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孤高の塵人  作者: dy冷凍
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第四章

 目を開けたら一面砂漠だった。草一つ生えていない砂漠。空気は乾いていて息をするのが辛いと思える。足場も力を入れて歩かないと進めなさそうだ。



「マジかよ……。本気で不味いぞ、これ」



 こんな所に飛ばした神様少女を憎みながら俺ミイラになるのかな、と思いながら歩いていたら少し遠くに建物が建ち並んでいるのが見えたので少し安心。何だか馬鹿デカイ塔みたいのも見える。


 親切設計でよかったと一息つきながら神様少女に貰った本をバックにしまって街らしき所に向かう。突き刺すような日差しと、砂に足が取られて思うように進まないことに悪戦苦闘したが気合で乗り切った。しかし神様も肉体強化とかしてくれてもいいのになぁ。友人の書いてた物語じゃ確か瞬間移動してたぞ。……それはそれで嫌だな。


 そんな愚痴を漏らしながらも砂岡を乗り越えて門のような場所に着いた。周囲は砂漠なのに何故か門周辺は混んでいた。それに何かの商人なのか荷馬車らしき物に乗った人がチラホラと見える。


 近くで見ると案外大きい街だし他の街や都市から商人が来るのかと思いつつも、門番に何かを見せて少し会話をした後に門を潜る商人の様子を見る。


 まさか身分証明書みたいな物がいるのかと不安になりながら帽子を被った軽装の門番に話しかける。まぁ予想通りの台詞が返ってきた。



「身分を証明出来る物を出して貰えますか?」



 予想はしてたさ。受付のような所でみんなカードみたいなの出してるから、この世界の身分証明書がないと街とか入れないんじゃないかなーとか、ギルドカードがないと入れないとか。案の定この結果だよ。



「……あーごめんなさい。砂漠で休憩してきた時に置いてきてしまったみたいです」

「砂漠で休憩ですか!? ……貴方は魔術師様だったのですか。大変申し訳ありませんが、何か身分を証明出来る物がなければここをお通しする訳には……」

「いえ、こちらが悪いのですから気になさらずに。少し探してきますね」



 何故か目を見開いている軽装の若い門番らしき人に別れを告げると、あの神様少女がくれた奇妙な本をバックから取り出して表紙を見る。



 ~神様の異世界人でもわかる異世界のことっ☆彡~



 異世界の情報が見れるのは嬉しいが、読みたくねぇ……。切実に読みたくねぇ……。貰った時本は黒かったと思うんだけど何故ピンクになってるし。あれですか。嫌がらせですか。新手のイジメですか。バーカ!


 思わず投げ飛ばしたくなるのを我慢しながらも、とりあえず開いてみると膨大な数の目次が目に飛び込んできた。顔が引きつっているのを感じる。古典辞書でも見てるみたいだ。何か身分証明書に関連する目次がないか適当に流し読みする。


 お、あった。というか目次だけでこの本終わるんじゃないか。十ページはめくったぞ。パラっと流し読みしたがほとんど目次だったし、どうやって読むんだこれ。


 目的の目次を前にして悩んでいたら、本の文字がミミズみたいにうねうねと動き出した。砂漠の暑さで頭がおかしくなったのかと思ったが、しばらくすると文字のうねりは止まった。そして再び本を見てみるとぎっしりと書き詰められていた目次は無く、何かの文章が書かれていた。


 鎌倉修斗の身分について、と最初にデカデカと書かれている。読み取っていくと自分の身分証明書はどうやら財布の中へ既に入っているらしい。見てみると確かに見覚えのないカードが入っていた。


 黒いツヤツヤしたカード。名前と年齢が書かれているだけだが、多分これだ。一応自分の身分は一般市民とあまり変わらないらしい。奴隷スタートなんてこと無くてよかったわ。


 今日はもう疲れた。横になりたい。寝たい。出来れば今すぐ元の世界に帰りたい。


 まだ問題は色々と山積みだが一個一個潰していかないと頭がパンクしてしまう。別に時間制限があるわけでもないしゆっくりやっていこう。早く帰れることに越したことはないが。


 門番の人に黒いカードを見せるとサラッと流しそうめんの如く通してくれた。疲れてた俺としてはありがたいがあんなに焦らなくてもいいとは思った。後ろに人も並んでなかったし。


