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凄い勇者だった俺が美少女勇者をプロデュースした件  作者: 穂麦
第5章-F 凄い勇者の年越し
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俺の年越し 『素敵な服をありがとう』

 力に狂ったけものガリウスにはラゼルという孫がいる。


 ラゼルは武術大会に参加すると表明し俺は見送った。

 しかし彼が振るう拳は人を殺めることに特化した殺人拳だ。

 

 彼に人殺しの業を背負わせたくない俺は大会に参加した。

 

 そして大会の控室で再会を果たした俺は彼に殺人拳を封印するように頼んだ。

 彼は『もちろん加減はするつもりだが』と、了承してくれた。


 その結果、ラゼルは優勝を逃すことになる。

 今大会の成績は3位で終わった。


 殺人拳の封印が大きなハンデになったのは間違いないだろう。

 しかし、人の道を踏み外さずさないように説得できた俺はさすがだ。

 


 そんな友情に厚い俺にも1つ計算違いなことが起こった。

 計算違いというのは、敗北した後に見せたラゼルの笑顔だ。

 

 彼は表彰式の終了後、『悔しいな』と、言葉を漏らした。

 だが、すぐに俺に笑顔を向ける。

 

 その笑顔は、近くにいた女子数名をポ~っと見惚れさせる。

 俺も一瞬だけ、変な扉が開きかけたが、何とか閉じることに成功した。

 

 恐るべし、爽やかイケメン幼児。

  

 ちなみに大会を見たことにより将来有望そうな人材を何名かチェックできた。

 このため利益は、それなりにあったと言える。

 

 ~武等大会終了後~

 

 ラゼルの応援を終えた俺達は、シルヴィアとガリウスの元へと向かった。

 落成式に賓客として招かれた2人の様子を見るためだ。

 

 学長の挨拶などが、大ホールで行われる予定だ。

 

 で、落成式の挨拶を校長がするまで、2人は待合室にいる。

 

 馬鹿なシルヴィアと、とぼけた爺さんのガリウス。

 こんなポンコツでも肩書きは凄いからな。

 

「なによ」

「いや、なんでもない」

「言いたいことがあるのなら言わんか」

 

 俺は笑いをこらえるのに必死だった。


 普段は冒険者然とした服装のシルヴィア。

 普段はローブを羽織っているガリウス。

 

 そんな2人が正装をしている。

 しかも白一色。

 

 ハッキリ言って似合わなすぎる。

 

「覚えてなさいよ」

「俺は馬鹿だから、すぐに忘れると思うぞ」

 

 俺を睨みながら恨み事を言うシルヴィア。

 彼女を挑発してみた。

 

「安心なさい。この服を用意してくれたお礼も兼ねて記憶に刻みつけてあげるわ」

「ワシも礼として、お主の稽古をこれまで以上に力を入れてやろう」

「…………」

 

 2人は笑顔だった。

 だが、その目には笑顔にふさわしくない想いが込められている。

 

「……服の礼なら学校に言ってくれ」

「分からないとでも?」

 

 シルヴィアの目は確信に満ちている。

 

 確かに裏から手を回したのは俺だ。

 ガリウスに殺されかけたから、その仕返しとしてな。

 

 シルヴィアへは、ついでに嫌がらせをしただけだが──。

 

「じゃあな」

 

 俺は帰ろうと後ろを振り向くと、女性の手が俺の肩を強く掴んだ。

 

 前世で見たホラー映画の主人公。

 彼は、今の俺が感じている気持ちを抱いていたのだろうか?

 

「もう少し、お話しをしましょうよ」

 

 あの主人公は、シルヴィアが口にしたのと同じセリフを言われた。

 そのあと、映画の画面が真っ赤になって終わったんだよな。

 

 俺の脳は、何で学習しないんだろう?

 シルヴィアに何かすると、いつも酷い目に遭うのに──。

 

 俺が涙目になったのは、何が原因だったのだろう?

 学習しない己の脳に対してか、それともシルヴィアへの恐怖に対してか?

 

 その答えが出ることは無かった。

 

 ………

 ……

 …

 

 俺は、自分の財布を覗きながら歩いていた。

 

 ここは学校へと続く道。

 すでに空は夕焼けとなっており、日中よりも寂しさを感じる。

 

 主に財布の中身に──。

 

 今回の落成式は規模の大きなものとだ。

 1週間、ずっと行われる祭りのようなことが行われる。

 

 そのため数多くの屋台が出ているが、1日しか出ない屋台も多くある。

 シルヴィアは賓客として招かれているため屋台を見て回るわけにはいかない。

 

 そのため、シルヴィアが目を付けていた屋台を俺が代わりに回ることになった。

 

 俺の財布を使ってな。


 更に俺のアイテムBOXも活躍することになるだろう。

 アイテムBOX内は時間の流れが緩やかなため食べ物の保存に役立つからだ。


 そんなわけで、財布と冷蔵庫の役割がある俺は、最高のパシリというわけだ。

 

「俺の苦労が……」

「慰めようがありませんね」

 

 寂しくなった財布を見て涙ぐむ俺に、セレグは冷たい言葉を投げかけてきた。

 彼の言葉が正しいことは、俺でも分かるから何も言えない。

 

 俺は冒険者ギルドに登録している。

 で、薬草集めなど子どもでも問題ない仕事を受けているんだ。

 

 そうやって貯めたお金が、あのシルヴィアへの貢物みつぎものに変わった。

 

 俺が悪いのは分かっている。

 だが、凄く悔しい。

 

 特にアイツをが喜ぶという点が。

 

「財布をしまったら? すぐに忘れるんだろうし」

「そうだな」

 

