旧友と記録
―――14話―――
「人間?この人は…どう見ても…下手するとレアンより…」
ヨウはうろたえていた。見たこともない機械に、
それに取り囲まれるようにして眠るエルフに、
その手を取るレアンに…
「…そう。これは私。でも、中身はラグリア…」
「魂継ぎ…」
ヨウが旅の中で知ったその術は、魂を別の体に移せるものだ。
しかしなぜ、レアンの体を使うラグリアとは一体誰なのか、
目の前に横たわる謎にたじろぐと、後ろで転がっていたマオも目を覚ます。
と、眠るエルフにつながれたコードが続く先にある画面に光が灯った。
映し出されたのは40過ぎ程に見える女性。
同じく目を覚まし、顔を上げたリクがそれを見、「誰だこのおばさん」などと言おうとするのをマオが阻止する。
画面の女性はそれらに説明でもするように話し始める。
「その昔、私はレアンと体を交換したの。本来は…確か、こんな姿だったわ」
それを聞いたレアンは首を横に振る。
「私にはあんまりその姿のイメージが無いわ、よく遊んでいた頃は、ラグ、これぐらいだったから」
手で子供の身長を示すと見えているのか、画面から笑い声が漏れる
「でも、あなたと交換した時はこの姿だったはずよ」
「…ごめんなさい…ちゃんと体、返せなくて…」
「それは私のセリフだわ、この体の生きる長すぎる時間に、私の魂は耐えられなかった。剥がれ落ちそうになる記憶、感情を、こんな醜い機械を取り付けることで、無理やりここに繋ぎ止めているのだから」
「でも、そのおかげでラグは全部覚えてくれていた…私が忘れている間も…ずっと…」
言い合う二人の間には親しい空気が流れ、
ヨウはわけの分からぬまま取り残されそうになるのを必死に食いついた。
「全部…?レアンの体のことや…アレンのこともわかるの?」
焦りのせいか、的を外したような質問をしてしまった気がしたが、
画面の女性は頷き、答えた。
「ええ、どちらも私が作った、人形。」
「にん…!?」
画面が別の映像を映し出す。白く滑らかな壁を持つ建物の脇、小さな庭で遊んでいる少女が二人。
「はじめは、私の兄のために作ったもの…」
画面で微笑む髪の長い少女は少しむっとした表情の黒髪の少女に手を引かれ、建物に入って行く。
中には長髪のエルフの青年と、白衣を着た黒髪の…
「…アレン?」
画面に現れたそっくりなその姿は、本人だと断定するにはやや大人しめに感じる。
「彼は私の兄、アゼット。この施設で、エルフの持つ魔力について研究していた、生物学者」
画像が乱れ、恐ろしげな警報音が鳴り響く。
「なななっ何何!?」
音に驚き、跳ね上がるように身を起こすリク。
一同が真っ暗になった画面を見つめる。
「これも私の記憶の一部。この日父は実験に失敗して体を酷く損傷したの」
説明の最中、少女の父を呼ぶ叫び声が響く。
ふと画面に一筋の光がさしたかと思うと、先ほどのエルフの男性が駆け寄ってくる。
『アゼット!!大丈夫か!今治癒術を!!』
『兄さん!しっかりして!』
『くそっこうなったら』
暗かった画面が魔法陣の光で照らされ、照明の落ちた研究室内部だとわかる。
『まって!そんなことをしたらあなたは!!』
黒髪の少女の隣に居たエルフの青年が何やら術を唱えると急に倒れこむ
『やだ…こんなの、レアンになんて言えばいいのよ…』
研究室に照明が戻る。
エルフの青年は起き上がるなり、目の前に血まみれになって転がるアゼットの姿を見てうろたえる。
『これは、まさか、ミゼルが!?』
そんなエルフの姿を見て少女は俯いたまま立ち上がり、研究所内にある装置をあれこれ触り始める。
『…ええ、兄さんの体はもう手遅れだって、判断したんでしょう』
黙々と作業をする少女を尻目にふらふらと何かを探すように辺りを彷徨うエルフ。
ふとガラス越しに映った自分の姿を見て、また戸惑いの声を漏らす。
『嘘だ、こんなことをすれば…ミゼルの魂だって、ただじゃ済まないだろ!?』
『あたりまえよ!だからはやく!兄さんの体を直して、魂を移し替えないといけないでしょう!!」
『体…』
エルフは倒れた男の体を見やると苦い顔をする。
それは少女が言葉で直すとたやすく言ったほど、簡単な状態ではなかった。
「この頃私は、自分に出来ないことはないと思っていた…」
