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君の心と廻る廻る形  作者: ほくる
9/26

霧と記憶

―――9話―――


アレンはまったりと大海原を眺めていた。

人格が入れ替わらないというのはなんと平和なことか、

今までの数々の災難を思い返しながら幸せのため息をついた。

「何よりヨウに後ろから殴りかかられないし、

夜襲をかけられることもない」

「ちょっと、人を野蛮人みたいに言うのやめてくれる?」

いつの間に近くにいたらしいヨウに独り言を聞かれたが

気にしない。

「違ったか?」

「全然ちがうだろ?ちょっと男が苦手なだけで…」

ゴニョゴニョと語尾を濁らせるヨウ。

「そう言えば俺のことはもう平気なのか?」

「まぁ、外身は一緒に風呂に入った仲だしね」

「そ…そのネタはやめろっ…」

頭を抱えるアレンにニヤニヤと意地悪な笑を浮かべるヨウ。

操縦室から出てきたマオが二人の姿を認めると声をかける。

「あんたたちーそろそろ幻覚の霧とやらに突入するから

中に入ってなよー」

「はーい」

ヨウが歩き出す後に続いて、

アレンも部屋に入ろうとするが急に視界が真っ白になる

「もう霧が!?」

手探りで壁を探しながら前に進む。

ほんの数歩先も見えないこの状態、

不用意に動き回って海に落ちたら大変だ。

アレンは壁伝いに船室にたどり着き、扉を開けると

突き当たりに設置された長椅子に見知った顔が腰かけていた。


それはここにいるはずのない人物だった。

ふんわりと伸ばした金髪を後ろで一つに縛り上げた青年。

外の世界に出てからその存在は珍しいものだと知った、

村では当たり前だった特徴的なすっと長い、尖った耳。

確かそれを聞いたマオは彼をエルフと称していた…


「クラム…!?」


見間違いではない。

口に馴染んだ、兄のような、幼馴染のような相手の名を呼ぶ。

その声でクラムはアレンの顔を認めたのか、

ひどく暗い表情で口を開いた

「レアン…僕は君がその気にさえなってくれれば

いつでも手を貸せる。戦えるんだ」

今なんと言っただろうか、村で過ごした16年間、

一度も混同することのなかったアレンとレアンを彼は今…

「間違えるなよ、俺、アレンだよ」

そう口に出して気づいた、確かにこちらを見ているのに、

目が合わない。

クラムはどこか遠くを見ている…自分じゃない、誰かを。

「そう言って…君は人間を信じていたいから、

世界から目を背けているんだろ」

「何を言って…?」

戸惑いながらもアレンは必死に考えた。

クラムは初めに自分をレアンと呼んだのか、

ならこれはレアンに向けた話だ。

しかし全く内容が見えない。

クラムはレアンと、自分が眠っている間、

一体どんな話をしていたのか…

「待っているだけじゃ君の体を取り戻せる気がしないんだ」

「体…?レアンの本当の体の話か?」

とても悔しそうに、何かを堪えるような表情で続けるクラム。

「それに、僕はあいつにどんな顔をすればいいか分からない」

「あいつって…」

こんな表情をするクラムは初めて見た。

いや、正確には夢で一度見たか、

そうか…これは夢なのか

「無理だよ、君を壊してしまうもう一つの人格になんて、

会いたくないんだ」

もうひとつの人格、それは

「俺…?」

クラムは長椅子から立ち上がり、続ける。

「いやなんだ、君が一つずつ僕のことを忘れて、

あいつが素知らぬ顔をして僕の名前を呼ぶ…」

「クラム…?」

「呼ぶな…」

拒絶され、へなへなとその場に座り込むアレン。

こちらに歩み寄るクラム。

「僕は君を守れなかった。名前を呼ばれる資格なんてない」

「俺は…ずっと…クラムに…」

どう思われていたのだろうか、

頼りになる、お節介焼きな、いつも笑顔のクラムは…

