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俺は目を覚ました 『もう一度、寝よ』

 俺は夢を見ているのかもしれない。

 

 白色に満たされた空間。

 そこで黒いドレスを着た女性が、小さな光に手をかざしている。

 

 その光は女性の周りで、様々な色で輝いていた。

 

 俺が、しばらく女性を見ていると、彼女はコチラを向き微笑む。

 その笑顔は悲しさや寂しさを感じさせる儚いものだった。

 

「クレス君、ごめんね」

 

 その言葉をきっかけに、全ての光景が徐々にかすれていった。

 

(これは夢なんだな)

 

 そう思いながら俺の意識は現実へと引き戻されていく。

 彼女が謝ったとき、今にも涙を零しそうだった事を気にかけながら。

 

 ………

 ……

 …

 

 目を覚ますと見知らぬ場所にいた。

 周囲を見回すと、どこかで見たことがあるような──。

 

 寝惚けた頭で考えても、ココがどこなのかは分からない。

 いや、起きていても俺の頭では分からなかったかも知れんが。

 

 俺は掛け布団をどけて上半身だけ起きあがると寒かった。

 

 寒さに負けた俺は天国ふとんへと帰る。

 そして丸くなると、フと胸の傷が気になった。

 

 とりあえず胸に穴が空いていないか手で触れて確かめてみる。

 

(穴は開いていないようだな)

 

 少し前に同じような事をした覚えがあるが──まあ、いいや。

 一瞬、ガリウスの顔が思い浮かんだ気もしたが気のせいだろう。

 

 胸部の怪我が無くなっていることに安心した。

 

(もう一度、寝よ)

 

 寒さから逃れるため、布団で一層丸くなり眠りに入ろうとした。

 だがウトウトし始めた所で木のドアからノックの音が響いた。

 

 一瞬だけ、対応しようとしたがヤメた。

 ベッドの外は寒いから仕方のないことだろう。

 

(寝よ)

 

 俺は自分の置かれた状況を知ることよりも、甘美なる惰眠だみんを選んだ。

 これが間違った選択肢であると気付かず。

 

 掛け布団の奥へと潜り込んだ俺の元へと誰かが近づいてきているようだ。

 

 一歩、また一歩と近づく足音。

 なぜか、その足音を聞いていると冷や汗が出る。

 

(ね、寝よう)

 

 『ひょっとして、選択肢を間違えたのではないのだろうか?』

 そのような想いが込み上がるも、既に手遅れだ。

 

 今さら起きるわけにはいかない。

 内心、ガクブル状態だが、俺にも意地があるんだ。

 

 現実逃避をしているとベッドの横で足音がとまる。

 処刑の執行を待っている気分だった。

 

「起きているんでしょ?」

 

 ベッドに潜り込んだ俺の耳に聞こえたのは女性の声。

 予想した通りだった。

 

 愛すべき馬鹿友の声だ。

 

 掛け布団に手を置いたのだろう。

 少し重み伝わってきた。

 

(絶対に怒っている!)

 

 布団の上に置かれた手から、得体のしれない殺気を感じた。

 

 彼女の顔を見たわけではない。

 魔力を調べて感情を予測したわけでもない。

 

 それでも彼女の殺気を感じとれるのは、同じ馬鹿友ばかともだからこそだろう。

 

 しかし、現状を考えれば当然だ。

 彼女は苦労して俺をココまで運んでくれたのだろう。

 

 俺は、砂漠での戦いの最後、魔王が剣を振り下ろした瞬間を見た。

 その後、少しだけ2人と話したのだが途中で眠ってしまったようだ。

 

 魔王との戦いのあと、ガリウスは消耗しきっていた。

 だから、あの場に俺を運べたのはシルヴィアしかいない。

 

 シルヴィアは多少は剣も使える。

 しかし基本は魔法使いだ。

 

 俺を運ぶのは大変だったと思う。

 

 それに、ガリウスが魔王を引きつけたとはいえ命がけだったハズだ。

 どれ程の覚悟を持って俺を助けようとしてくれたのかを考えると──。

 

 で、気にして様子を見に来てくれたのに、俺は寝るために彼女を無視をした。

 

 苦労して俺を運んだ。

 命がけで俺を助けてくれた。

 それなのに二度寝をするために無視された。

 

 ──怒らない方がおかしいよな。

 

 俺は、この状況を乗り切る方法を考えた。

 そして1つの方法に辿り着く。

 

 数秒間の思案だったが迷っている余裕など無い。

 

(覚悟を決めて──誤魔化すしかない!)

 

 覚悟を決めた俺は布団を一気に押しのける。

 そしてシルヴィアの方を見て微笑んで言った。

 

「やあ、心地よい朝だね。シルヴィア」

 

 これまでにない最大限の愛想を込めた笑み。

 今の俺に出来る最善の誤魔化し方だ。

 

「もう、夕方よ」

「心地よい夕方だね。シルヴィア」

 

 なんとか俺は誤魔化そうとした。

 しかし、目の前の女性は冷ややかな視線を俺に向けるだけだった。

 

「フッ」

  

 鼻で笑われた。

 それも冷たい印象しか持たない乾いた笑い方で。

 

「…………」

「…………」

 

 見つめ合う俺とシルヴィア。

 これなら、素直に怒られた方が良かったと心底後悔した。

 

「…………」

「…………」

 

 もう、謝ろう。

 精神的に、これ以上は無理だ。

 

 いつも通り、俺はシルヴィアお姉さまに謝罪した。

 

 

 ~50分後~

 

 なぜ50分も時間が経ったか?

 

 色々とあったとだけ言っておく。

 9割ほど俺の身にな。

 

「あいつは、シリウスっていう魔王なのか」

「ええ、魔王の中でも最強の一角って言われているわ」

 

 あれで最弱だったら困るぞ。

 

「それはそうと、まだ聞きたいことがあるのだが」

「なに?」

「俺を包……」

「別の質問をお願い」

 

 俺が何を質問しようとしたのか?

 

 大した質問ではないのだが─

 『俺を包んだ布団の紐を解いてもらえないか?』

 と、言おうとした。

 

 今の俺は布団で巻物のように包まれた状態で簀巻すまき状態というヤツだ。

 布団が体に密着し過ぎて、暑くなくてたまらない。

 

 だが、俺の開放を頼んでも今は無理みたいだ。

 別の質問をして助かるチャンスを探そうと思う。

 

「ガリウスは大丈夫だったのか」

「それは……」

 

 彼女は、俺から目を逸らし返答に困っているように見える。

 一抹の不安が俺によぎった。

 

「…………」

「…………」

 

 無言で俺はシルヴィアを見続けた。

 彼女に答えを聞くのが怖かったが、それでも知らなければならない。

 

「……鎧を相手に修業を張り切っていた」

「…………」

 

 一瞬、彼女が何を言ったのか分からなかった。

 しかし、その言葉の意味は、頭をよぎったボコボコになった鎧が教えてくれた。

 

「そうか」

「ええ」

 

 俺達は多くの言葉をつむぐことは出来なかった。

 シルヴィアもまた、ボコボコになった鎧を見たのかもしれない。

 

 簀巻すまきにされた俺は暑さを忘れて考えた。

(やはりガリウスは、リアルチートだ)と。

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