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孤高の塵人  作者: dy冷凍
57/83

五十五章

臨時講師として初めての授業にクラス。

クラスの女騎士に模擬戦を挑まれて返り討ちにした修斗。

そして二限の授業が始まる

「……お、終わった」

「ん? お前はビリだから一周追加だ。さっさと行ってこい」

「もう、無理……」

「んじゃ早歩きでもいいから行ってこい。帰りがあまりにも遅かったらまた一周だからな」



 ひぃひぃ言いながら走っている女子生徒の背中を追い風で押しながらも周りの様子を伺う。前衛を担当する男子はもう勝ち抜けマラソンを終えて腕立て伏せを始めていて、女子は草原に寝っ転がってグテッとしている。


 二限目も戦闘訓練なので生徒同士で模擬戦でもさせようと思っていたが、主に女子生徒の体力があまりにも低かったので芝生の轢いてある空き地で基礎訓練をすることにした。


 基礎訓練の話をすると女子生徒が「魔術師は魔法を打てればいい」なんて言うから、そういう考えを持っている奴は勝手に魔法の練習をしても構わないと言っておいた。すると半数の女子と数人の男子が去っていった。


 いずれ戦争に送り出されるというのに随分と余裕だなと思いながらも、腕をプルプルとさせて動かない細身の男子生徒の背中をゆっくりと押してやる。



「ちょっ……」

「はーい、サボるのは禁止な」

「こんなことさせて、貴方は、楽しいんですかっ!」

「君は男子の勝ち抜けマラソンで最下位だったね。君も魔法だけ使えればいいと思ってたら他のことしていいぞ。授業に出席したってことにはしてやるさ」

「くそっ」



 何だかんだ言いながら腕立てを続ける生徒に感心しながらも、他にサボっている奴らにも適当にちょっかいを出しに行く。やられる側の気持ちをわかってるからこそ、ついやってしまう。俺が特訓してる時に荒瀬さんにも同じようなことされたしな。


 そして二限目が終わる頃には生徒全員が汗だくになって芝生を転がっていた。というか制服のままで何で筋トレしてるんだよ。蒸れて気持ち悪いだろ絶対。



「次回はこれの二倍はキツい筋トレを行う。女子はひたすら外周だ」

「何で魔術師が筋トレなんか……」

「あのな、お前たち戦争に出るんだから戦争の歴史は習うだろ? それでも本当に基礎体力なんていらないと思うのか?」

「亜人なんて魔法があればただの雑魚じゃん! 他の講師だってそう言ってるよ! 身体能力しかない亜人が魔法を手に入れた人間に太刀打ち出来るわけないって!」



 ……こりゃ教えてる講師が悪いわ。そもそも何でそこまで楽観視出来るのかがわからない。前回の戦争は荒瀬さんがいなきゃ負けてたんだよな? なのにどうしてこうなるのか。



「わかった。もう授業が終わるから学舎に戻りなさい」

「もううんざり! 私もう出ないから!」

「あぁ。なら次回は魔法の練習でもしといてくれ」



 名簿表に×印を付け加えながら俺も学舎に戻った。……多分不幸補正抜きで初日から半分の生徒が消えた。こりゃ一ヶ月後どうなってるか楽しみだな、オイ。


 三、四限目は魔法を教えることになっている。さて、どうなることやら。



 ――▽▽――



 二限目から三十分の休憩を挟んでから三限目のチャイムが鳴り響いた。場所は先程の教室で席はほとんど埋まっている。半数居ないことを覚悟していたが、流石に初日からサボる奴は居ないらしい。


 そして出席を取って授業を始めようとした時にあの金髪眼鏡――マルケス・ハシュタナイザーが突然席から立ち上がって言い放った。



「僕は初級の上位魔法を使えます」



 魔法の成績が一番良いらしいマルケス君がしたり顔でそう言い放った時には、思わず教卓をガタリと揺らしてしまった。それを驚きと受け取ったのか彼は更にしたり顔を高めた。


 あれ? こいつ最初に媒体破棄がどうたらとか言ってきた奴だよな? 何か興奮してたから俺の実力把握してるのかなーって思ってたけど、なんでこんなピノキオみたいな顔してるの? 初級って……上級ならまだわかるけれども、初級って何だよ!? 



