騎士と船旅
今回はギャグパート(?)です。
王からの直々の依頼を見事達成したアレンたちは、
報酬として希望通り船が贈与された。
しかしそこにはひとつ条件が付けられていた。
第二大陸までの往復に、国の兵士を乗せること。
旅の集団と称して視察隊を送りたいのだそうだ。
いわゆるスパイである。
隊などというからどれだけの人数が搭乗するのかと思いきや、
出港の日にやってきたのは背の高い短髪の騎士一人だった。
―――6話―――
トムヴェルグ・トマス・ローベルト
騎士はぶっきら棒にそう言った。
いくら仕事とはいえ、こんな頭の軽そうな奴らと何週間にもわたる船旅を共にするのは納得いかないとでも言いたいのだろう。
名前だけ言い終わるともう構わないでくれと言ったオーラをこれでもかと発し始める。
「トムヴェ…うわめっちゃ長い名前」
王様の前は無礼な態度を取らないよう気を付けていたらしいマオは、城を出るなり真っ先に失礼な言葉を騎士にぶつける。
「あだ名を付ければいいんじゃないかな?」
腫れた両の頬を冷やしながらにこやかに答えるレアン。
その頬の惨状は、狭い船に男が二人もいたら死んでしまうと喚くヨウに乱暴なやり方で呼び出された結果だ。
「トトでいいじゃん?」
遠くから騎士を睨みながら言うヨウ。
「さすがに短くしすぎでしょ、
長い名前って言う折角の特徴が殺がれてるじゃん」
その提案に反論するマオ。
あだ名提案に乗り気になる女子(?)三人組は
剣士の不機嫌などお構いなしだ。
「じゃあトトロなんてどうかなー」
レアンのウキウキしながらの提案に、
1文字足しただけじゃん!と突っ込む者は誰も居ない。
ただ、腕を組み、無視を決め込もうとしていた騎士の頭に
どこぞの国のでかくて丸い妖精の姿が浮かんだのか、
わなわなと震え、それだけは止めろと別の案を促す。
「やっぱトトでいいじゃん」
遠くからヨウが再度提案すると
二人は渋い顔をしながら縦に首を振った。
かくしてトムヴェルグ・トマス・ローベルトは
この色者集団にトトと呼ばれることになった。
この任務は必要な情報を集め、
再びヴィレーンに戻ってくれば終わるのだ。
耐えろ。耐えろ。
そう言い聞かせるトトの身に降りかかる試練は実に様々だった。
暇さえあれば城の兵士寮での生活について
延々質問攻めにしてくるマオ。
一瞬でも目が合おうものなら
厨房に出る黒い虫を見つけたかのような悲鳴を上げ、
どこかに走り去って行くヨウ。
日によって喋り方から仕草までガラリと変わるレアン。
いや、アレンか?どうやら奴には二つ呼び名があるらしく
周囲はその性格によって名を使い分けているらしい。
どうせ数週間の付き合いだ、覚える必要もないだろう。
そう高を括っていたのだが、船長であるマオの命令で
恐ろしいことにトトはアレンと同質になってしまった。
二人部屋が五部屋あるこの船なら、
四人で乗る分には一人一部屋あるはずなのに
何故同室にならなければならないのか。
理由を理解するのには少しばかり時間がいった。
「無理やりレアンを呼び出すのはやめてくれ!
こうも毎日往復ビンタされたら頬の腫れが慢性化する!!」
航海から4日目の朝、
起きがけにただならぬ殺気を感じたアレンが咄嗟に避けると、
そこにはフライパンを振り下ろすヨウがいた。
船旅が始ってからアレンは毎朝攻撃を仕掛けられていた。
なんでも、彼は強い衝撃を受けると
姉妹がレアンと呼ぶ人格に早変わりするらしい。
男嫌いのヨウとしては、女性人格のレアンのままでいて欲しいのだが、朝起きる度に男性人格に戻ってしまうため、
毎朝寝起きを襲われていたとのこと。
「勝手に部屋に入れるぐらい平気だったら、
レアンを無理やり呼び出す必要ないじゃないか!」
「必要ないなんて言うな!私はレアンと話がしたいんだ!!」
勝手なことを喚くヨウ。
レアンの存在のおかげか、ヨウはトトに対するほど
アレンに酷い拒絶反応を示さないが、
結果毎朝ヨウに部屋に入られ奇襲をかけられているのだ。
トトと同室というのはいわば、ヨウ避けのためだった。
「この先ずっと、アレンが勝手に気絶しない限り
レアンに会えないの!?そんなのやだ!!」
喚くヨウを尻目にトトは不幸中の幸いを喜んでいた。
人を見るなり奇声を上げるヨウのことはもちろん苦手だが、
男の見た目で女々しい行動、話題を振ってくるレアンは
殊更苦手だった。
アレンはこの中では比較的普通の人間であり、
同室だとしても最低限の関わりで済みそうだと…
だがその考えは甘かった。
姉妹の前では比較的言葉数少なく、
ややドライな対応を取っているアレンだが、
いざ二人きりの個室に入ると打って変わって饒舌になるのだ。
「すげぇな…国の兵士かー、強い奴が大勢集まってくるんだろうなー、大勢で立ち回りの練習とかするのかなー、トトはその中でどれぐらい強いんだ?」
好奇心に輝く少年の瞳が
部屋の反対側にいるトトを捉えて離さない。
