表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
孤高の塵人  作者: dy冷凍
52/83

五十章

砂漠で巨大な境界線に圧倒されながらもイザラスに到着。

治安の悪い街だが同時に戦争の歴史がある街なので、修斗は情報を得るためにギルドへ向かった。

そして試験を突破した修斗はギャルに突然襲われた。何とかそのギャルは倒したが、修斗は見覚えのある人物に捕まってしまう。

「何でお前が……」

「あーん? そりゃ俺らのリーダーがギルマスだからに決まってんだろー? つーか何でお前こそここにいるんだよ。まぁ俺にとっては好都合だけどよぉ?」



 剣の背で肩を叩きながらゲレスは俺の顔を見てさも楽しそうに笑っていた。……ゲレスが持ってる剣って日本刀っぽいな、ってそんなことはどうでもいいんだよ。これはかなり不味い。もし「一年前の借りを返してやるぜ!」みたいになったら間違いなく戦闘になる。


 不死のことは出来る限り秘密にしとかないと絶対不味い。もし広まったら亜人扱いされて人間の領地で行動しずらくなるだろうし。


 三対一の状況の中、無傷で勝つのは難しいだろう。治療魔法が使えることがバレるのは覚悟しようと心を決めて、これからどうするか想定する。確かコイツ挑発に乗りやすかったし……。



「さぁて魔術師。一年前のことは覚えているなぁ? こんな乙女に暴力振るったんだしぃなあぁ」

「やー、戦乙女の間違いじゃないですかねー」

「一年前とあんまり変わってねぇみたいだなぁ!! 一片死ねオラァ!」



 ゲレスが挑発に乗り始めた所で体から光の波動が出るようにイメージすると、黒いマシュマロはひび割れてボロボロになった。そして彼女が振りかぶった日本刀を受け止めようと剣を前に出したが、受け止めた衝撃が来ないことに少し首を傾げる。



「と、言いたいのは山々何だがよぉ。先に情報引き出さなきゃ隊長に怒られちまうからな。つーか、チーカてめぇ! 何で拘束解かれてんだよ」

「予想外。黒き塊よ、彼を拘束せよ、黒塊束縛ブラックラムリステクション

「あ、予想外だったけどまた捕まえようとするのな!?」



 長髪の日本人形みたいな少女が前に手を突き出して詠唱すると、俺を追うように地面から次々と闇のスライムが這い出てきた。流石に不意打ち以外で食らうわけもいかないので、足元を風で浮かせて滑るように地面を走って闇を避ける。ゲレスと隊長とやらはいずれ捕まると思ってるのか静観している。


 それに俺から情報を引き出すとか言ってたな。そんな大層な情報持ってないぞ俺? 



「情報教えるから見逃してくれたりとかはする?」

「不愉快。却下。地獄の番人共、我に手を貸せ、監獄手腕プリズンハンド

「いや、いきなり襲われた俺の方が不愉快だよ!?」



 背後の壁から出てきた黒い手に腕を掴まれて少し力が抜けたが、気合で振り払って部屋の中心の机の上へ飛び乗った。地面と壁からは細い手が俺を掴もうと蠢いている。何だこのゾンビ映画みたいな光景は。



「黒き雨よ、大地を侵食せよ、漆黒冷雨ブラックレイン



 詠唱の雨という単語を聞いた途端に頭上へ光の障壁を展開させ、近寄ってきた黒い手を剣で切り捨てる。案の定黒い雨が辺りに振り落ちて一面が真っ黒に染まる。


 気づけば全方向を真っ黒にされて逃げ場が無かった。地面と壁には黒い手が、上からは粘り気のある黒い雨。効果は多分侵食と吸収辺りか。わーい、四面楚歌状態! 



「降参、推奨」

「まだ詰んでないんだけどねー」

「……消去」

「捕まえるんじゃないのっ!?」



 案外怒りやすいんだなと思いつつも、左手を地面につけて光魔法を侵食させるようにイメージする。すると黒かった地面がオセロのように次々と白くなっていく。魔力の量なら負ける気がしないからな! その代わり質は最悪って剣に言われたけどな!



「諦めろチーカ。奴が情報を提供すると言っているんだ。目標は達成されている」

「断念。憤懣」

「話がわかるようで良かった。えっと、隊長さん?」

「そうだ。貴様に聞きたいことがある。黒の旅人についてだ」



 徐々に引いていく闇魔法にホッとしながらも、緑色の短髪とはやけに不釣合な黒いゴーグルのような物を付けている隊長へ身体を向ける。そのゴーグルは目の所も真っ黒なのでこっち見えてんのかなと思いながら質問された事に頭を悩ませる。


 荒瀬さんについてって言われてもなぁ……。訓練でボッコボコにされて助けられたと思ったらもういなくなってたし、重大な秘密なんかも知らない。大した情報ではないだろうしここは正直に話しとくか。



