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君の心と廻る廻る形  作者: ほくる
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思い出と憎しみ

灰色の壁に囲まれた薄暗い建物内と打って変わって、太陽の光を浴びた草の黄緑が眩しい

「ここは…?」

まだふらついている足でアレンの後をついて歩くカリウに、思い出したように話し始めるアレン。

「小さい頃…よくここに来た気がする…ミゼルに会いに…」

出てきた名前にカリウは目を細める。

草むらをしばらく二人で歩くと再びアレンが口を開く。

「なぁ…カリウ…俺は…最初から人間なんかじゃなかったのか」

魂継ぎを受けた時に見た断片的な記憶が、息を整えて歩くと徐々に蘇ってくる。

「最初とは…いつからのことを言ってるんですか?」

「たぶん…クラムと、村で、暮らしていた時…」

遠い昔に体を失った人間が、自分を作った。

魂の置き場、空っぽの容れ物として…

それが何の手違いか、長すぎる主不在の時に耐えかねて、体に見合った人格を作り上げてしまった。

「人間ですよ。人間と同じように歳をとり、死ねばその心は無に還る…」

そう答えるカリウはどことなく寂しそうだ。

それもそうだろう。今までエルフの体を拠り所にして、永遠に近い時を生きてきた人間の魂は、

カリウが、どちらも助けたいと言ったその片割れは、

この造られた体を選ぶことによって、残り80年と待たずに消滅するのだから…

「カリウはこれでよかったのか?確かに、ミゼルの魂の消耗はこれで止まるのかもしれないけど、

もう一人は結局今までと変わらないどころか、変な奴らに命を狙われてるんだろ?」

エルフの体に入っていた方が安全だっただろうに、考えて首を傾げるアレン。

「ミゼル様が…いえ、正確にはどちらの言葉だったのかわかりませんが、以前私に話してくれたんです」

そういって話し始めたのはカリウがアレンをここまで連れてきた動機。

沢山のことを教えられる過程で拾った、師の、誰に向けるでもない願いの言葉。

『自然の似合うあいつが、こんな冷たい所にいつまでも閉じ込められていたら心が弱ってしまうだろ』

アレンの目にも、あのエルフは弱って見えた。何が彼をそうさせたのか、体の自由がほとんど効かないほどに…

『自由に動けるようになったら、外に連れ出して、いつもの草原で…』

その言葉を聞いて、アレンは納得した。

だからあの時自分の手は、転送装置の行き先をここに設定したのかと。

そしてその言葉は今ここに居る、この体本来の持ち主の魂が言った言葉だと。

「動かしやすいのはアレン。あなたの方だったので…利用してしまってすみません」

そう言ったカリウは、目的が果たせたとでもいうような、晴れやかな、子供っぽい表情をしていて、

本当に外に連れ出したいのはミゼルの方で、自分じゃない…

そう口にすることは憚られた。

「でも、本当はお二人とも、あんなところから連れ出したいのです」

あの弱った体をここまで走らせるのは不可能だろうが、

周りの妨害さえなければ、いくらでも移動方法はあっただろう。

カリウがそのつもりなら、手伝おうと思った。だってミゼルは…

「ずっと…俺はミゼルのこと…知りたいって…近づきたいって思ってたんだ」

そう口にしてアレンは自分の心に生まれた感情に気づいた。

魂継ぎの術で、アレンは二重人格になったんじゃない。

記憶を、感情を継いで、その人物と同化しようとしているのだと。

口からあふれ出るのは、遠い過去の記憶からの言葉。

「親の研究を手伝って、機械に頼って、それが答えへの近道だと思って、いろんな技術を生み出した。

でも、魂継ぎで体を共有して、一番近くで、その心ごと全部知れた気がした。満足だったんだ。

そうやって置き去りにした技術が…人の手に渡って…」

結果宝物を失ったのだ

家族を失い、友人の心は壊れ…


閉じこもった彼に代わって、あの研究室で、打ち捨てられたエルフたちを助けて…

ふと隣で歩くカリウを見る。

彼もその一人だったのだ。

動かなくなっていたものを直して、1から沢山のことを教えて、

それでいて自分の正体を濁したのは、罪の意識からなのか…

自分が情けなくなった。

「その間…俺はずっと…何も知らずに、普通の人間として生きて…」

知らないのは当たり前だ。アレンは、この体に生まれた偶然で、

にもかかわらず、次々に押し寄せる記憶に息が詰まる。

「そう。だから許せないんだよ」

突然、後ろから声がかかる。あの建物で聞いた声と同じだ。

「誰だ!?」

振り返る先に立っていたのは長い髪を一つに束ね、耳元に機械を取り付けられた、

改造エルフだった。

「僕らエルフの平穏を奪う原因を作った張本人。そのくせミゼル様の体を借りて今日の今日まで生き延びてきた憎い人間。ただ殺すだけじゃ気が済まない」

憎い…そう言われてクラムのことを思い出した。彼もエルフなのだから、

過去の騒動を目の当たりにしていたとしたら…

「クラムも…俺のこと、そう思ってたのか…な…」

「クラム?ああ、折角の素体を盗んで僕の計画を狂わせた大馬鹿ものか」

「計画?」

「アレン、こいつの言う事など聞く価値はありません」

カリウの静止する言葉は耳に入らない。

目の前の人物も確かに、過去の自分にその生を狂わされた一人なのだから。

聞いておかなければならないと思った。

「そう、計画。憎き人間のために作られた素体があるというのなら、魂をそこに移した上で、永遠に僕のおもちゃになってもらうんだ」

おもちゃと言っただろうか、確かあの建物でも、差し向けた改造人間をそう呼んでいた。

「僕らがされたように、今度は逆に改造してやるんだ。さんざん僕らを好き勝手した人間も全員ね」

そう言って放つその表情は狂気に満ちている。

自分ひとりを狙うならまだ理解も出来たかも知れないが、人間、全員?

