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君の心と廻る廻る形  作者: ほくる
22/26

命令チップと記憶の消去

今、何と言っただろうか、

こちらを覗き込むようにニタニタと下衆な笑みを浮かべる白衣の男…

それの発した言葉に、まるで全身が悲鳴を上げているかのように強張り、痛み

魔力を吸い上げようと体につながれた管を通してその感情は渡り、

灰色の景色は爆発的な不協和音と共に真っ白になる。


「うわあああああ!!」


飛び起きたアレンはぐっしょりと汗をかき、息が荒い。

「どうした!?まだどこか痛むか!?」

近くに居たらしいヨウが駆け寄り、声をかける。

「いや…今のは…」

徐々に働き始める頭が周りの景色を捉え、同時に自分がここに来るまでのことを思い出す。

「アレン、あの後気絶しただろ?だからここまで私が運んで、ラグリアって人が治療してくれたんだ」

「ラグリア…」

聞き覚えがあるように感じるのは、魂継ぎによって獲た、遠い昔の記憶からだろう。

「なんていうかすごい人なんだ。魂継ぎの術とかカリウ並みに詳しくて、人造人間のこととか…色々教えてくれたけど難しくって…」

「カリウ!あいつは無事なのか!?」

「えっ…うん、治療は済んだけど、施工が完璧すぎて元に戻せないとか何とか…」

ヨウが言い終わる前に寝台を出、その顔が示す方向へアレンは向かった。


―――16話―――


自分が寝ていたのとはまた別の部屋、そこにも二つほど寝台が備わっている。

「カリウ…」

表情もなく、ただ天井を見つめていた人物は、声をかけられてゆっくりと上半身を起こした。

「申し訳ありません…私の認識ミスで…」

口を開くなり謝ってくるのはミゼルのことについてだろう。

「私が簡単な道を選んだばっかりに」

「違う」

カリウの言葉を遮るようにアレンは首を振る。

「カリウはずっと騙されてたんじゃないか、ミゼルのふりをした、こいつに…」

そう言って自分の胸を指すアレンから、視線を落として呟く。

「真実はどうあれ、お二人の脱出が叶わなかったのは私の力量不足故です」

あの改造エルフは、人間にこそ恨みを持っていても、ミゼルの命は保証してくれるものだと思っていた。

それはアレン…アゼットも同じだった。

だからこそあの場所で自分の正体を明確にすることはなかったのだ。

「私は…あれだけお傍に居ながら…ミゼット様の意向など、何も汲めずに…っ」

汲めるはずもないだろう。ミゼルはあの時から一度も表に出て来なかったのだから。

それに…

「お前、人の気持ちなんて分かる筈ないって、前に俺に言ってただろ…」

考えるだけ無駄だとすら…

それがなぜ今、このように彼を思い悩ませているのか、

震える両の手で顔を覆う様にしてカリウは答えた。

「私はあなたに見放されるのが怖い…」

一瞬、何を言っているのか分からなかった。

「あなたの大切なものを守れなかった私を…あなたが不要だと判断するのが…」

「カリウ…?」


「今の私の主はアレン、あなたなんです」

そう言ってカリウが両横の髪をかきあげると、その耳元にはあの改造エルフと同じ機械が付いていた。

「あなたはここで、私の記憶を再び無に返すことができる」

「何言ってるんだ…」

「要らなくなったら消して、誰かに譲るでも、処分するでも、好きなようにすればいいんです。

その権限が、あなたにはある」

機械部分を露出するよう髪を支える手は震え、

カリウが何よりそれを恐れていることを表していた。

今まで積み上げてきた記憶が消えるというのは、どういう感覚なのだろう。

それは全ての終りなのだろうか、

それとも、新たな始まりか…


――――――


「昔は、もっと陽気な…愛と詩が大好きな人だったの…」

神妙な面持ちで言うレアンの視線の先にいるのは、作業台に横たえられた改造エルフのケシャ。

その上を、無数の機械の腕がせわしなく動き回り、何かを探そうとしている。

あの時炎に巻かれ、動かぬ人となってしまった彼も、ここ、ラグリアの施設に運ばれてきたのだ。

「間に合わなくて残念ね…この程度の不完全な施工なら、解除することも出来たかもしれないのに…」

腕を操っている本体だろう。画面の女性がそうこぼすと、レアンは咎めるように首を振った。

