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大魔術師と助手  作者: 沢凪イッキ
第一章 大魔術師の助手兼護衛
3/43

-02-


城の長い廊下を淡々と歩く。


無機質なところもあり、中庭に面した暖かいところもあり、長くいたらおかしくなりそうだと、フィフィは兵士に視線を移した。


「あ…俺がつく大魔術師ってどんな人?」


あたし、と言いかけて慌てて直す。兵士は気付いた様子もなくフィフィの話に答えた。


「アシュリー様ですね!あの方は、大陸屈指の大魔術師です!!」

「ふーん。で、性格は?」


得意げな様子をさらりと流し、フィフィは気になるところを訊いてみた。

しかし兵士は、途端に勢いを失う。


「性格は…」


嫌な予感がする。


「なに?」

「…いえ……そうですね…非常に関心が薄いといいますか…」

「何に。」

「その…色々なものに……」


何と言ったらいいのか、と兵士は考え始めてしまった。


(とんでもないナルシストじゃねーよな…?)


不安に思って聞いてみる。


「自分にしか興味がないとか?」

「いえ!そのような事はございません!」


即答だ。


「ならその曖昧な言い方はどっから来るんだよ。」

「はあ…申し訳ございません…何分色々と難しい方でして…」

「難しいって…頑固親父かよ。」

「いえいえ!あの方はまだお若いですよ。フィアニス様と同じ年頃ではないかと。」

「んじゃ気難しいんだな。」

「気難しい…そうですねぇ…そういうところもお持ちですね…」

「はっきりしねーなぁ。」

「はあ…申し訳ございません…」


すまなそうにする兵士を一瞥し、フィフィは話を止めた。一体どんな人物なのか、非常に不安がある。


(いくら城の人間だって言っても、変人だったらさっさととんずらするか。安定収入は諦めるしかねぇな。)


そんな事を思っていると、目的の場所についたようだ。兵士が廊下の端へ避け、姿勢正しく直立していた。


「こちらがアシュリー様の回廊になっております!」

「へー。」


兵士が指し示した方を見て、フィフィは戸惑った。そして、先程の兵士の台詞を思い出す。


「…ん?……回廊?」


「はい!大魔術師様お二人には、皇帝陛下より、回廊が与えられております!そして、こちらがアシュリー様の回廊になります!」

「………は?」


フィフィはもう一度その“回廊”を見る。廊下から続く扉を少し開けると、中にはまだ通路が続いており、今まで歩いてきた廊下から少し外を覗くと、その“回廊”とやらがL字型にまだ続いているのが容易に分かった。


「……で?案内はここまでってか?」


若干威圧的なフィフィの言葉に少し気圧されつつも、兵士ははっきりとした口調で答えた。


「は、はい!お二人の回廊には、それぞれに属する者しか立ち入る事を許されておりません!」

「あた…俺も属してねぇだろ!?」

「はっ!ニルヴァ—ナ様に渡された書類をお持ちですから、危険はありません!」

「危険ってなんだよ!」


物騒な言葉に慌てて食い付くと、兵士はそれを聞かなかった事にして続けた。


「ともかく、お進み下さい!私はニルヴァ—ナ様より、ここまでの案内を任されております故、これにて失礼させて頂きます!」


言うだけ言って兵士はくるりと踵を返し、逃げるように離れて行く。


「おいお前!」


怒鳴るように呼ばれて兵士はさっと振り返り、敬礼した。


「御武運を!」

「はいっ?」


そのまま急ぎ足で逃げて行ってしまった。



「っ…………」


脱力してそれを見送る形となったフィフィは、ニルヴァ—ナから手渡された書類をまじまじと見つめた。


(ほんっとにコレがあれば大丈夫なんだろうな〜……見ても分かんねぇ。)


書類と睨み合う事、数分。


(行くしかねえ!)


ぐっと拳を握りしめ、フィフィは回廊の扉を開けた。




ギイィ———、と嫌な音がする。


(うわっ、幽霊でも棲んでそうだな!)


若干ビビってしまう。だが、顔も見ずに帰るわけにいかない。それに上手く行けば安定した高収入が待っているのだ。


「アシュリー様!!ギルドから、助手として来ました、フィアニスです!!」


これでもかという程の大声でアシュリーなる人物を呼ぶ。


こんな広そうな回廊、隅々まで探す気は毛頭ない。大体、あまり人は入れないようだから、これだけ騒げばきっと出てくるだろう。


「アシュリー様ー!!」


肝を据えて、出来るだけ大股で歩いていく。



「アシュリー様ー!助手のフィアニスでーす!!」


何度も叫んで自分でも煩いと思い始めた頃、通路に並んでいる扉の中に、少し大きなものを見つけた。


「………?」


明らかに他とは違う。というよりは、石の壁に扉のように切り込みが入っていて、中央に光る石が埋めてあった。


(怪しいよなぁ…。ここにいんのか?)