 何処か泊まれる場所。食料。お金。出来れば色んなこと知ってる人と仲良くなりたい。本を読めって話だが正直面倒くさい。色々大変だがまぁ急がば回れ。焦りは禁物。まず泊まれる場所を探すとしますか。



――▽▽――




「あー」



 木製のシミが目立つ屋根を見上げながら自然と漏れた一言。一応宿は取ることに成功した。見た目は大きい木製の宿屋で入ろうか迷っていたら、扉の前にいた見た目中学生くらいの人に見つかってしまい半ば無理矢理案内された。しかし値段も安く(相場はわからないが)朝夜二食シャワーつきの宿に泊まれたから少し満足。


 通貨に関しての問題は悩みの一つだったが杞憂だった。金貨とかあると思いきや普通に一万円札を出したら五千円お釣りをくれました。正確に言うと周りには自分が金貨や銀貨を出しているように見えているんだとか。詳しく書いてあるが視覚魔法がー、認識魔法がー、とか意味不明なことばかり書いているので省く。


 更に神様は俺にお金をくれた。最初にお金が無くて餓死は笑えないとかの理由で今手元には二十万ほどある。リッチな気分になって無駄遣いしないよう気を付けなければ。


 言葉もちゃんと日本語に聞こえるし文字も日本語に見える。翻訳魔法がー、とか書いてあるのでこれも無視。流石神様手際のよろしいことで。


 まぁ外に出て買い物とかもしたかったがスリとかにあっても困るので、今日はこの奇妙な本を全力で読むことにする。ぶっちゃけもう読み飽きたが、なんたってここは異世界だし、石橋を叩きまくって渡るくらいが丁度いい。叩きすぎて壊してしまっても駄目なのもわかっているつもりだ。


 そんな考えを打ち消すように扉がノックされた。きっとこの宿屋の従業員だろうと思ってどうぞ、と声をかける。



「えっと、シュウトさんでよろしいですか? 夕飯の準備が出来たので食堂に来て下さい。場所がわからなければ今付いてきてくれればご案内します。何か用事がある場合は後で受付のサラがご案内しますので」

「わかりました。今行くので少し待っていて下さい」



 本を読むのに疲れていたので丁度よかった。ベッドから体を起こして腕を伸ばした後にショートカットの茶髪お姉さんに付いていく。


 そのお姉さんをバレないように斜め横から舐めるように見回す。締まったヒップ。クビレのあるウエスト。大きいとは言えないが小さくもないバスト。まぁそんなことは置いといて。


 異世界だから民族衣装で髪型も奇抜なのかなと思いきや、日本の田舎の人みたいな服装の人が多かった。都会にいる人の服と比べると地味な色やデザインばかりだが、自分も服はあまりこだわりがないからあまり気にならなかった。


 ちなみに彼女は純白のTシャツにジーパンみたいな服装だ。髪型も奇抜な人はあまり見かけなかったが髪の色が様々で、日本と違って黒髪だけはまだ見たことがない。


 それにあの本で見て印象に残った亜人という人種。そして亜人から更に犬猫兎みたいに別れているのだが、統括すれば人間と同じくらいこの世界にいるらしい。この街では人間しか見かけなかったので少し残念だ。猫耳生やしてるおっさんがいたら絶対印象に残るだろうし。


 お姉さんに案内された食堂は思ったより広かった。頑張ればサッカーとか出来そうなくらい広いにも関わらず、席は半分以上は埋まっていて、美味しそうな匂いと酒の匂いが立ち篭めている。それに木製の茶色い椅子と丸いテーブルがまばらに置いてあって、椅子が足りないのか酒樽を椅子にしてる人もいる。


 そして奥では黒いバンダナをした料理人が生き生きとした表情で腕を奮っていた。そして料理を運ぶ黒いバンダナをした男女。食堂というよりウエイトレスがいっぱいいる酒場みたいな所だった。



「やっほーお兄さん。お客さんは食べ放題だからいっぱい食べていってねー」



 いきなりかけられた声の方へ振り返ると今日俺を無理矢理宿に呼び込んだサラさんが立っていた。髪型は黄色のツインテールで、彼女の気さくな性格を表しているようだ。顔はあどけなくて幼く見えるがこれでも俺より年上らしいから、さんづけで呼んでいる。



