幼獅子
制限時間:15分
お題:黄金の王子
※半翼の継承
砂塵ばかりが広がる国で、私は女王たる母の腕の中、安穏と生きていた。
必然と我が頭に載ると思われていた冠を見上げ、手を伸ばしては、母にまだ早いと窘められていた。
しかし、それは必然ではなかった。
砂塵を烈火が包み込み、母も烈火に包まれて、消えた。
冠だけが、烈火の中ぎらぎらと、白昼の太陽の如く輝いていた。
砂塵は相変わらず吹きすさぶ。
かつての女王も舞い上げて、変わらず、東から西へ。
烈火に焼かれた痛みと、じりじりとこの手を焼く冠を抱いて、私は烈火の国を睨み据える。
蜃気楼の向こう側、砂塵の向こう側では、勝利に湧いているのだろうか。
女王の屍は、一様に黒く朽ちゆくのみ。
女王を守った、強者も誰一人として私を守れはしない。
私は、立った。
立たねばならなかった。
じりじりと焼け付く砂を踏みしめて、主を無くした冠を頭に乗せて、立って歩かねばならなかった。
蜃気楼を越えなくては、烈火を鎮めなくては。
安穏は無い。
温かい腕も、塵芥となれり。
頭の冠は大きく、ぐらりぐらりとゆれる。
私は、まだ鬣の生え揃わぬ、幼獅子。
蜃気楼を睨んで、熱い熱い砂を踏みしめ、無力に吼えた。