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君の心と廻る廻る形  作者: ほくる
2/26

炎の赤と雲の白

―――2話―――


村人は寝静まり、静寂に包まれた小さな村、

明かり一つない部屋でアレンは寝息を立てている。

時折寝返りを打つ程度に浅い眠りの中、

見ているのはこの村と、幼馴染の夢だった。


「もう体は痛まないのかい?」

心配そうに、しかしやるせないような表情で、声を掛けてくるクラム。

「ええ、だいぶこれの動かし方にも慣れてきたから」

その声にこたえるのは自分…のはずだがどこか違和感を感じるアレン。

「そう…でもやっぱり…」

クラムの視線の先には皺くちゃになった自分の手がある。

「君は元の体を…」

アレンが疑問に思う間もなく、体は返答を返す。

「ううん、これのおかげで私、少し人間の気持が分かった気がするの、残された時間で少しでも多くのことを知ろうとする、はやる気持ち、この感情…それを知るために私に与えられたプレゼントなんだと思うわ」

「僕には分からないし…分りたくもない」

そう言ったクラムの表情は今まで見せたことが無いくらい暗く、苦痛に歪んだものだった。

「ええ、そうよね、ごめんなさい、クラム」



ごめんなさい、その言葉が頭の中で響くと少し

肌寒さを感じ、目を覚ます。

目の前にはいつもの顔をしたクラムが、

布団を片手に立っている。

「アレン!朝食できたよ!」

肌寒さを感じたのは布団を剥がされたからだろう。

「…あれ?顔色が悪いね」

「あぁ…なんか、変な夢見て」

頭をかきながら寝ぼけ眼で起き上がると

クラムは小首をかしげて訊ねる。

「変?」

「ああ、クラムが誰かと話してる夢なんだけど、

村の人であんなに年取った人いたかな…」

夢で見るものは大抵あいまいで、

あの皺くちゃな手の人物は自分ではないだろう。

そうぼんやりと考えながら、感じた疑問を口にすると、

クラムはゆっくり笑顔を作りながら肩をすくめる。

彼にも心当たりはないらしい。

夢での会話内容を聞かれたが、

うまく思い出せそうにないことを正直に伝えた。

「残念、どんな夢見たのか興味あったのにな…

じゃ、朝食にしよう」

「あぁ…」

簡素な食事が並んだテーブルに向かい合うよう席に着く。

アレンの覚えている限りクラムはいつも笑顔だ。

今日夢に見たような辛そうな表情など実際に見たことは

一度もないはずなのだが…

向かいの相手の姿を時折盗み見ながら食事を終えると

妙に居心地の悪さを感じて逃げるように席を立った。

「今日はデルクの所行って勝負してくる…」

「今日はって、いつも行ってるだろ。

尤も寄り道がてら脱走を図るのが定番だけど」

「今日はしないって、気分が乗らない」

「そのまま乗らない日が続くことを願っているよ」

「はいはい」

壁に掛けた木の剣を手にするとアレンは急ぎ足で家を出た。



刺激の少ない狭い村、退屈な毎日。

唯一の謎である、2重人格の自分。

その答えを求めるように、いつもならここで

森に向って一直線だっただろう。

しかし今日の夢見が悪かったせいか、

アレンの足取りはまっすぐ目的地へと進んでいく。

お節介で、口煩くて、知らないことは何もない、

年の離れた兄のような存在だったクラム…

自分の知らない彼の顔が確かにあるはずなのに、

それに対してばっかりは好奇心がわかない。

むしろ、知るのが怖いとさえ思う。

長年村からの脱走をきつく咎められながらも、

理由を聞こうと思わなかったのはこの感情所以だろう。


前方に剣をもった40~50歳位の男が見える。

デルクだ。がっしりと筋肉の付いた腕を

こちらに向かって高く上げている。

昔からあの体型で、小さい頃はよく肩車をしてもらった。

思えばこの村には子供と呼べる年齢の者は自分しかいない。

もっとも最近は身長もクラムに追い付き、

いつまで子供で許されるかは分からないが…

しかし不思議なのは、身長だけでなく見た目の年齢までも、

このままだとクラムはおろか目の前にいるデルクにすら

追い付き、追い越してしまいそうだということだ。

それぐらい周りがゆっくりしていて、

自分がせわしないだけなのかも知れない。

そんな孤立感がまた、アレンの中の焦りを加速させていった。




井戸から水をくみ上げていたクラムは、

ふといつもと違う風を感じてあたりを見渡した。

そういえばさっきまで右斜め前で畑を耕していた村人の一人がいつの間にか消えている。

いつもならもう二時間ほど同じ作業を続けているはずだが…

そんな考えを片隅に、作業を切り上げて家路に着く。

クラムは村のことを誰よりも知っていた。

エリムは光の当たる位置に置かれたベンチに

夕方近くまで座っているはずだ。

ボルサは毎日この時間になると村の平穏を願う布陣を

庭に描き始めるはず。

ヨクサは…そう頭の中でいつもの光景を反復する度に、

この奇妙な違和感が拭いきれなくなってくる。

