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孤高の塵人  作者: dy冷凍
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五十九章

14Cの異常さを垣間見た修斗は気味悪さを感じながらも三日間の休日を終え、週に一度の学年演習へ向かった。


「貴方に地面の味を教えてあげましょう」

(何言ってんだコイツ……)



 今日はお出かけ日よりの日曜日。三日間の休暇後だ。月火は17B担当で水が14C。木金土が休みで今日が学年演習というやつだ。


 学年演習はその名の通り同じ学年で外に演習に行く授業だ。演習に行く際の四人PTは必ず前回と違う者と組まなければならず、見知らぬ者と連携について話し合う協調性が無ければこの演習を厳しい。


 中には個人で好き勝手良い成績を取る奴もいるらしいが。まぁスライムとかしか出ないからしょうがないのかもしれない。


 そして現在はコロシアム状の戦闘場にいる。目の前ではレイピアを構えたカルサが嬉しそうに息を乱しながら戦闘場の土を蹴っている。正直気持ち悪い。戦闘狂かコイツは。


 周りにも数人の講師と生徒達が模擬戦や魔法のアドバイスをしてるのが見てとれる。ただほとんどの生徒が講師にマンツーマンで指導を受けていた。


 このように学年演習では同じ学年と一緒に外に演習するだけではなく、講師と一緒に演習してアドバイスして貰ったり対人戦などを申し込むことも出来る。しかしそれは今までの演習で優秀な成績を残した者のみが貰える特権らしい。だから生徒の数は少ないのだ。


 しかも真剣で勝負が出来るように世界に二人しかいない回復魔術師が一人控えているらしい。そのことは今日の朝に職員室で初めて聞いたので、正直な話冷や汗が止まらない。少なくともカルサは絶対俺に対人戦を申し込んでくる。もし怪我をしたら回復魔術師に身体を見られて完全にアウトだ。


 だから今日はカルサと一回も剣で打ち合う気はない。俺の剣術は剣の切れ味のゴリ押しと俺の力のゴリ押しで出来ている。技術はカルサの方が上だ。なので絶対に近寄らせてはならない。


 取り敢えずカルサの足元に闇の沼を生成する。カルサはすぐに足元が沈むのを察知してそこから飛び退いたが、その先にも闇の沼。また飛び退く。闇の沼、また飛び退く。



「真面目にっ! 戦いなさいっ!」

「至って真面目だ。俺は一応魔術師だからな。何で近接戦をしなきゃならない」

「キィーッ!! ムカつく!」



 ヒステリックな言葉を吐きながらもカルサは闇の沼を避け続けてきたが沼によって足場が無くなっていき、遂にはカルサが今立っている所以外に足場が無くなった。


 周りの講師に変な目で見られたのでアイコンタクトで謝りながらも余分な闇の沼は消しておく。だがいくら身体強化がクラスで一番のカルサでもこの距離は無理だろう。カルサの半径七メートルは沼だしな。


 これで諦めるだろうと踏んでいたがカルサはこっちに向かって勢い良く跳んできた。その距離六メートルくらい。身体強化だけではあの距離は飛べない。後ろから追い風を吹かして距離を伸ばしたのか。沼からは抜け出せないが俺に攻撃は通りそうだ。


 カルサはレイピアを構えた腕を引き絞りながらも近づき、俺の目の前でそのレイピアを突き出した。レイピアに風の付加もあるのか剣身が僅かに震えている。それにカルサの髪が凄いはためいていることから、結構な風の魔力が込められていることがわかる。だが俺の髪はピクリとも動かない。


 目の前で透明な光の障壁がレイピアの切っ先を阻む。五枚の内二枚の障壁が破られたが、金属の擦れ合う音でカルサは折れると感じたのかレイピアをすぐに引いた。そして光の障壁にそのまま身体をぶつけて闇の沼に沈んだ。



「よっこらせっと」



 カルサを闇の沼から引きずり出してから闇の沼を解除し、レイピアを地面に落とさせてからからその場に立たせる。するとカルサは足払いをしてこようとした。


 その足払いを縄跳びをするように避けてから腰を捻り、そのまま腹を爪先で抉るように蹴った。足元から伝わる感触が少し危ない気がしたが、これぐらいはいいだろう。回復魔術師がいることだし。


 しかしカルサは手応えのあった蹴りを食らっても倒れなかった。それどころか俺の足を両手で掴んだ。……身体強化の類か? 確かに身体強化は身体を強靭にしたり反射神経を上げることが出来るが、魔力燃費が相当悪い。そのためにカルサはまだ一部分くらいしか身体強化は出来ないはずだ。


 俺の足を両手で掴みながらニヒルな笑みを浮かべているカルサ。この状況は体制を崩されやすくて不味いので右足の筋力が上がるように念じ、そのまま足を上に持ち上げる。最初こそニヤけていたカルサだったが、自分の足がつかなくなるまで持ち上げられると慌て始めた。



「え? えぇ!?」



 最後にはアームにぶら下がった子供のようになったカルサは慌てながらお尻から地面に落ちた。うっわ。凄い痛そう。



「痛ったーい……」

「大丈夫か?」

「あ、ありがとうございます」



 カルサの両手を掴んで引き起こすと彼女は痛そうにお尻の方を見ながらも立ち上がった。そのまま暫し沈黙。



「……放して下さい」

「不意打ちしたのはだーれかな?」

「わ、悪かったですね。ですが貴方が泥沼を散々やったからでしょう!」

「言い訳する奴は~」

「きゃあ!」



 カルサの両手を持ちながらその場をグルグルと回り始めると、遠心力でカルサの身体が浮き始める。十五回転くらいで闇のクッションを創造する準備をする。



「そぉい!」

「ぎゃあぁああぁぁ……」



 回転の勢いを乗せてカルサを思いっきり前方へ投げ飛ばした。そして着地点に闇のクッションを置いておく。アフターケアもバッチリ。



「あ、すいませーん。一応あの女子生徒の治療をお願いします」



 こちらを見ていた白髪の回復魔術師にお願いすると、彼女は俺から逃げるように小走りでカルサの元へ向かった。回復魔術師の見た目は二十代だがもう四十歳を過ぎているらしい。回復魔術で自分の肌でも回復してるのかな?