「……そうだな。それじゃあマルケス君、この障壁に向かって最高の魔法を放ってくれ」

「いいんですか講師さん? 貴方が光と闇を使えるとしても、僕が打つのは”上位”魔法ですよ?」

「あぁ。今張ってやるから早くやれよ」



 気障ったらしい仕草にイラつきながらも魔法を発動させるように指示すると、彼は仕方ないなぁとでも言いたげな仕草で立ち上がった。そもそも初級上位って何だよ!? 初めて聞いたわそんな単語!


 突っ込み待ちなのかを本気で心配しながらも初級魔法の水の障壁を詠唱して作り出す。そして周りに被害の行かないよう指で光の障壁を描いてマルケスに首で促すと、彼は本当に困ったように首を振りながらもこう言った。



「講師さん? 僕の使う魔法は雷ですよ? それに障壁の後ろに座るなんて、危ないですねぇ」

「んなもん髪の色と目を見れば大体分かるだろ。元から持ってる魔力の属性に瞳の色は影響するからな。それにもしこの障壁を貫けても簡単に防げるよ」

「ふぅ……。全く、前の講師に説明は受けてなかったのかな?」



 出そうになった舌打ちを抑えながらもマルケスをじっと見ると、彼はようやく胸ポケットから紙を取り出して大袈裟に声を張り上げながら詠唱し始めた。



「僕の中に宿る雷よ! 目の前の壁を貫け! 雷棘ボルカニックニードル!」



 詠唱の後に紙から鋭い二つの雷光が飛び出してきて目にも止まらぬ速さで水の障壁に突き刺さった。しかしそれは貫通することなく水に吸い込まれて吸収されてしまった。


 しんと静まる教室の中、マルケスの眼鏡が少しずれる。予想できた展開にため息を吐きながらも教卓から立ち上がって、マルケスの肩をポンと叩く。



「……これが全力か?」

「ま、まさかそんなわけないでしょう。こんな水の初級魔法、僕が崩せないわけがない」



 その後マルケスはが軽い魔力切れになるまで魔法を打っていたが、結局障壁は破れなかった。つうか初級三発で魔力切れかよ……。サンドラにいた女性は二十発くらい打ってた気がするんだけど。



「……取り敢えず他の奴らも前に出て障壁が破れるまで魔法を打ってくれ」



 呆然としているマルケスを椅子に座らせながらも出席番号順に並ばせて水の障壁に魔法を打ってもらう。魔法が出来ない奴はマッチや静電気程度の威力しか出ず、出来る奴も炎球や風球などの基本的な魔法しか打てないようだ。更に魔力切れが早すぎる。


 ……レベル低っ! あれ? ここって確か最高学年だよな? え? これは酷くない? 初級で詰まってるってことは身体強化も赤ん坊レベルだろ絶対! よくもぬけぬけと魔術師とかぬかせたな!


 名簿に数字を書き足しながらも最後の出席番号のカタワ君に視線を向けるが、彼はノートを見たまま動かなかった。炎球を手に出して投げるフリをしても反応が無い。逆に凄いわカタワ君。



「次、カタワ君だよっ」

「……あぁ」



 小動物のような仕草の女の子に引っ張られながらも、カタワ君はぼさっとした青髪を掻きながら俺の前に立った。隣の子は幼馴染だろうか。名前はドッサリーナ・メヤカ。ドッサリーナという名前の通りちっこくて柔らかそうなほっぺたをしている。



「カタワ君。あそこに自分が思う最高の魔法を当ててくれ」

「あぁ」

「敬語を使えコンチクショウ。炎球ぶつけるぞ」

「や、止めて下さい先生。カタワ君を殺さないで下さいっ」

「うん。冗談だから真面目な顔で俺の両手を掴むのは止めような。危ないから離れな」

「カタワ君を殺さないでっ」



 冗談も通じないのかと舌打ちしながらカタワ君にアイコンタクトを取ると、ドッサリーナが俺の両手を抑えている内にカタワ君は紙を片手に詠唱し始める。おい、何でだ。俺そんな感じの目をしてないぞ。


