コント:清少納言vs紫式部
清「どーも、清少納言です」
紫「帰れ」
清「そんなあんさん、来るなりそれはきっついなー」
紫「ここは彰子派の牙城だ。亡くなったとはいえ定子派は帰れ」
清「ところがうちは定子派にいながらもともと道長びいきでしたんねん。
おかげで顔パス、フリーパス」
紫「俺がおまえのこと大っ嫌いなんだよっ」
清「まあ、それは置いといて」
紫「置くなよっ!」
清「固いこといいなはんな。で、人気ですな」
紫「何がだ」
清「またまた、とぼけてェ。あんさんの書いてはる平家物語」
紫「源氏だっ」
清「そう、それ」
紫「千年の歴史を超える超名作に対して失礼だろっ」
清「自分で言いなさんな」
紫「う」
清「や、うちも読ましてもろたんやけど、ええわ、ほんまに」
紫「うむ」
清「冒頭もええなぁ。いづれの御時にか女房更衣あまたさぶらひたまひける中に」
紫「ふん」
清「……数知れぬ忍者の姿があった」
紫「あるかっ!」
清「つかみはOK、いう感じで薄幸で美貌のヒロイン登場」
紫「………」
清「で、こいつが主人公と思いきやいきなり死にネタや」
紫「ふ」
清「でもな、この桐壺、誰かに似てはらへんか?」
紫「…………」
清「けなげで美しゅうて趣味がよくて、主上にとことん愛されるけど政治的にそれが許されずにはかない最期を遂げることになったお方」
紫「何が言いたい」
清「うちのご主人にそっくりやな」
紫「偶然だ、偶然っ」
清「そやろか」
紫「葵上だっ。あっちは亡くなった方と主上の年齢差をぴったり当てはめてある。ほら、四つ上」
清「フェイクやな」
紫「…………」
清「道長はんへの言い訳やろ。葵と六条を疎んじる源氏を書いて、年下妻の紫を誉めまくって、
ほーら定子様を下げて彰子様を持ち上げてまっせ―、って顔をする」
紫「…………」
清「もちろん天才、紫式部。与えられた条件があろうともそれをクリアーしつつご自分の思いもこっそり込めていく。流石やわ」
紫「…………」
清「何も一人のモデルで一人だけを造形したりはしない。複合させたり分割したり、自分の趣味や理想を加えたりして元の形がわからんようにしてはる」
紫「だから俺はおまえが大っ嫌いなんだっ」
清「ほう」
紫「軽薄なくせに妙に勘のいいヤツは嫌いだ―ーーーっ」
清「ほんなら、また」
紫「二度と来るんじゃねぇーーーーーーーーーーーーっ!」
了