「あぁ、サラさんですか。料理は何かオススメはあります?」

「あ、もしかして食事に誘ってる? ふふふ……。そっちの奢りなら同席してもいいよ~?」

「あ……えーと、仕事はいいんですか?」

「サラちゃんのお仕事は夕方までなのだ! だから問題なし!」



 豪快にサムズアップしてくるサラさん。別に食事には誘ってねーよと友人との同じツッコミを入れるところだったが、流石にほぼ初対面の人にはする気にもなれず思いとどまった。料理人の近くの席は激戦区で座れそうにないので入口の近くの席へ座る。目の前で料理してくれるから人気なんだろう。



「よーし。サラちゃんいっぱい食べちゃうぞー!」



 テーブルにあるメニューを見ながら無邪気に笑うサラさん。初めてレストランに来た子供みたいだな、と軽く馬鹿にしながらも何故か俺も笑っていることに気づく。


 理由はわかっていたが少し悔しかったので、黙ってメニューを取って女性にしては身長が大きいウエイトレスに声をかける。するとウエイトレスはサラを見ると否や騒ぎ出した。



「あ、サラさん! 仕事して下さいよ!」

「げ……あ、後でやるってぇ! 休憩だよ休憩! いいじゃん!」

「仕事放り出したから何事かと思ったら、こんな男引っ掛けて何するつもりですか!?」

「引っ掛けてないし! あっちから話しかけてきたのー!」



 いや、俺話しかけてないよ!? あっちからやっほーって声かけられたんだけど!?


 そんな心の叫びは虚しくウエイトレスは俺にキツい視線を向けた後に、注文も取らずに何処かに行ってしまった。サラさんはこっちに乾いた笑みを浮かべながら誤魔化そうとしている。



「仕事放り出したんですかサラさん……」

「そ、そんなことよりご飯食べようご飯! ここの料理は美味しいんだよー! 今お魚も仕入れたらしいから食べてみればー?」



 物凄い必死に話題転換をしようとしてるので渋々乗って新たなウエイトレスを呼び、ギャウスの刺身とやらを頼んでみる。何やら気まずそうにモジモジしているサラさん。



「……次から気を付けて貰えればいいですよ」

「さっすがお兄さん! 心が広い!」



 随分テンション高いなオイ。というか何でこの人は俺と同席してるんだ? 少し子供っぽいが顔は良いし、対する俺は逆ナンパされるほど顔良くないぞ……。しかもこれで会うの二回目だし。ってことはつまりあれですか……? 



「それと自分の名前はシュウトです」

「シュウト君か。覚えたぞ! その名前!」



 そんなに指をビシッとされても反応に困るわ。……多分あれだろ。この後お金頂戴とか言われるんだろ。というか既に奢ることになってるしな。既に俺は策略の中ってわけか……。


 疑心に心を引っ張られている内に料理が運ばれてきた。あっちにはハンバーグのような物。こっちには見栄え良く飾られた白身の刺身。だが少しその光景に違和感を感じる。


 ……醤油がない。日本が恋しい。


 結局醤油無しで刺身を食べ終えたが、物足りなさを感じずにはいられなかった。歯応えのあるプリプリした刺身は美味しかったけれど、美味しかったけれどもっ! 醤油が欲しかった! 切実にっ!


 だが会計はワンコイン五百円と驚きの安さ。まぁ指定された時間で無いと少し割高になるらしいけど。しかしサラさんの顔と同じくらいの大きさのハンバーグでワンコインなのははびっくりした。それをペロリと食べきったサラさんの胃袋にもびっくりした。



「余は満足じゃー」

「良かったですね。それじゃあ俺は部屋に戻ります」



 何かの請求書を渡されないかとヒヤヒヤしながらもサラさんにお辞儀をして自室へと戻り、ベッドに置きっぱなしになっていた本を開く。一時間くらい読んだ後に部屋しての白いランプを消そうとして、少し苦笑い。そういやこのランプは電気で動いてるんじゃなくて中の虫が発光してるんだっけ。


 あまり詳しくは知らないけど少し気色悪い。まぁ異世界だしと我慢してベッドに寝転ぶ。


 ここまで来て夢オチなんてないとは思ったが、やはり少し期待してしまう自分がいた。そう思っている内に意識は微睡まどろんでいった。

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