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孤高の塵人  作者: dy冷凍
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六十三章

 朝になると蜘蛛女は起きだして自分の部屋に帰っていった。自分も障壁を解除してみんなの部屋に回り、朝飯を食べたらすぐにここを出ることを伝える。


 昨日と同じ要領で朝飯を配り終わり、少し休憩したところで全員にここを出るための作戦を伝える。


 ここの門番はチェックがかなり厳しい。なので強行突破以外にチェックを抜けるすべはない。もし亜人が門番を切り崩そうとしたら絶対に死人が出るので、門番を切り崩すのは俺の仕事だ。


 まずは俺だけ外に出て食料品を出来るだけ買い込む。保存食や非常食は異次元袋に大量に入っているが、新鮮な食べ物がもう空だったので買っておく。


 異次元袋は現在四つ持っているのでスペースにはまだまだ余裕がある。二つは自由用、一つは獲物用、最後は新鮮な食べ物用だ。この異次元袋には氷を大量に敷き詰めているので、冷凍庫のような扱いだ。中はマイナス温度なので手を突っ込むと痛いのが難点だが。


 新鮮な野菜や肉などをその異次元袋に突っ込んでおき、食料屋から怪訝な目で見られながらも宿屋に帰って荷物を整理する。


 すっかり手入れを忘れていた埃だらけのバイクを拭き、ピカピカになったバイクを押しながら亜人たちと一緒に宿を出る。


 全員が色々なローブをすっぽりと被ってぞろぞろと街道を出て行く。その光景は明らかに異質で、街の人は遠目にひそひそと話しながらも遠巻きにこちらへ注目していた。


 注目を浴びながら門に向かうと、門番が二人、胡散臭そうな顔をしながらこちらに近づいてくる。銀色のくすんだ鎧にしっかりと手入れがされている槍に目線を向けながら笑顔で近づく。



「お前たち、何者だ?」

「あぁ。こういうものです」



 バイクをその場に止めてから異次元袋をまさぐると、門番は持っている槍の力を一瞬緩めた。その隙に異次元袋から取り出した剣で門番の槍を弾き、そのままもう一人の門番とぶつかるように蹴り飛ばす。


 後方にいる門番が三人共首にかかっている笛に手をかけたので、ドロドロした闇弾を指から飛ばして三人の口を塞ぐ。起き上がった二人の足場は闇の沼で既に脱出出来ないようになっている。


 これで一先ず門番は潰したが、すぐに街人が異変に気づいて応援が来るだろう。だからこの間に亜人が逃げきれるかが勝負の鍵になる。



「俺が門番を倒すから、外に出たら真っ直ぐ走れ。一応これを渡しておく」

「これは?」

「保存食だ。念のためだ。走れ」



 闇で作った袋を門番の頭に被せ、意識を闇に吸わせて気絶させる。こちらを見ていた街人がざわざわと騒ぎ出すが、多分大きな騒ぎになるまでに亜人が出られる余裕はある。


 ここの門は二個あるので外にいる門番も倒さなくてはならない。そこまでいければ後は俺が足止めするだけなので気分が楽になる。


 走ろうとする亜人を追い越して外側の門で待機している門番二人へ静かに近づき、二人の頭を鷲掴みにして両方を打ち合わせるように叩きつけた。地面に倒れる門番をよそ目に亜人たちへ目線で合図する。



「子供ガッ!」



 枯れたような声に釣られて後ろを見ると、内側の門で巨漢の街人に捕らえられている子供がいた。拘束から逃れようと暴れている子供のフードがはだける。


 フードから細い二本の触覚が露わになった瞬間に、巨漢の動きがピタリと止まった。拘束が解けた隙に亜人の子供はこちらに走ってきたが、それを見ていた周りの人は無言で武器になるような物を持ち出し始めた。


 巨漢の男もそれにならって腰にぶら下がっている刃物を持ち出した。街人の目つきが先ほどより明らかに変わる。


 明確な殺意をひしひしと受けながらも亜人たちが全員外に出たのを確認する。門番だけならまだしも街人が加わるとなると足止めするのは面倒そうだ。



「あいつらは全員亜人だァァァあぁぁあ!!」

「生きてこの街から出させるな!」

「殺せ! 殺せ!」



 その騒ぎも聞きつけて門番が現れる。亜人たちは既に外に走りながらもこちらに振り向いたが、手で追い払うように見送ってからすぐに前を向く。


 闇の魔法は少人数の相手を戦闘不能にするには便利な魔法だが、多人数相手だと相手の衰弱具合を管理出来なくなるのでどうしても死人が出てしまう。なので街人相手だと闇魔法は使えない。


