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逆光の男(三)

「お持ちしました」


 先ほど立ち去った侍従の少年がたらいを捧げ持って再び現れた。

 その後ろに銚子と杯を載せた台を抱えたもう一人が続く。

 こちらは少年よりも更に幼い子供であった。

 浅黒い肌と濃い一文字眉から一見して二人は兄弟と知れる。


「ご苦労であった」


 末席の男は目を細めると、台を手前に置いた幼子の頭を撫ぜた。


「また、大きくなったな」


 返事の代わりに幼子は地面に額を擦り付ける様にして平伏する。

 その様子を目にすると、周囲の列臣たちもふっと表情を和らげた。


「私がこちらに参じた頃には、まだ、乳飲ちのみ子だったのに」


 幼い兄弟の侍従がひれ伏す姿を見下ろす男の目に、ふと痛みに似た何かが宿る。


「そなたたちの父も、先の陛下によくつき従って……」


 末席の男の呟きを打ち消す様に、列臣たちから、底に暗いものを含んだ声がこぼれた。


もなく一年だな」

「陛下が跡を継がれてから」


 列臣たちの目は、既に中庭で試合を続ける若い主君に戻っている。

 末席の男はというと、少年の侍従が今しがた運んできた盥の中で次第に揺れを収めていく水に目を注いでいた。

 と、その透き通った水面に白い花弁が一枚はらりと舞い落ちる。


「そろそろ風向きが変わります」


 末席の男の声は、まるでその小さな花弁にだけ聴かせるかのごとくかすかであった。

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