 コーネリアに促され、俺は財布をアイテムBOXに入れた。

 最近、俺の扱いが雑になってきた気がする──。


 そんな悲しみも財布と共に、どこかにしまいたいと感じた



 俺達は街に向かって歩き続けている。

 騎士学校の新校舎は王都と言っても、少し離れた所にあるんだ。

 

 騎士学校関連の色々な施設を建てるためには広い土地が必要だった。

 しかし王都の中心では土地の確保が難しい。

 

 そのため少し離れた場所に建設することになった。

 

 

 俺達が歩き続けていると、夕焼けの色は夜の色へと少しずつ近づいていく。

 夜に近づくにつれて冬の寒さも一層、色濃く空気を染めていった。

 

 寒くなるにつれ、俺達が交わす言葉も減っていく。

 そして誰も誰も喋らなくなった頃──。

 

「あっ」

 

 イリアが空を見上げながら声を出した。

 彼女に合わせ俺達も空を見上げる。

 

 すると──。

 

「雪か」

 

 まだ、日は沈み切っていない、赤みがかかった空でハラハラと舞う雪。

 俺達に遅れて同じ方向へと向かっていた人達からも声が上がる。

 

「珍しいな」

「そうね」

 

 俺の言葉に、少し後ろでコーネリアが答えた。

 

「寒いハズですね」

「今年は初めて見たな」

 

 続くように口を開いたのは、セレグとラゼル。

 

「早く戻りましょうか」

「ああ」

 

 イリアが俺の隣で提案した。

 俺の子ども心は、雪をもっと見たいと言っている。

 

 だが、積もることを期待し今日は帰ろうと思う。

 

 なにせ出店で買った待望のぶつがあるからな。

 

 ………

 ……

 …

 

 転移方陣がある家でシルヴィアとガリウスと合流した。

 

 なぜ、全員が集まっているのか?

 それは、落成式で見つけた蕎麦そばを全員で食べるためだ。

 

 屋台で見つけた蕎麦そばはコタツ? に人数分ならべてある。

 ※ここでいうコタツは、大きめのテーブルに毛布をかけただけの物。

 

「マズイ」

「お前が買ったんだろ」

 

 俺の感想にラゼルがツッコミを入れる。

 どうやら、彼は勇者以外の素質も開花しているようだ。

 

「僕には無理です」

 

 涙目になりながらセレグがギブアップ宣言をした。

 

「やっぱり……」

 

 最後に一口も食べていないコーネリアが呆れた様な声を出した。

 

「なぜだ!」

 

 俺はコタツ? を両手で叩き嘆きを表現してみた。

 こういう場合、雰囲気が大切だと思うからな。

 

「あなたがバカだからじゃない?」

「バカであることを否定はしないが、今は関係ないだろ!」

 

 シルヴィアは、俺が落成式で買うこととなった食べ物を頬張っている。

 ついでに口直しにと、俺以外のメンバーにも配っていた。

 

 いずれも、お祭り料理を象徴するかのような、濃いめの味付けっぽい料理だ。

 

「あなたにはコレ」

 

 俺に差し出されたのはピンク色の変な塊だ。

 ついでに、端っこには噛んだ跡がある。

 

不味まずかったのを押し付けてるだけじゃないのか?」

「…………」

 

 シルヴィアは目を逸らした。

 その行動は、俺の指摘が正確だったことを示すのに十分な証拠だ。

 

 だが、特徴的過ぎるピンク色の物体。

 味が少し気になった俺は試しに食べてみた。

 

(マズイ)

 

 マズイとしか言いようのない味だった。

 次に蕎麦を食べてみる。

 

(マズイ)

 

 こちらもマズイとしか言いようのない味だ。

 

 そんなバカな事をする俺に対し、怪訝な表情のシルヴィアが話しかけてきた。

 

「何やっているのよ」

「どちらの方がマズイか比べてみようと思ってな」

「どっちも毒でしょ?」

 

 こいつは、毒と呼称する物を俺に差し出したのか。

 

「うっ」

 

 俺がシルヴィアへの怒りを溜めこんでいると変な声が聞こえた。

 

 声が聞こえた方を向くと、イリアだ。

 イリアは俺が屋台で買ってきた蕎麦を一生懸命食べようとしてくれていた。

 

 俺は思わずイリアの方へと駆けよる。

 

「イリア、もういい」

「せっかく、クレスが買ってくれた物ですから」

 

 イリアは、いい子だ。

 勇者として魔物と戦えるのか心配になる程に。

 

 涙目ながら一生懸命に蕎麦──もう、毒でいいや。

 毒を食べようとするイリアに罪悪感が俺の中で渦巻いた。

 

(俺は勇者という仕事をイリアに押し付けようとしているんだよな)

 

 イリア自身が勇者となることを望んだ。

 だが、俺と関わらなければ別の道もあったかもしれない。

 

 今からでも──。

 

「大丈夫よ」

「そうだな」

 

 俺は己の業に思い悩んだ。

 そこへ、後ろからシルヴィアとガリウスが近づいてきた。

 

「全部、クレスが責任を取って食べてくれるから」

「イリア、お主が気にすることは無い。クレスも己の責任を全うしたいだろうからな。なあ、クレス」


 不吉なことを、不吉な笑みを浮かべて言いだした2人。

 

「何を言って!」

「今日は、素敵な服をありがとう」

「うむ。あれほどの衣服を着たは久しぶりだったぞ」

 

 俺は涙目だったと思う。

 

 こうして、俺はマズイ蕎麦を腹いっぱいに詰め込みながら年を越した。

 ついでに、噛んだ跡がある屋台料理数点も腹に詰め込みながら。

良いお年を(^O^)/

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