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孤高の塵人  作者: dy冷凍
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七十二章

トカゲ亜人の名前がミーセになっています。少しわかりずらいと思うので補足しておきます。

 ガンガンと。防犯ガラスを殴っているような音が聞こえる。二度寝しようと身体を横になると剣がピカピカと光って寝れなかったので仕方なく身体を起こす。


 恐らく野営の準備して寝始めてから三十分も経っていない。くあっと欠伸を噛み殺しながら一人で張るのに苦労したテントから出ると、外ではワニ亜人が障壁を叩いていた。


 テントの隣では半径五メートルに障壁を張る魔道具が淡い光を放ちながら稼働している。旅の三点セットに必ず付いてくるこの魔道具はもう二年は使っている。三脚に支えられている球体が妙に可愛らしい。まぁ、そんなことは別にどうでもいい。


 球体の頂点にあるスイッチを押すと障壁はすぐに消えた。ワニ亜人が歯をカチカチと震わせながら俺の前に歩いてくる。



「すまないシュウト。逃げることしか出来なかった」

「……おいおい、マジかよ。まぁ取り敢えずテントの中で話を聞こう」

「時間が無い」

「青ざめた顔で言われてもな。いいからさっさとこっち来い」



 ワニ亜人の手を掴んでテントに引きずり込むと彼女は抵抗することもなくテントに入った。握った手はとても冷たい。赤い髪にも氷のような粒が付いている。


 そもそも馬鹿力のワニ亜人が魔道具の障壁を破れないことは絶対に有り得ない。恐らく何かがあって瀕死なのだろう。在庫も半分を切っているポーションの瓶を持って少し手が止まったが、振り切るように息を吐いてからワニ亜人に飲ませる。


 それとワニ亜人の体温がやけに低く感じたのでお風呂を創造してから彼女の服を脱がしてそこにぶち込んでおく。緑色の鱗に包まれた肌と目立つ傷跡を見てから少し様子を見る。


 三十分くらい湯につけさせるとワニ亜人の体温は戻ったのか、いきなり浴槽から上がって俺の出したタオルを受け取って身体を拭き始めた。羞恥心が無いのかと思い、筋肉で引き締まった足から鱗で包まれているくびれたお腹、丁度手が埋まりそうな胸などをジロジロ見ていると流石に恥ずかしくなったのかワニ亜人はタオルで身体をサッと隠した。



「……私の身体などあまり見ても面白くないだろう。私にとっては勲章だが、男から見ては傷物にしかならない」

「ワニの国でもそんなこと言われるのか。あそこの男ならそんな傷なんて笑い飛ばしそうなもんだが」

「…………」



 この前街で買っていた服を着ながらワニ亜人は座り込んで俯いた。にしても最近風呂ばっか作ってんな。何回も作ってるせいか最近は大理石みたいな美しいバスタブとか作れるようになったぞ。風呂のクオリティ上がるのは嬉しいけどさ!


 ワニ亜人にしては暗い雰囲気を出していたので少し気遣いながらも何があったのかを聞く。



「ま、気にすんなよ。んで、どうしてこんなことになったんだ?」

「……あの子をミーセの知人の家へ連れていって調べさせたら、いきなりその知人に背後から襲われた。モセカと一緒に蹴散らそうと思ったんだが、私は冷たいものを当てられて動けなくなった」

「モセカとトカゲ……あー、ミーセは?」

「モセカは捕まった。恐らく私と同じものを投げられて動けなくなっていた。ミーセは私を逃がしてくれたが多分捕まってしまった」

「そうか。良くここまで来れたな。お手柄だ」



 ワニ亜人の目を見ながらそう言ったがワニ亜人は自嘲するように笑った。



「私は逃がされただけだ。油断していた」

「勿論、やられっぱなしのままじゃないだろう?」



 わざとらしく口元を上げながらそう言うとワニ亜人は複雑そうな顔をしていたが、すぐに口角を釣り上げた。



「……勿論だっ!今度は勝つ。あの道具にはもう当たらない」

「その意気だ。もう体温も戻ったか?」

「あぁ。いつでも行けるぞ私は」

「それじゃあ行きましょうかね。案内は任せるぞ」

「……ん? 道は覚えてないぞ?」

「……じゃあどうやって探すんだよ馬鹿野郎っ」

「い、痛いっ。頭をグリグリするのはやめろっ! 痛いんだそれは!」



 道行は遠そうだ。



 ――▽▽――



「ここか?」

「うーん。見たような見ていないような……」

「頼むぜオイ……」

「今度こそ! 今度こそここで間違いない! 行くぞシュウト!」



 石で出来た丸い家の扉を強く開けるワニ亜人に続いてフードを深く被っている俺も入る。もうこの家で不法侵入も六件目だ。こんな真夜中にいきなりドアをぶち開けられる住民の気持ちを考えると若干胸が痛む。



「おい! 何をしているんだ! 早く進め!」

「引っ張るなよ! 服破れちゃうだろ!」

「警備服なんていくらでも替えがあるだろ! さっさと進めっ」



 その後ろではトカゲの警察のような方々が光源を持ちながらスライムの壁に四苦八苦している。四件目辺りからこの人たちに追われるようになってしまったので、今は魔法を使わずに道具を中心にして足止めをしている。魔法使って人間とバレたら相手の士気が格段に上がるからな。あれもこれも全部ワニ亜人のせいだ!