「そうだよ、取り繕って、自分をごまかして」

「やめてくれ」

村を出なければならなくなったあの時、

クラムに言われた台詞が頭をよぎる。

君に選択権はない、と、

「でもレアン、君の頼みだから、ずっと耐えているんだ。

本当はあんなやつ」

「やめてくれっ!!」

「僕を動かしているのはあの時からずっと憎しみの感情だ」

記憶の中のクラムがバラバラと音を立てて

塗り替えられていくようで

「聞きたくない」

アレンは耳を塞いだが、言葉は直接脳に届くように響く。

「何度生まれようと魂ごと消してしまえればいいのに」


「いやだぁぁっ!!」


「アレン」

アレンの肩に手がふれ、

驚いて顔を上げるとそこにいるのはカリウだった。

「…リゥ」

「随分と酷い顔をしていますね、これも幻覚の霧の効用ですか?」

「幻覚?」

気づけばアレンの顔は涙でぐしゃぐしゃになっていた。

「あなたが宙に向かってしきりに何か叫んでいたので、

正直声をかけるべきか悩みましたが」

すっと差し出されたハンカチを受け取り、顔を拭う。

「…あ…ありがとう」

「どういたしまして。洗って返してください」

事も無げに言うカリウに安堵を感じ、アレンは呼吸を整えた。

「でも…何で俺だけ?」

「あなただけではないでしょう」

そう言って上を天井を見るカリウ、

上からヨウの悲鳴のような叫び声が聞こえてくる。

「み…皆をいったんここに集めよう」

「賛成です」



「助かったよ…まったく…酷い夢だった…」

うんざりだという顔でぐったりと椅子に腰掛けるマオ。

「ひっぐ…ぇっぐ…こ…ぁく…なんか…ないもん」

ヨウはアレンにすがりつくようにして嗚咽を漏らしている。

「一体どんな幻覚を見たんだ?」

「あー多分、男嫌いの原因」

「何?」

「まぁ、昔ちょっとね…」

気にすることじゃないと言いたげに、マオに目の前で手をひらひらされて、アレンは少しむっとする。

「うわああああああああ」

「な?なんだ?」

甲板の方から聞こえた絶叫にマオは驚いて立ち上がる。

「まだ一人忘れてたみたいですね、行ってきます」

そう言ってカリウはそそくさと部屋を出た。

リクか…あいつは全く…等とつぶやきながら

マオは椅子に座り直した。

「しっかし…幻覚の霧って、全然楽しいもんじゃなくて

がっかりだ、霧を抜けたら普通に進路通り進んでたし、

船乗りたちが恐れてるなんて言うほどのものじゃなかったな」

出発前の好奇心はすっかり収まったのだろう。

退屈そうに毛先を弄るマオに、

アレンはふと浮かんだ疑問を口にした。

「いや…もし、誰も幻覚から覚ましてくれなかったら…?」

「カリウみたいに幻覚にかからない奴が一人いれば安心だろ?」

くだらない質問するなよ、とでも言いたげな返答だった。

「…そうかな」

やや納得いかないアレン。

出ていってからそう経たずにカリウが船室に戻ってきた。

「大変です。リクさんが船の外壁に引っかかった状態で

助けを求めています。私一人では救出できません」

淡々と述べられる乗員の危機。

「あんた!もうちょっとヤバい!!的な表情で言えないわけ?」

しょうがないなぁとマオが立ち上がり、救出に向かう。

アレンも後に続こうとしたが、ヨウにしがみつかれて動けない。

「離せよ」

「いっ…ぐずっ…だ…ぐずっ」

気づけば船室に二人取り残されてしまった。

「何だよ…いつまでそうしてるつもりだ」

「ぁと…あんじゅっ…ぷん…」

アレンは諦めたように椅子に座り直した。


「…はやく泣きやめよな…」

「…ん」


何を話すでもなく、ただしがみつかれるだけの奇妙な時間は

その後リクが救出され、部屋に戻ってくるまで続いた。

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