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孤高の塵人  作者: dy冷凍
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四十七章

スコーピオンの襲撃から一年が経ち、遂に修斗は街から赤い魔道具のバイクに乗って旅立った。


矢印君:食料配達などの雑用依頼に支給されるアイテム。

特例の場所へ案内してくれる便利アイテムだよ!

 黒いゴーグル越しに一面砂岡しかない道をボーッと見ながらバイクを走らせること二時間。目的の場所にはまだ着かない。まぁ細かい砂の上は魔法があっても非常に走りずらくてスピードが出ないから、しょうがないんだけれども。


 タイヤに風を纏わせて細かい砂を弾き飛ばしながら地面を走るというのがこのバイクの特徴だが、今走ってる道は細かい砂が多いのであまり意味が無い。つーかほぼ風で走ってるんじゃないかコレ。


 じゃあ何でこんな整備されてない道を走ってるのかというと、まずアグネスへ行くルートは三つある。一つは海を船で渡る近いルート。あとの二つは陸路で、道が整備されてるからされてないかの差だけだ。


 道が整備されているルートへ行きたいのは山々だが、整備されてる道には名の知れた盗賊団が稀に出るらしい。俺が行ったら多分盗賊が結集でもするだろ、うん。だからわざわざこっちのルートを選んだんだ。時間は倍くらいかかるけどな!


 だから今日は多分夜まで走りっぱなしだろうな。それにこの暑さも相まって凄くダルい。バイクで走ってるから風があるとはいえ、その風には砂が乗ってて肌が痛い。タイヤから風が出てるから当たり前っちゃ当たり前なんだけども。マジでゴーグル買っといて正解だったわ。


 灰色のコートは清涼効果が付いているらしいが、それでもこれは暑い。餓死で死んだ場合はどう生き返るのかな? と疑問を抱きながらもハンドルを傾けてカマキリのような形の魔物を避ける。


 大体の魔物は威嚇してる間に通り過ぎれるからいいが、中にはタイミングを合わせて飛びかかってくる奴もいるからボーッとしてたらバイクが御陀仏になる。それだけは避けなきゃいけないので気は抜けない。


 取り敢えず夜までにはミジュカという大きい都市に着くが……これをあと四時間か。家族サービスが盛んの父親は大変だろうなぁ。


 あまり変化のない景色とカラッとした暑さ、それと地味にうざったい虫系の魔物にうんざりしながらもバイクに魔力を流してエンジンを唸らせる。これぐらいしかやることがないんだ。



(暇なら研いでよ)

(両手離しで運転するほどチャレンジャーじゃねぇよ)

(じゃあ何か面白いこと言ってよ)

(オカマのカマキリ)



 それ以降剣はミジュカに着くまで一言も喋らなかった。最後の方は本気で寝そうだった。



 ――▽▽――



 門の前で丸々太った商人に突き飛ばされて列から飛び出したこと以外は、大したトラブルも無く無事にミジュカへ入ることが出来た。もうすっかり夜で辺りは暗いが、流石に大都市なので明かりが一杯あって都会らしさが滲み出ている。


 前の街、サンドラと違う点は砂漠の中にオアシスらしき緑が垣間見え、少し涼しく感じるくらいか。あ、あと人通りがサンドラより結構多いかな?



(ねぇねぇ。犬みたいに首輪付けられて四つん這いで歩いている人いるよ?)



 剣が鎖に繋がれている奴隷を見つけて物凄く嬉しそうに話しかけてきた。どれだけ俺の嫌がる顔が見たいんだコイツ。



(そうだな。まぁ、あんな扱いは罪人の奴隷しかされないからな。どうでもいいわ)

(あれ、前よりは勉強してきたんだ。でも中には騙されて契約しちゃった子もいるんだよ?)