 だがこの不法侵入もここで終わりのようだ。明るい室内には二つの椅子の間でニッコリとして立っている女性がいた。ミーセと顔の造形が少し違うが、こいつもトカゲの亜人だった。



「あらあら。随分とまぁ、貴方の連れは強引な人ね。ミーサ?」

「やったぞシュウト! 当たりだ!」

「後ろからもれなく警備兵が付いてきてるんですがそれは……」

「問題ない! 私が全て蹴散らす!」



 ワニ亜人は俺と喋りながらも横から飛んできた球体物をしゃがんで避けた。その球は壁に当たるとドロリとした青い液体を壁に撒き散らした。確かに体温下がりそうだなあれは。


 家の中には椅子に座らされて後ろ手に縛られているミーセとモセカ。ミーセは意識があるがモセカは気絶しているようでグッタリとしている。それに不死身少女は見当たらない。トイレに行っていることを祈るばかりだな。



「一足遅かったようですね。あの子はもう本部に送りましたよ」



 白衣を着たいかにも博士っぽいトカゲの亜人はこちらを見て嬉しそうにはにかんだ。ミーセは顔に少し鱗があるが彼女は人間と区別のつかない顔だった。



「そうかよ。なら取り返すまでだ」

「元々彼女はこの国の物です。奪うと言った方が正しいですね」

「そうだな。お前をボコボコにしてあいつを奪い返す。これでいいか?」

「出来るものなら、ですけどね」



 彼女は蛇のような舌をチロチロとさせながらねっとりとした視線を向けてきた。二つに割れている舌先に少し怖気づきながらも異次元袋をまさぐる。


 すると彼女は手に持っている球をこちらへ投げつけてきた。こちらも異次元袋から球体を取り出して迎撃する。俺が投げたのは衝撃を与えると燃える球だ。


 その玉はお互いにぶつかると派手な音を立てて地面に落ちた。彼女は驚いた表情をしながらも地面に球を投げつけてワニ亜人に牽制した。


 荒瀬さんから貰った黒い異次元袋から出る道具は使い道がないと思っていたが、こんなところで役に立った。持っていてよかった!



「貴方もこれを使うのね。この、まま、じゃ、捕まるわねッ!」



 ワニ亜人に球を投げている隙に近づいて組み伏そうと手を伸ばすが、彼女はそれを避けながらも喋り続ける。やはり魔法で強化しないと亜人の身体能力には勝てないか。


 一旦離れてから身体強化を全てかけ直し、また捕まえようとしたが後ろからドタバタと足音が聞こえる。警備兵が追いついてきたか。



「ワニ亜人。あいつは任せるが、大丈夫か?」

「任せろ」



 やる気満々のワニ亜人にトカゲ亜人を任せ、俺は警備兵の抑えに回る。警備兵の持っている懐中電灯のような物から発せられる鋭い光を手で覆いながらも、スライムを異次元袋から出して扉を封鎖した。


 だが外には凍ったスライムがあるのが飛び交う光の中で確認できた。警備兵もあいつと同じもん持ってるのか。これじゃあスライムはもう使えないな。


 案の定警備兵も青い球を投げつけてきた。その球がスライムに当たるとスライムがみるみる内に固まっていく。相手が蹴破ろうとしてきたので逆に俺から凍ったスライムを蹴り飛ばし、警備兵の光源が交差している外へ出る。



「この人数差だ。大人しく地面に伏せろ!」

「嫌だね」



 そう言うや否や腰から警棒のような物を取り出して殴りかかってきた警備兵の鳩尾辺りにこっちから突っ込み、そのまま持ち上げて他の警備兵の元へ投げ飛ばす。そんな作業を続けていると警備兵は近接戦闘が不利と感じたのか腰のポケットから青い球を取り出し始めた。


 遠くから延々と投げられるのも厄介なので異次元袋から大量のスライムを出して辺り一面にばら撒く。亜人を洗う時に使った汚いスライムも大サービスだ。が、ここで問題が発生した。


 亜人を洗った際に汚水を吸水させたスライム。それは三ヶ月くらい異次元袋の中で熟成を重ね、ドブネズミも泣いて逃げ出すようなことになっていた。そのスライムを持った俺の手が腐り落ちるような錯覚さえも覚える。


 とにかく臭くて死にかけたのでそのスライムを適当に警備兵へ投げつけると、黒色のスライムに人間顔の亜人は鼻を覆いながら一歩二歩下がり、トカゲ顔の亜人は口元を抑えながら後退りした。トカゲで嗅覚あんのか。知らなかった。


 ちなみに手の汚れは簡単には落ちそうもない。出さなきゃよかった!



