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孤高の塵人  作者: dy冷凍
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四十八章

バイクを唸らせてミジュカという都市についた修斗と剣。

ミジュカのギルドで飲んだくれを撃退しながらシュウトはDランクの依頼を受けました

 Dランクの依頼を片っ端に受注し続けること六日。お金も順調に貯まった所でギルドからランク試験の連絡がきた。今日の朝に始まるとのことで俺は朝早くギルドの扉を開けた。



「すいませーん。試験を受けに来たんですけどー」

「あ、噂のシュウト君じゃない。おはよう。いきなりで悪いけど、試験を受ける前にこの依頼を受けてくれる?」

「どれどれ……伝説の薬草探しですか。Cランクにしては凄いですね。でも、そんな時間ないんで」

「お願い!」

「いや、今日の試験終わったらすぐこの街出るからね俺!?」



 受付娘、というよりは受付お姉さんか。また不幸かとうんざりしながら前を見ると、彼女は何故か目を瞑って耳を塞いでいた。



「……もしかして聞こえないとか言うんじゃないだろうな」

「聞こえなーい」

「餓鬼かっ! もうそういう年じゃないだろ!」

「あ、今失礼なこと言ったね。じゃあこの依頼受けよっか?」

「や、ごめんなさい。でも依頼は受けないからな!? そもそも朝から何でこんなことになってんの? もう切実に試験を受けたい!」

「わかったわよ。ギルド長連れてくるからちょっと待ってね」



 ウインクをしながら隣の階段をゆったりと上がっていくお姉さん。乱れた息を整えながら受付にもたれ掛かること五分。受付のお姉さんが駆け足で階段から降りてきた。



「ギルド長が動きたくないから連れて来いだって! やったねシュウトさん!」

「えーと、何がやったのか全くわからないんですけど」

「知らないの? 二階はBランク以上の冒険者しか入れないんだよ。それで二階に上がれるってことは、少なくともBランクになれるかもしれないってことだよ!」

「……ただギルド長動きたくないからだったりしてね」



 動きたくないってことは年配の人なのかと思いつつ、やけに勇み足で先導するお姉さんに付いていく。二階はBランク以上じゃないと入れないと言うのでどんなものなのかと想像していたが、外観は一階とほぼ同じだった。



「あんまり外観は変わらないんですね。よく見ると木の材質とかが違いますけど」

「それと腕の良いバーテンダーとかが二階の特徴かなー。一杯飲んでく?」

「試験前に飲むのはちょっと……」

「あら残念。それじゃギルド長はここだから」



 やけにメタリックな扉の前でお姉さんは立ち止まった。扉を開ける気配がないので俺が扉を開けようとドアノブを捻って押した。



「……重っ」



 多少その重さに難儀しながらも身体で押すように扉を開けると、開けた先から辞書みたいな本が顔へ飛んできた。それを反射的にしゃがんで避けると後ろからぎゃぁ、と声が聞こえてきた。


 綺麗に後ろへ倒れて悶えているお姉さんを見て笑いそうになりながらも前を見ると、ガッチリとした体付きのスキンヘッドの巨漢が不釣合いな小さい椅子に座っていた。魔物を眼光だけで殺せそうな目付きをしている。何処が年配だ! 完全にアクティブじゃねぇか! 



「おう。お前が噂のシュウトか」

「……どうもおはようございます、ギルド長。早速ですが試験を受けたいんですけど」

「あぁ、まぁ大体試験は終わってるんだがな。おい、こいつはどうだった?」

(本を投げたことはスルー!?)



 そんなことを言いながらスキンヘッドのヤクザみたいな人は、隣で鼻柱を抑えているお姉さんへ顎をしゃくった。いや、あれスルーするの? 間違いなく俺に向かって本投げたよね? お姉さんに当たっちゃったから深くは言わないけどさ!



「コミュニケーション能力は上々。観察力も悪くありません。力もこの扉を開けれたので中々です。いいんじゃないですかね」

「成程な。じゃあシュウト。お前Bランクな。ほら、証を出せ」

「えぇ!?」



 あまりにも早い決定に思わず叫んでしまった。いや、俺前の街では一年かけてやっとBランクになったんですけど? リザードマン百匹とか、アシカリの長を討伐をしてやっとCランクだぞ?



