 

 アイコンタクトが出来るまでに2人は仲良くなっていたのか。

 他の男となら、影からジッと睨むのだが、男の娘可能なセレグと仲良くされると微妙な気持ちになる。

 

 2人が知らぬ間に仲良くなったことに、俺は複雑な心境を抱きながら次の行動を見守った。

 

「「凍てつけ」」

 

 2人の声はピッタリと合っている。

 

(ふむ、やはり微妙な気持ちになるな)

 

 人間というのは、限界以上の驚きをすると冷静になるものだな。

 アイコンタクトに驚いた俺は冷静に自分の気持ちを分析していた。

 

 コーネリアとセレグが放った冷気魔法は、雄牛の膝を凍らせている。

 

(関節を狙ったか)

 

 イリアの横を走り抜けた雄牛。

 走っている途中で膝を凍らせたわけだから──。

 

「グモォォォォ」

 

 走っている最中に足の自由が奪われ、雄牛は転倒した。

 

 無理矢理に動かしたためだろう。

 凍てついた膝の皮膚がヒビ割れて血が滲んでいた。

 

(うわっ 痛そうだな……いや、今は誤魔化すネタを探そう)

 

 少し血が滲みでる雄牛の膝に引きながらも俺は本来の目的に意識を戻した。

 そのまま戦いの様子を見ているとラゼルが雄牛の元へと走り込んだ。

 

「はあぁぁぁぁぁ」

 

 気合と共に打ち込む拳。

 魔力が込められたそれは、まさしく鉄拳とも言える威力となっているハズだ。

 

 拳は倒れた雄牛の胸部へと深く突き刺さり──内部に魔力を流し込まれた。

 

(……あれを闘技大会で使っていたら、死人が出ていたな)

 

 流された魔力によって臓器はズタズタになっていると思う。

 手足を痙攣したかのように動かす雄牛の姿に目頭が熱くなった。

 

「イリアッ」

「はいっ」

 

 ラゼルの声に合わせイリアが剣の刃を水平に寝かしながら音もなく走る。

 胸部に通すように剣を差し込まれると、雄牛は手足の痙攣を止めた。

 

(心臓を狙ったか)

 

 今の攻撃方法はガリウスが教えたのだろう。

 見事としか言えない動きだった。


 音もなく心臓を一撃って、明らかに暗殺術の動きなんだが──。 

 暗殺術を覚えたイリアを少し遠くに感じた。

 

 ………

 ……

 …

 

「お疲れさん」

 

 俺は木から降りて、イリア達に話しかけた。

 全員が息切れをしている状態ではあるが目立った怪我はない。

 

「どうだ?」

 

 ラゼルは、少しドヤ顔だ。

 他のヤツがドヤ顔をするとむかつくが、彼がすると爽やかで憎めない。

 

(この、爽やかイケメン幼児め!)

 

 内心、ラゼルに毒づいて俺は話を続けることにした。

 大技を教え忘れていたことを、上手にごまかせるか正念場だ。

 

「そうだな……まずは、ラゼルだが」

「ああ」

「魔物が倒れた時に、早く反応した点と技の切れが良かったな。次に……」

 

 とりあえず俺は、各人を褒めることから入りご機嫌取りをすることにした。

 コミュニケーションで困ったら、褒めることから入れば良いのは俺も知っているからな。

 

 こうして、全員の評価を伝えてから本題に入った。

 

「だが、今回の戦いでマズイ点もあった。どこかわかるか?」

「……時間がかかり過ぎたことでしょうか」

 

 イリアは優等生だな。

 反省点に気付いている。

 

「そうだ。結果として自分たちよりも体力のある相手と持久戦をするはめになった」

「キツかったですね」

「ああ、体力の消耗もひどかったよな。だが、大技があれば、もう少し楽だったと思わないか?」

 

 セレグの言葉に俺は乗っかり、大技について言及した。

 このまま行けば会話の誘導に成功しそうだ。

 

 内心、ほくそ笑みながら俺は会話を続ける。

 

「今回のことを踏まえて、これからは大技と呼べるものも教えて行こうと思う」

 

 これなら大技を教えるのを忘れていたとは気付かないハズだ。

 

「……嬉しそうね」

「新しいことを教えられるからな」

「……そう」

 

 コーネリアの疑惑に満ちた瞳を直視できず、俺は視線を逸らした。

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