飛竜と受け継がれる想い
―――5話―――
「調べるって言ってもさぁ…全然手掛かりないよね」
一体どれだけ歩き回っただろうか、
大臣が言っていた闇市のあるらしい場所に出向いたはいいが、
これといった手応えのある情報はなく、ヨウは疲弊していた。
「全然ってことはないだしょ、闇市のボスでも縛り上げれば
誰が最初にこの装飾品売りに来たか分かるわけだし」
「そのボスが分からないんじゃーん」
城下町からやや離れた場所にある市場で途方に暮れる3人。
毎夜ここで開かれる筈の闇市も3人が張り込んで丸二日、
何の動きも見せないでいる。
「私ら多分城に雇われた人間だってばれてるだろうしな…」
「警戒されちゃってるってわけ―?」
「うーん、まいったねぇ、あれ?アレンは?」
「ん?」
アレンは二人から少し離れた所で
小さな露店を開いている老人に話しかけている。
ヨウも駆け寄り、話に加わる。
「何してるの?」
「第二大陸に渡る船、国に内緒で出てないか聞いてたんだ」
「え!なに?早速任務放棄?」
茶化すヨウに、アレンは普通に言葉を返す。
「いや、そうじゃなくて…もしかしてお姫様、
この大陸に居ないんじゃないかと思って」
「なんでそうなるわけ?」
ヨウはアレンの考えに疑問を投じるが
マオは関心を示すように唸る。
「…たしかに、こんだけ分かりやすい商品売っておいて、
いつまでもここに留まってたら捕まえてくださいって
言ってるようなもんだしね」
やりとりを眺めていた老人が口を開く。
「思い当たる船といったら、密漁船や海賊船、
そういう類の船でしょう」
「そう言う奴らが使う隠れ港ってわかるかしら?」
ずいっと身を乗り出し情報をねだるマオに老人はにやりと笑う。
「教えられませんなぁ…」
「なんでっ!?」
意地悪だ!と抗議の声を上げるヨウにも老人は笑って答える。
「情報も商品でしょう、ただじゃ教えられないんです。」
「じゃあこれ」
マオは王から手がかりにと受け取った装飾品を取り出すと、
老人に渡してしまう。
「おお!すばらしい、私がその場所まで案内いたしましょう!!
ついて来なされ!」
「やった!」
老人がその宝飾品に目を輝かせ、すっくと立ち上がる。
マオも軽い足取りで後に続く。
残されたアレンとヨウは互いに目を見合わせた。
「あれ簡単に渡しちゃっていいものだったの?」
「さぁ…」
ーーーーーー
「ここじゃ」
老人の案内に従い、不思議な光に満ちた小部屋に入った次の瞬間、
アレンたち3人は見知らぬ小さな港に着いていた。
「ヴァレーンから南に位置する、
コルル街の外れにある港じゃよ」
それを聞いたマオは目を丸くする。
「それって、正規ルートで行こうとすると
飛竜山を越えなきゃいけないから2日はかかるところよね」
「ふぉっふぉっふぉ、これだけのものを頂ければ
これぐらいお安い情報じゃよ」
「ありがとーん」
マオが老人に抱きつくと老人は胸の谷間に頭を埋めてまた笑う。
「じゃあ、早速情報集めね…」
ここでもまだやることがあるんだとため息を漏らしながら、
ヨウは人の多そうな方向へと歩みを進める。
「…姫様…こんな顔の人…」
王からもらった姫の肖像画の入ったロケットを見ながら
アレンはヨウの後をついて歩く。
「本人が直接見つかるわけないでしょ、
まずは金品売りさばいてる犯人捜しよ」
老人と別れを告げたらしいマオが後ろから追いつき、促す。
「うーん…この人込みの中をねぇ」
少し歩き始めるとアレンが何かにぶつかる
「うわっ」
「すっすみません!」
ぼろ布を頭からすっぽりとかぶった少女が
アレンの手から滑り落ちたロケットを拾い上げようかがむが
動きがぴたりと止まる。
「これ…」
「?」
アレンが少女の顔を覗き込むと、その挙動に納得が言った。
「もしかして、君…」
「姫様…?」
気づくと横からヨウも少女の顔を覗き込んでいる
「マジだ、見つけちゃった…」
――――――
港町外れにある食堂でアレンたちは安堵のため息を漏らした。
一時は絶望的かとも思われた依頼の本題である姫が