 回復魔術師から目線を外すと青髪のぼさっとした髪型の少年が立っていた。ぼさっとした髪型は寝癖らしい。ちなみにこの世界のワックスの素材はスライムから取れるんだそうだ。あんまり使いたくねぇな!



「次はお前か……というか良くお前学年演習で良い成績取れたな」

「スライムとゴブリンくらいなら単独でも狩れる」

「まぁカタワならそれぐらい出来るか。お前はおかしいくらいに魔法が使えるしな」

「…………」

「だんまりかよ。つれないねぇ」

「雷の精霊、相反する水の精霊に力を分け与え、弾けろ。電撃散弾エレクトリカルショット

「いきなりすぎぃ! 休みをくれ休みを!」



 カタワがいきなり突き出した魔法陣から降り注ぐ電撃散弾を水の障壁で防ぐ。電撃を纏った水滴を撒き散らす電撃散弾は剣士には驚異だが、水の魔術師なら簡単に防げる。前は咄嗟だったから闇で防いだが、周りに厚い水の障壁を張れば問題ない。


 するとカタワが落ちていたカルサのレイピアおもむろに拾い、少しの間の後に頷いて左手に紙を持ちながら詠唱する。



「鋭き光彩を武具とし、我が手に集え。雷武具サンダーウエポン

「おい」



 カタワの右手のレイピアに電気が纏わりついていき、最後には雷の棒みたいになった。待て。何でお前は感電しないんだ。あれは完全に素手だろ。そもそもカルサの武器勝手に使うなよ! 何一人で納得してんだよ!


 そう考えている内にカタワは手にあった雷棒を上に構え、助走をつけてこちらに投げつけてきた。透明の障壁より丈夫なクリーム色の障壁を張り、貫いてきた時の為に腰に引っ掛かっている剣を手に構えておく。反射神経も少し上げておくか。


 案の定クリーム色の障壁はガラスが割れるように砕け散った。そしてレイピアの代わりにカタワが破片を気にせずにこちらへ突っ込んできた。手にレイピアは無い。


 ……何故カタワはこっちに突っ込んできた? 魔術師は詠唱しなきゃ攻撃できないので近接戦闘は必然的に不利になる。武器も無しにどういうつもりだ?



(取り敢えず切れ味無しな)

(はいはい)



 剣に心の中でそう指示しながら目に力を込めてカタワを凝視する。挙動、表情を確認。今握り直した右手……砂が指の隙間から零れている。奇襲に砂かけを狙っている。が、その先は分からない。わざわざ砂をかけるためだけに近寄ってくる訳がない。


 カタワが目の前にくる。彼は予想通り砂を視界一面に投げ捨てた。砂粒を顔に感じながらも閉じた目を開くと彼はレイピアを構えていた。さっきまでは持っていなかったはずだ。いつ拾った!? 


 身体の軸をずらしてレイピアの突きを避けてから剣でレイピアの横腹を叩く。武器には慣れていないようだがカタワはレイピアを離さなかった。


 カタワが左手でポケットをまさぐる。この距離なら詠唱の邪魔は出来るから問題ない。そう思って剣を両手に持ってカタワへ当てにいく。


 カタワは媒体紙を出さずに左手で俺の顔に向かって何かを投げた。反射的にそれを剣で弾くと――それは石ころだった。



(石ころかよっ!)



 完全にその石ころに意識を取られ、その間にカタワが俺の懐に潜り込んでいた。魔法を意識させてからの石ころ……しかも弾くところまで考えてたのか?


 カタワの膝蹴りが俺の太ももの付け根に入る。鈍い激痛に顔を顰めながらも剣で切り下がるようにして距離を離す。カタワはその斬り下がりを後ろに跳んで避けながらも両手に異なる媒体紙を構えた。



水流ウォーターフロウ雷撃フォールサンダー



 詠唱短縮と共にカタワが空中で魔法を放つ。魔方陣から水流と雷撃が出る前に土障壁を出して防いだが、雷撃の一部は土障壁を貫通して脇腹辺りに当たった。息が止まるような痛みが身体を襲い、思わず膝をついてしまったがすぐに回復する。


 カタワは俺が雷撃に当たったのを確信していたようで少しだけ気が緩んでいた。確かに雷魔法は当たったらほぼ戦闘不能に陥るので気持ちはわからなくもない。


 その隙に土障壁を拳で叩き割りながらも左拳でカタワの顎を叩く。完全に不意をついた攻撃にカタワは受身も取れずに地面に倒れた。



「カタワ君も、投げ飛ばしちゃいましょうねぇ!」

「や、止めろ!」



 倒れたカタワの足首を掴んでそのまま盛大にジャイアントスイングを開始する。そしてカルサを飛ばした場所と同じ場所に投げ飛ばす。ちょっとズレたのでクッションの座標をいじっておく。



「すいませーん。その子もお願いします」



 回復魔術師が舌打ちした気がした。

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