俺は魔法剣を美幼女勇者に教えたい 『暇だったから……』
※2015/04/12加筆修正しました
世界樹の近くでイリアは目を瞑り集中している──。
『ときおり吹き抜ける風に白金の髪は揺れ、透き通るような肌は木漏れ日によって撫でられている。瞳を閉じたその姿は、神に祈りを捧げる聖女のような神聖さに満ち溢れていた。ああ、彼女こそが絶望の時代に人々が望み焦がれる、勇者という希望の体現者。彼女こそが……』
「……クレス」
「うん?」
「あ、あの」
「?」
「あまり恥ずかしいことを言わないでください」
「暇だったから…」
俺の称賛はお気に召さなかったようだ。
暇つぶしに賛美してみたのだが、かなり恥ずかしいぞ──。
イリアの魔力も乱れているな。
どうやら、イリアも精神的なダメージを受けたようだ。
訓練の邪魔をするわけにはいかないから、これ以上話すのはやめようと思う。
こんな感じで今日の精霊訓練は終わった。
でも折角だから──。
「帰る前に、お土産を拾っていこう」
「お土産ですか?」
「ああ」
世界樹は樹皮一枚すら、色々な使い道がある。
だが今回手に入れたいのは──。
「太めの枝が欲しい」
「では、枝をいいのですね」
「ああ、世界樹の枝で木剣を作りたいんだ」
このあと、世界樹の枝で木剣を作る理由を伝えた。
世界樹は、膨大な魔力を持っている。
枝や葉などあらゆる部分に、高濃度な魔力が含まれるんだ。
だから魔力を武器に通す魔法剣の練習と相性が良い。
「では、私が魔法剣の練習をするために必要ということですか?」
「ああ、そうなる」
「では、基本から一歩前進ですね」
「そうなるな。素ぶりの時に魔法剣を使いながらという形になる」
「楽しみです」
これからの訓練に思いを馳せて、イリアは満面の笑みを見せている。
──脳筋になりかけていないか?
「魔法剣の訓練は、剣と魔法の訓練を同時に行えるから効率的なんだ」
「あの……」
「うん?」
「今まで、どうしてやらなかったのですか?」
俺は余計なことを言ってしまったようだ。
イリアと俺が向きあったまま、時だけが過ぎていく。
「…………」
「…………」
「…………」
「忘れていたということは……」
「ハッハッハッハッハ 早速、枝を探そうか!」
笑ってごますことにした。
*
俺とイリアは、まだ夕日へと太陽が変わらないうちに作業を開始した。
世界樹の枝を探すのは難しくない。
森に生えた木の枝と、世界樹の枝を区別すれば良いだけなのだから──。
「世界樹の枝には、大きな魔力が宿っている」
「はい」
「だから精霊と仲良くする時の感じで、魔力を周囲に流すんだ」
「?」
「周囲に魔力を流すと、強い魔力を捉えることが可能になる」
「では……魔力を使って世界樹の枝を探すのですね」
「そういうことだ」
精霊を捉えるよりもは、世界樹の枝を探す方が楽なハズだ。
この魔力感知の訓練から始めた方が良かった気も──まあ、いいか。
「じゃあ、始めてくれ」
「はい!」
イリアは、目を瞑り魔力を流し始めた。
最初は慣れない作業で戸惑いが見てとれたが──
それから20分ほど経つと、世界樹の枝を発見することに見事成功した。
「じゃあ、コイツは俺が木剣にするから預かるぞ」
「私がやらなくても良いのでしょうか?」
「木剣を作ったことないだろ」
「ええ」
「世界樹の枝は高級素材だからな。慣れているヤツがやった方がいい」
「そうですか」
こうして俺は、イリアが訓練をしているときの暇つぶしを手に入れた。




