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大魔術師と助手  作者: 沢凪イッキ
第七章 終結
39/43

-38-



 女神の力に守られ、三人はまた同じ花の道を通ってフェルウェイルへと帰国した。道の終わりで待ち構えていたのは、ヴァルガンとルゥレイだ。


 そして。


「おせぇよッ!」

「ッ!?」


 ばき、と華麗な音を立ててレイフィスが吹っ飛んだ。


「ちょっ、何してんだよお前!」

「ヴァル!陛下になんて事するの!」


 フィフィとルゥレイ、二人してレイフィスに駆け寄りながらヴァルガンを責めるが、当の本人は腕を組んでふんぞり返っている。


「それぐらい、当たり前だ!」

「………」


 アシュリーは呆れつつも若干ヴァルガンから距離を取った。


「陛下は霊剣を使われ、ひどく消耗しています。早急に休ませて差し上げるのが良いかと。」


 それを聞いたヴァルガンとルゥレイがはっとレイフィスを見る。と、レイフィスは苦笑した。


「いや、化け物を止める為にやむを得ず、だな…」

「「馬鹿!」」

(えぇっ!?)


 勢い良く叫んだ二人に驚いて、フィフィは思わず三人を見比べた。


(陛下に馬鹿って叫んだ!?)


 口を開けたままのフィフィなど視界に入れず、二人はレイフィスに怒鳴る。


「フェルウェイルの為に振るう霊剣だろ!?何勝手にあっちで使ってんだよ!」

「あれは命が削られるのだと説明致しましたよね!?わたくしの言葉は聞き入れられませんか!?」

「………悪かった…」


 反論も出来ず、レイフィスは殊勝に頭を下げる。


(王様が頭下げてる!)


 愕然とするフィフィを見て、アシュリーは溜息を吐いた。




「それではレイフィス陛下、我々はこれにて失礼致します。」


 ヴァルガンとルゥレイの怒りも治まった頃、フェルウェイル城のルゥレイの部屋へと戻るなり、アシュリーはそう言った。


「……大丈夫か?」

「……そんな心配をしている状況ではありません。」

(アシュリー様…)


 レイフィスが霊剣を使ったとはいえ、アシュリーも光の王の事でかなり消耗している筈だ。


(あの男と戦った時も、たくさん魔術使ってたしな…)


 アシュリーの返答を聞いて、レイフィスが小さく頷いた。


「ここの魔物が片付き次第、援護しよう。転移の許可を貰えるか。」

「!」


 まさか協力して貰えるとは思っていなかったのだろう。アシュリーは驚いて固まってしまった。それを横目に、フィフィが笑う。


「きっと許してくれますよ。ね、アシュリー様!」

「えっ…あ、ああ……」


 なんとか言葉を絞り出した後、アシュリーは気を取り直して答えた。


「…我が王にお伝えしておきます。」

「ああ。無事を祈る。」

「……それでは。」


 レイフィスの許可を得て、クライストへの転移陣を展開させる。その後ろで、フィフィはヴァルガンとルゥレイに笑いかけた。


「えっと…色々ありがとうございました。」

「フィアニス様…お気になさらず。我が君をお護り頂きありがとうございました。感謝致します。」


 しとやかに礼をするルゥレイの隣で、ヴァルガンがにやりと笑った。


「さっさとここ片付けて行ってやるから、首洗って待ってろよ。」

「それ味方に言う台詞じゃないですよね?」


 若干距離をとってそう返す。と、レイフィスに手招かれた。


「?」


 不思議に思いながら近づくと、そっと腕をとられて耳元に口を寄せられる。


「落ち着いたら改めてこちらへ招こう。その時は…」

「…?」


 何故、招待する、というだけの事を小声で言うのか不思議だ。


「行くよ!」

「あっ、待っ…」


 アシュリーの呼びかけに行きかけたフィフィの腕を、一瞬ぐっと掴んで引き止め、レイフィスは囁いた。


「その時は、正しい(・・・)正装で会おう。」

「えっ…」


 戸惑う間もなく腕を放され、アシュリーのところへ押しやられてしまった。


「ではな!お互いに健闘を祈る!」


 光に遮られて三人の、フェルウェイルの姿が薄れていく。その姿に、フィフィは叫んだ。


「生きて会いましょう!」

「………」


 アシュリーが、そっとフィフィ背中に腕を回し、本当にそうっと、身体を寄せた。


(アシュリー様…?)


 それは転移するからなのか、それとも他意があるのか、よく分からないままフィフィは黙ってそれを受け入れていた。






「闇の魔術師を探し出せ!天魔の召喚者を殺せ!」


 瘴気と血で埋め尽くされた大地をたくさんの兵が駆け回る。ニルとユンファがいる塔にも、もうたくさんの兵が侵入しつつあった。


「ニル様!」


 ユンファの兄ー天魔が飛び回って数を減らしているものの、それ以上に小柄な魔物とハークヴェルの兵が多く、なかなか上手く侵入を拒めないでいる。


「――闇の王よ、敵を呑み込め――」


 ニルが詠うと塔を中心に黒い霧が渦巻き、その霧に巻き込まれた敵兵は絶命していく。今まではそうすると骸から新たな魔物が生まれていたのだが―。


(……生まれない…?)


 じっと上から見下ろすニルの目には、ただの骸があるだけだ。そこに魔力の蠢く姿はない。


(止まった…?魔力の流れが…)


 それが意味する事はひとつ。


(アシュリーが…やったんだわ…!)


 暗く重たくなった心が、緩んだ瞬間だった。


「良かった…!」

「ニル様っ!」

「!?」


 恐怖に戦くユンファの悲鳴が聞こえて、ニルははっと振り返った。


(安心している場合じゃ…!)

