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孤高の塵人  作者: dy冷凍
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第六章

「すみません。ギルドカードが無いんですけど、どうすればいいですか?」

「でしたら身分を証明出来る物を提示して頂ければお作り出来ますよ」



 旅人のカードをお姉さんに預けると彼女は困った顔をした後、一言言って奥の方へ行ってしまった。あれー? 凄い不安なんだが。


 腕を組みながら椅子に寄り掛かり、後ろで雑談なりしている冒険者達に目を向ける。銀の鎧を身に付けて背中に縦と槍を担いでる者や、布地の身軽そうな装備に片手剣と盾を腰にぶら下げている者と色々な冒険者がこの一軒家に密集している。


 豪華な装飾を施した女性冒険者も見かけたが、あまり女性は見なかった。まぁ女性は荒事に向いてないしなぁ。魔法も貴族や偉い人が独占してるって話だし。


しばらく周りの冒険者を見ながら一つ欠伸。彼女が奥に行ってから結構経ったがまだ来ないので、神様少女の本でも読もうかなとバックに手をかけようとした時にやっと奥から人が来た。


 柔らかい微笑を浮かべた若いお兄さん。髪は真っ白の短髪。服も上下真っ白。しかもこの暑い中長袖長ズボン。この人にあだ名を付けるなら絶対にシロだ。まっしろしろすけ、でもいいな。



「お待たせしてすいません。私はここのギルド長を務めさして頂いているシロエアと申します」



 冒険者が密集しているこの暑い中、シロエアさんは爽やかな笑みを浮かべてお辞儀した。……さぞモテるんだろうなぁ。男の俺からしても格好いいと思うし、後ろにいるさっきの受付のお姉さんも心ここにあらず、って感じだし。



「いえいえ、大丈夫ですよ。でも何か問題でもありましたか?」

「旅人の方は今ではあまり見ませんからね。彼女はここで十年働いてる古参ではありますが、旅人の方をご案内したことがないようなので私がご案内させてもらうことになりました」

「そうですか。それじゃあよろしくお願いします」



 シロエアさん……シロさんでいっか。シロさんが下がっていいよ、と言うと後ろのお姉さんは顔を赤らめながら奥に去っていった。



「それで本日はどのようなご要件でこちらに?」

「ギルドで何かしらの仕事を受けたいんですけど、そのためにはギルドカードを作らなければいけないそうなんでカードを渡したんですけど……」

「そうですか。失礼ですが貴方は旅人になられたばかりではありませんかね?」



 受付娘に渡した黒いカードをこちらに差し出しながらそう訪ねてくるシロさん。うーむ。これは正直に言った方がいいのかな。聞くは一時の恥。聞かぬは一生の恥なんて言葉が浮かび上がる。つーか何故俺は旅人に関しての資料を読まなかったし。



「そうですね。まだ旅人になって日が浅いもので……無知ですみません」

「いえいえ。旅人は今となってはほとんど見かけませんからね。しょうがないですよ」



 面倒くさいなんて表情はまるで感じられないシロさん。凄いねこの人。何かのプロって感じがするよ。最高です。



「説明は何処までしましょうか? 旅人の全てを分かっているとは言えませんが、大体のことはわかるのでご遠慮せずにどうぞ」

「とりあえずギルドカードを作って仕事がしたいのですが……」

「他のことは大丈夫ですか?」

「えぇ。一応旅人についての資料はありますので。読むのをサボってこの有様ですが……」

「そうですか。色々なことを説明するのも私の仕事なので自分を責めないで下さいね」



 クレーマーもこんな丁寧に対応されたら静まるんだろうなぁ。……特に女性には効果抜群だろうな。チッ、男の俺から見てもこの人凄い輝いて見えるし。そんな俺の地味な嫉妬など露知らず、シロさんは黒いカードを手にしながら何か説明しはじめた。



「まずこの黒いカードのことは旅人の証と言います。旅人の証はギルドカード、商人の証二つのカードを合体させた物、と考えになられて結構です。ですから貴方はギルドカードを作らずに旅人の証を見せればそのまま依頼をお受けすることが出来ます」

「あ、そうなんですか……お恥ずかしい限りです」



 商人の証とギルドカードを合体させた物か……。かなり便利な物なんだなぁ。商人の証がどれほど価値があるのかはわからないけどな。でもそんな便利な物が申請するだけで貰えるのに旅人は人気がないんだ? 少なくとも俺は商売が出来て強い人がいたら憧れを持つと思うが。旅人さん格好いいじゃん! って純粋無知な目を向けると思うが。