 確かに貧乏な家庭で子供などが奴隷商人に騙されて罪人奴隷の契約をしてしまうケースは少なくない。この一年はほぼ毎日依頼を受けて過ごし、その依頼の中に別の街でこなす物もあったのでそういう事情は知っている。



(……お前はどんだけ俺の嫌がる顔を見たいんだよ。お前絶対闇の精霊かなんかだよな!?)

(あれ? 言ってなかったっけ? 僕は闇の精霊ヴァルテーナ・ルリラって言うんだよ?)

(え、あ、おう。じゃあ今度からルリラとでも呼ぶか?)



 何故かシカトされたので肩を落としながら目的の宿屋に向かう。途中で子供にぶつかられて異次元袋を抜き取られたが、見つけて食料を上げたら解決した。何回もスリに合ったせいでこういう事はもう慣れた。夜は特に多いからな、スリは。



(ロリコンだね。や、男の子の場合は何て言うんだっけ? 修斗の知識の中にないや)

(刺しにでも来たらボッコボコにするから安心しろ。そして勝手に俺の知識を漁るな)



 指の骨を鳴らしながら剣と話していると、前回にも泊まったことのある宿に到着した。見た目は木製のしっかりとした二階建てで、風通しの良い宿だ。ここは料理がかなり美味いし、シャワーがあって更に洗濯もしてくれるから気に入っている。飯の時間が固定なのが少し不便だが、それが普通だもんな。常時食堂が空いてたあそこがおかしいんだ。


 中に入ってカウンターのおばちゃんに話しかけ、名簿に名前と宿泊日数を書いて代金を手渡す。おばちゃんはまるで銀行の人みたいに手早く札を数えた後に鍵を手渡してきた。



「あんちゃんは食事の時間はわかってるね?」

「八時、十二時、七時だろ? あと俺は修斗だ」

「そんな体臭撒き散らして私に名前を呼ばせるなんて無礼にもほどがあるよ」

「相変わらずプライド高っ!?」



 生憎後ろに人がいたので一言だけツッコんでカウンターから離れ、指で鍵をクルクルさせながら鍵番号の部屋へと向かう。お、二階か。やったね。


 階段を登って鍵番号と同じ部屋に入ると三人は雑魚寝出来るスペースにベッドとテーブルがあり、ベッドの近くには見開き式の窓がある。右に見える扉はシャワー室と洗面所に繋がっているらしい。個室にシャワーがあるのはやっぱりいいなと思いつつ、異次元袋と剣を机に置いて早速シャワー室で体を洗うことにした。


 自分の服は後で一階の洗濯室に持っていけば洗ってくれる。……服の間にお金を挟めばいい匂いと共に部屋へ置いてくれるらしい。チップとかは恥ずかしくてあんまりやりたくないから、受付でそういうサービスを付けて欲しいわ。


 ちょっと寝た後にギルドへ登録しに行ってその後は武器屋と道具屋を適当に巡ろうかな。前の宿と変わらないダイナミックなシャワーを浴びながら明日の行動方針を整理し、シャワーを止めて洗面所に置いてあるタオルで体を拭く。


 それからベージュの寝間着を着て洗濯室にお金を挟んだ服を若いお姉さんに渡し、その後歯を磨いて剣と喋ってからベッドでぐっすり寝た。



 ――▽▽――



 目を覚ましたのは寝てから二時間後だった。今は丁度深夜十二時頃だろうか。ベッドに寝ながら少し身体を伸ばした後に洗面所で顔を洗い、ふと机を見るとそこには丁寧に畳まれた灰色のローブとズボンがあった。


 やけに早いなと驚きながらもそれに着替え、受付に鍵を預けて宿を出た。何か服が生暖かいな。それに何かの花のようないい匂いがする。


 人通りが少ない路地を歩きながらギルドへ向かう。チンピラにいい匂いがするぞとイチャモンをつけられ、孤児らしき子供にまたスられながらもギルドに到着した。


 ギルドが、見上げる程大きくて広い。どっかの文化ホール並みの大きさだ。前のが一軒家だっただけに少し感動を覚えながらも無駄に広い扉を静かに開ける。


 中に入ると真正面に受付らしきものが三つあり、その両サイドを囲むようにチェーン店のような席がいっぱいある。そしてその両サイドの奥にも一つずつ受付がある。酒臭いし飲み物でも売ってるんだろう。



