俺は魔石の加工を依頼した 『出来たのか』
俺はシルヴィアから受け取った魔石を持って、セレグの住む家へと向かった。
「コイツの加工を頼めるか?」
「質が良さそうな魔石ですね」
セレグに渡したのは、中級程度の魔石だ。
魔石は中ランク以上を質の良い物だとされている。
「質の良い物は、あまり加工したことがないのですが……」
「俺がやっても失敗したからな。セレグに任せた方が成功する可能性が高い」
すでに、鈍りまくった俺の腕では、99%失敗すると確信している。
「やってもらえないか?」
「この質の魔石は加工したことがあまりないのですが」
「貰いものだから失敗しても構わんぞ」
実際には、貰いものではなく貢がされた事への慰謝料みたいな物なんだが。
「シルヴィアさんにやってもらうわけには、いかないんですか?」
「俺が頼むと、後でとんでもない物を要求されそうでな……」
「そうですね……」
俺達の間に重く暗い空気が流れた。
どうやら俺とシルヴィアの関係は、正確に理解されているらしい。
「まあ、練習程度に考えてくれればいいからさ」
「……分かりました。やってみます」
「頼む」
会話が終了した後、中級の魔石を3つ、セレグに渡した。
「込める術式に関しては、魔石と相性の良い物なら何でもいいぞ」
「えっ、ちょっ、それじゃ何をすれば良いのか分かりませんよ!」
「直感で決めてくれ」
「クレスさ~ん」
セレグの悲鳴にも似た声が、俺の背後でこだました。
家から出る俺を追いかけてこなかったのは彼自身が分かっていたからだろう。
俺に何を聞いても無駄だということを。
何故なら、俺は何も考えていないのだから──。
………
……
…
~2日後 世界樹の森にて~
「出来たのか」
「ええ、2つ失敗してしまいましたが」
少し恥ずかしそうに笑うセレグ。
その笑顔は、変態チックな犯罪に巻き込まれそうで心配になる程のものだ。
(自力で変態を退けるぐらいには鍛えた方が良いかもな)
俺はセレグの笑顔を見ながら、そう決意した。
「クレスさん、また変なことを考えていませんか?」
「いや、お前の将来を真剣に考えていた」
「不吉なことを言わないでください!」
セレグの顔には恐怖の色が濃く表れている。
俺に将来を考えられるのは、そんなに不吉なことなのだろうか?
「加工した魔石を見せてもらってもいいか?」
「話を無理矢理、切り替えましたね」
ジト目で俺を睨むセレグ。
ふむ、変わった趣味のヤツは喜びそうだ。
「えっ……」
セレグは身震いをしたあと、周囲を見回した。
「どうしたんだ?」
「いえ、寒気がしたものですから」
「上着を着た方がいいかもな」
「そ、そうですね。あ、コレを」
セレグは、そういうとリュックの中から取り出した3つの魔石を俺に渡した。
「僕は上着を取ってきます」
「ああ」
そう言って、小屋の方へとセレグは走って行った。
(俺の思考を感じ取ったか……成長したな)
俺が抱いた『変わった趣味のヤツに好かれそうだ』という感想。
そんな俺の思考を彼は本能的に感じとったのだろう。
俺の思考を読み取るまでになったセレグ。
心の中で、その成長を称賛しながら小屋へと駆けていく彼の背中を見送った。
(テストの採点でもするか)
セレグが小屋へと入るのを見届けた俺は、彼が加工した魔石に目を向けた。
2つの魔石は黒ずんでいる失敗作だ。
だが、残り1つの魔石は魔力も安定しており加工に成功したのが分かる。
(あの齢で、ここまで出来れば上出来かもな)
俺は失敗した魔石は地面へと置く。
そしてアメジストのような紫色の魔石を手にして顔に近付けた。
手にしている魔石は加工に成功したものだ。
光が当たる方向を変えると僅かに赤色へと変わる。
(シルヴィアの意見を聞いてからになるが……)
今回の魔石加工の丸投げ。
これはセレグの教育方針を考えるためだ。
彼は他者を傷つけることを恐れているように思う。
だから、このまま彼を勇者のパーティーへと加えるかどうか迷う所があった。
セレグの躊躇いで、他のメンバーが不必要な怪我をする可能性もある。
そうなれば、彼自身も辛いだろうし、パーティーにとっても危険だろうしな。
(魔道具作りも選択肢の一つに入れておくか)
魔導具を作ることを本職とする魔法使いも多いから問題はないだろう。
最終的にはセレグが決めることではあるがな。
だが、彼を魔法使いとして鍛えることも忘れるわけにはいかない。
変態チックな犯罪は待ってくれないのだから。