 取り敢えず槍を持って突っ込んできた門番を剣でいなしてから指をちょいちょいして挑発しておく。すると門番が二人で槍を持ってジリジリと近づいてくる。俺の武器はロングソードなのでその対応は正解だ。自分の攻撃できる範囲の外から攻撃されたら辛いに決まってる。


 ロングソードが届かない位置から放たれる槍の刺突しとつを身体を反らして避けていく。すると後ろから盾を持った部隊がぞろぞろと出てきて俺の前方に位置取った。その後ろに魔術師らしき者もいる。


 街人が武器を持って亜人を追いかけ始めたので、光の障壁を俺の後方に広く張って進行を防ぐ。障壁に攻撃している街人を横目に剣をぶらぶらとしながら相手の動向を注視する。すると魔術師たちが紙媒体を盾の隙間から出して詠唱し始めた。



「雷よ、鋭利な刃と成りて彼の者に突き刺さらん。雷のライトニングブレード

「炎よ、愚かな敵に炎を浴びせよ、断罪のコンデミネーションファイア

「風よ、先の敵を吹き飛ばせ。風の砲弾ウインドキャノン



 次々と襲いかかる魔法を闇の障壁で防ぐ。全て防げたことに若干驚きながらも、前から大盾を持って接近してくる門番三人と睨み合う。


 盾の後ろから突いてくる槍を後ろに下がりながら避ける。その戦況を続けていく内に痺れを切らした一人が盾の構えを解いて槍を大きく突き出してきた。後方には避けられないのでその槍を横に避けてから掴んで引き寄せ、門番の体制を崩す。


 こちらに引き寄せられた門番の頭に膝蹴りをお見舞いし、呻いている門番を片手で後ろの門番たちへ投げ飛ばす。門番たちは盾で仲間を受け止めながら一旦後ろに下がった。


 その隙にさっきの門番が落とした大盾と槍を拾う。大盾は何も装飾がなされていない無骨な物だが、大盾の表面のツヤ、裏側の皮の手触りなどから、手入れが良くされているのがわかる。



(シュウト)

(いや、流石にこの状況で剣だけはキツいわ。)



 剣に言い訳しながら盾の裏側の取っ手に腕を通し、いらない槍を門番の盾へ投げつけておく。その槍を受けた門番が軽く吹っ飛んだことは見なかったことにしよう。


 そして後ろでは障壁を壊せないことを感じ取った街人が俺に向かって走ってきていた。一番に到着したククリ刀を持った冒険者を大盾ですくい上げる弾き飛ばす。


 身体の鍛えていなさそうな商人などは素手で投げ飛ばすなどして対処していく。まぁ街人の大半は学生なのでそこまで加減しなくても大丈夫だと思うが。



「せ、先生。何で!? どうして!」



 中には見知った者も混じっていた。アグネスに来る途中に槍の指導をした生徒が、今は盾を持たずに槍だけで俺の前に立っていた。



「何だ。盾は諦めたのか?」

「……先生の動きを見て槍だけに変えてみたんです。そしたら大分戦闘が楽になりました」



 少年はそれを見せるように少し長めの槍を両手で振り回した後、悲しそうな笑顔をしながらこちらに槍の矛先を向けた。



「勝負です」



 そう宣言までしてから少年は槍を持ち替えてから突っ込んできた。少し期待を削がれながらも大盾で受けようとすると、少年の槍の持ち替え方がおかしいことに気づく。


 明らかに槍の持ち方がおかしい。そう感じている間に少年は持ち手の方を地面に立て、そのまま槍をしならせてながら俺を飛び越えた。そのとんでもない行動に思わず笑ってしまう。何で棒高跳びしてんだよ! というか良く槍が折れなかったな!