「え、本当に終わりですか?」

「本当だったら他の冒険者と模擬戦して貰うんだが、シロエアから連絡が来たからな。あいつのランク試験は厳しいし、あいつが認めたら俺は何も言わねぇよ」

「あ、そうですか。そりゃ納得です」



 シロさんが出したBランクの試験は、私が倒れるまで戦ってくださいだったからな。あの試験だけで三ヶ月はかかった。シロさんは見かけによらず武闘家で、更に光の魔法も使える強者だ。何か次元がおかしかったもん。アレ。そして倒した後はギルド職員に敵意を向けられるというね。陰湿なイジメだったな、うん。


 そんなことを思い出しながらも旅人の証を渡すと、ギルド長はそれに血を垂らして小さい声で詠唱した。するとカードが赤く発光し、それが収まるとギルド長にカードを投げ渡された。



「これでミジュカではランクBだ」

「ありがとうございます。あ、それと一つ聞きたいことがあるんですけど」

「あん? 何だ?」

「荒瀬――黒の旅人を探しているんですけど、何処にいるか知りませんか?」



 クイーンスコーピオンを連れて旅立った後、荒瀬さんから俺へ連絡は来ていない。心配しなくてもあの人は絶対死なないとは思うが、戦争を止めるヒントをくれそうなので早めに会っておきたい。勿論俺も調べるつもりだけれども。



「……何で黒の旅人のことを聞く?」

「あー、俺の師匠みたいなもんですからね。死にはしないと思うんですけど」

「知らねぇな。アイツの家へ連絡したんだが、いないらしい。その後ほぼ全てのギルドには黒の旅人を見つけたら連絡寄越すように言ったが、半年で情報無しだ。よっぽど辺鄙な場所にいるらしい」



 それじゃあ荒瀬さんはまだ亜人方面にいるのか。それとも日本へ帰ったのか……?


 ……そう思っといた方がいいな。如何せん荒瀬さんがいればっていう保険みたいなのが俺の中に根付いている。もう十八過ぎてんだから自立しなきゃな。そもそも一年やってこれたんだから大丈夫だ。うん。



「そうですか。では失礼します」

「おう」

「伝説の薬草はー? ねぇちょっとー」



 後ろから聞こえた猫なで声を無視して階段を駆け下り、ギルドを飛び出す。あんな面倒そうな依頼やってやれるかよ! 絶対報酬ケチってるし、せめてBランクにしろよ!


 依頼の魔の手から逃れてギルドを少し歩くと、人通りの多くて食欲を誘う匂いが漂う繁華街への入口が見える。鳥居のような入口を潜ってその中からまず道具屋へ入る。取り敢えず回復薬――ポーションを買いたい。


 ポーションの効果は再生、解毒、疲労回復と俺には無縁なものばかりだが、遭難者や怪我をした人によく遭遇するから持っておいた方がいい。疲労回復のポーションは一回飲んでからはもう飲んでいない。タバスコと青汁を混ぜたような物を何回も飲める奴がいたら尊敬……しないわボケ。味覚を疑うわ。



(一人ノリツッコミって面白いの?)

(チョー面白いしー。魔物に剣を振ってる時より面白いしー)



 変な意地を張りながら愛想の良いおじさんの前へ透明の瓶に入ったポーションを置く。回復(小)を三十個、(中)を二十個、(大)を十個。解毒ポーションは棚に並んでいる全種類を買い、疲労回復は適当に買った。



「ありがとうねぇ。流石にこんな買われたらサービスしなきゃいけないねぇ。何にしようかねぇ。困ったねぇ。ポーションどうぞねぇ」

「どうぞねぇって無理矢理すぎじゃないですかねぇ」

「ははは。ごめんねぇ。お客さん、ベルトがボロボロだねぇ。防具屋さんでポーションも入るベルトを見繕ってもらってはどうかねぇ。私が連絡してただで作らせるように言っておくからねぇ」