「命令でいろんな国に行って、いろんな相手と戦って、楽しそうだなー」
「楽しいという事はない。弱ければ死ぬ。そういう仕事だ」
トトは目も合わせず、暗い単語で会話を切って終わらせようとしたが無駄だった。
「つまり今日までこうして生きてるってことは、
トトは強い剣士ってことかー」
確かに、トトは負け戦知らずだったが
それは単に相手が弱かっただけともいえる。
「トトに剣術を教えたのはもっと強い剣士なんだろうなー会ってみてぇなー」
ふと、自分の記憶を探るが
剣術の師として思い当たる人物は居なかった。
騎士として名家に生まれ、学業も優秀で
剣術の方も指南書丸暗記の基本に忠実な立ち回り。
実績ではなくエリートコースを突き進んできた自分に
やっかみこそいたが、仲間などいなかった。
「剣術の師か…俺にもいればよかったんだがな」
「え?」
「俺が敬うのはヴィレーン王ただ一人…」
「えーあの王様―!?」
アレンの頭には姫の捜索を頼まれる際の
王の情けない発言が浮かんだのだろう、
トトは咳払いを一つすると、王を愚弄するな、とだけ言った。
――――――
「ねー第二大陸まだ―?」
航海から10日ほど経っただろうか、
ヨウはぐったりしながら操縦室のマオに訊ねる。
「明日には着くよ」
「明日になったらアレン殴っていーい?」
「それは…ダメだろ」
「はー」
姉妹の会話のなど露知らず、
甲板ではアレンが今日もまたトトを質問攻めにしている。
「な!一回でいいから!!」
「何度も言うが、俺は稽古は苦手だ、加減が出来ん」
「でも昨日の夜手合せしてくれるって約束しただろ!?」
「そうでも言わないとお前が喋りやまないからだろ!!」
「男に二言はない!ない!」
「くっ…」
マオとの話に飽きたのか、ヨウは男二人の会話に首を突っ込む。
「なになにー」
長い航海のうちお互い大分慣れたのか、
トトが不用意に声をかけたり、目を合わせたりしない限り、
ヨウはトトと同じ空間にいられるようになったらしい。
「ああ、トトがな、昨日俺とした約束を果たさないんだ。
国の偉い騎士のくせして!」
アレンの悪戯っぽい物言いにヨウも便乗する。
「えー?そう言う奴なんだー」
「お前らなぁ…」
子供二人に挟まれてととの表情には疲れが見える
「あっ、もしかして、俺に負けるのが怖いから戦えないとか?」
「ははは、さすがにそれはないでしょ」
あからさまな挑発をするアレンにやはり便乗してくるヨウ。
一体何を考えているのか。
「…どうなっても知らんからな」
震える声でそう答えると二人は同じ言葉で喜んだ。
「「そうこなくっちゃ!!」」
一瞬何故ヨウまで喜ぶのかという顔をしたアレンだが、
すぐにトトに向き直る。
「へへーがんばってー」
傍観者気取りとはヨウの立場は気楽なものだ。
ため息をつと着ながらトトは近場にあるモップと箒を取った。
操縦室で一人、マオはこれからの旅に思いを馳せていた。
ずっと夢だった船旅、それが今現実に…
もう何処へだって行けるのだ。
心配の種だった妹の男性恐怖症が
改善の兆しを見せているのもまた幸先が良い。
舵を握りながら鼻歌を歌っていると、
頭上から何か大きなものをぶつけたような恐ろしい音がする。
「何やってんだ、あいつら…」
慌てて甲板に出てみると、ところどころ床がえぐれ、
壁に切れ込みが入り、大惨事になっている。
そう、すべて目の前の男二人が暴れた結果なのだ。
「おい!やめろ!!この船を沈める気か!!」
アレンとトトの稽古、もとい勝負は
マオの拳骨を持って終了した。
3人とも正座をさせられ、頭に大きなコブを作っている。
「だからあれほど言ったんだ、手加減出来ないと」
不服そうな顔で溢すトトに再びマオの拳骨が飛ぶ。
「挑発されたからって船の上で暴れんな!!」
「申し訳ない…」
女性にこんなことで怒られるとは、と
非常に悔しそうな顔をしながらトトは俯いた。
「ごめんなさい…またアレンが勝手なこと…」
ボロボロと涙を流しているのはレアンだ。
マオの拳骨が痛かったのか、トトの一撃を受けたのか、
ダウンしたアレンはこの反省タイムに全く参加していない。
「ああ、レアンはいいの、どっちかって言うと悪いのは…」
「久しぶり!レアン、ここ最近どうだった?」
申し訳無さそうに縮こまるレアンの横で
上機嫌でちょっかいを出す妹に怒りが湧く。
「お前だっ!!」
ゴッ!!
マオの拳骨(2回目)を食らったヨウは
慣れているのか頭をさすりながらもへらへらしている。
「でも私は約束通りアレンを殴ってないからねー」
「はい…マオさんの拳骨痛いです…」
なんて腹立たしい光景なのだろう。
何とか怒りを押さえ、大きく深呼吸をしてマオは声を張った。
「全員!船の修理に取り掛かりな!第二大陸に着いた時
こんなおんぼろじゃ港に入れて貰えないよ!!」
「「「はい…」」」
第三大陸という大きな壁に遮られ
波風の少ない穏やかな大洋の上を、
必要位以上に賑やかな船がポツリと泳いでいく。
第二大陸へ…