 空中でバランスを整えて上から矛先を向けて落ちてくる少年を大盾で受け止め、体制を崩しながら落ちてきた少年に一言。



「五十点」



 少年の足を掴んで後方に投げ飛ばす。そしてその隙をついてきたショートソードを持った赤髪の少女。残念ながら身体には光の障壁が張ってあるので心臓を狙った突きは弾かれた。


 肉を裂く感触を予感していただろう少女はその固い感触に驚いて転んでしまった。少女をシールドバッシュで弾こうとした時に、前から魔法の応酬が迫ってくる。それは少女が避けられることを考慮されていただろうが、転んでいる今では避けることが出来ないだろう。


 闇の障壁を前方に展開しながら少女をこっちに引き寄せて魔法を防ぐ。すると少女はうずくまりながらも身体に異変が無いことに気づき、そっとこちらへ顔を上げた。



「……え、あ」

「大丈夫か? ってお前は確か……」

「……せ、先生! 私に魅了魔法を、かかかかけたわねっ!?」

「いや、かけてねぇから。というか離れろ! また魔法打たれるぞ!」

「私先生と一緒なら死んでもいい! 元々殺すつもりだったし、いいよねっ?」



 抱きついてくる赤髪を片手で剥がすのに苦戦していると、後ろから斧を持った大男が俺の頭めがけて振り下ろしてくるのが見えた。少女と一緒に転がりながら斧を避けて冷や汗をかく。



「殺す気か!」

「殺す気よ!」

「太刀が悪いな! もうお前には手加減しねぇから!」



 本気で少女の服を引っ掴んで無理矢理引きはがすと、少女の首元の服が思いっきり破けて白い肌が露わになった。



「先生のエッチぃいぃいい!!」

「こんな時に気にしてられるか! 死ね!」

「ひぐぅ!?」



 胸を隠している少女に手加減なしで鳩尾に蹴りをかますと、少女はその場で蹲って口に手を当てて血を吐き出した。やりすぎたと思うのも束の間、後ろには斧を振りかざしている大男。


 大男の方に振り返りながら裏拳を顔面に食らわし、前から飛んでくる魔法は闇の障壁で防ぐ。


 そうすると誰もこっちに突っ込んでこなくなったので、全ての魔法を解いてから目を閉じて集中し、頭の中で魔法を想像する。微弱の電気が門番と街人に流れる魔法。ちゃんと想像出来た所で目を開いて門番に向かって手をかざす。


 門番たちは身体を跳ね上げてその場に崩れ落ち、後ろの街人も大体は気絶した。だがやはりムラがあるのか数人はまだ立っている。その数人を闇の袋で包んで気絶させてから、さっき本気で蹴った赤髪を治療しておく。恐らく内臓がぐちゃぐちゃだったのでしょうがない。


 壁役のいなくなった魔術師に近づくと彼らは一目散に逃げ出した。しかし一人だけは残っている。見覚えのある顔だ。



「しぇんせい! 何でこんにゃ! 酷いでしゅ!」

「うっわ。泣いてるのに全然真剣に聞こえない。お前詠唱だけじゃなくて日常でも噛むの? ん?」

「……うぅ。何で普通に喋ってるんですか。こんなことして! 何でそんなふぜけていられるんですか!」

「うん。途中まで良かったんだけどな! 何で最後噛むんだよ!」

「うるさいです! 答えてください!」



 やたら詠唱を噛むことが特徴な彼女は顔を赤くしながら媒体紙をこちらに向けた。俺が足を進めると周りを見回して不安げに表情を歪めたが、それでもキッとこちらを睨んだ。



「打ちますよ! 別に先生とはそんな親しくありませんし! 動いたら打ちますよ!」

「何か結局打たなそうな台詞だな」



 鼻で笑いながら近づくと彼女は後ろに下がりながらも、媒体紙を持つ手を震わせながら詠唱を始めた。



「ほにょおよ!」

「何処の魚の子だ、オイ」

「炎球よ! 球形とにゃりて……」

「お前そこよく噛むよな。もう三回くらい聞いたぞ」

「うぅぅうぅ!! 何なんですか! 早くトドメをさしたらいいじゃないですか! もう魔力がないんです!」

「いや、暇だったからな。お前は五点だ。精進しろよ」



 少女の頭を撫でながら魔力を分け与えておく。一応魔物も出るかもしれないから他の奴も守ってほしいしな。



「これは……何を入れたんですか! まさか魔力!?」

「もし魔物がきたら気絶している奴を守ってやれ」



 門まで戻ってバイクに跨って魔力を流す。一体どういう原理で動いてるんだろうなコレ。一応他の街にも売ってたから機械に魔力を流して動かす技術は確立していると考えていいだろう。恐らく戦争の時にも使われそうだよな。



「じゃあな。元気でやれよ」

「……何でこんなことしたんですか」

「いずれわかるよ」



 バイクに乗りながら少女に手を振ると、少女は迷いながらも振り返してくれた。そのまま全速力でバイクを走らせて亜人たちを追う。これからどうしたもんかね。


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