 ニコニコとした顔で従業員に耳打ちしているおじさん。サービスと言って他の店に恩を売る気だなこの人! しかもポーション用のベルトか……このベルトも一年近く使ったから変えどきだが、ポーションって瓶だもんなぁ。絶対割れるぞ俺の場合。異次元袋も腰に巻いてるとスられるし。


 その他にも非常食や火が出る魔道具を買い換えたりした。次は防具屋だ。



「いらっしゃい。話は聞いてるよ。ちょっと腰周りを図らせてもらうね」



 少し埃っぽい防具屋へ入店して挨拶した途端に、坊主頭のおっちゃんが紐みたいな物を腰に巻き付けてきた。寸法を図ったおっちゃんは受付の奥へ行ってしまった。


 壁に立てかけられている鎧や盾を見ながら待っていると、一つ目に付く物があった。綺麗に形どられた木製の盾だ。今まで金属しか見たことなかったから新鮮だが、買う人いるのかな? 値段は鉄より安いけれども。



「お待たせしたね。ちょっと付けてみてくれるかな?」



 灰色でポケットと引っ掛ける突起が付いたベルトを貰い、試着する。ほぼピッタリだ。



「あと手袋とゴーグルが欲しいんですけど」

「あいよ。それじゃ頭周りだけ図らせて貰うよ」



 また寸法を図られておっちゃんは奥へ行った。盾とかも買った方がいいかなぁ? 結構前に買った奴があるけど結局使ってないんだよな、と考えながらおっちゃんが途中で持ってきた灰色の皮手袋をはめる。


 この手袋はグレーワイーバーンの皮で出来ていて、耐火性に優れているらしい。値段は十万。高いのか安いのか分からない。ワイバーンってドラゴンの劣化ってイメージあるからな。


 灰色のゴーグルの方は普通に見えるが、何でも暗い場所でも少しだけ視界が良くなるらしい。暗視ゴーグルみたいなもんか?



「おー、これで全部灰色統一ですね。随分と品揃えが良い」

「ありがとよ。そんな兄ちゃんにはヒアルラビットの皮で作った柔らかい布をオマケだ。ゴーグルを拭くのにピッタリだぜ」



 気前の良いおっちゃんに感謝しながらもベルト、手袋、ゴーグルと布を受け取って店を出る。お腹減ってきたので適当な屋台に寄ると、その後ろの路地裏で髪がボサボサの悪そうな少年が、服装の整った子供の胸ぐらを掴んで壁へ追い詰めていた。その子供の怯えた目がこちらへ向いたので早速助けに行く。


 何で助けにいくのか。そりゃあ子供が胸ぐら掴まれてたら仲裁するだろ! なんて感情は正直な所半分もない。ただその不幸補正を強引に無視すると、それは引っ張った輪ゴムみたいに反発してくる。


 この場合は……実はその子供は金持ちの息子で「目が合ったのに助けてくれなかった!」と激怒して後日親に言いつけ、俺は街の御尋ね者とかね。一回他の街で同じようなことになって兵士に囲まれたしな!



「おい、どうした?」

「何だお前!」

「いや、胸ぐら掴んでどうしたんだ? 何か理由あるんだろう?」

「こいつが俺のカリンを奪いやがったんだ!」

「ち、違うよ僕じゃない!」



 カリンってのは何かの実だったな。服装を見るに小さい子は貧しいとは思えないから、多分盗まないだろ。つーことは誤解なわけだが、誤解を解くのも面倒だ。子供の場合は物で釣るのが一番だ。



「わかった。まずは君、カリンではないけど俺は甘い実を持ってる。これをあげよう」

「……本当か?」

「本当だよ。ほらコレだ。あそこで売ってる物と同じだろう? 甘くて美味しいよ」



 異次元袋からスイカサイズの実を取り出して少年へ片手で差し出す。その少年は正面にある果物屋と見比べて戸惑っている。この実は大きくて少年じゃ抱えなきゃ受け取れない。少年が戸惑っている隙に彼が後ろ手に隠している物をそっと奪い取る。