「まぁそんな大層なことは知らないですよ?」

「構わん。知ってることは全て吐け。いいな」

「はぁ。名前は荒瀬……夜止。何故か顔を隠していてとにかく強い。何を考えてるかわかりませんけど、取り敢えず凄い人です」

「子供のような感想をありがとう、シュウト。だが私が欲しいのは情報なのだが?」

「手厳しいな、オイ! でも隊長さんもデタラメな強さは前に体感しただろ? あとはうーん、今は恐らく亜人の国にいると思うぞ」



 中々イラッとくる言い回しをしてきた隊長にそう言い返すと、後ろにいた黒髪の少女が闇玉を放ってきた。風の魔法で周りの空気の流れを感じ取れるようにしてあるので、すぐに分かった。


 右手に光の膜を張って闇玉を相殺し、彼女の周りを闇の障壁で囲って閉じ込める。基本的に闇の魔法は光魔法でしか打ち破れない。光魔法も同じだ。圧倒的力でゴリ押しすれば壊れるが……あの子に恐らくそんな力はないだろう。



「ふむ、魔力吸収のみか。とんだお人好しだな。そんなことではいつか寝首をかかれるぞ」

「好きでやってるんだからいいんですよ。他に聞くことはありますか?」

「フン。もう帰っていいぞ」

「はぁ!? おい隊長何言ってんだよ!」



 その言葉にゲレスは隊長の肩を掴んで食ってかかった。俺も帰っていいと言われるのは意外だったのでびっくりした。



「コイツはここで俺が殺すんだろうが!」

「ゲレス。下級ギルドとはいえ、五十人近くの男共が軽く捻り潰されたんだ。それにチーカも救わなくてはならない。ここで戦闘を挑んで何になる」

「で、でもよ! リーダーは男は皆殺しって言ってたじゃねぇか!」

「だが、リーダーは黒の旅人を追いかけているぞ? ……要するに貴様は男に屈するのが嫌なんだろう? これは屈するのではない、ただ利用するだけだ。私だって男は嫌いだ。だが中には使える奴もいるということを忘れるな」



 ゲレスは隊長の言葉に喉を詰まらせ たが、最後には赤い長髪を振り乱して俺の方へ剣を向けた。あ、俺の不幸補正っぽいわコレ。何かアイツ色々と投げやりになってるもん。絶対心の隙に漬け込まれたパターンですよ。



「あいつは気に入らねぇ! 一年待ってようやく見つけたんだ、この場で殺さねぇと気がすまねぇんだよぉおぁあぁ!!」

「ハッ、なら好きにしろ。尻拭いはしないからな」



 そう怒鳴り散らすゲレスに隊長は冷たく言い放って俺の方へ歩いてきた。多分後ろの闇の障壁に穴を開けにきたんだろう。通りすがりに軽いお願いをされたが、叶えることが出来るかは少し不安だった。


 隊長が離れたと同時にゲレスは奇声を上げずに血走った目でこちらへ駆けてきた。雷魔法で脳の反応速度が上がるようにイメージしてゲレスの動きを良く見る。ゲレスは巧みな足捌きでこちらに近づいて刀で胴体を撫でるように振った。


 身体を少し引くようにして刀を避け、右手を手刀の形にしてバランスを崩しているゲレスの首筋を弾くように叩く。すると彼女は受身も取れないまま座席に突っ込んでいった。


 これぐらいは普通に避けると思ってたので拍子抜けしていたら、前から椅子が飛んできた。椅子の足を両手で掴んで地面に置いてから座り、のんびりするようなポーズを取って挑発したら椅子の足が折れて尻餅をついた。



(おい。笑い声が聞こえてるぞ)

(ククッ。シュウトがプククッ)



 笑っている剣をよそ目にお尻を摩りながらゲレスの方を見ると、般若もびっくりの形相でこちらを睨みつけながらも剣を鞘にしまっていた。完全にキレていらっしゃる。あんな様子じゃ絶対使ってくるな、あの妙な移動方法。


 武器をしまって奇声を上げてからの瞬間移動みたいな移動方法。原理が全くわからないのであれだけには注意しないといけない。取り敢えず反射神経と動体視力を最大まで上げて光の補助魔法を身体にかける。万が一のことを考えてポーションも二、三個潰れている椅子の上に置いておく。


 するとゲレスは何も叫ばず、足音も立てずに不意に前に現れた。奇声上げないのかよと肝を冷やしながらもギリギリでゲレスの手刀を右手で受け止め、そのまま背中に回り込んで床に押し倒す。


 今になって奇声を上げながら暴れるゲレスの頭を闇魔法でコーティングした左手で掴むと、徐々に暴れる力が無くなって遂に動かなくなった。ホッと一息つきながらもゲレスの手を受け止めた右手を見る。