 ……それに魔方陣が他の奴らと違って複雑だな。しかも二色の色で描かれている。あ、嫌な予感するわコレ。



「雷の精霊、相反する水の精霊に力を分け与え、弾けろ。電撃散弾エレクトリカルショット



 詠唱と共に魔方陣から黄色に光った水球が発射されて、それは見事に水の障壁を貫いて俺に向かってきた。勿論俺の両手を封じていたドッサリーナにも電撃散弾が襲いかかる。


 殺す気かと本気で冷や汗をかきながらもドッサリーナの身体を素早く引き寄せ、闇で周りを覆って電撃散弾を吸収する。詠唱の文面からするに雷と水の複合魔法だろう。多分闇属性がベストたった筈だ。


 周りが大丈夫かを確認した後に闇の障壁を解除してカタワを見ると、彼は恐ろしいほどに無表情だった。コイツ……。というかあんな威力の魔法食らったら普通の奴は即死だぞ。



「……カタワ。お前は来週から別メニューな。というか殺す気だったろお前」

「だから?」

「お前な……。まぁいい。席につけ」



 小首を傾げているドッサリーナに少し同情しながらも二人を席に座らせる。にしても二種類の魔法を複合してたなカタワ君。……俺、複合魔法とかまだ三種類くらいしか出来ないんだけど。


 一属性単体の魔法を出すのは物凄い簡単だ。俺の場合は想像するだけでポンと魔法が出るしな。だけど複合魔法はお互いの属性のバランスを正確に把握して調整しなきゃいけない。


 それは砂を手づかみで一グラムも間違えずに測定するのと同じようなもので、更に複合魔法はイメージがし難い。だが威力は中々に良いし魔力の燃費も良い。


 手間はかかるがその分威力と燃費が良い、それが複合魔法だ。初級魔法すら危ういクラスに何で複合魔法を使える奴がいるのか……。それにあの女騎士もまぁまぁ身体強化は使えてたし。


 何なんだこのクラス、とため息をつきながら時間を確認するともう四限が終わる頃だった。魔法の定義なんかは来週でいいだろう。クラスの大体の魔力量はカタワ以外わかったし。



「もう授業時間終わったか。来週は講義するから。んじゃ解散」



 気だるそうな生徒達に解散を伝えて俺は名簿やらを持って教室を出た。五、六限は外に出て指定地で魔物と戦うらしい。絶対大変そうだ。


 取り敢えず一時間の昼休みの間に生徒へどういう風に授業をしていたか聞き込みして、それから授業内容を考えよう。……昼飯を食う暇が無いな。何か弁当を買ってくればよかった。




 ――▽▽――



 目の前の野原を一望しながらも五限目が始まった。魔物との戦闘ということで気を引き締めながら目的地に進むが、後ろを付いてくる生徒は周りを警戒もせずに雑談している。まぁこいつらにとっては学校の避難訓練のような物なんだろう。


 PTは元から決まっているらしいが今日は臨時PTを組ませて戦闘させることにした。その旨を伝えると生徒達はいきなり不安気な表情になった。さっきの雰囲気が嘘みたいだな。まぁそれも狙いの一つなんだけど。


 魔術師2騎士2のPTを適当に組ませ、命の危機と判断した際に使う信号弾を各次に持たせてフィールドに散らせる。まぁここはスライム、ゴブリン、コボルドくらいしか出ないから大丈夫だとは思うけども。


 ほとんどのPTが話し合いながら散り始める中で雰囲気が怪しいPTに目を付けて追っていると、そのPTがゴブリンと戦闘を行おうとしていた。



「でやっ!」



 片手剣を持った男子生徒二人が声を張り上げながらゴブリン二匹を足止めしている。その内に後ろに居る女子生徒と男子生徒が紙を持って詠唱を始めた。その詠唱が始まった途端に前衛は後方に引き始めたが、一人の男子生徒の片手剣が木製の棍棒に突き刺さってしまってゴブリンを中々振り切れずにいる。


