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孤高の塵人  作者: dy冷凍
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第五章

 鳥のさえずりで起きるとかお洒落な展開もなく、まぁ普通に起きました。寝ぼけた顔を洗って部屋を見回した後、自然と大きなため息が漏れた。もう現実と認めて頑張るしかない。



「よしっ。切り替えよう!」



 声に出すことでそれを自分に強く言い聞かせる。まずは浮かぶ問題をつらつらとノートに書いていくことにする。問題は視覚化した方がいいって誰かが言ってたしな。凄い面倒くさいけど。


 まずはお金の問題。通貨の違いは何とかなったから問題ない。まだわからないことがあれば書いていこう。


 食事と夜過ごす所の確保。これは一ヶ月くらいならこの宿で持ちそうだ。一泊五千円だから単純計算で四十日泊まれる。それまでに何か仕事を見つければ問題ないはずだ。一日二食は少し辛いが餓死はしないはず


 黒髪による差別とかは今のところはない。いや、本当に見ないんだよね黒髪の人。忌み子とか言われなくてよかったー。


 魔法のこと。昨日の夜は魔法に関するページを見ていたのでその続きを見ながらまとめたところ、属性は火、氷、風、土、雷、水の六種類が基本で稀に光、闇の属性を持つ物が生まれるらしい。前の六種類は金と時間を費やせば誰でも手に入るが後の二種類は才能があるか無いかで決まる。


 優劣は火→氷→風……と順番通り続いていて、光と闇は光↔闇とお互いが弱点同士。光と闇の戦い……凄い格好いいです。


 それと魔法は下級、中級、上級、最上級に分けられる。最上級は自然災害に匹敵するほど巨大なんだとか。恐ろしや。魔法についてはこんなもの。本当は自分の魔力を感じてそれを操って魔方陣に流し込んで……なんて過程もあるが諸事情によりスキップする。


 そして働く場所。就活しなきゃいけないと思いきや、自分の仕事は決まっているらしい。


 俺はあの神様少女に旅人という職に就かされたそうだ。旅人は簡単に言うと商人と冒険者と情報屋を混ぜた感じ。各地を旅して特産物や獣の素材や、色々な場所の情報を売り込んで資金を稼ぐ。そんな職種らしい。


 旅人になるのに試験を受けなければいけない、ということはない。誰でも申請すれば旅人にはなれるらしい。しかし知識もなく戦えもしなければ獣の餌になるか、商人に搾り取られるかのどちらかしか道は無い。安定しない仕事なので旅人はあまり人気がないらしい。


 てか仕事じゃなくね?


 ……まぁ資金に困ったらどっかで雇ってもらえばいいし、思っていたよりは何とかなりそうだ。


 とりあえず一ヶ月はここに滞在して情報を集めよう。昨日はまだ夢心地で現実逃避していたが、寝て起きてからは段々と現実味が湧いてきて不安に押しつぶされそうになる。だけど頑張らなきゃいけない。知り合いもいないこの世界で頑張らないといけないんだ。


 湧き出る不安を無理矢理押さえつけて朝食を食べに食堂へ向かうと、料理人の近くの席は既に埋まっていた。朝の八時でもこの有様とは思わなかったので次回は早起きしようと胸に誓った。



「おはようシュウト! 今日は洗濯日よりだね!」

「おはようございますサラさん」



 朝からハイテンションなサラさんに挨拶して席に座る。何故か当然のように前に座るサラさん。嬉しそうにメニューを開いている。



「えっと……」

「え~! 何か不満なの~?」



 今日は静かにこの先のことを考えながら一人でブレイクファーストを楽しもうとしてたんだがね……。サラさんはそれを言う暇も与えてくれずにウエイトレスを呼びつけ、勝手に注文を頼んで何処かへ行ってしまった。