今、目の前に、目立った外傷もなく、
こうして座ってくれているのだから。
「銀髪ねぇ…見てないけど…」
「そうですか」
マオの唸りながらの答えに姫は残念そうに俯く。
と、言うのも、姫をここまで連れてきてくれたらしい人物は
サラサラの銀髪に、爽やかな笑顔、紳士な立ち振る舞いと、
なんとも目立ちそうな外見的特徴を持っているのだが、
アレンたちと出会う少し前にはぐれたらしく、
姫は今もその所在を気にしている。
「そんだけの奴ならすれ違っても気づきそうなんだけどねー」
この街も残念な荒くればっかりだったし…と肩をすくめるヨウ。
「その人、第2大陸に行きたいって言ってたなら、
どこかで船を見つけて、もう行っちゃったんじゃないかな?」
アレンのつぶやきに姫は肩を落とす。
「やっぱりそうなんでしょうか…」
「それなら私たち、お姫様をお城に送り届けたら
お礼に第二大陸に行ける船を貰う約束になってるんだよ、
行った先で見かけたら連れてきて上げるってどう?」
立ち寄った飲食店で別れた青年について語り始め
なかなか動こうとしない姫を帰城させる方向に話を整えるマオの思惑通り、姫は目を輝かせて大きく頷いた。
「ええ!是非、ぜひお願いします。」
「じゃあ、食べ終わったらすぐお城に向かおう」
よし来たと帰り支度を始める三人を制止する姫。
「でも、その前に一つ…」
「何?」
――――――
岩肌がむき出しになった灰色の山道を上り詰めると
そこはちょっとした広間になっていた。
広間中央、円を描くように大小様々な石が並べられているのは
姫曰く飛竜の寝床だそうだ。
姫が城に着く前にしておきたいことというのは
飛竜山の参拝だった。
「でもさ、お姫様一人で来ないと竜はへそ曲げるんでしょ?」
「いいえ、ご覧のとおり、飛竜はもういませんから」
ここ数年飛竜山が一般人の立ち入りを許してしまっているのは
竜の不在からだった。
大人しい竜とはいえ、邪な気持ちで近づこうとする者を
威圧するくらいの事はしていたらしい。
「私が子供の頃、母がこっそり教えてくれたんです。
飛竜はもう死んだのだと」
「寿命…?」
アレンが尋ねると姫は小さく頷いた。
「竜の寿命は800年ほどと言われています。
それだけの年月、この国を、私たちを見守ってくれた竜に、
もう守ってくれる力がないとしても、お礼を言い続けたい…
母はそう言っていました」
懐かしむように寝床の前で両膝をついて指を絡め、
祈るような姿勢をとる。
「私も同じ気持ちです。だから飛竜が拗ねるとか、
そういう心配からではなく、私自身の意思で、
母たちがしてきたように、一人で参拝をやり遂げたかった…」
「でも、できなかったと」
「…ええ、少し、悔しいです」
以前国が窮地に陥った時、飛竜は既に亡くなっていた。
しかし王女はそれを公表せず、竜からのお告げだと民に解き、
自らの政治手腕で情勢を立て直した。
その事は代々この国の女王にのみ伝えられている。
母から聞いた先祖の姿に、姫は強く憧れていた。
「姫様の気持ちや頑張りは、天国の飛竜にきっと届いてるよ」
そう言ってヨウは姫に笑いかけた。
腕を組んで頷くマオ、肩の荷が降りたように頬笑む姫。
アレンは…
アレンには天国がどんなものなのかわからなかった。
――――――
「よくぞやってくれた!!」
「約束通り、船は用意させていただきます。」
姫と三人の帰還に城は湧いた。
姫の失踪自体が機密事項なのでこっそりとではあるが…
「で、ついでにもう一つ、お主らに頼みがあるんじゃ」
報酬の船が約束された今、
ついでというのは第二大陸への用事だろうか?
さらに報酬が弾むのならと言いたげな表情でマオが続きを促す。
「王!!まさか!!」
「そう。そのまさかじゃ」
こちらには全く分からないそのまさかに苛立ちヨウが急かす。
「何?」
「それは船が用意できたら合わせて話そう。
明後日、港にて、じゃ。」
妙に勿体付ける王にアレンは肩をすくめた。
「この王様…なんだかなぁ」