いまこの世界に過去のことを知っている人間などいないだろう。

「全員だよ…その一歩を狂わせたあいつは死んで当然なんだ!」

「おまえっ…!!」

あいつというのはクラムのことか、いよいよ理解できないその発言にアレンは声を荒げた。

「アレン!」

再び制止の声がかかるが抑えられない。

今まで聞いた話の中から、村をあんなことにしたのは高確率で目の前の相手なのだ。

この感情は、今のアレン自身のものだ。

「さあ、こっちへおいで、記憶は残したまま、自我だけ抜き取ってあげるよ」

「くそ!!」

殴りかかろうと駆けだしたアレンに改造人間が割って入り、切りつける。

「ぐあっ!!」

崩れるアレンを認めて改造人間は脇によけ、主を促す。

「これは遊びじゃない、復讐だよ、」

痛みに歪んだ顔のまま睨み上げるアレンに、屈み手を伸ばすケシャ、

その二人の間にカリウは割り入った。

「…そんな疲弊した状態で僕に勝てると思ってるの?」

威勢よく立ちはだかったかに見えたカリウは、やはり先程からの術の疲れが癒えていない様子で、

それを見とめた相手は嘲笑の声を漏らす。

それに負けじと挑発で返すカリウ。

「お前みたいな、処分令も下されないような失敗作に負ける気はしない」

「言ってくれるねぇ!!」

下から勢いよく顎を掴み上げようとするケシャの手を電撃を帯びたロッドではじくと、

カリウはアレンを抱えて数歩後ろに飛びずさる。

「まだそんな力が残ってたんだ。でも…」

顎で指示を出すと剣を構えた改造人間がカリウに飛びかかる。

カリウが避けきれず、傷を負うと、そこに容赦なく追撃を与える。

その剣はどれも急所の所をぎりぎり外しているが、ケシャがそういう指令を出したのだろう。

「僕はおまえのことも気に入らないんだ、人間に良いように改造されて、何にも覚えてなくて、命令されたくない、辛い、早く帰りたい僕たちを、いつも見下していたお前が!!」

「そう…でした…っけ…?」

ぼろぼろになりながらも衰えない不敵な眼差しはケシャをさらに煽った。

「そんなに忘れられることが偉いんなら!今の記憶も全部!忘れさせてやる!!」

「っ…」

怒りにまかせて改造人間をはねのけ、カリウを手に掛けようとするケシャにアレンがしがみついた。

「やめろっ…」

「離せ、お前の相手は後だ」

「やめてくれ…っ」

横にどかされた改造人間が体勢を立て直し、剣を拾い上げ、アレンに切りかかろうとした

と、後ろから何者かに回し蹴りを食らい、改造人間は跳ね飛ばされた。

「なんだ!?」

驚き振り返るケシャの目には、数人の人が掛けてくるのが映った。

足技を掛けたヨウがすぐ傍で、臨戦体制をとっている。

「アレンくん!!」

そう名前を呼ぶのは駆けてきたレアン、そしてマオにリク。

「誰だ!!」

しがみつくアレンを振り払うようにしながら叫ぶケシャにレアンが口を開いた。

「私はレアン、ラグリアに代わって、過去の全てを消化しに来たわ」

「レアン…?」

そう名前を反復して一瞬力の抜けたケシャは、次の瞬間アレンを払い退け、狂ったように笑いだした。

「あはっあははははっくっはははっ、遅いよ、ほんと今更だよ、まさかレアンちゃんが生きてたなんて!」

唐突な発言にレアンは眉をひそめる。

「確かに、私が人間に捕らえられ、入れられた研究所は、戦争に飲み込まれて壊滅したわ。

クラムが来なかったら死んでいた…でも、遅いって?」

「だってそうだろ?君が生きてるって分かっていれば、ミゼル様が死を選ぶことなんてなかったのに!」

その言葉に空気が凍りついた。

「今…なんて言った…」

その主な原因は傷を負い、地面に伏していたカリウだろう。

肩を震わせ、無理やり体を起こそうと腕を立て、ケシャを睨む。

「死んだんだよ、ミゼル様。娘を、エルフの民すべてを失って、この世界に絶望して…」

「お父様が…」

「嘘だ…だってそんな、外に出て、草原でまた一緒にって…」

言葉を聞いて、レアンも、カリウも動揺を隠せずにいる。

その姿を、そして自分自身を嘲笑う様にケシャは続けた。

「アゼットが無事に元の体に戻れたならもういい、殺してくれって!僕に頼んだんだ!!」

「嘘だぁぁぁっ!!!」

ケシャの足首をつかんだカリウの手から、黒い炎が巻き上がった。


そうだ、ミゼルは死んだんだ。

レアンが死んだと人間達にいたずらな口調で聞かされて、

丁度こんな風に、魔力を暴走させたあの日から、

魂を同居させてからずっと聞こえていたミゼルの声は止み、

加速する消耗を肌で感じながらも、

せめて外に出られれば、外に出てあのころみたいに風を感じれば、

また笑いあえる日がくるだろうかと思っていた…

でも、

もう終わってしまったんだ。


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