 その内に詠唱を完成させた男子生徒は慌てて魔法を中断しようとしたが既に遅く、炎球が発動してゴブリンともつれている男子へ向かっていった。彼はゴブリンを盾にして防いだようだが、右手の皮膚が遠目から見てもただれている。



「うーん。はい、そこのPTこっちに集合してー」



 風の刃を部分的に吹かせて残ったゴブリンを細切れにしてさっきのPTをこちらに呼ぶ。まずは怪我をしている彼に処置をしないとな。



「取り敢えず君は……ここに手を突っ込んで冷やしてからこの薬を塗りなさい。死ぬほど痛いらしいけど、大丈夫、死なないから」



 右手を大火傷した生徒の前に水球を浮かせて赤い薬を渡しておく。というか右手を焼かれて悲鳴を上げないなんて凄いな。俺だったら泣き叫ぶわ。



「んで、PTの反省点は何だ?」

「俺達がゴブリンを足止め出来なかったことです……」

「それで五割な。他は?」

「……いや、特に思いつかないです」



 右手を水球に突っ込みながら男子生徒は顔を俯かせている。一方魔術師の女子生徒は長いホウキのような髪を弄っていた。取り敢えず彼女を中心に風を吹かせて髪をボサボサにしておく。



「髪を弄ってる場合かよ。PTメンバーの右手が使い物にならなくなってんだぞ」

「はぁ? 敵を足止めするのが騎士の役目でしょう?」

「しかも打ったの私じゃないし」



 女子生徒の代わりにインテリ風の男が偉そうに言ってきたので右手に炎球を創造する。かなり大きめに作ったせいか彼は少し怖気ついていた。



「敵を足止めするのは確かに騎士の役目だが、味方の尻拭いをするのは騎士の役目じゃないぞ。コイツの怪我は明らかにお前のせいだろ。魔法も満足に使えない上に、謝罪も出来ないのか?」

「し、身体強化も使えない騎士なんかに何で俺が……」

「あ?」



 インテリの足を土で固めて炎球を顔面に近づけると、彼は後ろに倒れて歯をガチガチと震わせていた。何というか、あの女騎士といいコイツといい、プライドだけが出しゃばってる奴らが多いなココは。嫌になってくるわ。


 赤い薬を右手に塗って悶絶している生徒を見た後に、炎球を消して倒れているインテリを見下ろす。こいつは成績は結構良い方なんだし、変なプライドさえ無ければ良くなると思うんだがなぁ。



「いいか、PTメンバーは大切にしろ。例え臨時PTだろうとだ。そもそも臨時PTなんだからお互いの魔法や特異分野を話し合えよ。お前らだけだぞ、話し合ってないのは」

「いつものPTだったらっ」

「……頭の回りそうなお前なら臨時PTでも上手く前衛を動かすと思っていたんだがな。図上戦術の成績は見かけだけだったのか?」



 足の拘束を解いてインテリに手を貸しながらそう言い聞かせると、彼は少し冷静さを取り戻したようで顎に手を当てながら何も答えなかった。



「それじゃあ今度は頑張れよ」



 自分の右手を見て驚いている生徒の肩を叩き、他のPTの様子を見にいく為にそこから去った。途中振り返るとインテリが頭を下げていたのが微笑ましかった。


 他にも魔術師は偉くて騎士は捨て駒、みたいな考えの奴がいたので適当に粛清しておいた。まぁやりすぎてはいないだろう。というか初級魔法が少し使えるくらいで何でそこまで威張れるのか、率直に疑問だわ。


 そして信号弾も上がることなく無事に五、六限が終わった。所々拗ねているような奴がいるが、もう気にしない。そこまで面倒は見れないわ。



「んじゃ解散。お疲れ」



 点呼をした後は適当に挨拶を済ませて学舎に戻った。あぁ疲れた。この後に事務作業もあるんだよな……。案外大変だな先生ってのも。

遅れてしまい申し訳ない

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