白蝶婦人
制限時間:60分
お題:可愛い神様
蝶を愛でる貴婦人が居るらしい。
彼女は身寄りの無く、街の外れの朽ちかけた邸宅で一人静かに暮らしている。
その容姿は、ただただ白い。
肌はもちろん、眼も、髪も何もかもが、雪のように白く、なおかつ彼女は身に纏う衣まで真っ白であった。
そんな姿であるから、気味悪がって誰も近付こうとはしない。
好奇心旺盛な子供ですらも、だ。
そんな彼女も、月に一度だけ邸宅から出てくる日があるらしい。
街の花屋という花屋から、花を買い占めていくのだ。
人々は、愛でる蝶のためと無理矢理納得していた。
詮索したくない、なるべくなら関わりたくない、まるでそこには誰も居ないかのように、振舞った。
私は風の伝で彼女を知り、ふらりと街を訪れただけの所謂、外者。
好奇心は無邪気な子供を凌ぐほど旺盛で、恐れなんぞ無い。
花屋で色とりどりの花を買って、例の邸宅へ向かった。
貴婦人は、柔和に微笑んで快く迎え入れてくれた。
花を見遣って喉の音を鳴らしたのは些か気になるところであるが……。
それはともかく、貴婦人のなりは聞いていた通りで酷く神秘的であった。
きらきらときらめく銀糸に導かれるかのようにして入った一室は、一対の椅子以外まともな家具が無い、手狭な部屋であった。
積み上げられた銀の虫篭は最早壁のよう、閉じ込められた蝶があちらこちらで静かに羽ばたきしている。
「蝶がよほどお好きなようで」
「ええ、お友達ですわ」
口に手を当て笑む姿は上品で麗しい。
しかし、色が無い。
気になって気になって仕方ない、というよりも、惜しい。
色が無くとも美しいのなら、色を与えればどんなに美しかろうと。
「あの、なんでそんなに白いんですか」
思っていたらうっかり口に出ていた。
しまったと思ったときにはすでに遅く、
「花、いただきますわ」
握っていた花を強奪され、鼻歌交じりにそれを咀嚼する姿を目の当たりにしてしまった。
(え、エグい……)
さっきの品の良さはどこへやら、口の端にこびりついた花粉が生々しい。
唖然としている内に花は臓腑へみるみる消えていった。
「ほうら、御覧なさい」
言われずとも私は見ていた。
……知覚していなかっただけで。
意識を取り戻して、彼女を見る。
「お前は誰だ」
また、失言をしてしまった。
が、先ほどの麗しの貴婦人はどこにも見当たらない。
目の前にいるのは、白い蝶を腕一杯に抱えて無邪気に笑う小娘。
「こうやって、一息に空の国に運ぶんだ」
ぱあっと、腕を広げれば一斉に蝶は飛び立つ。
「花の命が貰えるまで、空の国へはいけないからね」
最後の一頭が霞となるまで見送って、小娘はふふふと笑った。
そして、両手を広げる。
銀の虫篭が一斉に開いて、白の蝶が小娘を包み込む。
「ほうら、元通りでしょう」
うっとりするほど美しいあの人が目の前に居た。