「あっ!」

「コレを使うときは自分が命の危機だと感じた時だけにしような」



 刃こぼれの酷い果物ナイフを片手で弄りながらスイカサイズの実と多少のお金を渡し、小さい子供の方を表の方へ軽く押し出す。



「あ、ありがとう」

「この事は他の子に言っちゃ駄目だよ。……言ったらどうなるか分からないよ?」



 多少ゲスい声で脅しをかけると小さい子供は幽霊から逃げるように繁華街を走り去っていった。まぁ無事解決した方だろう。



 ナイフを弄っていたら静電気のような痛みが走ったので、ナイフを捨ててさっさと路地裏を出た。



 ――▽▽――



 カフェのような場所で少し柔らかいハムエッグパンとコーンスープでお腹を満たし、次は武器屋へと足を運ぶ。



(ご飯も食べたしもうこの街出ようか?)

(武器屋でナイフ買いたいからまだだな)

(……僕で切ればいいじゃん)

(食材を剣で斬る奴がいるか!)

(どうせ投げナイフとか勧められて買っちゃうんでしょ? 前にナイフでリザードマンにトドメさしてたよね)

(その後豆腐も切れないなまくらになった奴はどいつだ、オイ)



 結構前、リザードマンと戦った時に落ちていたナイフを投げてリザードマンの頭へ綺麗に命中させたことがあった。それでちょっと楽しくなってナイフを投げまぐって魔物を倒していたら、剣が何か叫んで一日なまくらになったことがある。


 急に魔物が斬れなくなったから引き続きナイフで戦ったら剣が俺の身体に電流を流してきた。ナイフでトドメを刺す度にやってくるので、仕方なく鈍器となった剣を使ってその場を切り抜けたことを良く覚えている。


 それからは武器になるものを持つと剣が騒ぐようになった。しまいには勝手に果物ナイフを溶かしたこともあった。



(こんな良い剣を持ってるのに他の武器を使うなんて……シュウトは駄目な男だね!)

(何だその二股かけられた強気な女の子みたいな発言は)

(う、うるさいな!)



 何故か照れ気味の剣を鼻で笑いながら武器屋に入る。取り敢えず生モノを切れるサバイバルナイフみたいなのが欲しい。ただのナイフさえ剣は処分しろって五月蝿かったからな。面倒臭くなって全部捨てなきゃよかった。



(何でハルバードを見てるのさ。切れ味は僕の方が上だよ)

(ハルバードなんて滅多に見ないからな)

(……あんなの長くて器用貧乏なだけさ)

(斧と槍と鉤爪が合わさった武器だっけか)

(うるさいなぁ! ってレイピアを見るなぁ! あんなの細い棒だよ!)



 剣が言葉だけでなく現実でも熱を帯び始めたので、飾られてる武器を眺めるのを止めて蓋の付いているナイフを手に取って無骨な態度のおっさんに手渡す。ついでに砥石と油も。



「毎度あり」



 ぶっきらぼうなおっちゃんにお辞儀を返してナイフを異次元袋にしまう。身に付けたら俺ごと溶かされそうで怖い。


 昼間を過ぎた辺りに宿屋に戻って今日買った物を確認する。ポーションその他雑貨、ナイフに三種類の防具。占めて三百万である。そしてこの値段の大半はポーションである。これでもポーションは安いんだけどな!


 勿論インカの教育費はバッチリ取ってある。日本に比べると娯楽が少ないのでお金はほとんど貯金してたからな。怪我しても高い治療代払わなくてもいいし、不幸補正で魔物の大量発生とか盗賊を返り討ちにして報奨金とかあったから余計に貯まっている。


 折角なのでベルトに付いている布のポケットにポーションを入れ、旅の道具や防具を整えて宿の受付へ向かう。



「んじゃお世話になりました」

「私も洗濯したかったよ」

「黙らっしゃい」



 お金にがめつい女将と別れて倉庫に入れて貰っていたバイクを引き出してミジュカの北の門へ向かう。アグネスまであと街一つ分か。

学生最後の夏休み。勉強が全く捗らない。

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