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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第6章 凄い勇者は美幼女勇者(10歳)をプロデュースする
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俺は3馬鹿と語り合った 『なんだ? バカの王様』

 俺は田舎に住んでいる。

 田舎と言っても、それなりに住人はいる──と、思うので小さい村ではない。

 

 食事については、近くに海と山があるので、山の幸も海の幸も食べられる。

 

 だが田舎の宿命だろうか?

 調味料は塩ぐらいしか売られていない。

 

 もっとも、俺は転移魔法を使って王都から購入してこられるのだがな。

 

 

 そんな俺の住む村にも鍛冶屋がある。

 ここは、剣を打つよりも農具を作ることの方が多いみたいだ。

 

「おっさん、鎌はできたか」

「おっさんじぇねぇ お兄さんだ!」

 

 こんなやり取りがあったあと、頼んでおいた鎌を鍛冶屋で受け取り外へ出た。

 もちろん草刈り用の鎌だ。

 

 決して勇者コレクションの中にある、首を狩りやすいタイプの鎌ではない。

 

 ちなみに鍛冶屋のお兄さんは、ピチピチの43歳だ。

 

 

 俺が受け取った鎌を持って自宅への帰路についていると、少年達が俺の方に歩いてきた。

 

「あっ、3馬鹿」

 

 彼等は村に住む悪ガキ3人組だ。

 

「なんだ? バカの王様」

 

 真ん中の日に焼けた、少し体格が良い少年が答えた。

 少し生意気そうな表情をした黒髪の少年。

 彼は、村長の息子でラルフという。

 

 あと2人いるが、付き人Aと付き人Bと覚えておけば問題はない。

 

「じゃあな」

「脈絡もなく話を切るな!」

「バカなのに脈絡という言葉を知っていたんだな」

「なら、お前が脈絡という言葉を知っていたことを驚かないとな」

 

 ラルフは冷静に言葉を返してきた。

 顔を真っ赤にして怒ると思ったのに、なんて詰まらない反応だ。

 

「もっと子どもらしくしろよ(面白くないから)」

「その言葉は、そのままお前に返させてもらう」

 

 詰まらん──なんて詰まらない反応なんだ。

 ここまで冷静に返されると、感情を乱してやりたくなる。

 

「…………」

「なんだよ」

 

 悪口を言おうとしたが、何も思い浮かばない。

 

(そう言えば、敵は黙って仕留めていたな)

 

 前世の俺にとって敵を仕留めることは作業でしかない。

 相手を挑発することもなかった俺に悪口など必要なかった。


 決して悪口を考える頭が無かったのではない。


(殺すことに慣れ過ぎたのかもしれないな)


 前世の記憶まで紐解くと、血生臭い毎日が思い浮かんだ。

 血生臭い日々を構成する97%は相手の血だが──。

 

「……お前、なんで俺を見て目を潤ませているんだ」

「気のせいだ」

 

 前世を思い出したせいだろうか?

 俺は目を潤ませてラルフをジッと見ていたようだ。

 

 ラルフが顔を引きつらせながら後ずさりした。

 瞳を潤ませた俺が怖かったのだろうか?

 

(使えるな)

 

 俺が前世むかしを思い出しながら前へと一歩進むとラルフは一歩下がる。

 再び俺が一歩進むと──このやり取りは3分と持たずに疎外された。

 

「ラルフさんに迫るな!」

 

 突如として俺は肩を掴まれて後ろへと引っ張られた。

 まあ、チート持ちの俺は引っ張られただけだったが。

 

「なんだ付き人B」

「誰が付き人Bだ!」

 

 子どもらしい感情的な反応が返ってきて、少し嬉しい。

 

「お前は良いヤツだな」

「なに脈絡のないことを言っているんだ」

「お前が脈絡という言葉を知っているとは驚きだ」

「「バカにしてんのか!」」

 

 お付き2馬鹿の声が重なった。

 相当怒っているようだが──子どもらしい反応が返ってきて俺は嬉しい。

 

「それに比べて……」

「なんだ」

 

 ラルフはつまらないヤツになり下がった物だ。

 昔は子どもらしい反応を返したのに。

 

「ハァ~」

「なんで俺の顔を見ながら溜息を吐く」

 

 そんなラルフの両肩に手を置き──

 

「お前は、子ども心をどこに捨ててきたんだ!」

「なに言ってんだ」

 

 俺が子ども心を取り戻すため説得しようとした。

 しかし、ラルフに想いは届かなかった。

 

 もう、コイツは手遅れだ。

 

 騎士学校に今年から通うらしいが、その時から狂い始めた。


 少し前には『俺は騎士になるんだ。バカの相手をいつまでもする気はない』

などと抜かしやがった。

 

 騎士という言葉には、子ども心を喰らう魔物が憑り付いているのだろうか?