まるで反省でもするかのような声色で画面は話す。
「人一人造るという事は当然のように膨大な時間が要ったわ」
また画面は切り替わり、椅子に座るエルフの男の顔を不思議そうに覗き込む、髪の長いエルフの少女を映し出した。
『借りたの…?お父様の体を』
『ごめんね、レアン。兄さんの新しい体が出来るまでだから』
『ううん、別にいいわ、おかげで頻繁にここに来れるでしょ?』
『そんな呑気な事言ってられないわ。いつまでも魂を同居させていたら弱ってしまうでしょ?』
『ふふ、でも最近お父様楽しそうよ?一緒に居られることが嬉しいみたいで』
そう言って少女に膝に乗られ、ぺたぺたと顔を触られて、エルフの青年は困ったような顔で固まっている。
『いいから、早く兄さんを開放してちょうだい。起きてる間に少しでも作業を手伝ってほしいんだから」
少し怒ったような、でもしょうがないというような声色で黒髪の少女が言うと、
薄翡翠色の髪のふわりと躍らせ、青年の元を離れる。
「この頃のお父様は覚えているわ…ちょうど私とアレン君が一つの体を使っていた時みたいに、二人の時間は半分で…」
画面を見ながら、レアンは懐かしそうに語る。
「アゼットさんは、エルフ村の勝手がわからなかったから、入れ替わる度にここに来たのを…」
「でも、それも戦争が起きるまでの話。父に体を貸してくれたミゼル…レアンのお父様は、村の民を守るため、そう簡単に施設には来られない立場になった」
「人間と、エルフの戦争?」
気になっている所が話題に出たと、身を乗り出すマオ。
レアンは何か言い難そうに目線をそらす。
「私は一人、兄の体を完成させるために研究を続けたわ。でも…」
画面の中、黒髪の少女が白衣を着て、一人作業を続けている。
そこに軍服を着た人間達が押し掛ける。
『アゼット・レクシュタン!!軍法47条によりこの施設、及び研究成果を国に譲渡するよう要請が出ている!大人しく…』
『兄ならいません』
言葉を遮るように放たれた少女の声に一同の注目が行く。
『何!?』
『兄はこの施設にはいません。日を改めて出直してきてください』
『誰だ?』
目的の人物がいないらしいことに僅かにざわつく一同を一括するように、
リーダーらしき人物が発言する。
『レクシュタンには娘もいたのか、構わん。連行しろ』
『はっ!!』
その映像に、レアンは目をそむけたまま。
画面は続けた。
「兄がいままで研究してきたもの、私が兄のために作った身体、全て押収され、私は国の研究員として非道な実験の数々に参加させられた…兄は…こんなことのために、エルフの研究をしてきたわけじゃないのに…私は…」
「ラグ…」
動かぬ体の手を取り、握るレアン。
ヨウ達は画面から目が離せないでいる。
次に映されたのは見知らぬ研究室。
数人のエルフの体が入れられた装置を前に立ち尽くす、20代中程の女性が映る。
「私は…何人もの…あなたの同胞たちを…」
画面内の女性が次第に歳をとり、最初に画面に映し出された女性と同じものとなった頃、研究所内が騒がしくなる。
『今度のはすごいらしい、なんでも魔力測定器を振り切ったとか」
『眠っている間に測ったにもかかわらず、だよな。そんな奴の改造を頼まれるなんてうちも評価されてる証拠だな』
『まぁ、ラグリア女士の実績でだがな』
『構わんさ、俺たちの給料も上がる』
『さあ!でてこい!今日も仕事だ!』
呼ばれて女性は疲れた目を被験体に向けた。
その先を見、女性の表情がこわばる。
『…』
作業台に拘束され、寝かされていたのは15~6に見えるエルフの少女。
二人を残して他の研究員たちは部屋を出、厚いガラスの壁越しに観察している。
『レアン…?』
『誰?』
おびえた表情でラグリアを見つめる少女、レアン。
『レアン、私よ、老けちゃったから、分からないかもしれないけど、ラグリアよ』
『ラグ…ラグリア!!本当に!?私、これからどうなるの!!?』
『私は…いままで他のエルフにしてきたように、自我を抜き取って、なんでも言う事を聞く、人形にするよう言われて、ここにいるの』
『人形…まさか!シフィルやケシャは!!』
『でも、私、あなたにそんなこと、できないっ…』
『ラグ…外の人たち…』
