俺は珍しく考えた 『父さん……なんで!』
俺は、自室で机の前にある椅子へと座っている。
そして先ほどから、ある魔王について悶々と考えていた。
漆黒の魔王シリウス。
前世の俺なら、厨二っぽいと笑ったかもしれない姿だった。
黒い仮面と鎧は、ある意味で勇者だ。
だが、悔しいことにカッコいいとも感じてしまった。
脚も長く体格もしっかりとしていて、あれで顔も良かったら爆発して欲しい。
(今回で二度目の敗北か……)
スバルだった頃は、魔王をパンチ一発で倒せた。
強くない魔王への覚醒状態で魔力を纏わせたパンチでだがな。
それが、今生では二連敗。
このままでは、魔王に襲われただけで俺の平穏が脅かされてしまう。
(特にアイツが危ないんだよな)
アイツとは、当然シリウスの事だ。
シリウスを危険だと思うのは、俺を知っていた可能性が高いからだ。
それも、かなり詳しく。
アイツが俺を知っていると感じたことには、いくつか理由がある。
ヤツは俺と同じマスター級の魔法を使った。
いや、これは関係ないか──俺専用だと思っていたから悔しくはあるが。
(問題なのは、アイツが最後に使った魔法剣だな)
ガリウスとの戦いで最後に蒼い光が周囲を覆った。
あれは俺の魔法剣技である『天壊』だ。
俺が編み出した魔法剣だから簡単にはマネをできるハズは無い。
ってか、剣を振り下ろすとき、ヤツは俺を見ていやがった。
仮面を付けていた上に遠目だったから表情は分からん。
だが、ドヤ顔をしていた気がしてならない。
もちろん、他にも俺を知っていたと思える理由がある。
俺に銀のナイフを刺したときの行動だ。
自分の魔法と俺の魔法がぶつかった時、爆発するように仕込んでいた。
そんなの俺がどんな行動をするのか、完全に予測していないと無理だ。
使う魔法にどんな術式が使われるのか?
どのような魔力の質で魔法を使うのか?
その他諸々を考えておかないと、あのような事はできないハズだ。
何よりも俺の勇者の素質を完全に封印したのが問題だ。
シリウスは、俺が自分に掛けた魔法を利用した。
俺の魔法を解けないように書き換えることで完全に素質を封印したんだ。
(魔法の書き換えは、書き換える対象の魔法に精通していないと無理なんだがな)
素質を封印する魔法は俺が編み出した物だ。
魔法に精通しているどころか、知っているヤツすらほとんどいない。
俺自身と、この魔法を身に付けようとしているコーネリア。
あと、新婚旅行好きの両親やシルヴィアにガリウスに──あれ? 結構いるな。
(まあ、いいや)
隠そうと思っていた能力を意外と知られていると気付いて動揺してしまった。
その現実から目を逸らし、俺は思索を続ける。
シリウスの体格を考えると、ヤツの正体が子どもメンバーということはない。
あの場にいた、シルヴィアやガリウスということも無いだろう。
シリウスの正体について、『父さん……なんで!』
こんな展開を想像したりもしたが、それも無い。
シリウスは父さんより足が長かったから別人だ。
ついでに魔力の質も違っていたし。
話を戻すが、シリウスは変なナイフで、俺の魔法をイジったという話だったな。
俺に刺さったナイフには魔法のプログラムとも言える術式。
それを書き換えられるように別の術式を組んでいたのだと思う。
術式を書き換えるなど、対象の術に精通していないとならない。
少なくても俺の周囲にいるメンバーでは書き換えなどできないハズだ。
あと、シリウスに関して気になったことがある。
『天壊』を使う時にヤツの後ろにいた薄い金色をした鎧を着た変なヤツ。
あれは、大精霊だと思う。
何の大精霊かは知らんが、 悪魔相手以外で手を貸すとは──。
と、ここまで考えた所で気づいた。
シリウスの事を知らな過ぎて対策の打ちようがないことに。
丁度その時、部屋のドアをノックする音が聞こえた。
部屋に響き渡る乾いた木を手で叩く音。
「お兄ちゃん、ご飯」
コーネリアが朝食が出来たことを伝えに来てくれたようだ。
現状ではシリウスに関する情報は皆無に近い。
これ以上、考えても答えは出ないと判断し俺は思索を終える事にした。
(今度、シルヴィアにでも聞いてみるか)
困った時のシルヴィア頼みだ。
アイツは馬鹿友であるが頭は良い。
行動や発想がアレなだけだ。
こうしてシルヴィアへの丸投げが決まったわけだが──
シルヴィアに漆黒の魔王について尋ねることはなかった。
何故かって? 俺の頭が原因とだけ言っておく。