 

「もう手遅れなのか」

「なにがだ」

 

 俺は、ラルフの子ども心を取り戻せないことが悔しかった。

 血が滲み出そうなほど拳を強く握りしめていることに気づかぬ程に──。

 

「ラルフさん、この馬鹿は放っといた方が良いですよ」

「……そうだな」

 

 付き人Aがラルフに耳打ちしている。

 

「行く……か」

 

 ラルフの言葉が止まったことに気付いた俺は彼を見た。

 すると一点を見つめて立ち止まっていることに気付く。

 

 その視線の先には──。

 

「コ、コーネリアちゃん」

 

 顔を赤くして我が妹の名を呼ぶラルフ。

 彼の視線の先にはコーネリアがいた。

 

 コーネリアの名前が出ると同時に付き人AとBも妹の方を見た。

 

 彼らの視線の先にいたコーネリアは──嬉しそうな顔をしている。

 ラゼルの手を握り勇者の素質を目覚めさせていた時と同じ表情だ。

 

 あの表情を見ると不愉快になるのは何故だろう?

 

 俺達の視線が向けられていることに気付いたのだろうか。

 コーネリアは、いつも通りの笑顔を見せた。

 

 そして俺達の方へと来てラルフ達に挨拶をする。

 

「おはようラルフ」

「お、おはよう……」

 

 言葉の終わりは小さくなった。

 緊張しすぎだろ。

 

「…………」

「…………」

 

 挨拶を終えた、3馬鹿とコーネリアの間には沈黙が訪れた。

 

 コーネリアは村の少年達から絶大な人気を得ている。

 母さんへの想いを知られない限り人気は揺るぐことはないだろう。

 

 そんなコーネリアに微笑みかけられ3馬鹿は顔を赤くしている。

 

 コイツらの子ども心に触れられた気がして凄く嬉しい。

 

「なあ、3馬鹿」

「「「3馬鹿って言うな!」」」

 

 おお、3人は言葉が重なるほど息はぴったりだ。

 

 だが、コーネリアの前で馬鹿にされるのは嫌みたいだ。

 ラルフの子ども心を確認出来て俺は満足していた。

 

 あとは、からかうだけだな。

 

「何か用事があったんじゃないか?」

「大したことじゃないんだけど……」

「ここではなんだから、家で聞かせてくれ」

「今すぐっていうわけじゃないから」

「どうせ俺も暇だ」

 

 そう言うと俺はコーネリアの手をとった。

 手を払いのけられるんじゃないかと少し心配だったが問題はなかった。

 

「「「なっ」」」

 

 3馬鹿から同時に上がる変な声。

 彼らの視線は、俺に握りしめられたコーネリアの手に向けられている。

 

 最初は驚愕の表情をしていた3馬鹿。

 しかし、視線が俺の顔に移ると同時に怒りと嫉妬が入り混じった複雑な物へと変わった。

 

(もう少しからかってやろう)

 

 彼らの表情の変化が面白いので、俺は一層からかいたくなった。

 

 前世と合わせて100歳を超える俺だが今は9歳だ。

 誰にも大人げないなんて言わせない。

 

 コーネリアの手をとった俺は、大きめの声で話した。

 

「今日の夕飯はコーネリアが当番だったか?」

「そうだけど」

「じゃあ、手料理が楽しみだな」

 

 わざと3馬鹿に聞こえるように大きめの声をだした。

 特に手料理の部分を強調して──。

 

 チラッと後ろを見ると。3馬鹿を見ると悔しそうな表情が見える。

 だが、コーネリアがいる手前、大きな声を出して怒鳴ることもできない。

 

(子どもは、こうでなくちゃな)

 

 俺は優越感を感じながら3馬鹿の悔しそうな顔を記憶に刻んで帰宅した。

 

 このとき、俺は気付かなかった。

 コーネリアが俺に向けている表情は、怒っているときの物だと──。

 

 ………

 ……

 …

 

 夕飯時になった。

 台所にあるテーブルをはさむ形で俺と妹は椅子に座っている。

 

「なんか、おかしくないか?」

「なにが?」

 

 笑顔で答えたコーネリア。

 その笑顔は本心だろうか?


 いや、ぶっちゃけ怒りを隠すために笑っているようにしか思えない。

 

「俺の夕食がパンだけなんだが」

「手が回らなかったの」

「だが……」

 

 俺は自分とコーネリアの食事を見比べた。

 どう見てもオカズの数に違いがある。

 

「オカズの数が……てか、俺のオカズが無いんだが」

「可愛い妹の作った夕飯なんだから文句言わないでね」

 

 満面の笑みを浮かべるコーネリア。

 

 芝居がかっていない自然な笑顔だ。

 将来が怖くなる程のな。

 

「良い物を見させてもらったからパンは用意してあげたんだよ」

「……良い物ってなんだ?」

「ラルフと……ううん、なんでもない」

 

 満面の笑顔で何かを誤魔化されたようだ。

 なぜだろう、凄く悪寒が走った。

 

「パン、いらないんなら片付けるよ」

 

 笑顔から一気に真顔になった。

 この落差は怖い。

 

 俺が怯んだことに気付いたのだろう。

 そんな俺の様子を見て一気に勝負を掛けてきた。

 

「早く片づけちゃいましょ」

「そうだな」

 

 俺は妹の迫力の前に頷くしかなかった。

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