「何か疑問をお持ちになられている顔ですね。どうぞ遠慮なさらずに言って下さい」

「あ、えっと……。商人の証の価値はあまりわからないんですが、何でそんな便利な物が貰えるのに人気がないのかなぁって」

「それは多分信用の問題ですね。ギルドカードにはランクというものがあって依頼を達成する事に上がっていき、それによってギルドから信頼を得ることが出来ます。しかし旅人の証にはランクが記入されないので、ギルド個人の信頼が必要になります」



 ギルド個人の信頼かぁ。この世界にギルドいくつあるのかなんて知らないけど、それって結構面倒なんじゃないかな。Bランクの実力持っていても薬草摘みから始めるとか何の罰ゲームだよ。



 「それと商人の証にはそれを習得するための試験がある一方、旅人の証にはありません。ですからこれも信用の問題ですね」



 ……そりゃあ試験受かった奴の方を信用するよな。



「それにこの大陸は既に地図が出来上がって各地の名産品や観光場所もわかっているので、情報も旅人に聞かなくても大丈夫です。……なのであまり人気はないですね」

「なるほど」

「他にも何か聞きたいことはありますか?」

「いえ、大丈夫です。今日はわざわざありがとうございました」

「いえいえ、こちらこそ指導が行き渡っておらず本日はご迷惑をおかけしました。今後もよろしくお願い致します」



 笑顔でお辞儀をしてくれたシロさんにこちらもお礼を言って俺はギルドを後にした。この黒いカード、旅人の証は使い勝手はいいが少し面倒くさい部分もあるな。それに旅人が少ない理由もわかった。むぅ。中々うまくいかないもんだ。


 今日は仕事を受けるのが目的だったが、一回ギルドを出てしまってまた戻るのも気が引けた。まだ日は傾いてはいないが今日は宿に戻ってまた本でも読むとしよう。


 ……うーん。ついでに店も見て回ってみようか。この街は店がいっぱいあるので見ているだけでも退屈しなさそうだ。何か面白そうな物が置いてある店に入っては出てを繰り返す。


 暗闇で光る粉……千円。握り拳程度の袋の中に空気に触れると発光する粉が入っていて、凄い幻想的な光を放つそうだ。中身を全部ぶちまければ一応目眩ましにも使えるらしい。よし買った!


 魔力を込めるとシャボン玉がいっぱい出る機械……五百円。人体に有害な成分は入っていないのでお子様でも安心! 少量の魔力で貴方をシャボン玉が包みこむことも出来ます。細かい穴が空いているので窒息することもありません、だって。買いました。


それにしても一般人は魔法が使えないのに魔力は使えるのか? ……わけわからん。後で本を見て調べてみるか。


そんな疑問に差し掛かりながらも店員にお金を渡して、面白そうな物をバッグに入れる。無駄遣いしないようにしていたのにこのザマだよ! だって安かったんだもん……。



(お金あんまり持ってこなくて本当によかったよ……)



 会計を済ましてしばらく歩いた後にそう思った。これは我慢出来そうもない。子供の時に百均ショップへ行った以来の興奮だったねあれは。くそぅ。卑怯すぎる。


 見た目は小さい袋だが一軒家分の収納スペースがある袋も買いたかったが、凄い高かったから買えなかった。それと幼児の中に混じって嬉しそうに玩具を買う高校生って今思うと気持ち悪いな。店員も若干表情引きつってたし。


 そんなことをすぐに忘れるほどにご機嫌だった俺は心の中で鼻歌を歌いながら宿屋へ帰ろうとした。露店の間から見える裏路地にいた小さい男の子が、いきなり横から出てきた手に引き込まれたのを見なければ俺は気持ちよく宿屋に帰れたのに。


 昼間から誘拐なんて治安良くねぇーよ。サラめ、嘘つきやがって。……いや、日本が平和すぎたってのもあるかもしれないが、それでも子供誘拐とか中々の事件だぞオイ。


 見捨ててもいいかもしれない。女ならまだしも男だから酷い目には合わないだろうし、助けても利益ないしー。でも俺は何故かウズウズしていた。こういう展開を想像したことが過去にあるからだろう。それが今現実で起きたんだ。


 とりあえず裏路地に入ってあの子を追いかけますか。喧嘩は慣れてはいないがしたことはあるし、相手が一人なら多分勝てるだろう。と気持ちを高ぶらせてみる。


 そして意を決して昼なのに薄暗い裏路地に足を踏み入れた。下らないスリルに胸を躍らせながら。

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