壁の向こうを見ると研究員たちが苛立った表情で早くしろとサインを送っている
『あの人たちがあそこから何を言っても、私には聞こえないわ』
『ラグ…?』
『お願いレアン、魂継ぎを私に掛けて!今だけ体を交換してほしいの!』
『私と…あなたの体を?』
『今すぐに思いつく方法、これしかないの…お願い』
少女が一つ頷くと部屋中に魔法陣が現れたのち、まばゆい光に包まれ、何も見えなくなる。
『何だ!!何が起きた!!』
予期せぬ出来事に、研究員たちが慌てて部屋に入り、意識を失った二人を取り囲み、騒ぎ立てる。
『このエルフめ!この愚に及んで術を使って反抗するとは!』
『女士は!?』
『無事だ、息はある。別室に移そう』
『こいつは目を覚ます前に魔力制御装置に掛けておけ、しばらくはここのエネルギーになってもらおう』
『まあ少し弱ってもらった方が改造もやり易いしな』
ぐったりとした少女に男たちは装置を取り付けると各々の業務に戻って行く。
夜になると研究所内の明かりはまばらになり、作業をする研究員が減ったことを表した。
測ったようにエルフの少女…ラグリアが目を覚ます。
少女に施された装置の扱いはラグリアにとっては慣れたもので次々と音もなく取り外していく。
『ん?エネルギー供給にエラーが起きてるぞ?』
一人で作業をしていた研究員が異変に気付くのと同時に首の後ろに機械を押しあてられて気絶する。
『ごめんなさい』
研究員の胸ポケットからカードを取り出すとそれを使って小部屋の扉を開く。
小部屋の隅にうずくまるようにしていた40代の女性…レアンが気づき立ち上がる
『ラグ!私はどうすれば』
『しっ…ここから逃げるわよ、ついて来て』
『うん…!』
廊下を静かに駆け、途中途中にあるロックを解除しながら外を目指す。
途中、先ほど気絶させた男を発見した研究員たちの声が聞こえる
『馬鹿な、エルフごときにあの装置が外せただと!?』
『ラグリア士女も居ない。奴と面識があったならそれぐらいの知恵を付けていたとしても不思議はないだろう。なぜ手術室の施錠をしておかなかった』
『くっそ、あの術自体フェイクだったわけか!今すぐ捕まえろ!』
難しい顔をするラグリアの様子をレアンが窺う
『どうしたの?』
『やっぱり、良く聞こえるのね』
『え?』
『ごめんなさい、手詰まりかも知れないわ』
目の前のドアにIDカードを差し込むがエラー音が鳴って弾かれてしまう
『扉が…』
『私たちが逃げ出したのがばれて、このカードも無効にされたのよ』
『…じゃあ』
『あなたはそのまま、私のふりを続けて』
『ラグは…?』
『ごめんなさい、なんとか、方法を考えるわ』
言い終わる頃、後ろから研究員たちがやってくる
『まったく、手間をかけさせやがって』
エルフの少女は研究員に捕らえられ、首元に機械を押しあてられると気絶してしまう。
『さぁ、ラグリア子女。無駄な抵抗はせず部屋に戻っていただきましょうか…』
運ばれていく少女を、ラグリアは…レアンは不安な面持ちで見つめていた。
日が変わり、以前より厳重に拘束されたエルフの少女は力なく項垂れ、乗物に乗せられる。
付き添った二人の研究員がため息交じりに言葉を交わす。
『折角の大役をみすみす他所に渡すなんてもったいないな』
『仕方無いだろ、上からの命令なんだ、あれ以来士女はまるでやる気が無いみたいだしな』
『再教育が必要ってことか、あんなおばさんとっとと回顧すればいいのに』
『野放しにするのは危険だろ、いろいろ知りすぎている。エルフにするみたいに記憶を抹消でれば楽なんだが』
乗り物の中、研究員の会話を聞き流しながら、少女は無表情のまま流れる景色を眺めた。
突然車体が揺れ、転倒する。
『なっ何だ!?無事か!?』
『こっちは大丈夫だ、エルフも、無傷そうだ、さぁ、来い』
乗物から引きずられるようにして外に出ると周りを武装した人間に囲まれている
『大人しく投降しろ!!抵抗しなければ捕虜として丁重に扱ってやろう』
『くそっ南軍か…』
3人はそのまま捕らえられ、エルフの少女は一人、別の牢に入れられた。
予約投稿で遊んでます。毎日決まった時間に投稿するとしたら何時ごろがいいのでしょうか…?一応次回投稿は3時ごろの予定。




