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君の心と廻る廻る形  作者: ほくる
19/26

歴史の証人と死への渇望

『エルフか、なんでまた北軍に肩入れなんかして、折角収まりかけた戦争を悪化させた』

兵の一人が長い棒を持って少女を突く様にして問いただすが、

鎖につながれた少女は兵たちと顔を合わせることもなく、ただうつむいている。

『隊長…こんな小娘じゃそんなこと分かりませんって』

『ばかもん!!エルフは若く見えても平気で数百年生きてるような種族なんだよ!』

そう言われても答えられることなど何もなかった。

少女は外見こそエルフだったが、中身は人間。

長い期間研究所に幽閉され、ただ命じられるままの作業をこなしてきたラグリアには、

研究の技術、知識以外知り得なかった。

『だんまりか、まぁいい。また明日も来るからな』

兵たちが去り、少女が一人牢の中に残される映像に、画面の声は付け足した。

「私はそこに捕らえられたまま何年もの時が過ぎた。おかげで、この体は他のエルフたちのように人間に改造されることはなかったのだけれど…」

映像を呆然と見ていたヨウはふと我に帰って聞く。

「改造って…自我を抜き取るって…?何のために!?」

「おおかた強い魔法が使えるエルフを駒にするためだろ、人間と、人間の戦争のね…」

横で見ていたマオが苦虫を噛み潰したような顔で言うと、画面の声は頷いた。

「ええ、結局。沢山のエルフ兵を手に入れた北軍は勝ち、世界を手に入れたのち、エルフ兵を改造技術ともども抹消したわ」

「すべてはエルフがやったことです。もう安全ですってことか…酷いもんだ」

ずっと気になっていた歴史の顛末が、あまりにも耳に痛いもので、マオは頭を抱えた。

しかしヨウにはまだ気になっていることがある。

「南軍に捕らえられて、それで、今はなんでこんな小島に居るの?」

質問に答えるように、画面は再び牢を映し出す。

エルフの少女は新たに手枷を付けられ、牢から出されると、畏まった部屋へと誘導された。

世界を手にした北軍は、当然この収容所の権限も手に入れた。

立派な椅子に腰かける軍人。彼がラグリアを呼び出したのだろう。

部屋に来た少女を品定めでもするように見、言った。

『研究員たちは全てを口外しないと誓約書を書かせ解放してやった。もっとも、あれだけ老いぼれては、今更外に出した所で長くはないだろうが…』

収容所に捕らえられてからそれだけの年月が経っていたのだ。

全く老いない体に、時間感覚が年単位で狂わされたことを実感しながら、俯く。

『そして残るは君だ』

『…』

『知っているだろうがエルフ兵は例外なく殺傷処分の指令が出ている』

『…』

『しかし先の二人の研究員と同様、君は23年前の時点で南軍の攻撃を受けて死亡と本部に届け出がされているわけだ。私の言いたいことが分かるかな?』

条件次第で生かしておいてやっても良い。そう言いたげな顔だった。

ラグリアは死ぬわけにはいかない。

生きて、レアンと再開して、ちゃんと体を返すまでは…

そう思いを巡らせ、拳を下で固めると、軍人は満足そうに言った。

『では答えは一つだ。大人しく私に飼われなさい』

『え…』

『部下たちには了承を得ている。捕虜生活に比べれば、はるかにいい暮らしができる。いやなら死を選ぶまでだ』

『…』

こわばった表情のまま相手から目をそらさずにエルフの少女は頷いた。

画像が切り替わると、少女は品の良い服を着せられている。

隅々まで掃除のいきわたった広い屋敷、上品な召使。

身なりを整えられ鏡を見せられると、後ろに男が立っているのに気がつく。

『ここでの生活には慣れたかな?』

『ええ…良好よ、あなたの様な人間がいるなら、他のエルフたちもまだ生きているかもしれない、そう希望が持てるようになったわ』

後ろから声をかける男に、鏡越しに不敵な笑みで返す少女は、

たしかに二人での会話にも慣れた様子だった。

『あり得るな、しかし、会う事はかなわない訳だが』

『あなたが早く死んでくれればいいのよ』

改造されたエルフ兵も、施工が甘いものなら、施設さえあれば元に戻してやれるかもしれない。

自由を手に入れたら、やりたいことは五万とあった。

『ははは、エルフが言うとまた重みがある。私が死ねば遠方に仕事に出た息子家族が屋敷を継ぐ、そうそうここからは出られんよ』

『気長に待つわ』

自分の元の体はもうこの世にはないだろう。

でもレアンなら、他の誰かの体を渡り歩いて生きていてくことも可能だ。