「貴様! 早くその物体を何とかしろ!」

「恐らくお前の青い球を投げれば何とかなる! 早くしろ!」



 正直公害レベルの臭いなので一時休戦的な空気になった。そんな空気の中俺がそう指示するとトカゲ亜人たちは手に持っていた青い球を黒いスライムに投げつけ始めた。青い球を次々と体内に入れられ、黒いスライムが中から凝固していき完全に固体となったが……。



「おい、消えないぞ!」

「あるぇー? おかしいなぁー?」

「貴様! 騙したな!」

「仕舞うから勘弁してよー。俺だってこんなことになるとは思わなかったんだよー」

「ええぃ! 貴様は女性の家にづかづかと入り込んだ罪がある! さっさとこっちに来てもらおうか! 暴行や窃盗は行っていないようだからまだ罪は軽いぞ!」

「何で俺が変態のレッテル貼られなきゃ行けないんだ! 嫌だよ!」



 固体になった汚水スライムを異次元袋に収納しながら適当に反論しておく。いや、流石に軟体の汚物は触りたくなかったのでとても助かるわ。


 警備兵と舌戦を交えながらも家の中を見るとワニ亜人がトカゲ亜人を気絶させ、ミーセとモセカも救出されていた。ワニ亜人にここを出るようにアイコンタクトで伝えながらも、異次元袋から煙幕玉を取り出す。



「それじゃあお達者で! あ、でも家を覗いたのはすみませんでした!」



 地面に煙幕玉を叩きつけると慌てたように辺りを照らす光がブレた。その隙にワニ亜人に気絶しているトカゲ亜人とモセカを担がせ、その後は怒号を背にしながら闇夜に紛れて何とか逃げ切った。


 トカゲの国を出て俺が張ったテントに戻るとワニ亜人がトカゲ亜人とモセカをテントに運んだ。モセカも体温が低下していていたので俺が風呂を作り、ワニ亜人にモセカの世話をお願いした。


 その間にミーセがトカゲ亜人を尋問していたが、結果はミーセがテントを出てくる時の顔でもうわかったが、一応聞いておく。



「やはり白状させるのは難しいのか?」

「微妙なところじゃ。じゃが少しは情報を吐かせた。夜通し説得すればなんとかなるやもしれん」



 白くて細い髪を揺らしながらミーセが目を閉じながら答えた。



「まぁ、最悪魔法を使えば楽勝だ。人間とバレた時が少し厄介そうだがな」

「人間とバレたら恐らく奴は何も喋らなくなるぞ。お主が出るのは辞めた方が賢明じゃ」

「そうか。だが時間がないぞ。不死身少女が本部とやらに届けられるまでに救出しないと面倒なことになりそうだ」

「そこについては吐かせたぞ。本部というのは生物兵器の研究機関のことじゃ」

「……何だそれは?」

「儂の種族が戦争に貢献するために作られたのが生物兵器じゃ。儂は兵士だったから推測になるが、お主が言っている不死身少女とやらは生物兵器として作られたものじゃろう」



 深刻そうに眉を潜めながらもミーセは話を続ける。



「まさかあの子があそこまで重要視されているとは知らなかった。儂のせいじゃ。すまん」

「そういうことはあいつを取り返してからだ。それで、その本部はどこにあるんだ?」

「あの国の中心部にあるらしく、生物兵器は地下に掘られた実験区域に隔離されるはずじゃ。恐らくそこに運ばれたはずじゃが、まだ確証がない。だから儂が責任を持ってあやつに全て吐かせる。もし朝までに無理じゃったらお主の魔法を使うしかあるまい」

「……わかった。それじゃあミーセに任せるぞ」

「あの子は必ず取り返す。儂の兵士としての誇りにかけてじゃ」

「ワニ亜人みたいだな」

「ちゃかすでない」



 ミーセはこちらの目を見つめ返しながらも俺の肩を叩いてからテントに向かった。

序盤に出てきたおっとり拳闘士に名前が似てますね。

おっとり拳闘士=ミーサ

トカゲ亜人=ミーセ

まぁおっとり拳闘士はもう死んでますけど

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