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大魔術師と助手  作者: 沢凪イッキ
第一章 大魔術師の助手兼護衛
2/43

-01-

時は流れ——

 

ここはクライスト帝国。


大陸の中心を統べる大国であり、その中心である王族、軍人のみならず国民さえもが国を考え、国を作っている。絶対的な信頼でこの国は成り立っていた。


その帝国一のギルドで今、運命の歯車が廻り始める——。




「高収入?そんなのいくらでもあるだろうが。ほれ、こいつなんか生け捕りにしたらかなりの大金だぞ?」


そう言ってギルドの男が指名手配書をひらひらと振る。

それをうっとおしそうに見やり、相手は言葉を続けた。

「そうじゃなくて、持続出来るものないか?」


ギルドの男はぴくりと眉を跳ね上げ、訊ねた相手を睨んだ。


「だったら城にでも行け!ここは安定職の仲介所じゃねえ。」

「じゃあ城関連のないのかよ。」

「城に行きゃあ分かる事だろうが!」


はあ、と相手は大仰に溜め息を吐く。わざとらしく落胆して見せた。


「帝国一のギルドだっていうから、期待してきたのに残念だな。結局他廻るしかないのかー。無駄足だったな。」


相手はまだ二十歳前後だろう。細身の体は鍛えてありそうだが、別段熟練した風でもない。そんな青二才に馬鹿にされるわけにはいかなかった。


「無駄足だと!?」

「だってないんだろ?城の仕事は城に行かなきゃ分かんないんだろ?なら無駄足じゃねーか。」

「おい…ナメた事言ってんじゃねえぞ。」


そう言うと、ギルドの男は何かを思い出したようで、忙しくリストをめくると、一枚の紙を嫌味な笑顔とともに突き出してきた。


「月収200万イルだ!文句ねえだろうが!」


返事はせず、相手は紙をひったくると内容を確認し始めた。


「……大魔術師の助手?該当者も内容も、全部わかんねぇじゃねえかよ!」

「面接で話すって書いてあんだろうが?どうすんだ。」

「……仕方ねーな。受理しろ。」

「偉そうに言うんじゃねぇよ!」


ギルドの男は荒々しく書類に判を押し、相手に押し付ける様にして渡した。こんな生意気なガキの相手などしていたくはない。


「さっさと失せやがれ!」


そう怒鳴ったものの、身体に触れて違和感を感じた。男の顔色が変わると、相手は舌打ちとともに紙を奪い取り、一歩離れてから不遜に笑う。


「礼は言っといてやるよ。」


捨て台詞とともにさっさと出口へ向かう。

男は何も言えないまま、扉が閉まるのを見ていた。






クライストの城では、一つの魔法陣の前で思い悩む女性がいた。

名はニルヴァ—ナ。

呼び名はニル。


儚気だが芯の強そうな瞳は赤みを帯びた紫。端麗な容姿を飾る真っ直ぐで長い髪は艶めく銀色。少し突き放した物言いをするが、困っている者を放っておけない性格から、男女から好かれる大魔術師だ。


「さて…なんて説得しようかしら…」


今も放って置けない事態をなんとかしようと、思い悩んでいる。すると廊下から声をかけられた。


「ニルヴァ—ナ様!いらっしゃいますでしょうか?」


兵士だろう。

ニルは魔法陣を諦め、扉を開けた。


「なに?」

「はっ!ギルドから、助手の希望者が来ております!」

「助手…?ああ、あれね!どこにいるの?」

「はっ!検問室で待機しております!」

「そう、ありがとう。」


それだけ言ってニルは歩き出す。兵士は数秒見送っていた。


「ニルヴァ—ナ様…お綺麗だ…!」




検問室に入ると、すぐに希望者が目に入った。厚手のマントを羽織り、緊張した様子もなく椅子に座っている。その様に、思わず笑ってしまった。すると希望者がこちらを見て立ち上がった。


「私は大魔術師のニルヴァ—ナよ。」

「…弓術士のフィフィです。助手を探してるのは貴方ですか?」

「……貴方、女性?」

「はい。よく間違えられますが、女です。」


ニルはまじまじとフィフィを見てしまった。


薄茶の髪は肩につくかつかないかくらいで、背も女性にしては高め、男性にしては低めといったところ。顔立ちも中性的で、男だと判断されるのは、少し低めの声と、落ち着いた、少し堂々とした態度からだろう。


「…男名を下さると便利なんですが。」


その台詞に、今度は噴き出してしまった。


「面白い人ね!さ、座って。話をするわ。」


言われてフィフィが腰を下ろすと、ニルは少し楽しそうに話しかけた。


「ここへ来る前は何を?」

「ギルドで色々と。主に賞金稼ぎです。」


「そう。こういう仕事は?」

「した事はありません。」


「魔術に興味があるの?」

「いえ、特には…」


「家事は出来る?」

「……はあ、一通りは…。自分が生活出来る程度には出来ますが…」


「そう。男は嫌い?」

「……特には…」


「他国には行ってみたいと思う?」

「……まあ、多少は…」


「面倒見はいい?」

「……面倒見た事ないのでなんとも…」


「そう。素直なのね。」

「…そうですか?」

ニルは何やら頷くと、にっこりとフィフィに微笑んだ。


「では試用期間を設けましょう。3週間頑張ってみて。」


そう言ってニルは席を立つ。すると、フィフィが慌てて呼びかけてきた。

「え!?ちょっ…今ので終わり?」

「あら、終わり。充分よ?」

「いやいやいや、仕事内容は?」

「ああ…本人に聞いて頂戴。」

「ん…?」


フィフィはまじまじとニルを見た。


「貴方の助手じゃないんですか…?」

「あら…私の助手じゃないわよ?私にはもういるもの。助手が必要なのはもう一人の方なの。あ、これ書類ね。持って行って。」

「もう一人…?」


そうそう、とニルは頷く。

「あ、あと男名ね。フィアニスと名乗ってもいいわ。好きな様に使って。ただし王家の方々には女名でね。」

「もう一人って?」


フィフィは今にも去りそうなニルに懸命に言葉を投げる。対してニルはにっこりと笑って言った。


「部屋の外にいる兵士が案内するから、ついて行きなさい。じゃあね。」


そう言ってニルが手を振って部屋を出ると、入れ替わりに兵士が入ってきた。


「ご案内致します、フィアニス様!」

「………」


置いて行かれたフィフィは、仕方なしに少々疲れた思考を切り替えた。


(もう男の設定でいいんだな?)


取りあえず面接は通ったようだ。

今からその大魔術師の元へ案内してくれるようだし、それなら言われた通り、本人に色々訊くのが得策だろう。


そう考えて、フィフィは兵士に向き直って頷いた。


「頼む。」


取りあえずは、ついていく他ないだろう。





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