彼女がその選択肢を選び、待っていてくれれば…

やがて屋敷の主人は老衰し、葬式の日が訪れる。

屋敷は新たな主を迎え入れたが、不自由の時はすぐに終わった。

新しい主は、父の忘れ形見の様なそのエルフに惚れこみ、妻と不仲になってしまい、

ラグリアを正妻として迎え入れたのだ。

それ以来ラグリアは人を使い、金を使い、あらん限りの情報を集め出した。

夫にはばれぬように。

「私はレアンや、兄がその後どうなったのか、調べて周ったわ」

画面はその記憶を模索するように話す。

「そこで知ったの。レアンと再開したあの施設は、私たちが離れ離れになってそう経たずに戦地になり、破壊されたと…押収された兄のための体も行方不明…あの時はもう、すべてを諦めかけたわ」

「でも、諦めなかった…」

ヨウはそう呟いてレアンを見る。

心のどこかで再開できると思っていたから、その体を造ったのだろう。

「レアンが私の体を使っていないことは確かだったから、私の精神の追い出し口として、若しくは勝手に穢してしまったこの体の代変えとして…レアンから借りた体をベースに素体を作ったの」

0から作るのではやはり無理がある。兄の体を作る時も、修復不可能になった元の体をベースに作ったのだと付け足した。

レアンの強力な魔力が、造られた体が持ち主の精神に呼応して成長する造りを可能にしたという事も。

「そのあと私は僅かな希望にかけて世界中を回ったわ。その過程、沢山の研究施設を破壊してまわった」

「何のために!?」

唐突に出た破壊の二文字にリクが驚く。

今まで映像で見てきた未知の技術の数々が古代の物となってしまったのは彼女のせいなのか、

なんてもったいないことを、そう言いたげな顔をしている。

「旅の途中、打ち捨てられた改造エルフを沢山見たわ。どれももう助からない。酷い状態のものを…」

言われてリクはたじろぐ。あまり想像したくはないものだ。

「私はその一人一人を出来る限り元の状態に戻し、埋葬した。私達の生み出した技術の、償いがしたかった…」

「それで今も、古代技術の収集家を名乗って、世界中からその痕跡をかき集めてるのか…」

彼女の中で合点が行ったのか、マオが唸りながら言う。

技術を発見し、運んできた人間の記憶を一部飛ばしてしまう事などラグリアには容易いだろう。

やられた方は気の毒だが…

「ええ、最後までちゃんと自分の足でできればよかったのだけど。時がたち、記憶の維持が難しくなって、私はここから動けなくなってしまったから…」

言われて見る彼女の姿は痛々しい。何千という時を、償いに捧げてきたのだろうか。

「ベラルドさんは、ちゃんと約束を守ってくれたわ」

安心させるように、優しく、レアンは言った。

「よかった…本当に…」

旅の中で見つけた信頼のおけそうな人物。その判断が、間違いではなかったことに安堵し、声を震わせる。

「今度は、私が約束を守る番。こんなにしてしまったけど、レアン、あなたに体を返すわ」

言われてレアンは俯く。何かを考え込むように…

「やっぱり…だめよね、こんな酷い状態じゃ、約束、果たせないよね…」

「ううん、違うの」

ふと、レアンは顔を上げる、その表情はいまにも泣きだしそうだ。

「私が今使っているこの体は、持ち主の精神に応じて成長するのよね」

「…ええ」

「この体は歳をとって、死んだら、アレンくんと同じように初期化するの?」

「…」

「すべてを忘れてしまうの?」

「おそらくは…そう」

「一人では記憶の維持も難しいほどに消耗した精神で、ラグ…あなたは…」

レアンが答えを濁らせる理由はそこだった。

ラグリアの精神はごく普通の人間の早さで歳をとり、その限界は裕に超えている。

しかし今も尚、その魂は体に生かされ続けているのだ。

「…私は…歳をとって、死にたい」

約束を果たさず命を絶つことは許されない。

そう考えた彼女は今日この時まで耐えてきたのだ。

気が狂いそうになる程の長い時を、一人で。

しかしレアンは首を横に振った。

「ごめんなさい…あなたに魂継ぎの術、かけられないわ、この状況があなたを苦しめているって…分かっているけどっ!!」

ぼろぼろと泣き始めるレアン。画面に映る画像は申し訳なさそうに乱れ、ノイズがかる」

「…レアン…」

「わがままでごめんなさい!!私、あなたにまで、死んでほしくないっ!!」

そう言いながらレアンは理解した。

これが、クラムが何百回と耐えた悲しみなのかと。


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