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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第5章-F 凄い勇者の年越し
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俺は魔石を加工した 『珍しい隠し味をご希望ですか?』

 シルヴィアからもらった、お年玉代わりの魔石。

 その中に、貢いだ金の百倍以上の価値がある最高品質の魔石があった。

 

 さっそく、ソイツの加工を始め──るのは怖い。

 だから他の魔石を加工してみた。


~クレスの自室にて~


 俺は自室にいる。

 木で出来た床の上には、なめし皮を敷き床を傷つけない配慮もした。

 

 俺は気配りの出来る男だからな。

 自室でも、ちゃんと気を使っているんだ。

 

 で、魔石を加工した結果はというと──。

 

なまったかな」

 

 床に座る俺の前には、半透明に黒ずんだ水晶っぽい物がある。

 

 こいつは、元魔石もと ませきだ。

 加工に失敗したせいで、性質が変わってしまった。


 魔石には、ある特徴がある。

 特徴とは、質が高い物ほど、加工が難しくなるというものだ。


 だから、最上級の魔石を加工していた場合を考えると──。

 

最上級の魔石あれに手を出さなくて本当に良かった)

 

 俺は冷や汗を流しながら、そう思った。

 

 小遣い数年分に匹敵する価値がある最上級の魔石。

 加工に失敗したら、相当落ち込んでいたことだろう。

 

 俺の事だから、翌日には忘れていたとは思うが──。

 

 ………

 ……

 …

 

 俺は魔石などを片付け1階へと向かった。

 これ以上の加工は失敗作を増やすだけだと判断したからだ。

 

 (まずは、なまった腕をなんとかするか)

 

 そのように考えて階段を下りていると、シチューを煮込む時の良い臭いがした。

 

 冬の寒さが身にしみる季節。

 シチューは体が温まるからありがたい。

 

 一階に降りた俺は、真っ先に台所へと向かった。

 

 

 台所に行くと、鼻歌を台所に響かせながら鍋の中を混ぜるメイドが目に入る。

 少し鼻歌の音程がずれているのは指摘しない方が良いだろう。

 

 彼女は自称メイドのリーリアだ。

 リーリアは週に3回程の割合で、この家を訪れる。

 そして掃除や洗濯、料理などを行ってくれている。

 

 料理も美味く、家事も完璧だ。

 だが俺の知る限り恋人のいたという話は──。

 

「変な事を考えているのでしたら、りますよ」

「美人で家事も完璧な素敵なメイドさんの料理を食べられて幸せだと考えていただけさ」

「もうすぐ出来るから待っていて下さいね」

 

 どうやら、機嫌を取ることに成功したようだ。

 俺の顔を見ずに考えを読むとは恐るべし自称メイド(笑)

 

「珍しい隠し味をご希望ですか?」

「美人メイドのリーリアが作る料理は美味しいから、いつもと同じシチューを食べたいな~」

 

 彼女の言う隠し味は、体に良くない物のことだと思う。

 

 『食』を握るリーリアを怒らせるのは、やめた方が良いだろう。

 なんと言ってもり放題だからな。

 

 何かを盛られるのは嫌なので、大人し自分の席についた。

 台所は火を使っていることもあり温かい。

 

 魔導具を使えば部屋を暖めるのは簡単だが、今は壊れている。

 コイツを直すために魔石を加工しようとしたんだ。

 

 

 先程まで鍋の中をかき混ぜていたリーリア。

 彼女は鍋にフタをして、コチラに歩いてきた。

 

 そして椅子に座りながら話を続ける。

 

「あれは、直りそうですか?」

 

 あれというのは、魔導器のことだ。

 

 当然、前述したとおり──。

 

「無理そうだ」

「修理に出しても時間がかかりそうですよね」

「冬に、それは厳しいから買った方が良いだろうな」

 

 俺が稼いだ金はシルヴィアに貢いだ。

 だが、生活費には手を出してはいない。

 

 俺とて、その辺の区別はつけているんだ。

 

 新婚旅行好きな両親が、生活費を渡してくれるから飢えずにすんでいる。

 と、いうか子どもに渡してはいけない金額を置いて行くのは勘弁してほしい。

 

 その金額は、前世の記憶が俺に無ければ、身を崩す自信がある程だからな。

 

「じゃあ、食事の時にコーネリア様とも相談しましょうね」

「そうだな」

 

 生活費の使い道は、俺、コーネリア、リーリアの三人で決めている。

 

 リーリアいわく、『子どもの内から、お金の使い道は考えた方が良いですからね』。

 

 そんな教育の賜物たまものだろうか?

 コーネリアが無駄遣いに対し、シビアな側面を見せ始めている。

 

「生活費の話し合いについてだが……」

「なんでしょうか?」

「コーネリアが無駄遣いに、厳しくなり過ぎだと思うんだ」

「良いことですね」

 

 なんて嬉しそうな表情なのだろう。

 自分が世話を焼く子どもの成長を見る喜びだろうか?

 

「あの歳で、金に厳し過ぎるのはな」

「コーネリア様が将来、変な男に捕まって貢がされても良いと?」

「それは、嫌だが……」

 

 シルヴィアに貢がされて、財布が寂しくなった時は悲しかったしな。

 俺に経験があるため、余計にあんな思いはさせたくはないと感じる。

 

 『それでも厳し過ぎるのは?』

 と、言おうとした俺の思考は彼女の言葉で切り替わることとなる。

 

「コーネリア様は、おモテになられますから」

「……そうか」

 

 今度、コーネリアの周囲をウロツク男を調べてみようと思う。

 

「目付きが怖いですよ」

「兄の責務を考えていただけだ」

「干渉しすぎると嫌われますから、気を付けて下さいね」

 

 コーネリアには、健全なお付き合いであってもまだ早いと思う。

 だから、変な男の存在を見逃すわけにはいかない。

 

「大切になされるのは良いのですが……ね」

 

 彼女は、どこからともなく取り出したマグカップを、両手で包み、口へと運んだ。

 アイテムBOXから取り出したのだろうか?

 

 だが、アイテムBOXは高度な魔法のハズだ。

 

 リーリアに何を言われようとも、コーネリアの周辺にいる男は絶対に洗い出す。

 だから、不毛な会話を続けるのも疲れるので、話を切り替えることにした。

 

「今のはアイテムBOXか?」

「そうですよ」

「じゃあ、魔法を勉強したことがあるということか」

「ええ、昔は魔法使いをしていました」

 

 魔法使いから、なぜ自称メイドに転職したのだろうか?

 

 気にはなったが聞くのはやめた。

 これ以上の質問は、彼女の過去に踏み込み過ぎると感じたからだ。

 

「珍しいですね」

「何がだ?」

「私のことを尋ねることが」

 

 リーリアの過去は、雇っている父さんたちが知っていると思う。

 だから、俺が彼女の過去を詮索することに正当性は存在しない。

 

 それに過去を知られるのを嫌がる人間も多いしな。

 

「人の過去は詮索しないようにしているんだ」

「子どもらしからぬ考え方ですね」

「そうかもな(前世の年齢と合計した場合、100歳以上だし)」

「今からそんな考え方だと悩み過ぎてハゲますよ」

「……気を付ける」

 

 父さんの頭髪を思い浮かべた。

 フサフサしているから大丈夫だと思う。

 

「…………」

「…………?」

「今度、髪に良い料理でも作りましょうか?」

「ああ、頼む」

 

 頭部を無言で見つめられたのは、気のせいだろうか?

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