村人が誰一人見当たらないのだ。

こんな悪戯をするのは誰だろう…

誰も何も、この村でそんな自由な行動が取れるのは一人だけだ。

水を積んだ台車をついに放りだし、

クラムは全力で家に向かった。



デルクとの剣の勝負はいつもアレンが疲れて音をあげる。

アレンが疲れやすいのではなく、デルクの体力が異常なのだ。

幼い頃のアレンは一瞬でデルクニに負かされていたが、

最近は瞬発力や押しの強さがほぼ互角になり、

アレンが疲れるまで勝負が続くようになった。

全くあほな話だが、それこそ1時間も2時間も、

疲れたの声が出るまで二人は木の棒を振り回し続けるのだ。


しかし今日は違った。一瞬、デルクに隙が見えたのだ。

とったー!と嬉しそうに声を上げるアレン。

今日が念願の初勝利!……となるはずだった。

一瞬隙を見せたように見せたデルクは次の瞬間

目の前から消えていた。

「?なんだ…消えた?…」

避けたでもなく、ただ目の前から消えたデルクを探し、

あたりを見渡す。

「デルクのおっさーん!そんなすごい技隠し持ってるなんて

俺にも教えてくれよー!」

呼びかけてもアレンの声は森へ、

村へと吸い込まれて虚しく消えた。

「……」

さっきまでの動きで出た汗が、

吹き抜ける風に冷やされて身震いする。

「教えてくれないなら俺帰るからなー」

返事はやはりなかった。



草木をかき分けて家への近道を進むとクラムがいた。

「なぁ、さっきデルクが急に…」

アレンが話し終わる前にクラムが焦ったような表情で話始める

「そうか、これは、君の悪戯じゃないんだな」

「何だよ」

「いいかい、アレン、家に戻るのは禁止だ」

「えー?今日は寝て、デルクには明日ぱっと消える技を」

「あれは技なんかじゃない!あれは…

説明は後だ!とにかく村から出よう!!」

クラムに腕を引かれてアレンはむっとしながら振り払った。

「説明は後じゃ納得いかない。今まで村から出るなって

散々言ってたくせに、いきなり村を出るって?おかしいだろ」

クラムは一瞬絶望し果てたような表情をしたが

一つ呼吸をすると落ち着き払って言った。

「村から出ないのはレアンの要望だ。

アレン、君に選択権はないしレアンを危険にさらすことは

許されない」

「は!?何だよそれ」

意味の分からないクラムの発言に反論しようと声を荒げた途端

村の中心から炎が吹き荒れた。

クラムに有無を言わせぬ勢いで押し倒され、

炎に焼かれることはなかったが、

予想外の展開にアレンは言葉を失った。

「アレン、もし今後レアンと話すことができたら伝えて、

君の甘い賭けは当然のように外れたよって…」

クラムは起き上がりざま腰に下げていた鞘から剣を抜いた。

今までずっとそこにあったにもかかわらず

一度も抜かれた所を見たことが無い、本物の剣だった。

アレンが起き上がり、もう一度辺りの状況を確認すると

そこには見慣れた緑などなく、燃え盛る赤と、

見たこともないような一つ目玉の塊が数体。

「アレン、とにかく走って、森を抜けるんだ、

今は霧を解いてあるから、いつか必ず出られる。」

数えられる程度だった謎の塊は次々と空からやってきて

数を増やしていく。

アレンがゆるゆると首を振り否定をするのに

クラムは目もくれず、白く煌めく剣で塊を薙ぎ払っていく。

時々飛び散る液体に顔をしかめながらも

腕を止めないその様子に、アレンは僅かに恐怖する。

なんとか後ろに足を進めるアレンをちらりと視界に留めて

ふと微笑むクラム。

それはいつもの表情だった。

「僕を忘れてしまったレアンも、何も知らないアレンも、

今はすごく大好きなんだ、だから、早く逃げて」

めしめしと木が燃え、倒れる音にまぎれて

言葉は届かなかったかもしれない。

ただ踵を返し、外へとしっかり走り出したアレンを認めると

クラムは安心して、敵の群れへと身を投じた。




気付けば森の中を一心不乱に走っていた。

最後に見たのは炎とは違う赤が溢れ出す光景、

振り返らなければよかったと後悔する時間もない。

ただ恐怖に駆られて走るしかできなかった。

次々に燃え移り、迫りくる炎を何とか突き放した時

前方から目映い光が差し込んでくる。


そうだ

ついに出口だ!

いままで夢見てやまなかった森の外!!



しかし走る足は止まった。

その先に地面が無かったからだ。

深い崖を前に呆然と立ち尽くす。

下に広がっているのは以前クラムが話していた雲だろうか

どんなに白く、厚く見えても乗ることは出来ないという

あの…


後ろから不穏な音が近づいてくる。

何か話声のようなものも混ざっている。

高鳴る鼓動を抑え、耳は言葉を聞きとろうと必死になる。

分かっている。

森に戻ることは許されない。

第一、戻ったところで村はもうないのだ。


ふと、言葉の中に、みつけた、という言葉を聞きとめると

アレンは地面を一蹴りして雲へと飛んだ。


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