じっくりと観察し、その割りにはあまり考えずに、その石に手を当ててみる。


(………)


「何も……っ!?」


何も起こらないと思った矢先、石は眩しく瞬き、扉がすうっと消え去った。

その先は、真っ暗で何も見えない。


「………へぇー……すげぇ…」


しげしげと消えた所を観察し、そっと足を踏み入れた。


真っ暗だったそこは、フィフィが踏み入れた瞬間、左右の壁に次々と火が灯っていき、下へ続く階段をはっきりと見せた。


「……アシュリー様ー!?」


階段の奥へと叫ぶ。しばらく待つと、微かに何か音がした。


(…変な実験とかしてて突然化け物とか出てきたらどうしようかな…)


なんて事を思いつつ、ゆっくりと警戒しながら石段を降りてゆく。


「アシュリー様ー?いますかー?」


声のボリュームを落とし、慎重に足を進める。


「アシュリー様ー?」


階段は長いようで短く、簡単に突き当たりへ行き着いてしまった。目の前には、木製の扉。


(…これ…開けるんだよな?)


不安を抱えながらも、この向こうに何かいる、という確信があった。


(よしっ!)


意を決して、扉を押した。


こちらは、回廊の入り口の扉が嘘に思える程軽く、滑らかに動いた。それに感心しつつもフィフィは中を伺い見る。


「…アシュリー様ー?」


部屋は薄暗かったが、かろうじて部屋の様子は分かった。

どうやらいくつか大きな本棚があり、本は床に散らかっているようだ。中央には大きな机があるのが分かった。


(ようするに散らかしっ放しなんだな、アシュリーとやらは。)


「……ぅ…」


(!?)


部屋の中央からうめき声が聞こえた気がした。人の気配もする。

お目当ての人物かと思い、そうっと無造作に散らばる本を避けつつ机によると、誰かが机に突っ伏しているようだった。


(ん…?)


その“誰か”の耳元が、弱々しく光っている。

興味を惹かれて覗き込んでみると、耳飾りの宝石が、僅かに光を放っているようだった。


(すげぇ…光る石なんてあるんだな…)


その幻想的な光景を思わず観察してしまう。その視線に気付いたかのように、光がこちらを“見た”気がした。


(んっ!?)


まさか、と思った瞬間だった。


「!?」

 

飾りの宝石から眩いばかりの光りが飛び出したかと思うと、凄い早さでフィフィの周りを飛び出したのだ。


「なっ…!?」


とっさに逃げようとするが動きが早過ぎて進路が見えない。光はフィフィの眼前を眩しい光で埋め尽くす。


おまけに鈴を振るような音が、どんどん大きくなっていって、ひどい耳鳴りがしてきた。


(眩し…それに、耳が…!!)


眩しさのあまり視界を奪われ、耳を塞ぐ為に身体を動かせば、それにすら耐えられず、バランスを崩した。


まばゆい光。


ひどい耳鳴り。


フィフィは完全に目を閉じ、耳を塞ぎ、その場にしゃがみ込んで動けなくなった。




その時、積み上げられた本の山を崩してしまったのだが、フィフィはまったく気付けない。だが机に突っ伏していた人物は、その大きな音で目を覚ました。


(!?…人?)

「ウェスペル止めろ!」


明らかに侵入者を威嚇している使い魔に命令を下すと、光は一瞬驚いて固まり、ちらりとふてくされたようにして耳飾りの宝石に戻った。


「ああ、ありがとうな。お陰で安心して寝れたよ。」


そう言って機嫌をとると、嬉しそうに、可愛らしい鈴の音で答えた。光りも大人しくなっている。

そして、部屋の灯りが瞬時に灯った。


(で、この人は…?)


侵入者と言えど、城からなんらかの許可が出ている筈だ。でなければこの回廊へ入る事すら出来ないのだから。


しかしウェスペルの事を知らないとなると、王家からの許可を受けた者ではないだろう。

つまり“賓客”ではない。


(可哀相に。もろにウェスペルの攻撃を受けてるとなると、ニルの仕業か…?)




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