 俺も頼もうとメニューを開いてる間にウエイトレスは他の客の注文を取りに行ってしまった。よく見れば女性にしてはデカいあの人だった。


嫌われたのかな、と少し落ち込みながらサラさんが持ってきた氷の入った水をちびちびと飲む。サラさんはニコニコしている。というかずっと笑顔な気がする。何でいつもそんなに笑顔なんだろうな。



「サラさんっていつもニコニコしてますね」

「そうかな。私にだって悩みの一つや二つあるんだよ~?」

「へぇ。例えばどんなことですか?」

「胸が大きくならないとか~、みんなに子供に見られるとかいっぱいあるんだよ!」



 確かに胸はまな板に負けず劣らずだけど、十三歳くらいの人はみんなそんなものだろう。子供に見られるねぇ……。だって子供じゃん。年上なんて言ってたけど嘘だよな多分。見栄でも張ってたのかな。



「今何か失礼なこと思わなかった?」

「い、いや別にそんなことないですよー」



 どこか怖い笑顔でじっと目を見つめてくるサラさん。怖かったので目を背けると足を踏まれた。しかしあまり痛くなかったので無視して水を飲んでいるとグリグリされた。地味に痛い。



「お待たせしました。サンドイッチとペラー茶になります」



 器用に二つの皿を腕に乗せている男のウエイトレスからまずお茶を受け取り、次にサンドイッチが乗っている皿を受け取る。どうやらサラさんは自分のも注文してくれたみたいだった。彩りが良いサンドイッチが四個と赤みのかかったお茶。少し酸味のありそうな匂いをしたお茶だった。寝起きに飲むと目が覚めそうでいいなこれ。



「はーい。これシュウトの分ねー」

「ありがとうサラさん」

「そういえば何でさん付けなのー? 呼び捨てでいいよ? もう他人ってわけじゃないんだし」



 少し遠くにいる男のウエイトレスが盛大に転けて客席から下げた皿が悲鳴を上げた。……偶然か?



「あー、んじゃサラ。注文してくれといてありがとう」

「どういたしまして!」



 その後サンドイッチをパパッと食べてサラに色々質問する。サラは見た目に反して物知りだったので助かった。


 どうやらこの街は比較的治安は良いらしい。夜に裏路地とかを歩かない限りは何も問題はないとのこと。


 そして街の特産品や腕利きの職人の場所とか、本当に色々なことを教えてくれた。何でサラがそんなこと知ってるのかは謎だが。


 お金稼ぎには何処に行けばいいかサラに聞くとギルドに行けとのこと。そしてこの街の地図を貸してくれた。今日はギルドとやらに行ってその後は街の様子を見にいくとするか。俺はお代を伝票の上に置いて食堂を後にした。


 お金はあまり持っていかずに街へ出た。だって店の前を通るたびに面白そうな物がいっぱい置いてあるんだもの。少しくらいは……なんて考えを持ちそうだったからお金は最低限しか持っていかないことにした。


 地図を見ながらギルドへと一直線。暗い所で撒くと星のように輝く粉とか、魔力を込めると風が出てくる扇風機らしき物とかに後ろ髪を引かれながらも、何とかギルドに到着した。安定した収入が確保できるまでの辛抱だ。我慢だ、俺。


 ギルドは一軒家より少し大きい程度のサイズだった。見開き型の変わったドアがなければ普通の民家と間違えてしまうくらい特徴がない。何かもっと巨大なのを想像してたせいか少しショボく見える。しかし見たところ人の出入りは激しいし派手な武器や盾を持っている人もかなり見受けられる。やはりギルドはここのようだ。


 木製のドアを押して中に入ると人が多くいるせいか、少し賑やかで暑かった。三つある受付らしき所のひとつに向かうと、柔らかい微笑を浮かべたお姉さんがどうぞと目の前の椅子に手を向ける。


 とりあえず椅子に腰掛けて何か仕事がないか聞いてみると。



「ではギルドカードを提示して頂けますか?」



 ……うげぇ。またこの展開かよ。凄い面倒くさそうなんだけど。

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