「起きてしまったことはしょうがないわ、彼をそうさせた外的要因が無いか探し、取り除く。いま私たちに出来るのはそれだけよ」

「そうね。その後はいつものように埋葬して…」

「ずっと…こういう事をしてきたのね」

長い間その役割を一人で負い、続けてきた友人を思い、レアンは胸を抑えた。

「ねぇレアン…あの時は私、その体を使って死のうとしたけど」

「…?」

「この仕事が全部終わったら、私をあなたと同じ体に住まわせて」

「…」

「魂が消える最後の時を、一番近くで過ごしたいの…わがままかしら」

レアンの涙ながらの説得も、ラグリアの死への渇望を止める力にはならなかった。

せめて、やり残したこと…過去の遺産の浄化を済ませるまでは、

そう言ってもう少しだけラグリアはここに留まる事を約束してくれた。

無理をさせていることは十分に承知している。

これが終わったら来るその時に、衰え行く友人を外側でただ見守るだけよりは、

同居し、心のうちで薄れゆく魂を感じた方が…

そう考えてレアンは頷いた。

「それも、いいかもしれないわね」

ふと、機械の腕の動きが止まる。

「あったわ…」

ケシャに取り付けられた機械の奥深くに、潜むように埋め込まれた小さなチップ。

機械の腕がそれを取り上げ、別の機械へと移す。

「戦争時代、記憶を消されもの言わぬ人形と化した彼らに、都合良く戦闘の技術、行動の目的を与えるために配られたものがあるわ。ちょうどこれと同じ様な記憶チップ…彼らはこれに逆らうことは出来ないの」

そう言いながら今取り出した物の解析を進める。

「でもこれはそれとは別物のようね」

「別モノ?」

「比較的最近に造られたものなの…ここに書かれた目的も、そう…簡単に言ってしまえば、人類への復讐」

「…復讐…?誰が、そんなこと…」

「調べる必要があるわ。最近と言っても、2~300年前のものだから、人間を当たっても犯人は見つからなさそうね」

その言葉は、ケシャやカリウの他にもあの戦争時代から生き残っているエルフがいる可能性を示していた。

だとすれば止めなければいけない。

それが残された自分の使命なのだと、レアンは決意と共に拳を固めた。

「頼みがあるんだ」

ふと、後ろから声をかけられてレアンが振り返るとそこにはアレンが立っていた。

「兄さん…」

画面の女性にそう声をかけられて申し訳なさそうに頭を掻く。

「転送装置を貸してほしいんだ」

「どこに行くつもりなの…?」

「ミゼルの居た研究所に…さっきの話、俺にも調べさせてほしい」

不安そうな表情のレアンに、安心して欲しいという風に付け足す。

「カリウも一緒に来てくれる」

彼ならある程度はあの場所に詳しい。

ケシャの主な行動範囲はあの建物内だけだったので調べるならそこしかないだろう。

それに、この目で確認するまではケシャの発言が信じがたいというのもあった。

「それなら、私も行くわ」

そう言ったレアンの決意は固い。

「じゃ、じゃあ私も!」

さらに後ろの方で、聞いていたらしいヨウが声を上げる。

その横でマオやリクも頷いている。

彼らはどこまで付き合うつもりなのだろう。

ついでの好奇心やお節介にしたって出過ぎだろう、とアレンが困った顔を見せると、

画面の女性は笑いながら小型の端末をレアンに手渡した。

「これがあればいつでもここに連絡できるわ。何か分かったらすぐに知らせてちょうだい」

レアンが黒い板状のそれに触れると光がともり、画面と同じ映像を映し出す。

「わかったわ。ありがとう、ラグ」


端末を握りしめ、一行は再び、取り残された古代技術の集結する建物へと向かった。


転送装置は、それが設置された場所と場所を繋いで瞬間的に移動できるようにするもの。

ラグリアに渡された小型端末はその役割も担っていて、

リンクした本体がある場所になら一方通行ではあるがどこからでも移動が可能になる。

以前カリウがアレンを研究所に連れて行くのに使ったのも同型種で、その研究所とリンクしているのだが、

それは向こうにおいて来てしまったという設定です。(本編外の説明長い…) 

ありがとうございました。次回は明日23時予定。


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