 手の平は刃物に斬られたみたいにバックリと裂けてピンク色の肉が顔を出していた。手刀をどう受け止めたらこうなるんだと疑問しか沸かないが、まずは急いで置いてあるポーションを飲んで誤魔化すことにする。



「随分と早いな。しかも完膚なきまでに戦闘不能。上出来だ」

「褒められるのは嬉しいんですが、隊長さんこそどうやって闇の障壁を崩したんですか?」

「一人通れる穴くらいなら誰でも出来るだろう。まぁ腕を突っ込んだだけでかなり魔力を吸い取られたが」

「ゴリ押しかよっ!? 誰でもって言うけど普通の人なら魔力切れでぶっ倒れるわ!」



 息も絶え絶えのチーカを地面に転がすように投げた隊長は、ゴーグルを頭に上げて髪の色と同じ緑色の目を細めた。あ、ゴーグル取ってもいいんだな。それに長時間つけてたのか目の周りに跡が残っていたので少し笑った。



「何を笑っている。気色悪い」

「そこまでいう!? いや、目の周りに跡が付いてて笑っただけですよ。それよりもその子は大丈夫ですか?」

「重度の魔力切れだが大丈夫だろう」

「重度かよっ! 中度ならまだしも重度かよっ! 明らかにそれは不味いわ!」

「やったのは貴様だがな」

「不意打ちしてきたのはどっちだよ!」



 やけに冷静な隊長に突っ込みながらも息を切らして倒れ込んでいるチーカの頭を抑え、急いで魔力回復のポーションを飲ませる。ゲレスはいつの間にか仰向けになって目を魚みたいにギョロギョロさせながらこっちを見ていた。何で精力と魔力ほぼ抜いたのに動いてんだ、怖えーよ。



「ほう? 魔力回復のポーションは都市でさえ一千万と聞いたが」

「とんだボッタクリだな! まぁ素材だけで百万近くしたからそのくらい行くかもしれないけども」

「それにチーカがポーションを吐かないとは珍しい」

「オレンジ味ですからね。まぁ調理人が毎日飲んだら確実に太るって言ってましたけど」



 苦しそうな表情から一転したチーカ、今は赤ちゃんのように大人しく瓶に入ったポーションを飲んでいる。一先ず大丈夫そうだな。


 ……うん。そもそも俺は何でこんな事してるんだ? 確か……今日はさっさとギルドでランクを更新して亜人戦争の情報を聞きだすのが目的だった。でもギルド長がこいつらのボスと変わったって言ってたしなぁ。最悪、諦めるか。


 隊長はゲレスの髪を掴んで説教をしている。こうなったら宿屋の主に情報料払って教えて貰おうかな。詳しくはわからないだろうが、亜人戦争の雰囲気だけなら掴めそうだし。


 待っている間は暇だったので自分が座って壊れてしまった椅子を直しておく。カムラという魔物の鼻水が原料の接着剤を使って足をくっつけ、粘性の強力な粘土を創造して補強しておく。



「再度一杯」

「おい。まぁ別にいいけどさ」



 ゲップをしながら空の瓶を渡してくるチーカにイラっとしながらも、氷のグラスを左手に創造してそこに水筒に入ったオレンジジュースを注いで渡す。ぱちぱちと拍手をしながらグラスを受け取る姿は何処にでもいるただの町娘にしか見えなかった。



「行くぞ、チーカ」

「隊長、ゲレス」

「放っておけ。少しはしおらしくなって明日には帰ってくるだろう」



 そう声をかけてギルドを出る隊長をとてとてとチーカは追いかけた。あ、ゲレスは本当に置いていくんだ。



「ま、てよぉ」



 指先一本動かすのも辛いはずなのに声を出しているゲレスに感心しながらも、テーブルと椅子を綺麗に並べ終わった後にゲレスを見ながら少し考える。


 こいつらは組織か何かなのかは知らないが、女性を集めた傭兵団みたいな物なのだろう。んでこいつらのボスがこのギルドを乗っ取った。理由はわかんないけども。


 そしてさっきのギャルが男に高圧的だったことも加味すると、ここにいた男はどうやら新しいボスに屈してしまったようだ。多分強い奴は他の街にでも行ったのだろう。ここに居るのは街から離れられない奴くらいかな?


 金も働きどころもなくて渋々冒険者って奴もいるだろうし、さぞかし鬱憤が溜まっているのだろう。勿論溜めているのは鬱憤だけではないわけで。


 ギルドの出口に手をかけると倒れていた男がピクリと動いた。わかりやすいなと思いつつも床で呻いているゲレスを肩に担ぎ。



「……まぁ、これを期に後のこと考えて行動して下さいよ」



 ニヤける男共を置いてギルドを後にした。ゲレスは何処に連れていけばいいだろう。首を甘噛んできた時はギルドに投げ込んでやろうと思ったが、結局は宿を取ってそこに寝かせた。


 ギルドで情報は得られなかったし宿屋で情報聞くとしますかね。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