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俺は魔王と戦った 『なあ、クレス』

 クレスの戦闘力 シリウスとの戦い 

 チート:一部を使用

 勇者の素質:自主的に封印中

 神に能力がばれるのを恐れて、チートは一部のみ使用中

 シルヴィアが放つ、魔力で作りだした無数の矢。

 それは仮面の魔王が張る障壁により防がれるも白い煙幕となっている。


 俺は煙幕に隠れ、魔王を襲撃しようと近づいていた。


 だが──

 

「なあ、クレス」

 

 白い煙幕の向こうで俺の方へと顔を向ける魔王。

 

 この瞬間、俺は不意打ちの失敗を悟る。


 不意打ちに失敗した以上、シルヴィアには別の仕事をしてもらわねばならない。

 俺はシルヴィアに、ガリウスの治療をするようにと目で合図を送った。


 同時に俺は、手にした短剣に魔力を通し水の剣を作り出す。

 

 しかし、遅すぎたようだ。

 俺が行動をする前に魔王は尋常ならざるスピードで、俺へと迫っていた。

 

 距離を一気に縮め、白く光り輝く剣を魔王は振るう。

 対して俺は、手にした水の剣で防ごうとヤツの攻撃に合わせる。

 

 俺の手には『マスター ウォーター』により作りだした青い水の剣。

 対して魔王が持つのは『マスター フレイム』により作りだした白い火の剣。

 

 魔王は横に薙ぎ、俺は縦に振り下ろし二つの剣がぶつかり合う。

 

 同じマスタークラスの魔法で作られた剣同士がぶつかり合い、お互いの魔力を相殺し合う──ハズだった。


 剣がぶつかり合った瞬間に待っていたのは予想だにしない結果。

 二つの剣線が交差した瞬間、俺の剣だけが砕け散っていた。

 

「なっ」

 

 青い刃は砕け散り、破片は宙へと広がりながら水滴へと還る。

 水滴は雨のように地面へと降り注ごうとしていた。

 

 しかし、水滴が地面を濡らすのを確認する余裕など俺には無い。

 魔王が次の攻撃を俺に浴びせるために動いていたからだ。

 

 再びはしる魔王の剣線。

 

 それを防ぐため、俺は水の剣を作る媒体にしていた短剣を盾にした。

 

 短剣で魔王の斬激を正面から受けたため、衝撃を受け流すことはできない。

 そのため俺の体は面白いように後ろへと吹き飛ばされた。

 

「マスター ウインド!」

 

 風を起こし体勢を立て直そうとするも──再び距離を詰めてきた魔王が剣を振り下ろす。


 何とかコレも短剣で防いだが、足元の砂へと俺の背中は叩きつけられた。

 今の俺は背を砂につけた無防備に近い状態であり、起き上がらねば危険だ。


 そこへ魔王は再び襲いかかってきた。

 

 ヤツは倒れた俺へと剣先を向けて狙いを定める。

 そして、すぐさま放たれる鋭い突き。

 

「くっ」

 

 俺は魔王の剣を横に転がることでなんとか避ける。

 

 だが、すぐに次の攻撃が俺を襲う。

 この攻撃は再び身をよじって剣を避けた。

 

 それからも何度も砂の上を左右に転がりながら魔王の剣を交わし続けた。

 

 ──最初の数回は砂上を転がり剣を避けた。

 ────俺の体力が削られた頃に放たれた剣は短剣で逸らした。

 ──────体中に疲労を感じ始めて動きが鈍くなった頃、頬を剣が掠めた。

 

 剣が掠めた左の頬には、鋭い痛みと熱が集まるかのような感覚がある。

 頬が斬れて血が流れているのだろう。

 

 すぐにでも血を拭いたいところだ。

 しかし、そんな暇を相手が与えてくれるハズも無い。


 攻撃は、その後も手を緩めることなく続けられた。

 

………

……

 

 それから何度か魔王の剣を防いだ所でチャンスが訪れた。


 魔王が足を砂にとられ体勢を崩す。

 攻撃の雨が僅かな間だけ止んだ。

 

 この瞬間を見逃さず、俺は背に敷いた砂に風魔法を放つ。

 

 風魔法によって砂の壁が生まれる。

 それは数秒で消える儚い壁。


 だが、お互いの姿を隠す程の砂が舞い上がっており、目眩めくらましとしては十分だ。

 

 体勢を立て直すため、俺は即座に起き上がり後ろへ跳ぶ。

 

 しかし、それが判断ミスだったと直後に思い知らされることとなる。

 

 俺の足が砂から離れた瞬間、黒い手が砂の壁を貫いて現れた。

 その手は黒い小手を付けた魔王の手だ。

 

 その手に俺が気付くと同時に、手の平より大きな炎の塊が放たれた。


 直撃を防ぐため、俺は水魔法を放ち炎に対抗する。

 

 ぶつかり合う青い水の魔力と赤い火の魔力。

 相反する性質をもつ魔力は触れあった瞬間大きな爆発を生んだ。

 

 それは俺が予想にしていなかった出来事だった。

 水魔法と火魔法がぶつかっても爆発など起きるハズがない。


 俺の行動を読んでいた魔王が自身の魔法に細工を施していたようだ。

 

 とっさに強い障壁を発生させ、俺は爆発から身を守ろうとする。

 その瞬間とき、銀色の光が見えた。

 

 ──間に合わない。

 

 爆発から身を守ろうとしていた俺は銀色の光への対応が遅れる。

 

 銀色の光は、真っすぐな線を引き俺の元へと飛んできた。

 障壁と鎧は容易く貫かれ、胸へと深く入り込む1本のナイフ。

 

 最初に痛みを感じた。

 次に胸の奥で金属の冷たさを感じる。

 最後に胸元から滲み出る血の熱を感じた。

 

 ナイフを胸で受け止めた瞬間、俺の障壁は消滅した。

 障壁を失った俺を、爆発から守ってくれる物は何もない。


 熱を感じた瞬間、大きく後ろへと吹き飛ばされる。


 数秒の間、飛ばされたると砂の上に叩きつけられた。

 だが、それだけで爆発の勢いを殺せるハズもない。

 

 そのまま転がり続けたあと、砂の上で仰向けになった状態となる。

 

 体に全く力が入らない。

 顔も動かすことが出来ず、胸に刺さったナイフを確認することはできずにいる。

 

 だが、ナイフの存在は流れる血の温もりが教えてくれていた。

あと1~2話で、このバトルは終了です。

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