「おい! 餓鬼が来る時間じゃねぇぞ!」

「待てよ! きっと夜眠れないからミルクでも飲みに来たんだろ!」

「ここにみるくはうってないでちゅよー? おうちかえりましょうねー」



 ジョッキに入っている麦酒を掲げてながら煽ってくるおっさん達を無視して受付に向かう。あ、受付の隣に階段があるから二階もあるみたいだな。



「こんばんは」

「あ、こんに――キャッ!」



 受付娘に挨拶した瞬間に後ろからジョッキが飛んできた。それは分かっていたので決め顔でキャッチしたが、麦酒が入っていたので決め顔のままローブがずぶ濡れになってしまった。



(プークスクス)

(止めろ。いや、結構恥ずかしいんだぞマジで)



 酒に酔っている奴は神の補正に掛かりやすい。アルコールで意識が薄くでもなってるせいだろう。だからギルドに酒場を設置するのはガチで止めて欲しい。何処のギルドも大体は酒場を設置してるからたまったもんじゃない。


 三人のおっさんがこちらを睨みながらにじり寄ってきている。素手か。武器を取り出したら本当にヤバいしさっさと終わらすか。テーブルにジョッキを置いてつかつかとおっさん達の前へ歩く。



「話し合――」

「おらっ!」

「ですよねー」



 話し合いなんか成立するわけもなく、ガタイの良いおっさんのパンチを受け止めてから一本背負い。背後から迫るおっさんは背中を向けたまま踵で顎を軽く蹴り上げた。


 三人目は早くも二人がやられたのに慌てたのか、テーブルに置いてある他人のジョッキを思いっきり投げてきた。中身が入ってることに嫌気が刺しながらも、それを左手で取ってその勢いのまま一回転してジョッキをおっさんの腹へ投げ飛ばす。ジョッキはおっさんの腹に嫌な音を立てて直撃し、そのままおっさんは蹲った。


 少し辺りが静まり返って気まずくなったが、無事に事は終わった。何か誰も喋ってくれないので勝手にジョッキを投げられた若い男の人へ話しかける。



「あ、一杯奢りましょうか?」

「……いやいや! いいよいいよ。面白いもんが見れたからな」



 それを堺にまたギルド内は騒がしくなった。セーフ、と心の中で安堵しながらもまた受付に話しかける。



「ギルドのランク登録に来た旅人なんですけど、ランクの試験はいつ受けられますか?」

「え、えぇ。そうですね。今はギルド長が不在なので詳しい日時はわかりませんが、一週間以内にはお受け出来ます」

「ではギルド長にお伝えしてもらうようお願いします。えーっと、Dランクの依頼でしたら受けても大丈夫ですよね?」

「えぇ。大丈夫ですよ」

「はーい。わかりました」



 そう言って受付の左隣にあるボードに張り出されている依頼を適当に見比べる。それにしても量が多いな。オアシスの薬草、子犬探し、ミジラギという魔物の残滅、配達とか色々ある。


 初っ端から依頼を掛け持ちしても信用されなさそうなのでまずは子犬探しの依頼書を取り、受付に持っていって説明を受けて久々の矢印君と依頼書を貰い受ける。


 昼は真っ黒で夜は真っ白く発光している矢印君。この光は虫が作っていると考えるとおぞましい。矢印君の棒の部分を握るとクネクネと暴れ出した。


 少し気持ち悪かったので手を離すと、矢印君はトビウオみたいに飛んでいった。久々の雑用依頼だな、と感傷に浸りつつも白く発光している矢印君を追いかけた。

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