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勇者様の召還獣  作者: 穂積
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望む事はただ一つ

最初に感じたのは眩しいくらいの光。

そして身体の奥底から溢れ出て来る変な感覚と、それを押さえるような力。

普通は力任せに押さえられれば苛立ったりする筈が、そんな気は起こらず、

むしろ心地いいような気を許してしまうほどの安堵感があった。

そう、まるでーーーーーー・・・。







「ッ誠司!?」

「ッ!!」


心地よい安堵感に微睡んでいた俺を叩き起こしたその声は。

どんなに望んでも、どんなに渇望しても、体中を掻きむしりたいほどの絶望を泣き喚いても与えられる事のなかったもの。

視界を遮る光がゆっくり消えて行くのももどかしく、俺は前のめりになりながらもそいつを見る。


3年前と変わらない、顔、髪、その姿。

誰も覚えていなかった、俺だけしか知らなかった人間。


古山悠也がそこにいた。



「悠也ァァァアアア!!!!!」

「誠司ッッ」


我武者らに、光っている地面から飛び出し、一心不乱に悠也へと走る。

俺の記憶にしか存在しない、二度ともしかしたら逢えないかと思ってしまった自分に絶望をした存在が、

ただただ一緒にいた時間の記憶にしかすがる事ができなかった存在が、

今此処にいる。


地べたに座り込む悠也を掻き抱くように強く、強く腕の中に閉じ込めた。

俺の妄想でも、勘違いでもない本物の人間のあたたかい体温が伝わってきて。


「悠也、悠也、悠也」

「・・・なんで、誠司が」

「悠也、悠也」


壊れた俺の口は、悠也の名前しか呼ぶ事が出来なくなって。

そんな俺にどこか戸惑っている悠也を感じ取っているが、抱きしめる腕の強さも、名前もとめることができない。

はっきり悠也を見たいのに、どこかぼけているのは涙が出ているせいだと分かっていても、それを吹く事さえ今は出来ないでいる。


「誠司、誠司。色々聞きたいけれど大丈夫だから。何泣いてるんだよ」

「ゆ、うや、ゆうや」

「ほら、泣き止めって」


俺の涙に濡れた頬を悠也の手が拭っていく。

そしてどこか、あやすような口調であのニッとした笑みを俺の腕の中で浮かべた。

本物の、悠也の笑顔だった。


「おい大丈夫か?」

「・・・悠也」

「ん?」

「お願いだから何でもするから、もう二度と俺の前からいなくならないでくれ」

「・・・誠司」

「お願いだ。お前の存在は好きとか、愛してるとかそんなんじゃ言い表せないぐらいに大切で、俺にとって生きて行くための理由なんだよ」

「・・・・」

「気持ち悪くてすまん、嫌悪して当たり前だ。嫌いになっても言い。だけど居なくなるのだけはしないでくれ・・・・お願いだ」


今まで言えなかった事、危うい均衡なんてこの3年間にとっくに壊れていた。

こいつとの当たり前な日々なんて、最初からなかったんだ。ただ平和なあの日常が当たり前すぎて感覚が麻痺していただけ。

人はだれでも突然の事故や死、コイツのように行方不明にだってなる場合がある。

例えこれで悠也からの拒絶を受けようと、コイツが存在しているという事実があるだけで俺は安心できる。

何もない、存在も俺しか知らない、証拠もないあの3年間よりマシだ。


「・・・・気持ち悪くないし、嫌いにはならない」

「悠也?」

「お前が何で急にそんな事言い出したのか、なんとなく分かるけど。それよりも俺はお前を嫌悪したり拒絶はしないよ」


未だに抱きしめている腕を放せそうにないが、少しだけ力を抜いた腕の中で、

俺の目を見ながらはっきりといた悠也はあの夏の冗談まじりに言っていた雰囲気とはかけ離れていた。


「まぁ、とりあえずお前のお陰で助かったしな」

「・・・どういう意味だ?」


ありがとう。と感謝をされるが特に心当たりがないので戸惑う。

そこでやっと悠也の着ているものに目がいった。

中世で騎士がきるような軍服らしき服におびただしい量の血がついていた。


「ッどうしたんだこれは!?」


抱きしめていた腕を外し、悠也の肩をつかんで身体を離し全体をみる。

なんと胸から腹にかけて、服が切られておりそこからの血だった。


「お前ッ早く手当を!!!!」

「あぁ、大丈夫。もう塞がっているよ」

「嘘をつくな!!こんなに血が出て・・・・ッ」

「ほら、大丈夫だって」


悠也はのんきに裂かれている切り口を広げ、俺に肌をみせた。

そこは想像していたような惨い傷跡・・・は見当たらず、綺麗な素肌だけがある。

思わず凝視しているとパッと合わせを手で握られてしまったのは残念だが。


「怪我を・・・・していないなら、良い」

「うん、誠司のお陰なんだけどね?」

「俺は何もしていない」

「うーん、まぁおいおい教えるから良いんだけど。俺も戸惑っている事ばっかだしね」


悠也は苦笑を浮かべると、それよりもと言い俺の背後を指を差す。


「もういい加減大丈夫だよ?それしまったら良いんじゃない?」

「は?」

「え?」


何の事かわからず聞き返すと悠也もきょとんとした顔をして、惚けた声をだした。

とりあえず後ろをみると、俺たちがを覆うように水に黒を溶かしたような半透明なドーム型の膜と・・・・。

俺の背からは悠也を囲うように横倒しになっている黒い翼が生えていた。



・・・・・・は?




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