「っ…!?」


 塔の屋上へ侵入してきた兵士達が、一斉にユンファへと、武器を掲げて駆けてくるのが目に映った。ニルとユンファの間には、走り寄って間に合うかどうかの距離。


(ユン…っ!)


 一瞬、自らの闇の暴走を恐れて躊躇った。あの殺意の塊へ近寄れば、闇を止める自信がなかったのだ。


「ユンっ!」


 それでもと思って駆け出した時には、ユンファのもうすぐそこまで兵士が迫っていた。今更躊躇いを後悔しても遅い。ユンファは恐怖で身動きが取れないようだ。


「ユンっ!」


 必死に手を伸ばして、必死に走る。振り返ったユンファが泣きそうになりながらもこちらへと足を動かす。


「ーーっ!」


 ユンファのすぐ後ろで、恐ろしく鋭い光を放つ刃が、振り下ろされようとしていた。




 アシュリーとフィフィが現れたのは、クライスト城から少し離れた崖の上だった。眼下には凄まじい光景が広がっていた。


「っ………すご、い…」


 崖にへたり込み、見下ろしたまま動けないフィフィの背に、アシュリーは少し考えた後に声をかけた。


「フィフィ。」


 呼ばれて、フィフィが振り返る。その目をじっと見つめて、アシュリーはどこか冷めたような表情で言った。


「今ならまだ引き返せる。…命を危険に晒す必要はない。」


 とっさに何を言ってるんだと言い返しそうになったが、アシュリーの目がひどく真剣で、思いとどまった。アシュリーは、本気でフィフィの身を案じて言っているのだ。


 そう思ったら、自然と口元が緩んでしまった。怪訝そうにアシュリーが首を傾げるが、フィフィはにやりと笑った。


「…何言ってるんですか。俺は貴方の助手兼護衛ですよ?命張るのも仕事のうちです。」

「だから…」

「それに!」


 言いかけたアシュリーを遮り、フィフィはすくっと立ち上がってアシュリーに歩み寄った。真っ直ぐに、ただ真っ直ぐに、アシュリーの深い群青色の瞳を見る。


「アシュリー様を一人でほっとくと、不安でしょうがないですから。側にいます。」

「……………!」


 アシュリーが小さく息を呑んだ。それに、フィフィは嬉しそうに笑う。


「なんか、ほっとけないんですよ、アシュリー様って。」

「それだけの理由で…この戦場に足を踏み入れるの?死ぬよ。」


 フィフィにだって分かっている。普段の賞金稼ぎの時とは比べ物にならないくらい、軽い気持ちで入るべきではないという事くらい。


 でも。


「アシュリー様が行くんだから、俺も行きますよ。」

「死んでもいいのかって聞いてる。」

「死にません。俺が死んだら誰がアシュリー様を護るんですか。」

「………それは…クライストを護る為じゃなくて、俺についてくるって言ってるように聞こえる。」

「そう言ってます。」

「………」


 アシュリーの表情が揺れた。どうして良いか分からず、困っているようだ。


「なんですか。助手は要らないとか言わないんですか?」


 出会った頃に言われていた台詞を言ってやると、アシュリーは視線を逸らした。


「要らない。助手も護衛も、要らない。」

「………」


 そうですか、とフィフィは息を吐いた。


 そして。


「っ!?」


 がし、とアシュリーの頭を両手で掴んだ。


「まだ言いますか!俺はもうアシュリー様についてくって決めました!アシュリー様以外にはついていかないし、今側を離れようなんて思えません!」

「っ……でも、ここは戦場…」

「どこだろうが俺は離れません!いつもみたいにさっさと動けばいいじゃないですか!こんな論争してる場合じゃないでしょ?」

「………っ」


 アシュリーが、目を伏せた。苦悩しているのが見て取れる。人に付いてこられる事に慣れていないのだろう。


「貴方が動けば、俺は勝手についていきます。別に俺の事気遣う必要なんてないでしょ?」

「…でも」

「いー加減にしないと頭突きますよ?」

「っ!?」


 慌てて顔を引こうとしたアシュリーに笑って、フィフィは言った。


「俺は死にません。ほら、エウェラも付いてるし。アシュリー様は思うように動いて下さい。俺はついていきます。心配要りません。」

「……フィフィ…」


 弱々しく呟いた後、アシュリーは小さく息を吐いて、驚く事にフィフィの頭を両手で包み、フィフィの額に自分の額を合わせてきた。


「っ!?」


 一瞬、頭突きされるのかと思ったフィフィだったが、額からアシュリーの体温が伝わって、大人しくした。妙な気分だ。居心地が悪い。


「…側にはいなくてもいい。…一緒に、クライストを護って。」

「………!」


 一緒に。その言葉が、フィフィの心に、身体に、温かくて強い力をみなぎらせる。


「………」


 にやけてしまうのは止められなかった。


「はい。護ります!」


 顔を離して、お互いにその気持ちを見つめ合い、頷き合った。





 その瞬間だった。





「「っ――!?」」


 崖の近くある塔から、突如黒のような、深い紫の光が広がった。それにともに辺りに広がったのは――。


「この邪気……ニル!?」

「あっ、アシュリー様!」


 冷気と感じる程の、冴え冴えとした邪気だった。



 走るアシュリーの後を追って、フィフィは改めて戦場を確認した。


(酷いな…これだけの数…)


 一瞬、自分とアシュリーを護れるか不安になった。


(いや、駄目だ!護らなくてどうする!)


 力の差を考えている場合ではない。やらなくては、いけないのだ。




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