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美しき毒牙
制限時間:15分
お題:純白の姫君
悪しき王を倒した英雄は望んだ。
王の遺児たる、それはそれは美しい娘を。
娘は、諦めに満ちた眼差しで、英雄を見上げて言う。
「毒牙で、貴方を殺めるとは思いませんか」
と。
穢れを知らぬと思わせる、ま白い手袋で、英雄の頬を包んで、柔らかく笑んだ。
英雄はそれに言う。
「なれば、今ここで殺めてみよ」
と。
娘は、包んでいた手に力を込めた。
しかしそれは、気道を狭めず、顔を近寄せた。
そして、娘は接吻する。
何事だと、英雄は問うた。
娘は、ぞっとするほど美しい笑みを浮かべて言った。
「毒牙で貴方を殺めると、言ったでしょう」
と。
力を得たものが必ず幸せになるということは無い。
英雄は王を倒さんとする彼を助けてきた女を捨て、純白のヴェールに包まれた、酷く美しい娘を選んだ。
隠された毒牙に気付きながらも、それでも、彼女を選んだ。
英雄は、これが新たなる騒乱を巻き起こさんとすることも知らずに、束の間の悦楽に浸っていた。
それこそが、彼女が言わんとする真の毒牙とは気付かずに……。
――選ばれなかった女は、彼らに毒に濡れた鏃を向けていた。